NITRODAY・小室ぺいの半生を辿る。孤独の殻を破って見えた景色

NITRODAYの小室ぺいは、その音楽を聴けば聴くほど、話せば話すほど、よくわからないアーティストだと思う。だけど、そのよくわからなさと静かな混沌が面白くて、引き込まれていく。そんな彼が映画『君が世界のはじまり』で俳優デビューすると聞いた時には、心底ワクワクした。よくわからない自分を誰よりも自覚して閉じ込めていた感情の数々を発見するように音楽と歌を放ってきた小室ぺいの過程を思えば、新たな自分に出会うという本質的な部分は変わらないまま素晴らしい表現を見せてくれると予感できたからだ。

彼曰く「自分が不器用な人間だと知った」高校時代、人付き合いを諦めて自ら孤独の殻に閉じこもった。「みんな」の中に入らず、せっかくの夏休みも退屈の象徴になった。孤独のシェルターを作って自分を守り、だけど抑えきれないほどに膨らんでいく孤独を自分自身で爆破するようにして、90’sオルタナやグランジにのめり込んでいった。言葉にできないし上手く伝えられないから叫ぶしかない、という根本的なロックの回路をぶん回し、オルタナ、グランジをそのままバックトゥザフューチャーさせてNITRODAYは登場した。素面と思ったらコンマ数秒でスイッチが入る激情のスピード感も、刃物をぶん回すような歌唱なのに飛翔感いっぱいに伸びていく歌も、初めて外の世界を見た人のように無垢な情景描写も、どれをとっても凪と嵐の振れ幅が広すぎて、未知のものに対する畏怖と似た感覚を覚える。その混沌とした感情の根底にあるものとはなんなのか。バンド、歌、言葉、俳優……表現の拡張が急激に進んでいる今だからこそ、小室ぺいという人間自体を探るインタビューを行ったのが下記のテキストだ。

なお、YouTubeでは本インタビューの動画版も公開。ぜひ、そちらも併せて楽しんでいただきたい。

初めて作品を出した頃は、人付き合いなんてどうでもいいと思っていた。でも今は、寂しいな、ひとりはキツいなっていう感情が生まれてきたんです。

―映画『君が世界のはじまり』への出演、つまり俳優デビューが決定したというニュースをお聞きしまして。びっくりしつつも、今こそ改めて、ニトロデイと小室ぺいさんの面白さを知るためのインタビューをしたいと思って参りました。

小室:はい。よろしくお願いします。

―こちらこそよろしくお願いします。まず、ぺいさんは自分で自分をどういう人間だと思われていますか。

小室:なんだろう……器用じゃない人間だと思います。人と話したり人と仲よくなったりするのが上手じゃなくて。その要因として考えられるのは……うちはいろんなところを転々としている家で、僕は何回も転校してたんです。大阪、京都、茅ヶ崎、横浜……文化と環境の違う場所にちょっとずついた感じ。その場所に馴染めたと思った頃には、その場所を離れなきゃいけなかったんですね。それを繰り返しているうちに、人と上手く話せないなあって自覚するようになって。

小室ぺい
NITRODAY(にとろでい)
小室ぺい(Vo,Gt)、岩方ロクロー(Dr)、やぎひろみ(Gt)、松島早紀(Ba)によるロックバンド。2016年3月に結成し、 2017年 7月に『青年ナイフEP』 でデビュー。2018年に『レモンドEP』、1stフルアルバム『マシン・ザ・ヤング』をリリースし、2019年10月に『少年たちの予感』を発売。さらに、2020年7月公開の映画『君が世界のはじまり』にて、小室ぺいが俳優デビューすることが発表された。

―それは単純にひとつの場所に住む時間が短かったからなのか、「どうせ引っ越すなら、深入りしないほうが離れる時に悲しくならない」みたいな自己防衛や臆病さだったのか。どう思いますか。

小室:ああ……臆病さはあったと思います。もっと自分の弱みとか内側を見せられればいいのに、むしろ壁を作っていたので。壁を取っ払う勇気もなかったし……これも今振り返ってわかることだし、昔は何も考えられてなかったんですけど。でもバンドをやる中で変わってこられた気がするし、自分も開いていきたいと思うようになってきましたね。

