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町田康からbetcover!!へ。約40年の表現活動で得た確信を伝える

町田康からbetcover!!へ。約40年の表現活動で得た確信を伝える

betcover!!『中学生』
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:前田立 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

一番重要なことは、言葉に嘘がないことだと思います。(町田)

左から:ヤナセジロウ(betcover!!)、町田康

町田:たとえば、ラブソングを歌ったとしますよね。そのラブソングを作った人は、特定の「君」のことを思い浮かべて詞を書き、歌いますけど、それを聴いた人が、それぞれの「君」を思い浮かべる。それが、歌が社会性を帯びる第一段階。そして次の段階にいくと、そこで歌われる「君」は、恋愛対象だけではく、聴いた人の肉親のことや友達のことにも広がったり、もっと言うと、「君への愛」が、神への愛や、他者全体への愛、世の中全体への愛へと広がっていく可能性がある。

それが、歌のよさだと思うんですよね。言葉だけでそれをやるのは難しいんです。なぜなら「言葉にする」ということは、「これって、こういうことですよね」と物事を限定して、結論に集約していく作業だから。でも、「歌う」というのは広げていく作業。だから、普遍性を帯びるんですよね。もちろん、それはどんな人にでもできることではなくて、そういう歌を歌うには、一定の条件があると思うんですけど。

町田康

―町田さんが思う、その条件というのは、具体的にどのようなものなのでしょう?

町田:いくつかあると思うんですけど、一番重要なことは、言葉に嘘がないことだと思います。「嘘がない」というのは要するに、自分が思っていることと言葉の距離の問題です。思ってもいないことを「こんなこと言ったら売れるんちゃうか」と思って言っても、それはきっと人に伝わらないんですよ。「じゃあ、人間なにかは思っているはずだから、それをそのまま書けばいいじゃないか?」と思われるかもしれないですけど、人間って、頭のなかでは実にくだらないことしか考えていないもので(笑)。

ヤナセ:(笑)。

町田:「こんなことは、果たして他人にとって価値があることなのだろうか?」というようなことしか、人は思っていないんですよ。そのくだらないことを歌詞にして、果たして人に伝わるかなと考えたときに、つい書けなくなってしまうんですよね(笑)。「歌詞が書けない」っていうのは、そういうことなんです。

自分が思っていることのくだらなさに愕然として、それ以上書けなくなってしまう。でも、くだらない気持ちはみんな抱いているものだから、それを嘘なしに書くことができれば、共感されるものになると思うんです。それが一番の条件だし、それをbetcover!!は満たしている。偉そうですけど、そういうことを僕は直感的に感じたんです。

betcover!!『中学生』(2019年)収録曲

―自分の気持ちを吐露する自己表現としての歌は、世の中に溢れているものでもあると思うんです。ただ、そのすべてが町田さんのおっしゃる「嘘のない言葉」によって綴られているかというと、そうでもない感じもします。「言葉に嘘がない歌」とは、どのような形を伴って表れるものなのでしょうか。

町田:「私は傷ついている」「私は癒されたい」とか、そんな程度のことを歌う音楽は、本当に「自分を語っている」とは言えないと僕は思いますね。それは「自分を語るということはこういうことだ」というフォーマットをなぞっているだけです。本当にキリキリと自分のことを突き詰め、自分を語るということは、一見なんのことだかわからない言葉が出てきて、そこに対する説明がなかったりする。

ヤナセさんの詞には、説明がひと言もないんです。なぜなら、説明というのは「嘘」だから。もしも、フィクションにいちいち説明が入っていたら変でしょう? 説明もなしにいろんなことが起こるから、フィクションが成立しているわけです。現実も同じですよね。結果だけが、瞬間だけが常に連続しているだけで、説明というのは事後的に存在するものに過ぎない。人は、瞬間に対して説明はしない。瞬間にあるのは、常に衝動ですよね。

ヤナセ:すごくわかります。説明している間に、曲が終わっちゃうから。

betcover!!『中学生』収録曲

町田:ヤナセさんの書く歌詞は、心のなかがそのまま説明されずに歌詞になっている。だから、信用できるんです。

人の心はいろいろですから、同じ言葉を聞いて同じことを思うなんていうことは、ありえないわけです。(町田)

町田:あと、僕がヤナセさんの歌詞で感心したのは「多声性」ですね。音楽的にも多声性は導入されていて、それによって説得力は増していると思うんですけど、言葉の面での多声性もあって。

歌詞を書こうとすると、どうしても、ひとり語り、いわゆるモノローグになりがちなんですよ。ところがヤナセさんの歌詞のなかには、「君」に語りかけている「僕」の言葉が続いたと思った次の瞬間に、「君」自身の言葉に変わっていくことがある……って、さっきから僕が勝手な思い込みで語っていますけど、違っていたらごめんなさいね(笑)。

ヤナセ:いえ(笑)。

ヤナセジロウ(betcover!!)

