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パソコン音楽クラブの部活感の秘密。作家性や主張より大事なこと

パソコン音楽クラブの部活感の秘密。作家性や主張より大事なこと

『NEWTOWN 2019』
インタビュー・テキスト
柴崎祐二
撮影:Kay N 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

いつか来てしまうモラトリアムの終わりが漠然と怖くて、そこから逃げたい気持ちがあった。(西山)

左から:西山、柴田

―2018年には1stフルアルバム『DREAM WALK』をリリースされました。初のCD作品というところで、どんなことを考えて作った作品でしたか?

柴田:CDを作ろうと思ったとき、どういう内容にしようか悩んじゃって。どうせ作るならたくさんの人に聴いてもらいたいし、ちゃんとコンセプトを詰めないといけないよな、ということは考えましたね。

西山:今まで作ったものにいろんな曲調がありすぎて、ひとつの盤として通して聴けるものにする必要性を感じたんですよ。

柴田:それで、過去にSoundCloudにあげていたもののリアレンジも入れたりして、アルバムとしての整合性をじっくり整えていくなかで、自分たちの音楽にある「逃避願望」「エスケーピズム」みたいのを軸にしようと徐々に固めていきましたね。

パソコン音楽クラブ『DREAM WALK』を聴く(Apple Musicはこちら

―前作はジャケットからして日常からの静かな逃避を思わせるところがありますよね。

柴田:あれは熱海にあるファミレスの写真なんですけど、非日常感がある場所で。店内から海が見渡せて、夜になると海岸線に旅館とかの光が見えるんですよ。

西山:ファミレスって自分たちのなかでは日常の象徴のようなものなんです。けれど、この店から見渡せるのは、普段の生活のなかで目にすることのない綺麗な水平線だったりする。しかも、お店自体もお土産屋とかが店を閉めた暗闇に夢のなかの風景のように佇んでいるんです。日常の裏返しとして現れる非日常感というか。

柴田:「逃避」ってことでいうと、パソコン音楽クラブをはじめた大学生の頃って、とにかく暇だったんですよ(笑)。差し迫ってやるべきことはないんだけど、その先には就職も控えていて、逃げてしまいたいことはたしかにあるっていう状況で。

西山:次の4月から社会人として働くことが決まっているなか、いつか来てしまうモラトリアムの終わりが漠然と怖くて、そこから逃げたい気持ちがあって。いわゆる「漠然とした不安」というか。そういう気持ちを紛らわす場所としてファミレスがあったんです。

柴田:お互い大阪の中心部に住んでいたわけじゃないので、ワイワイ過ごしても結局帰るところは郊外で。その帰路でダウナーになったりする気持ちが前作にはかなり反映されていると思います。

―おふたりは大阪のどちらの出身なんでしたっけ?

柴田:僕は泉大津市っていう港町です。住宅街があって、超でかいダイエーがあるような場所です。

西山:僕は堺市の泉北ニュータウン出身です。高度経済成長時代に労働者をたくさん住まわせるために作られたような団地がたくさんあるところで。今、再開発が進んでいますけど、それこそ前作の収録曲“OLDNEWTOWN”の名前にもなっているとおり、すごく古いニュータウンです。

パソコン音楽クラブ“OLDNEWTOWN”を聴く(Apple Musicはこちら

失われたものを懐かしんで焦がれているというわけではない。(柴田)

―ニュータウンのように人が暮らすために最適化された場所で育ったことが、おふたりのパーソナリティーやパソコン音楽クラブの音楽に影響を与えている部分もあるんでしょうか?