―実際NITRODAYの音楽にも、開いていく気持ちが表れてきましたよね。デビューの頃から今に至るまで、かなりの速度でポップネスを纏うようになってきたと感じます。

小室:初めて作品を出した高校生の時は、人付き合いなんてどうでもいいっていう態度だったんですよ。だけど今は、「自分はひとりなんだな」って実感することが増えて。その分、みんなのところに届いてほしいっていう気持ちが曲に出てるんでしょうね。

―ひとりだけの世界でいいなら、寂しさっていう感情すら生まれないわけですよね。人と出会うことによって寂しさを知って、寂しさに素直になってこられたとも言えますか。

小室:そうなんでしょうね。寂しいな、ひとりはキツいなって思う夜が増えて。それこそ昔の自分にはなかった感情なんですよ。NIRODAYのストリーミングのページに表示されるリスナー数を見て、「これだけの人が聴いてくれてるんだな」って思うことで元気をもらうとか(笑)。これはきっと大きな変化なんだと思います。

―ぺいさんが高校生の頃にリリースされた『青年ナイフEP』では、人を寄せ付けないトゲトゲしさと、自分を見つけてほしいという倒錯した気持ちが引き裂かれたまま、叫びとして表出していたと思うんです。それこそ精神的にも近かったグランジやオルタナの影響が色濃かった当時の自分の音楽を今振り返ると、どんなことを思います?

小室:中学校までは大阪にいて、高校からいきなり横浜の学校に転校したんですよ。それと同時に、なぜか人と自然に話せなくなったんです。それで「もういいや」と思って、自分から壁を作るようになって。さっき臆病さと言いましたけど、周りなんて気にしないっていう態度を決め込むことで、器用じゃない自分を守って、納得させてたんでしょうね。で、その頃がちょうどバンドの音楽に出会った時期だったんです。

たとえばNirvana、bloodthirsty butchers、NUMBER GIRL、eastern youthを聴くことで「自分には音楽があるから大丈夫だ」って思えたし、もっと言えば、「お前らにはわからんだろうけど」みたいな感じで自分を維持してたところもあると思うんですよ。勝手に、人と自分は違うって思い込んだといいますか。

Spotifyでbloodthirsty butchers『荒野ニオケルbloodthirsty butchers』を聴く(Spotifyを開く

『SONGentoJIYU』(2017)収録

『青年ナイフEP』(2016年)収録

―人と自分は違うって言える理由づけを手にいれて、それで安心してたということ?

小室:そうだと思います。自分がバンドを始めたきっかけに繋がる話だと思うんですけど、「自分だけの人生を歩みたい」っていう気持ちが強烈にあったんですよ。人とうまくやれないなら、自分だけが好きなものを見つけてのめり込むしかなかったんです。

―言い換えてみると、人と上手くやれないから自分だけで完結できる存在証明を探してたということですか。

小室:そうなんでしょうね……それこそ僕が好きになった音楽って、自分だけで完結するところがよかったんですよ。「自分だけのもの」を歌ってるっていうか。

―まさに、今挙げていただいたバンドたちは「孤独だから俺は俺であり続けられるんだ」っていう歌を放ち続けてますよね。もともと音楽自体にもそういう気持ちで触れてたんですか。

小室:もともと小さい頃から音楽は好きで、家にもCDがある環境だったんですね。家でギターを弾いて遊ぶこともあったし。だから高校で軽音部に入ってバンドを組むことになったんですけど。その中でNUMBER GIRLやNirvanaを教えてもらって、初めて「バンドがカッコいい!」って思うようになったんですよ。

やっぱりバンドは「せーの」でドカンといけるのが最高だよねっていう話を、それこそeastern youthの吉野さんともしたんですけど(笑)。ドカンと鳴らした瞬間に自分だけの感情を表現できて、自分の中の何かを壊せるのがよかったんですよね。

