離婚、再婚、事実婚 『彼らを見ればわかること』から考える家族像

3組に1組の夫婦が離婚し、それと同時に再婚する人も増えている昨今。つまり、1度目の結婚で伴侶と生涯を添い遂げるという価値観自体が揺らいでいる。そうした「夫婦関係の多様化」というテーマに挑んだドラマが、2020年1月11日よりWOWOWプライムで放送をスタートする『彼らを見ればわかること』だ。

同じマンションに住む3組の家族が抱えた事情と欲望が入り乱れ、それが徐々に明るみに出ていくーー地上波ではなくWOWOWだからこそ挑戦できたというこのドラマにはどんなメッセージが込められているのか? プロデュースの羽鳥健一と脚本を手掛けた沢木まひろの2人に話を聞いた。

かつてタブー視された不倫ドラマが当たり前になった今、新しい「夫婦」のドラマは何を描くか

―原作もののドラマが多い今、オリジナル脚本というのはとても挑戦的だと感じました。企画が立ち上がった背景はどのようなものだったんですか?

羽鳥:僕は2年前にフジテレビからWOWOWに出向してきたのですが、そのタイミングでドラマ制作部の上司から「40代の女性をターゲットにしたオリジナルドラマを作ってほしい」という話があり、かねてから親交のあった沢木さんに声をかけたのが始まりです。

実は彼女とは6、7年くらい前にドラマを制作しようとしたことがあり、1話分の脚本まで作ったことがあるんです。そのときは残念ながら紆余曲折あってお蔵入りしてしまったんですが、その後も沢木さんが書いてくださったストーリーがすごく印象に残っていて、今回ご一緒させていただけないかと相談しました。

左から:沢木まひろ、羽鳥健一

―そうすると、今回の物語はそのときに書いた1話分の脚本がベースにあるのでしょうか。

羽鳥:それとはまったく別のものです。今回は、僕が大好きな『金曜日の妻たちへ』のような不倫をテーマにしたドラマを構想していました。ただ、今の時代に不倫を扱うのは安直すぎないか、という疑問が浮かんだんです。かつては不倫を題材にすること自体がタブーでしたが、今では当たり前のようにある話。しかも、せっかく地上波でなくWOWOWでやるのであれば、もっと挑戦したものにしたい。そうしてスタッフ間で何度もディスカッションした末に決まったのが「夫婦関係の多様化」というテーマでした。

連続ドラマW『彼らを見ればわかること』90秒番宣

毎日ハッピーな人なんて多くないからこそ、もがきながら幸せを掴もうとする夫婦のあけすけな「会話」に焦点をあてた

―どうして「夫婦関係の多様化」にたどり着いたのでしょうか?

沢木:日本人の離婚率や再婚に対する抵抗感は昔と比べると低くなっているように感じるし、別居生活を送る夫婦もいます。それだけでなく、血縁関係ではない者同士が家族のように繋がる機会も多くなっている感覚があります。だから、これからの時代は夫婦の形もさらに多様になっていくんだろうなと思ったんです。

沢木まひろ(さわき まひろ)
小説家。2006年『But Beautiful』で第1回ダ・ヴィンチ文学賞優秀賞を受賞。2007年より公に執筆活動を始め、2012年には『ワリナキナカ』で第7回日本ラブストーリー大賞を受賞。『こごえた背中の、とける夜』(メディアファクトリー)、『44歳、部長女子。』(宝島社)など。

羽鳥:僕自身も、家族と向き合っているといろんなことを考えるんですね。そして、毎日をハッピーに過ごしている人なんてそんなに多くない。むしろ、もがきながら何とか幸せを掴もうと必死に生きている。そうした夫婦の姿を、あけすけな会話を紡ぎ合わせることでドラマにできないかと考えたんです。原作ものではなかったので、作品化に至るまでにものすごく時間がかかりました。

沢木:大変でしたね。最初にお声がけいただいたのが今から2年くらい前で、企画が通ったのが半年後ですから。

―何にそれほど時間がかかったのでしょうか?

羽鳥:プロットですね。実は企画段階で全8話分のプロットを完成させていて。原作ものではないからこそ、企画の時点で物語の完成度の高さが求められたわけです。それにキャスティングにおいても、魅力的な作品であることが伝わらなければオファーを受けてもらえませんから。そういうこともあって、企画が通ってからもブラッシュアップを重ねて脚本に落とし込んでいます。

沢木:脚本は脚本で主要メンバーとなる3組の夫婦の人格構成に多くの時間を割きました。私自身は妻でも母でもないので、周囲の友人に話を聞いたり、スタッフと議論を重ねたりしながら。

羽鳥:リアリティのある会話を生み出すためには、登場人物のバックグラウンドが大切になります。たとえば中山美穂さんが演じる内田百々子は、レディースコミックの人気漫画家ですが、過去に祖父の持っていた春画を見て美しいと感じてその道を志した人なんです。だから、画のタッチはいわゆるエロ漫画の延長線上にあるものではない。そういう作品内では描かれない登場人物の過去まで綿密に決めていきました。

場面写真:漫画家である内田百々子役を務めるのは中山美穂

明確な「悪役」はいない。当たり前にある家族のありさまを「のぞき見」る

―主人公たちを取り巻く登場人物の変化も豊かに描かれていますが、それも意図していたことですか?