柴田:あると思います。ニュータウンみたいに人為的に整理された街って、ときを経て人の暮らしが変わっていくなかでどうしても廃れていく場所があると思うんです。

そこに生まれる余白や隙間みたいなものに惹かれます。今まで役立っていたものが突然必要とされなくなったときに生じる、その無意味さ。でも、妙に居心地がよかったりする。その感覚はパソコン音楽クラブの音楽がシンパシーを抱いている部分でもあるなあ、と。

西山:僕が住んでいた団地は、もともとたくさんの人が住んでいたところなんですが、僕が高校生の頃に出ていったときには一棟に1~2世帯くらいしか残っていないような過疎状態になっていて。実際にかつて生活していた場所がそうやってどんどん朽ちて孤立していく。それがなんとなく頭のなかで美化されているような……そういう喪失感へ妙に美しさを感じてしまうんです。

左から:西山、柴田
パソコン音楽クラブは、10月19-20日に開催のCINRA主催によるカルチャーフェスティバル『NEWTOWN 2019』に出演する
パソコン音楽クラブは、10月19-20日に開催のCINRA主催によるカルチャーフェスティバル『NEWTOWN 2019』に出演する(詳細を見る

―それって、「昔はよかったな」という単純なノスタルジーとも違いますよね。

柴田:違いますね。失われたものを懐かしんで焦がれているというわけではない。

西山:僕らの音楽をノスタルジー的な文脈で語ってくれる人もいるんですけど、自分たちとしてはその感覚はあまりないですね。自分の子ども時代のことや、ほんの数年前とか数日前に経験したことや、YouTubeで見たもの、もっといえば自分が実際に経験していないことまでもが記憶のなかで融合して消化されて、時間軸を超えて並列に思えてくる感覚というか。

柴田:かつてあった「昔風」の情緒を再現するというより、匂いとか、建物の質感とか自体について考えているんだと思います。そういう記憶のなかのテクスチャーみたいなものが、どこか高次の部分でシンセサイザーのプリセット音と結びついてきたりするんですよ。

たとえば、地下鉄御堂筋線って、1990年の『大阪花博』(『国際花と緑の博覧会』)のために整えられた路線らしいんですけど、ホームに流れる電車発着の合図がパッド系のめちゃアンビエントなシンセの音で。そういうのをふと聴くと、「うわ~、くるわ~」って(笑)。

―面白いですね。今回リリースされた『Night Flow』も、シンセサイザーの音選びとして環境音楽~アンビエント的な色彩が増していますよね。

パソコン音楽クラブ『Night Flow』を聴く(Apple Musicはこちら

柴田:吉村弘さんの『Air In Resort』(1984年)という作品をはじめて聴いたとき、環境音と混じり合う電子音って別の次元に気持ちを連れて行ってくれるなと感動したんです。その感覚が今作にも影響しているかもしれませんね。

それと、静かな夜のなかで耳を澄ましていると、本当は鳴っていないはずの音が聴こえてくるような気持ちになることがよくあって。それが環境音楽的なものの美しさと結びついたというのがあります。

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リリース情報

パソコン音楽クラブ『Night Flow』
パソコン音楽クラブ
『Night Flow』(CD)

2019年9月4日(水)発売
価格:2,160円(税込)
PSCM002

1. Invisible Border(intro)
2. Air Waves
3. Yukue
4. reiji no machi
5. Motion of sphere
6. In the eyes of MIND
7. Time to renew
8. Swallowed by darkness
9. hikari

イベント情報

『パソコン音楽クラブ2ndアルバム「Night Flow」リリースパーティー』

2019年9月7日(土)
会場:大阪府 南堀江 SOCORE FACTORY
出演:
長谷川白紙
パソコン音楽クラブ

2019年10月12日(土)
会場:京都府 CLUB METRO
出演:
Soichi Terada(House Set)
SEKITOVA
Stones Taro(NC4K)
cool japan
seaketa
パソコン音楽クラブ

2019年 10月26日(土)
会場:東京都 渋谷 WWW
出演:
長谷川白紙
パソコン音楽クラブ

プロフィール

パソコン音楽クラブ
パソコン音楽クラブ(ぱそこんおんがくくらぶ)

2015年結成。ローランドSCシリーズやヤマハMUシリーズなど1990年代の音源モジュールやデジタルシンセサイザーを用いた音楽を構築。2017年に配信作品『PARKCITY』を発表。tofubeatsをはじめ、他アーティスト作品への参加やリミックス、演奏会、ラフォーレ原宿グランバザールのTV-CMソングなど幅広い分野で活動。2018年6月に自身初となるフィジカル作『DREAM WALK』をリリース。2018年9月、2ndアルバム『Night Flow』を発表。

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