『レモンドEP』(2018年)収録

YouTubeにて、本インタビューの動画版が公開中。

短歌を知ってから、文字としての伝わり方まで考えて歌詞にしようと思うようになったんです。

―「ドカンといけるのがバンドの最高さだ」っていう話で言うと、NUMBER GIRLやNirvanaに燃え上がったのは、やっぱりギターがデカかったんですか。

小室:ギターでしたね。明らかに、それまで耳に入っていたポピュラー音楽とは違う音が鳴ってたので。当時のイライラ――うまくできない人間関係とか、クラスの授業が嫌な気持ちを、歪んだギターがバコーンとやってくれたんです。いわゆるカタルシスを覚えたっていうことだと思うんですけど、尖ったギターで胸がザワついたんですよ。その衝撃から全部が始まった気がします。

このドキドキは自分だけのものだって思えたことが嬉しかったし、自分は自分だけのものが欲しかったんだなって、その時に気づけた気がして。まあ、実際に自分以外の人はNirvanaやNUMBER GIRLを聴いてなかったんですけど。

―(笑)。たとえばNirvanaなら、ジェネレーションXと呼ばれた世代の心象風景が背景にあったし、マッチョではない人間にとってのパンクがあそこにあったわけですけど、今挙げてくれたバンドたちには、ぺいさんの精神的な部分に響くものもあったんですか。

小室:その時の最新の曲って、僕の中では「クラスのみんな」とイコールみたいな印象があったんです。だから、敢えて避けて通ってた。いわゆるポピュラーな音楽は、「みんな」っていうのが見えちゃって、「みんな」に入れていない当時の自分には全然響かなかったんです。とにかくポピュラーなものを避けて、だけどそのたびに自分のモヤモヤが溜まっていくから、そのモヤモヤを音楽に壊してもらう、みたいな。

―別の道を選ぶための音楽というか。ただ「何かを避ける」っていうのは、無作為に見えて一番作為的だったりするから、モヤモヤがさらに募ってどうしたらいいかわからなくなりますよね。

小室:いやあ、そうなんですよねえ(苦笑)。そう気づけたのは最近のことだと思うんですけど……それでも当時は壁を作るしかなかったし、「自分だけの曲を作れた」っていう事実が、どんな音楽を聴くより、どんな本を読むより、嬉しかったんですよ。で、爆音の中でモヤモヤを吐き出すしかなかったのが、『青年ナイフEP』の時の自分だった気がします。

SpotifyでNITRODAY『青年ナイフEP』を聴く(Spotifyを開く

―本とおっしゃいましたが、歌詞を見ていても、文学的な表現や言葉自体への異様な執着を感じるんです。どれだけ叫んでいても、とても詩的に目の前の景色を描写されるところがぺいさんの歌の美しさだと思っていて。このあたりは、何か自覚的なものってありますか。

小室:そうですね……言葉は大事にしていますね。曲の要素を細かくしていった時の、一番小さな単位が言葉だと思うんです。だから、一語一句大事にしたくて。これは高校時代の話になるんですけど、軽音楽部でバンドをやっていたのとは他に、知り合いの繋がりで文芸部にも入ってたんです。そこで短歌を初めて知って好きになったんですね。短歌は、31文字っていう少ない文字数で表現しなくちゃいけないからこそ、言葉や文字の奥にあるものを感じられるのがよかったんですよ。

―言葉にならない気持ちを抱えていた方として、言葉の行間への執着が生まれてくるということ?

小室:そうですね。それまでは何も考えず歌詞を書き殴るだけだったんですけど、短歌を知ってからは、1文字1文字、文字としての伝わり方まで考えて歌詞にしようと思うようになりました。だから、さっき「言葉への執着」と言われたようなところが出てくるのかもしれないです。

―たとえば『レモンドEP』では、夏の情景の中でも、死んだ心や鬱屈、不安がたくさん描かれていると思ったんです。<ぬるいままの炭酸 / 喉の奥流し込んで><不甲斐ないな 不甲斐ないな><って泣きながら>というラインからは特に、夏のキラキラの外に弾き出された切なさと、当て所なさが聴こえてきて。

2020年1月12日に開催された自主企画『ヤングマシン4号』より“レモンド”

小室:ああ……まさに『レモンドEP』のタイミングが、さっき話した短歌に出会った頃だったんです。元々本を読んだりするのは好きだったんですけど、短歌に出会うまでは言葉自体を深く考えたことはなかったんです。だから、短歌によって、文学から言葉への興味に変わった感じはあったかもしれない。それはきっと、歌にも影響したと思うんですけど。この歌い方と言葉は合ってるか、とか。