羽鳥:このドラマは40代の女性をターゲットにしていると言いながらも、WOWOWには40~50代の男性視聴者も多い。だから、彼らにもきちんと楽しんでもらえる作品にしないといけない。そのためにメインとなる登場人物たちの個性を際立たせていったのですが、そうすると周辺の登場人物たちもキャラ立ちしていくんですよ。とはいえ、脇役にフォーカスしすぎるとテーマから外れてしまう可能性もある。だから、一度作ったものを壊して、また作り直してという工程を繰り返し、結果として今の形に落ち着きました。

―原作がないからこそ、どうすれば面白いものができるのかにフォーカスできたんですね。

羽鳥:そうですね。その一方で、拠り所がないから「本当にこれでいいのか?」と思うこともありました。ある登場人物は、もともと別々に存在していた2人の設定をひとつにすることで誕生しています。そういったことをスタッフみんなで少しずつ確かめながら行いました。あと本作で特徴的なのは、悪役がいないことです。

―悪役?

羽鳥:状況を悪い方向へかき回す存在です。でも、今回のドラマではそれぞれの家族の在り方を描きたかったので、そこに悪い人を入れてしまうとバランスが狂ってしまう気がして。それで本作では悪役を設定していません。ただ、もし続編を作る機会をいただけた場合は、絶対に入れたいですね(笑)。

羽鳥健一(はとり けんいち)
1993年フジテレビ入社。ドラマ全盛期にドラマ制作の現場を経験し、その後営業、編成、CS放送まで幅広いテレビ局の職務を歴任し、2017年からWOWOWへ出向。フジテレビ時代に『バスストップ』『信長協奏曲』『ようこそ、わが家へ』『貴族探偵』など数多くのドラマを手がけ、WOWOWでは『闇の伴走者~編集長の条件』『食い逃げキラー』などを手がける。

―それに繋がる話でもあるのですが、本作の配役はどのように進めたのでしょうか?

羽鳥:プロットが完成したタイミングで、それぞれの役について考えました。中山美穂さんとは何度か仕事をしたことがあったので、百々子は適役だなとか。幸運なことに、それぞれの登場人物にマッチする人を考えていく過程で適役だと思った方々にお願いすることができました。

とはいえ、百々子の夫である内田櫂斗を演じられた生瀬勝久さんは、自身の役に対してまったく共感できないとおっしゃってましたね(笑)。櫂斗は女性に対する考え方が独特なので、生瀬さんがそう感じるのも理解できるのですが。でも、そうやって立場や考え方によっていろんなツッコミを入れられるドラマになっていると思います。「え、なんで今それを言わないの?」とか「いやいや、それは言わないよね」と。

場面写真:内田百々子(中山美穂)の夫役を務めるのは生瀬勝久

―それは『彼らを見ればわかること』というドラマのタイトルにも繋がりそうなことですね。

沢木:そうですね。そういえば、深川栄洋監督は「のぞき見をする」という表現を用いていました。

羽鳥:それはカメラのアングルにも現れていて。第1話で登場人物それぞれにスポットライトを当てるのですが、マンションの外から窓を覗き込むような構図で撮っているんです。だから、彼らの生活に入り込むだけではない、距離感のある見え方も楽しめると思います。

ビジュアル:本作で3組の夫婦を演じる(左下から)大島優子、中山美穂、木村多江と(左上から)長野博、生瀬勝久、上地雄輔

側から見れば落ち着いている人でも、知らないところで何かが起きていて、ときには欲望に忠実になることもある

―劇中では「女性の浮気が許されないのはなぜ?」とか「男性は愚痴を言いづらい」といった、いわゆる「女らしさ」や「男らしさ」に対する問題提起もあります。

羽鳥:そういう抑圧的なことってみんな口にしていないだけだと思うんですよね。だからこそ、解放していきたいという気持ちがありました。それと同様に、結婚=幸せだとはかぎらないじゃないですか。そういうこともきちんと考えていきたかった。

―なるほど。

羽鳥:もちろん、結婚してすぐは順風満帆だと思うんです。でも、10年後も同じ状況が続いているかと考えを巡らせても、それは誰にもわからない。どんなドラマも人生のある一部を切り取って描くので、最後はハッピーエンドに収まっていくことが多いですし視聴者からもそれを求められる。このドラマでは一見ハッピーエンドに見えるのだけど、登場した人物たちの人生はこの先も山あり谷ありで続いていくだろうなという見終り感、そしてまたいつかこの登場人物たちがどうなっているのか見てみたいなと思ってもらいたいですね。それも視聴者の方々がご自身の人生を照らし合わせながら。

沢木:普通に暮らしているように見える家族でも、実はいろんな問題が起こっていると思うんです。たとえば、内田百々子は40代後半という設定で、夫も子どももいる。20代とか30代の人からしてみれば、すごく落ち着いているように思える人物だと思うんです。でも、実際はそんなことなくて。日々いろんな出来事が起きていて、ときには欲望に忠実になることもある。それは、誰にでも起こり得ることなんですよね。

選択したことが良い結果を生むとは限らず、それでも人生は続く。「好転することもあれば、悪い方向に転ぶこともある。その連続ですよ」

―それは沢木さんが実感していることでもあるのでしょうか?