町田:弁解しておくと、物語やフィクションを読んだり聴いたりするときに、作者に対して「これってどういう意味なんですか?」と訊くことは、一番愚かなことなんです。僕もそういう経験はあるし、友達の作家も言っていますけど、自分の小説が国語の試験問題に使われて、作者本人が間違える場合も多々ありますから(笑)。

大事なのは、それぞれの人の心にどうやって響いたか、そこから生まれるクリエイティブな読みだと思います。人の心はいろいろですから、同じ言葉を聞いて同じことを思うなんていうことは、ありえないわけです。というわけで、僕は目の前にいる作者に「それは違う」と言われようが、恐れずに言いますが(笑)。

ヤナセ:お願いします(笑)。

町田:ヤナセさんの歌詞は、ひたすら自分のことを垂れ流すのではなく、作者としての意識を持って、その世界を伝えるために立体的に「声」を積み上げている。さらに、音と言葉が一体化しているところが素晴らしいですよね。

betcover!!『サンダーボルトチェーンソー』収録曲

町田:日本語には日本語の高低があり、リズムがあり、メロディーがあるんですけど、音楽的にいわゆる洋楽の影響が大きい場合、どうしても日本語をそこに合わせようとすると難しいんですよ。つい、歌詞も「音」として捉えてしまうんですよね。音が「主」で、言葉が「従」の関係になってしまう。

でもヤナセさんの場合は、日本語の抑揚とアクセントをメロディーが裏切っていない。それができるのは音と言葉が互いに並び立ち、支え合いながらひとつのものに融合しているからです。なぜそういうことができるのか、僕はご本人に訊いてみたかったんです。

ヤナセ:今、指摘していただいた部分はすごく嬉しくて、そこは一番と言っていいくらいにこだわっている部分なんです。

町田:ほらね!(と言ってインタビュアーを見る)

―はい(笑)。

ヤナセ:(笑)。

左から:町田康、ヤナセジロウ(betcover!!)
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リリース情報

betcover!!
『中学生』(CD+DVD)

2019年7月24日(水)
価格:3,564円(税込)
CTCR-14973/B

[CD]
1. 羽
2. 水泳教室
3. 異星人
4. 決壊
5. 雲の上
6. 世界は広いよ
7. ゆめみちゃった(アルバムver.)
8. 海豚少年(アルバムver.)
9. 素直な気持ち
10. 中学生

[DVD]
・“異星人”PV
・“海豚少年”PV
・レコーディングドキュメント

betcover!!
『中学生』(CD)

2019年7月24日(水)
価格:3,024円(税込)
CTCR-14974

1. 羽
2. 水泳教室
3. 異星人
4. 決壊
5. 雲の上
6. 世界は広いよ
7. ゆめみちゃった(アルバムver.)
8. 海豚少年(アルバムver.)
9. 素直な気持ち
10. 中学生

イベント情報

『1st.フルアルバム発売記念 単独公演「中二魂」』

2019年8月23日(金)
会場:東京都 渋谷WWW

プロフィール

betcover!!(べっとかばー)

1999年生まれ多摩育ちのヤナセジロウによる音楽プロジェクト。小学5年生でギター、中学生のときに作曲をはじめ、2016年夏に本格的に活動を開始。同年レーベル主催企画で初ライブ、その次はロッキングオン主催の『RO JACK for COUNTDOWN JAPAN』で優勝し『COUNTDOWN JAPAN 16/17』に出演。2019年7月24日、メジャーデビュー作となる1stフルアルム『中学生』をリリースした。

町田康(まちだ こう)

1962年大阪生まれ。作家・詩人・パンクロッカー。町田町蔵名義で歌手活動を始め、1981年パンクバンド「INU」の『メシ喰うな!』でレコードデビュー。96年、処女小説『くっすん大黒』で文壇デビュー。2000年『きれぎれ』で『芥川賞』、2005年『告白』で『谷崎潤一郎賞』、2008年『宿屋めぐり』で『野間文芸賞』を受賞。

関連チケット情報

2019年10月5日(土)
新宿フィールドミュージアム -shin-音祭 2019
会場:新宿文化センター(東京都)

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