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動員すればそれで良い?芸術の消費に対する『プラータナー』の挑戦

動員すればそれで良い?芸術の消費に対する『プラータナー』の挑戦

『プラータナー:憑依のポートレート』
インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:豊島望 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

私たちがすべきなのは、昭和のままの演劇界を、令和にアップデートすること。(中村)

―演劇とビジネス。双方のボキャブラリーを多少見知った身としては、今回の企画に完全に馴染めたかと問われると、面白がりながらも、正直少し戸惑いもありました。

中村:それはやっぱり、演劇のボキャブラリーに通じている方だからだと思うんです。私たちが「創出」することを想定していた観客の方々は、ほとんど演劇に関心がないけど、こちらが工夫をすれば足を運んで「体験」してくださるような人たちでした。

実際に、演劇畑ではなくて、ファシリテーションに興味があって参加して、その後グラレコも描けばレビューも書く、という方がいらっしゃいましたし、公演自体も話題になって、多くの方に来ていただけました。私たちがすべきなのは、昭和のままの演劇界を、令和にアップデートすることだと思うんですよ(笑)。

中村茜(プロデューサー / precog代表)
中村茜(プロデューサー / precog代表)

―なるほど。皆さんが外部から持ち込んだスキームは、端的にソリューションのみを求めようとするビジネスの世界で、絶えず交渉しながら培われたものだと思います。そして演劇自体もソリューションをもたらすものではないですよね。培ったスキームがさらに問われた、ということはありましたか?

金森:先ほどの中村さんが記者発表会で感じた違和感の話につながりますが、やはり「価値の翻訳」なんだと思います。たとえばタッチポイントという言葉をどう翻訳すれば、横に広がっていくのか、ということですね。興味がある人だけに伝わる言語ではなくて、既存の価値にうまくいい換えて広めていく、ということを考えなければいけないな、と。

臼井:逆の例でいうと、「あなたのポストトーク」という言葉遣いには、反省が残りますね。「ポストトーク」って、演劇界の内部の方にしかなかなか伝わらないワードだったと思います。

臼井隆志(ワークショップデザイナー)
臼井隆志(ワークショップデザイナー)

清水:価値の翻訳は、私もすごく課題だと思います。まず大前提として、舞台上のことだけでなく、ここまでお話してきた企画全体、モデルこそが演劇のデザインなんだ、と語っている人はまだ多くないはず。この活動のネーミング自体も含めてみんなで考えていくことは、意義深いことだと感じます。

一方で、今回の企画に参加いただいた方と、そうでない方では、価値の見え方、感じ方がどうしても変わってくる。だからといって、「これを体験すれば人生に役に立ちますよ!」といった伝え方で人を集めてしまっては、ただの「動員」になってしまう。きちんと「創出」する、土壌を耕していくという点を守りながら、価値の翻訳をしていかなければならないだろうな、と思います。

清水淳子(グラフィックレコーダー)
清水淳子(グラフィックレコーダー)
劇場での公演だけではない『プラータナー』の全容を、ビジュアライズしながら議論していく
劇場での公演だけではない『プラータナー』の全容を、ビジュアライズしながら議論していく

中村:演劇ってものすごく古典的なメディアで、現場主義になりがちなので、私たち作り手も上演したら「はい次!」という感じで、せっかくやったことを忘れてしまいがち(笑)。でも、そうした古典的なメディアだからこそ、たとえばアーカイブの仕方を含めて、アップデートできる可能性があると思うんです。

メディアやデバイスの進化に合わせて音楽業界がCDからサブスクリプションへ移行してきたように、激変していく環境に適応したアーカイブの仕方もあると思う。映像をDVDにして販売するだけじゃないだろう、ということですよね。

 
『プラータナー:憑依のポートレート』2019年6月26日ゲネプロ。俳優のウィットウィシット・ヒランウォンクン(ピッチ)。写真:高野ユリカ
『プラータナー:憑依のポートレート』2019年6月26日ゲネプロ。俳優のウィットウィシット・ヒランウォンクン(ピッチ)。写真:高野ユリカ

最近、「客」という言葉は使っちゃいけない気もしているんですよ。それってやっぱり、消費の言葉ですから。(中村)

―今回のモデル自体がアーカイブ化されたり、他の業界から参照されたりする道もありえそうですね。最後に、現代社会において「観客」って何なのか、今回の企画を通じて何かお考えになりましたか。

中村:観客の皆さんに何を想起させたいのか――初めから考えていたのは、好奇心や関心の開発なんです。好奇心や関心って、常に同じではなくて、深まっていったり、いきなり違うものに飛んだりするじゃないですか。

たとえば台湾に旅行した後、今度はメキシコやアフリカに行きたくなった、というようなことです。「小籠包を食べるために台湾に行こう!」というリピーターを生み出すのが「動員」的なのとは反対に、人の関心が広がっていくことを、私たちは観客の「創出」といっているのかもしれません。

中村茜

中村:劇場という箱の中で起きていることは行ってみないとわからないから、常に不確かな価値に自分のお金と時間をかけることになる。それって、まるで旅のようなものじゃないですか?