「穏やかであるためにどうしたらいいのか?」っていう部分に思い悩んで、それを歌にしているのかもしれない。

―『レモンドEP』で急激に変化したポイントとして、メロディの輪郭がくっきりとしたことがあって。今おっしゃった意識の変化が音楽的な変化に繋がったとも言えますか。

小室:言葉の使い方や、それこそ行間……音楽や歌でも、本を読んでいても、風景がバーッと浮かぶようなものが好きなんですよ。それを自分もやりたいと思うようになっていきましたね。

SpotifyでNITRODAY『レモンドEP』を聴く(Spotifyを開く

―風景が浮かぶものが好きなのは、どうしてですか。

小室:その本や歌の中に自分がいるように錯覚できるのが好きというか……「どこかに行きたい」みたいな感覚でもないんですけど、でもやっぱり、自分だけが見ている景色っていうのが好きなんです。たとえば僕は散歩が好きなんですよ。多い日は、1日4時間くらい家の周りをぐるぐる歩いてて。

―何を散策するとかじゃなく、ひたすら歩くだけ?

小室:そうです(笑)。ただ適当に歩くだけ。気の向く方向に行くのが楽しいんですよ。気持ちがまとまらない時でも、歩き続けると、帰ってくる頃にはスッキリしていて。静かになって落ち着くんですよね。

―NITRODAYが歌われていることや今日の話も含めて考えると、ぺいさんが叫んだり爆音を鳴らしたりするのは、自分だけの静かな時間、自分だけの穏やかさを守りたいっていう気持ちがあるからなんですか。その心の聖域みたいな部分に「自分だけのもの」を感じるというか。

小室:ああ……なるほど。「穏やかであるためにどうしたらいいのか?」っていう部分に思い悩んで、それを歌っている感覚があるかもしれないですね。言われて思いましたけど、やっぱり僕はなるべく穏やかでいたいんですよ。

でも、その気持ちが強すぎると、周囲に敏感になりすぎて、刹那的になったり不安定になったりするところもある。だからまた穏やかでいるために曲を作って、歌って、落ち着かせてる。その都度表現の方法は変わってきたと思うんですけど、自分が穏やかにいるために歌ってるのは変わらないのかもしれない。

『マシン・ザ・ヤング』(2018)収録

最近は、若いことの素敵さに気づいてしまったが故に惜しい気持ちになってしまって。だからこそ、若さとか青春感がテーマになってきた気がするんです。

小室:静けさっていう話で言うと……それこそ『レモンドEP』で言えば、言われた通り「生命力のない夏」をテーマにした作品なんですよ。それはNUMBER GIRLやeastern youth、bloodthirsty butchersを聴いていた時になんとなく浮かび上がっていた景色で、いつもその情景に安らいで、穏やかになれていたんです。それを自分なりにやってみたらどうなるのかなって思ったんですよね。

―「生命力のない夏」とおっしゃいましたけど、上手くできなくて不甲斐ない自分自身に対して涙を流す情景も描かれているじゃないですか。解釈してみると、やっぱり人と繋がること、人に理解してもらうことを諦めきれないから叫んでいる人だと思ったんですよ。諦めと希望の間でずっと揺れているというか。

小室:……たとえば夏は楽しいイメージがあるけど、僕はただただ退屈だったんですよね。そんな中で、聴いてきたバンドたちの歌っている「退屈な夏」が自分にフィットしたし、それを歌うことが一種の憧れでもあったんです。キラキラしていなくても、自分だけの夏がある、誰も知らない夏がここにあるって思えて。今話していても思いますけど、やっぱり自分の歌は願望みたいなものだと思うんですよ。自分だけにフィットする夏がなかったから、歌にして描いたんだろうなって。

―その変化と成長は、フルアルバムの『マシン・ザ・ヤング』でより一層克明に表れたと思います。願いと情景とを描いた後に、その情景の中にいる自分を歌にすることが増えたというか。失礼な言い方かもしれないですけど、ここまでの話を伺っていても、歌うことによって自分の感情を学んできた方のような気がして。

