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パソコン音楽クラブの部活感の秘密。作家性や主張より大事なこと

パソコン音楽クラブの部活感の秘密。作家性や主張より大事なこと

『NEWTOWN 2019』
インタビュー・テキスト
柴崎祐二
撮影:Kay N 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

(夜は)おそらく感受性も鋭くなっているのかもしれない。いろんなものに感動する一方で、すごく怖さを感じてしまったり。(西山)

左から:柴田、西山

―資料を拝見すると、今作は「夜から朝までの時間の流れにおける感覚の動き」をテーマにしているとのことですが、なぜこのテーマで制作をしたのでしょうか?

柴田:アルバムの重要な要素として「ときめき」みたいなものがあって。大学生の頃、よくふたりで真夜中に自転車で郊外から大阪の中心部に行ってたんです。

そういうときに、日中は人がたくさんいる街もすごく閑散としていて、自分たちだけが取り残されたみたいな気持ちになって。なんでもない工事の立て看板とかガソリンスタンドの電光掲示とか、そういうものに急にときめいてしまうということがよくあったんです。

西山:ただ車がガラガラの道を通過していく様子とか、人がいないところでの信号の変化とか、ひと部屋だけ明かりが点いているマンションとか……そういう普通のことが非日常感のなかで特別に見えてくる瞬間というか。

―昔から「逢魔が時」とか、「丑三つ時」とかという言葉で表される感覚に近いんですかね? 夢とうつつが出会う時間というか。

西山:まさにそうですね。そういうときって、景色だけじゃなくて、「自分のイヤホン、こんな高性能だったっけ?」と思ってしまうくらい、やけに音楽がクリアに聴こえたりするんですよ。物理的に昼間に比べて雑音が少ないってこともあるのかもしれないのですけど、おそらく感受性も鋭くなっているのかもしれない。いろんなものに感動する一方で、すごく怖さを感じてしまったり。

柴田:そういう感覚って、もしかしたら歳をとっていくにつれてどんどんなくなっていってしまうんじゃないかという不安感みたいなものもあって。

西山:そう。はっきりとはわからないけど、なにかタイムリミットのようなものがあって、なにも考えずに過ごしていたらそういう感覚が失われてしまうかもしれない、という。その感覚を、音楽を作ることで繋ぎ止めておきたい、という気持ちもあります。

柴田:いずれは終わってしまうものへの眼差しということでいうと、夜というもの自体がそうですよね。いつかは明けて朝が来る。それが自分たちに迫るリミットと重ね合わさって、夜をより特別な時間にしているのかもしれません。

左から:西山、柴田

―さっきの朽ちていくニュータウンや取り残された空間についての話もふくめて、経済活動が一旦停止している資本主義におけるエアポケット的な空間や時間に魅力を感じる、ということなのでしょうか? 赤瀬川原平の「トマソン」(不動産に付属し、まるで展示するかのように美しく保存されている無用の長物を指す、芸術上の概念)にも通じるような話ですね。

西山:ああ、まさしくそういう感覚はあるような気がします。

計算に基づいた「最適解」みたいなものじゃない音楽こそ面白い。(西山)

―前作リリース以後、飛躍的に知名度をあげて、今もまさに新作リリースに際してすごく注目度が高まってきていると思うんですが、将来を見据えて、これから自分たちの活動はどうなっていくと思いますか?

西山:ふたりでたまに話すんですけど、音源制作は死ぬまでやりたいです。音楽性はどんどん変わっていくと思うんですけどね。

柴田:定年後もシニアの部活動としてやっていけたら、と(笑)。

―どこかの町のカルチャーセンターでDTM茶会をしているかも。

西山:(笑)。

左から:西山、柴田

―最後の質問です。このところのDAWにはリズムパターンを自動で付けてくれる機能があったり、音楽制作においてもAI技術の進歩は目覚ましいものがあります。おふたりは、音楽制作におけるシンギュラリティーは起こると思いますか?