行ってみないとわからない。躊躇もあるわけですから、好奇心や関心が開発されない限り、観客は「創出」されないと思います。でも、見えないリスキーな箱を開ける勇気は、実社会でもすごく大事ですよね。

臼井:ビジネスや教育の世界でも、不確実性の時代にどう対処していくのか、問題解決ではなくて、不確実性にどう身を晒して探求していくのか、ということがいわれていますよね。演劇、あるいは観客という存在は、まさに同じことをやろうとしている人たちなんだと思います。

この座談会中に清水が描いた図解。『プラータナー』公演以外の教育プログラムや広報コンテンツの内容が時系列に並べられた
この座談会中に清水が描いた図解。『プラータナー』公演以外の教育プログラムや広報コンテンツの内容が時系列に並べられた
『プラータナー:憑依のポートレート』2019年6月26日ゲネプロ。写真:高野ユリカ
『プラータナー:憑依のポートレート』2019年6月26日ゲネプロ。写真:高野ユリカ

清水:不確実というと、「質を保障しない」と聞こえてしまう可能性もありますが、私がアートを好きな理由は、質の高い不確実性が提供されているからなんですよね。見えない箱を、勇気を出して開けて、わからないものに出会った自分の気持ちの揺れを見る瞬間は、とても面白くて、リッチな「体験」だと思います。

お客さんとしての立場だと「え、保障してくれないんですか?」というノリになってしまいがちですが、そうではなくて、一緒に価値を作っていくメンバーなんだ、という意識を共有しているコミュニティーを作っていけたら最高ですよね。

臼井隆志

中村:そうそう。だから最近、「客」という言葉は使っちゃいけない気もしているんですよ。それってやっぱり、消費の言葉ですから。お客様とサービスを提供する側という関係だと、消費構造の中から抜け出せない。

だから違う言葉を使うなら、「トラベラー」なんでしょうね。主体的に好奇心を生み出して、あちこちへと旅をしていく参加者――観客はきっと、そんな「トラベラー」なんだと思います。

左から:中村茜、臼井隆志、清水淳子、金森香

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イベント情報

『プラータナー:憑依のポートレート』
響きあうアジア2019
ウティット・へーマムーン×岡田利規×塚原悠也
『プラータナー:憑依のポートレート』

2019年6月27日(木)~7月7日(日)全11公演
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
脚本・演出:岡田利規
セノグラフィー・振付:塚原悠也
原作:ウティット・ヘーマムーン
演出助手:ウィチャヤ・アータマート

サービス情報

Precog note

言葉にできない体験を描くと、解釈はより広く深まっていく。演劇グラフィックレコーディングの作品全公開

私たちは、ほの暗い「広場」に集まり、すれ違う――演劇『プラータナー』参加型企画「あなたのポストトーク」に寄せて

プロフィール

中村茜(なかむら あかね)

パフォーミングアーツ・プロデューサー。1979年東京生まれ。2004年〜2008年STスポット横浜プログラムディレクター。2006年、株式会社プリコグを立ち上げ、08年より同社代表取締役。チェルフィッチュ・岡田利規、ニブロール・矢内原美邦、飴屋法水などの国内外の活動をプロデュース、海外ツアーや国際共同製作の実績は30カ国70都市におよぶ。2009年10月、NPO法人ドリフターズ・インターナショナルを、金森香(AWRD)と藤原徹平(建築家)と共に設立。そのほか、『国東半島アートプロジェクト2012』『国東半島芸術祭2014』パフォーマンスプログラムディレクター、2018年よりアジアを旅するエクスチェンジ・プラットフォーム「Jejak-旅 Tabi Exchange : Wandering Asian Contemporary Performance」の共同キュレーター等を歴任。2016-17年、アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の支援を受けバンコク(タイ)に18ヶ月、ニューヨーク(アメリカ)で6ヶ月研修。2011~2015年、日本大学芸術学部演劇学科 非常勤講師。2019年からは、日本財団主催「True Colors Festival - 超ダイバーシティ芸術祭-」でプリコグが芸術祭事務局を運営。また渋谷に新しくできたSHIBUYA QWSではプログラムパートナーとしてドリフターズ・インターナショナルが「リ/クリエーション」を企画する。舞台制作者オープンネットワークON-PAM理事。

臼井隆志(うすい たかし)

1987年東京都生まれ。2011年慶應義塾大学総合政策学部卒業。株式会社MimicryDesignディレクター。ワークショップデザインの手法を用い、乳幼児から中高生、ビジネスパーソンを対象とした創造性教育の場に携わっている。児童館をアーティストの「工房」として活用するプログラム「アーティスト・イン・児童館」(2008~2015)、ワークショップを通して服を作るファッションブランド「FORM ON WORDS」(2011~2015)、伊勢丹新宿店の親子教室「ここちの森」(2016~)の企画・運営を担当。noteでは、発達心理学や認知科学をベースとした「赤ちゃんの探索」、アートワークショップの設計について考察する「アートの探索」を連載中。著書に『意外と知らない赤ちゃんのきもち』(スマート新書)がある。

清水淳子(しみず じゅんこ)

1986生千葉県生まれ。2009年 多摩美術大学情報デザイン学科卒業後、Web制作会社でデザイナーに。2012年WATER DESIGN入社。ビジネスデザインに携わる。2013年Tokyo Graphic Recorderとして活動開始。同年、Yahoo! JAPAN入社。データサイエンティストと協業して、UXデザイナーとしてアプリ開発に携わる。2017年 東京藝術大学美術研究科 情報設計室にて議論の可視化に関しての研究を行う。著書に『Graphic Recorder ―議論を可視化するグラフィックレコーディングの教科書』(BNN新社)がある。現在多摩美術大学情報デザイン学科 専任講師 /フリーランスで活動。IFVPメンバー - International Forum of Visual Practionars 趣味はスプラトゥーンとSUP。

金森香(かなもり かお)

Central Saint Martins Collage of Art and Design 批評芸術学科を卒業後、チンドン屋を経て出版社リトルモアに勤務。2001年にデザイナーの武内昭氏、中西妙佳と「シアタープロダクツ」を設立、広報、コミュニケーションにまつわる企画やマネジメント業務を担当。2010年、NPO法人「ドリフターズ・インターナショナル」理事に就任。2012年には、包装材料問屋シモジマの新業態「ラップル」のオープンに際し、クリエイティブディレクターを担当した。2018年よりロフトワークに参加。

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