
細美武士が語るthe HIATUSの10年。バンドという絆を育てた道のり
the HIATUS『Our Secret Spot』- インタビュー・テキスト・編集
- 矢島大地(CINRA.NET編集部)
- 撮影:関信行
the HIATUSの6枚目のアルバム『Our Secret Spot』は、サウンド・歌ともに大胆な刷新が果たされた作品だ。アンサンブルの構築美は相変わらずだが、しかしその音数が吟味され、より一層5人の息遣いが聴こえる立体的なものに。どこまでも色を塗り足して爆発していく壮大な楽曲は、細やかな音の起伏でじっくりとエモーションを昂らせるものへと変化。かつてなく低いキーが新鮮なメロディに祈りと現行のR&Bまでを宿した細美の歌を中心にして、鳴りも音色も展開もかつてない大脱皮を感じさせるのが今作の素晴らしさである。
細美のソロプロジェクトとしてスタートしたthe HIATUSは今年で10周年を迎え、「ロックバンドのサウンドデザインを更新したいと思い続けて、the HIATUSとして鳴らしたい音が一旦完成した」と細美は語った。つまり、バンドとして自然体のグルーヴを過不足ない形で鳴らせたのが今作の意義と変化の肝になっている。MONOEYESとELLEGARDENもアグレッシブに活動を展開する中、the HIATUSでこそ鳴らせるサウンド、グルーヴを改めて追求した道のり。さらには細美の心の秘部と深奥がじっくりと染み渡っていく歌の核心、彼にとってのバンド論すべてを洗いざらい語り合ったインタビューだ。
『Keeper Of The Flame』辺りから目指していた、ロックバンドとしての新しいサウンドデザインにたどり着けた。
―いろんなポイントがある作品だと思うんですが、まず、音数が絞られてthe HIATUSとして新しいグルーヴを掴まれている点が耳に飛び込んできて。細美さんの歌唱がR&Bシンガーのような表情を持って刷新を果たしている部分も含めて、じっくりとした高揚とスケール感をもって響いてくる作品だと感じました。
細美:今作を話すに当たって、ふたつの方向があって。ひとつは、アンサンブルと各パートのプレイの内容。それからもうひとつの軸が、4枚目のアルバム(『Keeper Of The Flame』 / 2014年)辺りから目指していたサウンドデザインにようやくたどり着けた実感があること。the HIATUSのサウンドデザインが一旦完成したのかなって思えている作品ですね。
―『Keeper Of The Flame』の時期から目指していたサウンドデザインとは、言葉にするとどういうものだと思います?
細美:今は世界的にロックバンドの数が減っているし、ヒップホップが主流じゃない? その状況に対して、ロックバンドのサウンドデザインを更新したいっていうのはずっと考えていて。今が2019年でしょう? もちろん俺は1990年代のサウンドも好きだし、これからもそういうサウンドのアルバムを作る場面もあるだろうけど、だけどそれだけではない形も追求したかったんだよね。