柴田:シンセの誕生とか、ドラムマシンの発明とか、自分がこれまでそういう大々的な技術の更新にリアルタイムで立ち会っていないから、あまりAIの脅威みたいなものに実感が湧かないですね。

西山:僕は音楽制作におけるシンギュラリティーのようなものは起こると思います。でも、それによって奪われる仕事があるとするなら、それは仕方ないのかなと。

コンピューターが過去の膨大なサンプルを参考にしながら技術面で飛躍するということはあるかもしれないけど、今まで誰も聴いたことのないようなものが生まれるのかというと、それは疑問なのかなと思っています。

左から:柴田、西山

―おふたりの作っている音楽って、ただ技術的な新しさを求めていくというより、むしろそこにある文脈を撹乱していくものだと思うんです。そういうことはまだまだ人間に分があるように思うし、それこそがもっとも人間が得意とすることなのかなと思うんです。

柴田:なるほど……それに加えて思うのは、さっき言ったような夜とアンビエントの音色が高次の部分で結びつくことも、ある意味で人間ならではのバグだと思うんですよ。そういう無意識のエラーに基づく創作はまだまだ機械には難しいと思っていて。

さよひめぼうさんっていう、複雑なボイスカットアップとかを駆使したヤバいトラックを作る作家の方がいるんですけど、「どうしてこんな音楽になったんですか?」って本人に聴いたら、「ヴェイパーウェイヴを生演奏だと勘違いしてコピーしようとしたらそうなった」って言ってて。それを聞いて、「そんなすごいバグが起こるんや!」と感動してしまって(笑)。考えてみればハウスだってもともとはディスコを作ろうとしてリズムマシンをいじっていたらあんなふうなものが生まれてしまったわけで……。

西山:人間が作る音楽って、そういう意図しない勘違いみたいなのが魅力的ですよね。そういう計算に基づいた「最適解」みたいなものじゃない音楽こそ面白いし。

―「パソコン音楽クラブ」っていう一見無機質な名前を掲げながらも、おふたりの音楽がヒューマンな魅力に強く根ざしているように感じるっていうのも、今話してくれたことに照らすとすごく納得がいく気がします。

西山:そうですね。僕らも古い機材を使うなかでそういう勘違いを犯していると思うし。でもまあ、それこそ量子コンピュータとかが実用化されたら、そういう領域すらAIに取り込まれてしまうかもしれないですけど……(笑)。

柴田:まあ、まずはどうあれ、80歳まで音楽を作っていきましょう(笑)。

パソコン音楽クラブ『Night Flow』ジャケット
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リリース情報

パソコン音楽クラブ『Night Flow』
パソコン音楽クラブ
『Night Flow』(CD)

2019年9月4日(水)発売
価格:2,160円(税込)
PSCM002

1. Invisible Border(intro)
2. Air Waves
3. Yukue
4. reiji no machi
5. Motion of sphere
6. In the eyes of MIND
7. Time to renew
8. Swallowed by darkness
9. hikari

イベント情報

『パソコン音楽クラブ2ndアルバム「Night Flow」リリースパーティー』

2019年9月7日(土)
会場:大阪府 南堀江 SOCORE FACTORY
出演:
長谷川白紙
パソコン音楽クラブ

2019年10月12日(土)
会場:京都府 CLUB METRO
出演:
Soichi Terada(House Set)
SEKITOVA
Stones Taro(NC4K)
cool japan
seaketa
パソコン音楽クラブ

2019年 10月26日(土)
会場:東京都 渋谷 WWW
出演:
長谷川白紙
パソコン音楽クラブ

プロフィール

パソコン音楽クラブ
パソコン音楽クラブ(ぱそこんおんがくくらぶ)

2015年結成。ローランドSCシリーズやヤマハMUシリーズなど1990年代の音源モジュールやデジタルシンセサイザーを用いた音楽を構築。2017年に配信作品『PARKCITY』を発表。tofubeatsをはじめ、他アーティスト作品への参加やリミックス、演奏会、ラフォーレ原宿グランバザールのTV-CMソングなど幅広い分野で活動。2018年6月に自身初となるフィジカル作『DREAM WALK』をリリース。2018年9月、2ndアルバム『Night Flow』を発表。

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