沢木:私自身、かつて思い描いていたのと違う人生を歩んでいると思います。ただ、気持ちはまだ20代とか30代の頃のままなんですよ。相変わらず悩むし、失敗するし、転ぶ。この年齢になってまで学ぶことがあるとは思いもしませんでした。

羽鳥:人って案外変わらないもんですよね。自分自身、いつか大人になったら子どもっぽいところはなくなると思っていたんですけど、実際はそうではないですし(笑)。

―それは多くの人が思うことかもしれないですよね。大人になったら、もっときちんとしてると思っていたとか。

羽鳥:僕が20歳くらいのときに父親が50歳くらいだったんですね。それで実際に自分がそれくらいの年齢になると、少し父親の気持ちがわかるようになるというか、息子を見ているとあのとき父親はこういうふうに考えていたのかなとか思うことがあるんです。きっと息子は息子で、僕が20歳くらいのときに思っていたようなことを考えているんだと思うんですけど。

羽鳥:これは余談ですが、僕の父親はすごく亭主関白な人だったんです。あるとき5つ年齢の離れた母親が離婚したいと言ったことがあって。確か父親が60歳くらいのときだったと思います。僕は別れてしまえばいいと言ったんですけど、結局は父親が73歳で死ぬまで添い遂げて、しかも呆けてしまったんです。寂しくて仕方ないと。それで大丈夫かなと心配していたのですが、1年もしないうちにピンピンになって、今は旅行を満喫しています(笑)。

そういう母親の姿を見ていると、やっぱり人生はどうなるかわからないなと。好転することもあれば、悪い方向に転ぶこともある。その連続ですよ。年齢を重ねれば重ねるほど、選択肢は増えますし。

沢木:40代以降は急場の瞬発力もないから、選択するのも大変ですよね。

羽鳥:それに背負ってるものも多いですから。身軽じゃないですよ(笑)。日々が選択の連続です。それこそ、今日は朝早く会社に行こうか、それとも午後からにするかという何気ないことすら人生に変化をもたらすわけですから。もしかしたら、朝早く会社に行くことでラッキーなことに巡り合えるかもしれないし、逆に余計な仕事を頼まれる可能性だってある。

とはいえ、極論を言えば、人間はいつか必ず死にます。でも、どんな選択をしようとも後悔しない人生を送りたいという気持ちは常に抱いています。そういう意味では、このドラマを通して自分自身を振り返る機会を持ってくれればと考えています。そうすると、家族や社会の見え方が変わると思うんですよね。本当に素晴らしい会話劇になっていると思います。キャッチーではないけれど、心に染み込んでくるセリフが地続きに紡がれて完成しているドラマです。

沢木:私自身、羽鳥さんはじめ、制作スタッフの方々のお力なしでは脚本を書けなかったと思うので、非常に感謝しています。とても面白いドラマができました。ぜひ多くの方にご覧になっていただきたいです。

番組情報
『連続ドラマW 彼らを見ればわかること』

2020年1月11日(土)から毎週土曜22:00~WOWOWプライムで放送【第1話無料放送】

監督:深川栄洋
脚本:沢木まひろ
音楽:福廣秀一朗
出演:
中山美穂
木村多江
大島優子
髙橋優斗(HiHi Jets / ジャニーズJr.)
佐久間由衣
七瀬公
中川翼
笠原秀幸
駒木根隆介
堀内敬子
桂三度
片瀬那奈
高橋惠子(特別出演)
片岡鶴太郎(特別出演)
上地雄輔
長野博
生瀬勝久

プロフィール
沢木まひろ (さわき まひろ)

小説家。2006年『But Beautiful』で第1回ダ・ヴィンチ文学賞優秀賞を受賞。2007年より公に執筆活動を始め、2012年には『ワリナキナカ』で第7回日本ラブストーリー大賞を受賞。『こごえた背中の、とける夜』(メディアファクトリー)、『44歳、部長女子。』(宝島社)など。

羽鳥健一 (はとり けんいち)

1993年フジテレビ入社。ドラマ全盛期にドラマ制作の現場を経験し、その後営業、編成、CS放送まで幅広いテレビ局の職務を歴任し、2017年からWOWOWへ出向。フジテレビ時代に『バスストップ』『信長協奏曲』『ようこそ、わが家へ』『貴族探偵』など数多くのドラマを手がけ、WOWOWでは『闇の伴走者~編集長の条件』『食い逃げキラー』などを手がける。



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