小室:以前金原ひとみさんの本を読んだ時に、「何かを書く時には、まず最初に書かれるべき風景があって、それをテレビ画面のように映すだけなんだ」って書いてあって。『レモンドEP』の時は、そういう書き方だった気がするんですね。でも『マシン・ザ・ヤング』のあたりから、もっと自分のことを歌いたい気持ちが強くなっていったんです。

―“ジェット”ではまさに、自分を解き放つための愚直な願いが歌われてますよね。<その終わりから逃げるように / ジェットの自転車に乗って / 空を泳いでみたい>と。自分の心の形自体を歌うようになったのがこの頃だと感じていて。

小室:……やっぱり「自分だけの何かが欲しい」っていう気持ちはずっと変わらないんでしょうね。でも、ただイライラを吐き出したり景色を書いたりするだけじゃなくて、自分の気持ち自体に形を持たせないと、本当の意味での「自分だけのもの」は作れないって思うようになったのかな。自分の外へのイライラや風景を書き尽くしたなと思った時に、自分の内側に向かうしかなくて。純粋に、「生きてるからには遺したいじゃん」っていう気持ちになれたと言いますか。

『マシン・ザ・ヤング』(2018)収録

SpotifyでNITRODAY『マシン・ザ・ヤング』(2018)を聴く(Spotifyを開く

―『マシン・ザ・ヤング』に至るまでに、自分だけの歌が誰かに響いていることを実感できたのも、大きかったですか。「イライラを吐き出す以上に、自分をそのまま表現すればわかってくれる人がいる」と思えたというか。

小室:………(長考)こうして振り返ってみても、僕はいつも不器用だったと思うんですよ。でも、どんな人にも、不器用で上手くできなくてどうしたらいいのかわからない時期があるのかなと思って。……ただ、そういう時にひとりで考えていたことが自分にとって大事な人生観になることもあると思うんです。

―それこそ、自分だけのものですよね。

小室:はい。そういう意味で、自分にしかわからない「若い自分」を詰め込む気持ちが『マシン・ザ・ヤング』には入ってたんだと思います。まあ、昔は「若くなくなってしまう」なんて考えなかったんですけど……20歳になっちゃったので、若干「若さって失われていくんだな」みたいなことまで考えるようにはなりましたね(笑)。

―ははははは。でも音楽の輝きと青さは増していってるじゃないですか。

小室:10代の頃は、若いって言われるのが逆に嫌だったんですよ。でも最近は、「若いっていいなあ」みたいなモードになってて。なぜなら、若い時は時間がたくさんあるから。

―そこっすか。

小室:いや、将来的な時間がたくさん残されているっていうことも含めてです(笑)。で、若いことの素敵さに気づいてしまったが故に惜しい気持ちになってしまって。だからこそ、若さとか青春感がテーマになってきた気がするんですけど。

―『少年たちの予感』はまさにそういう作品ですよね。過ぎ去ったからこそ惜しい青春と、どうしたってこの世界の中で生きていくしかないっていう気持ちと。失った青春にどんどん里帰りしていってるのがNITRODAYの音楽の面白さだと思うんです。

小室:10代の時は将来なんてどうでもいいと思ってたし、それでOKだったんです。イライラはしていたけど、将来を不安に思うことすらなかったんですよ。

だけどその時代を抜けて、NITRODAYをやっていくことを自分で選んだんだっていう感覚が生まれた時に、「これからも生きていく」っていう気持ちが生まれたんですよね。そうなると、気持ちがどんどん外向きになってきて。だから、『少年たちの予感』を作って初めて、「こんな人に聴いてもらえたらいいな」っていう気持ちを自覚できたんですよね。

『少年たちの予感』(2019)収録

“ヘッドセット・キッズ”を歌う気持ちとしては「頑張れ!」っていう感じです。それは間違いなく思ってます。

―人に対して開き始めた自分の歌を、どんな人に聴いてもらいたいと思ったんですか。

小室:それは、僕みたいな人ですね(笑)。器用ではなくて、上手く自分を表現できなくて……そんな人。今だって、全部を投げ出したい時も、全部を終わらせてしまいたい時もあるんですよ。だけどそんな時に「俺もそうだよ」って言ってくれる人がいるだけで救われると思ったんです。僕の曲がそういう存在になってくれたらいいなって思うし、聴いてくれる人と僕とで「いろいろ大変だけど、お互い頑張ってるじゃん」っていう存在確認をする感覚で歌うようになってきた気がします。