細美武士
the HIATUS(ざ はいえいたす)
細美武士(Vo,Gt / MONOEYES、ELLEGARDEN、the LOW-ATUS)、ウエノコウジ(Ba / ex-thee michelle gun elephant、Radio Caroline、武藤昭平 with ウエノコウジ)、masasucks(Gt / FULLSCRATCH、RADIOTS、J BAND)、柏倉隆史(Dr / toe)、伊澤一葉(Key)によるロックバンド。2009年に細美武士を中心に活動をスタート。これまでに5枚のアルバムをリリースし、2014年には日本武道館公演を開催した。7月24日に6thアルバム『Our Secret Spot』をリリース。
―実際、1990年代のオーセンティックなロックサウンドの中でどうやって新たなカタルシスを生むのかはMONOEYESでトライされているし、そこにELLEGARDENの再始動もありましたよね。その中で、the HIATUSとしてはより同時代性のあるサウンドに振り切れたところもあるんですか。
細美:もちろん、時代の流れは認識していたと思う。リスニング環境で言えば、ストリーミングサービスを使って、携帯電話で音楽を聴く人が増えたよね。それに、音楽の制作環境としても今はDAWを誰でも使えるようになってきた。しかもそのDAWも、プリセットの音がすごく多彩でさ。そうやって誰でもいろんな音を使える中で、「ロックバンドのサウンド」ってなんだろう、っていうのを目指したのが今回のアルバムだと思う。
―ストリーミングサービスや、ひとりでの制作が限りなく無限になった音楽の外的な環境において、実際の音やソングライティングに反映されたのはどういう部分だと思いますか。
細美:たとえばミッドレンジより上が歪んでる曲って、ストリーミングサービスの中では音量を下げられちゃうじゃん。で、曲がプレイリストに入った時を考えると、自分達のリスナーに音量を上げる手間をかけさせることになるじゃない? そう考えると、マスターで突っ込むためにはミッドレンジからトレブルで歪んでる音っていうのは削らざるを得なくなったよね。
―世界的に見ても、中域を削って歌やラップ、あるいはローを際立たせる傾向は強いですよね。
細美:まあ元々は、リスニング環境が変わったんだから、それに対してサウンドのデザインを更新する必要があるなっていう発想だったんだよね。その試みにまた、新しいメロディや歌唱が引き出されていったところはあったと思う。
the HIATUS『Our Secret Spot』を聴く(Apple Musicはこちら)
―実際、同期のビートが顔を覗かせたり、浮遊感のあるシンセの音色を使っていたり。バンドの音数を絞って立体的な音像になっていることも、じっくりとした聴き心地に直結していて。ただ、「ロックバンドのサウンド」と言われたように、時代との同期以上にあくまで5人の生のグルーヴをどうアップデートするかに重心のあるアレンジとテクスチャーだと思ったんですね。
細美:それがバンドアンサンブルをどうするかっていう部分の変化だよね。より同時代的なサウンドを確立するために一番の骨格になったのが、なるべく音数を減らすっていうことでした。まあ5人のメンバーがいるから、それでもそれなりにテクスチャーは多いんだけど、the HIATUSなりのミニマムっていうのかな――5個の楽器があるバンドとして、音数を絞ることでそれぞれの玉を大きくしようっていう気持ちはあって。まあ、やっぱりオルタナティブな志向が強いバンドではあるから、今まではどうしても足し算が多かったと思うのね。不協和音とかさ。
2ndアルバム『ANOMALY』収録
―壮大に昇っていく展開が多かったし、どんどん音を重ねて、混ぜて、新しい色を生もうとする楽曲が多かったですね。
細美:いろんな色を足すことで他にない色を出してたんだよね。でも今回は引き算に近いし、それはチャレンジだった。ただ、ロックバンドとしてっていう部分は変わってないと思うんだよね。実際今回のアルバムは、今までで一番喧嘩が強そうなアルバムだと思ってるし。
―はははは。はい。
細美:大人の男として、ただのいい人ではない部分も含めて表現していこうっていうのは、バンドをやる上でずっと変わってないところですね。
リリース情報

- the HIATUS
『Our Secret Spot』(CD) -
2019年7月24日(水)発売
価格:2,592円(税込)
UPCH-205191. Hunger
2. Servant
3. Regrets
4. Time Is Running Out
5. Chemicals
6. Silence
7. Back On the Ground
8. Firefly / Life in Technicolor
9. Get Into Action
10. Moonlight
イベント情報
- 『Our Secret Spot Tour 2019』
-
2019年7月31日(水)
会場:東京都 Zepp Tokyo2019年8月1日(木)
会場:東京都 Zepp Tokyo2019年8月6日(火)
会場:福岡県 Zepp Fukuoka2019年8月8日(木)
会場:広島県 BLUE LIVE 広島2019年8月21日(水)
会場:宮城県 仙台GIGS2019年9月3日(火)
会場:愛知県 Zepp Nagoya2019年9月4日(水)
会場:愛知県 Zepp Nagoya2019年9月11日(水)
会場:新潟県 新潟LOTS2019年9月13日(金)
会場:北海道 Zepp Sapporo2019年9月18日(水)
会場:大阪府 Zepp Osaka Bayside2019年9月19日(木)
会場:大阪府 Zepp Osaka Bayside2019年9月24日(火)
会場:香川県 高松festhalle
- 『the HIATUS 10th Anniversary Show at Tokyo International Forum』
-
2019年10月1日(火)
会場:東京都 東京国際フォーラム ホールA
プロフィール

- the HIATUS(ざ はいえいたす)
-
細美武士(Vo,Gt / MONOEYES、ELLEGARDEN、the LOW-ATUS)、ウエノコウジ(Ba / ex-thee michelle gun elephant、Radio Caroline、武藤昭平 with ウエノコウジ)、masasucks(Gt / FULLSCRATCH、RADIOTS、J BAND)、柏倉隆史(Dr / toe)、伊澤一葉(Key)によるロックバンド。2009年に細美武士を中心に活動をスタート。これまでに5枚のアルバムをリリースし、2014年には日本武道館公演を開催した。7月24日に6thアルバム『Our Secret Spot』をリリース。