
the engyの研究発表 今の時代の「芸術性と大衆性を成す音」とは
the engy『Talking about a Talk』- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:垂水佳菜 編集:矢島由佳子(CINRA.NET編集部)
SuchmosとかNulbarichのライブで同期が使われているのを知って、意識が変わった。
―the engyの楽曲においてボーカルのインパクトも大きいと思うんですけど、「歌」にのめり込んでいった理由にも、「わからないから知りたい」と近いものがありますか?
山路:もともとギタリスト志望だったんですけど、曲を書いても誰も歌ってくれないから、大学のときに「このままじゃ4年間無駄になる」と思って弾き語りで歌い始めて。
エド・シーランが好きだったので、最初はルーパーを使って似たようなことをしていたんです。自分としてはギターを褒めてもらえると思ったら、「全然リズム感ないからルーパーやめた方がいい。せっかく歌はいいのに」みたいに言われて、「え、ギターじゃないの?」みたいな(笑)。そのあとにサークルでthe engyの前身のバンドを組んで、ライブをしたときに、PAさんが「めっちゃ声いいね」って言ってくれて、そこからちゃんと歌い始めました。
―the engyの楽曲は生演奏と打ち込みの融合もポイントだと思いますが、打ち込みをやり始めたきっかけは?
山路:最初のEPに入ってる“She makes me wonder”という曲は、エンジニアを目指している後輩が「DTMできる」って言うから、そいつと一緒に作ってみたんです。そうしたら「こんなこと身近でできんのや」ってわかって、「今iPadでもできますよ」って言われたので、自分でもやり始めました。
山路:もともと曲を作るのが好きで、弾き語りではすごい数作ってたんですけど、ギターで作るのにちょっと飽きてきていたところで。打ち込みで作るようになったらめちゃくちゃ楽しくなったんですよね。
―言ってみれば、研究の対象がDTMに移ったというか。
山路:ジョン・フルシアンテも言ってたんですけど、DTMで作るのって、最初のアイデアが必要ないんですよ。とりあえず音を出してみれば、そこからアイデアが広がって、どんどん曲が生まれる感覚になるんです。
しかも、ちょうどその頃に、SuchmosとかNulbarichのライブを観た人が「同期使ってた」って言ってて、「もうそういうふうにライブをやるのは普通なんやな」と思って。だったら、同期をもっと大胆に使った方が面白いものができるんじゃないかと思ったので、しっかりトラックを作ることを意識するようになりました。
―そこに関しては、時流の影響もあったと。
山路:twenty one pilotsとかも好きで、彼らのライブはドラムとピアノだけで、あとはオケなんですよ。でも、ドラムはめっちゃ叩いてるし、ボーカルはピアノからジャンプしたり、すごい熱量を感じて、同期を使おうがなにしようが、「大事なのは見せ方なんやな」と思って。それからは同期をどんどん使って、機材自体にハマっていった感じです。
ひねくれた作り方をする上では、「匂い」が大事なんですよね。
―新作『Talking about a Talk』のサウンドは、『Call us whatever you want』以上に、かなり作り込まれていますよね。
the engy『Talking about a Talk』(Apple Musicはこちら)
山路:『Call us whatever you want』はライブを意識して作ったんですけど、その上で、さらに曲の完成度を上げたいと思ったのが今回のアルバムで、アナログの、温かみのある音を意識しました。
デジタルはどうしてもきれいというか、汚れてなくて、CGみたいなんですよ。でも、ちょっと汚れとか匂いが音自体についてる方が僕の曲には映えると思って、それを意識してやってたら、どんどん機材が増えて、今家が機材の段ボールだらけです(笑)。
―今はソフトさえあればある程度のクオリティのサウンドを誰でも出すことができるけど、よりオリジナリティを強くするために、アナログがポイントだったと。
山路:自分はちょっとひねくれてるのか、王道にはいけないんです。たとえば、「ファンクっぽい曲にしたい」って言ったら、普通エンジニアさんは全部の音をファンキーにしようとするじゃないですか。でもそうじゃなくて、「フレーズだけファンキーで、音も全部ファンキーだったらダメ」って言うんです。そうすると「なんで?」ってなるんですけど、一回やってみると、そっちの方がむしろファンキーだったりして。
そういうひねくれた作り方をする上では、「匂い」が大事なんですよね。今回だと声やギターをICレコーダーで録ったりして、それもいい質感になったなと思います。
―リード曲の“Sick enough to dance”のサウンドに関しては、どのように作っていったのでしょうか?
