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ルミネ広告から小説が誕生。尾形真理子がすくい取る「世の気分」

ルミネ広告から小説が誕生。尾形真理子がすくい取る「世の気分」

ルミネ『One piece of a woman』
インタビュー・テキスト
松井友里
編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

ルミネという商品がとらえづらいものなので、だからこそ届くチャンスが生まれているんですよね。

―これはルミネに限らずかもしれませんが、企業が広告を通じてなにかメッセージを発信しようとするときに、なるべく多くの人に届けたいという思いがあると思うのですが、今って「若者は全員これが好き」というような大きなムーブメントもないし、年齢や性別などで人をくくったとしても、そこに属する個々人の価値観って本当にばらばらだと思うんです。そんななかで、メッセージを作るうえでどのようなことを考えられているかを伺いたくて。

尾形:(手元の炭酸飲料を指して)たとえば、「炭酸強め」「ほとばしる爽快感」っていうのが、多分この商品のウリですよね。でもこの商品と飲む人との関係をもうちょっと深めようとした場合に、これがいいコピーっていう例えにはならないですけど、「ため息よりひと口」ってコピーがあったら、関係性が少し変わるかもしれない。

だけど最近のコピーって、関係性を深める方向を選ばないことが多いんです。あえて人間のドラマを語ってくれなくても、「炭酸強め」ってストレートに言えばいいというジャッジになることがほとんどだと思う。でも「炭酸が強い」っていうのは情報でしかないから、「強炭酸」という物性は好きになっても、商品やブランドを好きになることにはなかなか結びつかないですよね。

―炭酸さえ強ければ、別の商品でもいいかもしれない。

尾形:そう。ルミネの場合、お客さまがなにをもって「ルミネ」と言っているのかって、実は人によってすごく違うんです。ルミネカードを持っているけど、毎晩家に帰る前にお弁当を買うことだけがルミネとの接点だというお客さまもいるかもしれない。あるいは、いつもお友達と待ち合わせする場所だととらえているかもしれないし、買い物しなくともルミネを歩き回ることが好きなお客さまもいる。それくらい、ルミネという商品がとらえづらい難しさがある一方で、だからこそ届くチャンスが生まれている気がするんですよね。

―人によってルミネ像が異なるからこそ、「強炭酸」的な情報ではない言葉を投げかける余地があるということでしょうか。

尾形:そうだと思います。もしも「強炭酸」的なひとことをルミネの社長が見つけてしまったら、私はもういらないのかもしれない(笑)。

これは言いわけみたいですけど、ルミネの広告って人によって好き嫌いがあるのがいいと思っていて。「前回の広告はものすごく刺さったけど、今回は全然ぴんとこなかった」っていう人は結構いるんですよ。でもちょっとずつ裏切られていることで、ほどよい距離感で長く付き合えると思っていて。だからなるべくメッセージの方向も定めないようにしているんです。ベースには女性たちへの刺激と応援がありつつ、ちょっと強い口調だったり、いじいじしていたり。

ルミネ2019年春シーズン広告「わたしの夢を奪うわたしになるな」
ルミネ2019年春シーズン広告「わたしの夢を奪うわたしになるな」
ルミネ2019年夏シーズン広告「こぼれなかった涙も心の中で乾いていく」
ルミネ2019年夏シーズン広告「こぼれなかった涙も心の中で乾いていく」

世の気分に加えて「こうだったら素敵だな」という希望を織り交ぜることで、メッセージを作っています。

―毎回のメッセージを作る手がかりって、季節やこれまでの広告とのバランスもあると思うのですが、どのようなところからヒントを得ているのですか?

尾形:ニュースで話題になっているような事象について、どういう風に人々の気持ちが動いているのかを見ています。電車のなかの光景とか、日々生活している半径5mくらいで見える範囲ですけどね。「半歩先」ってよく言いますけど、半歩先なんて誰にも見えないし、わからない。だけど、世の気分みたいなものに加えて「こうであったら素敵だな」という希望を織り交ぜることで、いつもメッセージを作っているような気がします。

―希望ですか。

尾形:たとえば、今回のコピーにはいくつか候補があって、「高らかなエールを、自分にも。」というコピーと迷っていたんです。それはさっきの、最終的にはコピーを感覚で選んでいるという話にも関係するんですけど、「高らかなエールを、自分にも。」って、かっこいいし、理屈で考えれば別に間違っていない。だけど、なんだかちょっとどうでもいい感じがする。感覚的に、あんまり入ってこないなと思ったんです。

そして、私がそう感じるということは、道すがら広告を見る人たちはもっと感じるはずで。長い人生のなかで、いいときも悪いときも絶えず自分に対してエールを送り続けることの難しさを考えたときに、「止まない」という言葉を使ったことが、この広告に織り混ぜた「希望」なんです。

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サイト情報

『One piece of a woman』
『One piece of a woman』

LUMINEの1枚のポスターから生まれたショートストーリー。
あたらしい時代がはじまる変化の空気を感じながら、自分のペースを整えるそんな小さな物語です。

プロフィール

尾形真理子(おがた まりこ)

コピーライター / クリエイティブディレクター。1978年東京都生まれ。2001年(株)博報堂に入社し、2018年(株)Tangを設立。LUMINEをはじめ、資生堂、Tiffany&Co.、キリンビール、Netflix、FUJITSUなど多くの企業広告を手がける。朝日広告賞グランプリ、ACC賞ゴールド、TCC賞など受賞多数。『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』(幻冬舎)で小説家デビュー。その他、歌詞の提供やコラムの執筆など活躍の場を広げる。

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