山路:この曲は今回一番最後に作ったので、それまでに得たいろんなノウハウを詰め込んで、音にはものすごくこだわりました。サンプル音源は一個も使ってなくて、キックの音は打ち込みなんですけどシェーカーは自分たちで振ってるし、スネアはわざわざ電話回線を通して録っていて。
―電話回線を通して?
山路:その方が遠くで鳴ってる感じがして、クラップと混ざったとき気持ちいいと思ったんです。“Sick enough to dance”はそうやっていろいろ積み上げつつ、遊びつつ、楽しんで作った曲ですね。ただ、積み上げれば積み上げるほど、逆に壊したくもなっちゃうんですよ。
―やっぱり、そこはひねくれてる(笑)。
山路:アメリカの音楽のずるいところって、結局「ジャーン!」ってやるとかっこいいんですよね。Bon Joviが「ドーン!」ってやれば、「かっけえ!」みたいな(笑)。そういう気持ちよさも出したくて、“Sick enough to dance”は「やりすぎ」をテーマにしました。パーティーすぎるし、バンドサウンドすぎるし、キック気持ちよすぎるし、メロもよすぎる。そういう方向性が面白いんじゃないかなって。
―今のサウンドメイクの流行りとしては、音数を減らして、空間を作って、ちゃんと帯域を分けて、それぞれの音をよく聴こえるようにするっていうのがあると思うんですね。でも、そこであえて「やりすぎ」を選んだと。
山路:「音数が少ない」ということに対して、僕は思うところがあって……。
リリース情報

- the engy
『Talking about a Talk』初回限定盤(CD) -
2019年10月30日(水)発売
価格:2,530円(税込)
VICL-652571. At all
2. Still there?
3. Sick enough to dance
4. In my head
5. Touch me
6. Hey
7. I told you how
8. Have a little talk
9. Sick enough to dance [Pf ver.](ボーナストラック)
- the engy
『Talking about a Talk』通常盤(CD) -
2019年10月30日(水)発売
価格:2,200円(税込)
VICL-652581. At all
2. Still there?
3. Sick enough to dance
4. In my head
5. Touch me
6. Hey
7. I told you how
8. Have a little talk
イベント情報
- 『ONEMAN LIVE「Talking about a Talk」』
-
2019年11月25日(月)
会場:東京都 渋谷 WWW2019年12月3日(火)
会場:大阪府 心斎橋 Pangea
- 『「Talking about a Talk」インストアLIVE』
-
2019年11月16日(土)
会場:東京都 タワーレコード新宿店7F イベントスペース2019年11月17日(日)
会場:大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店 イベントスペース2019年11月23日(土)
会場:京都府 タワーレコード京都店 イベントスペース
プロフィール

- the engy(じ えんぎー)
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京都発。山路洸至(Vo,Gt,Prog)と濱田周作(Ba)、境井祐人(Dr)、藤田恭輔(E.Gt,Cho,Key)の4人からなるロックバンド。山路のスモーキーかつブルージーな歌声とソウル、ヒップホップ、ダンスミュージック、エレクトロニックなどあらゆるジャンルを取り込みつつ緻密に構築されたトラックメイクとロックサウンドが特徴。 2017年5月に自主制作盤1st EP『theengy』を発売。未流通の自主制作盤ながら耳の早いバイヤーがYouTubeなどで楽曲をキャッチし、コアな専門店やアパレル店などで取り扱いされ関西を中心にジワジワと存在感を増しいく。2019年には『Touch me』(6月12日配信)、『Still there?』(8月28日配信)と配信シングルを立て続けにリリースし、Apple Music「今週のNEW ARTIST」への選出、Spotifyでは国内外複数のプレイリストに取り上げられるなど更に注目度を上げている。