―“ヘッドセット・キッズ”って、ヘッドセットをつけて音楽に没入してドキドキしていた青春の原風景に戻っていく歌でもあり、ヘッドセットを通して人の背中を押していくメッセージソングでもありますよね。ヘッドセットをつけて自分だけの世界で音楽を聴くのって、閉じ込もる意味合いだけじゃなくて、自分が生きていくための興奮剤を製造する行為でもあると思うんですよ。

小室:確かに。イメージとしては、神聖かまってちゃんの“ロックンロールは鳴り止まないっ”みたいな感じですよね。ガツンと刺さる音楽ってドキドキするし、それがエネルギーになると思うから。THE BLUE HEARTSみたいに、真っ直ぐ「頑張れ!」って歌えたらいいなと思うんですけど……でも自分の書き方としては違うものになってくる。それでも、“ヘッドセット・キッズ”を歌う気持ちとしては「頑張れ!」っていう感じです。それは間違いなく思ってます。

たとえばART-SCHOOLを聴いてる時は、「頑張れ」って言われてる気がしてたんですよ。syrup16gに出会った時も、どん底で前を見つめている感じに救われたんです。順風満帆じゃなかった青春を抱えている自分だからこそ、陰の中から希望を見出していく歌に惹かれたのかな。でもどうであれ、どんな曲でも、どんな歌でも、最終的には奮い立たされるのがロックバンドだと思ってるので。だから……今度は自分の番だなっていう気持ちが出てきた気がしますね。それがこれからのテーマだなって思います。

SpotifyでNITRODAY『少年たちの予感』(2019)を聴く(Spotifyを開く

―この3年でのぺいさんの変化、表現者としての変遷を振り返ってきましたが、それがあった上で、俳優としての表現にトライした今回の機会は自分にとってどうでしたか。

小室:初めての体験だらけでしたね(笑)。僕が意識してこなかったこと……人からどう見られているのか、どう映っているのかっていう部分がむき出しになる機会だったので。「あれ、自分ってどう歩いてたっけ?」みたいなことも思いましたし。

たとえば監督の作品のピースのひとつとして自分がそこにいるってことも、初めての体験だったんです。それは普段やっていることの真逆に近い感覚があって。メンバーの気持ちがわかった気もしたし(笑)。

―はははは。NITRODAYは4人が友達として始まったバンドであると同時に、音楽としてはぺいさんが「監督」ですもんね。ただ、表現が自分の鏡になるっていう意味で跳ね返ってくるものもあったんじゃないかと思いますが。

小室:確かに。いつもとは真逆のことだと言いつつ、いざやってみたら没入できて。一瞬ではあるけど、僕とは違う人生を歩けたんです。普段とは別なんだけど、そこには確かに自分も存在していて……ずっと、友達の家に遊びに行った時の感覚が続いてた感じ。人が生活しているところを覗いて、「ああ、こういう人生もあるんだ」って知っていく感覚があった。登場人物を見て羨ましいと思うこともあれば、自分にないものを尊敬する気持ちも純粋に持てたんですよ。

映画『君が世界のはじまり』イメージクリップ

『君が世界のはじまり』より

―今日のお話を振り返ってみても、ゆっくりと自分の殻を破りながら「こういう感情もあるのか」「こういう自分もいるのか」っていう発見が音楽になってきた方のような気がするんです。そういう意味で言うと、演じることで人の人生を覗くことも、自分の感情の探索に近かったのかもしれないですよね。表現を通して世界と自分を知っていく、その過程と物語が、ぺいさんの表現に通底している部分だと感じます。

小室:ああー、なるほど。……確かに、壁とか殻を破りながら、まだまだ知らないことがたくさんあるんだなって気づくばっかりですね(笑)。だからこそ、今はNITRODAYでは早く新しいアルバムを出したいなって思うんです。また自分を発見できるだろうし、実際にいい曲もできてますし。これを出すまでは死ねないですね(笑)。

―ぶっ壊すためじゃなく、生きていくために歌うようになった人としての言葉が聞けました。ぺいさんが心惹かれてきたオルタナティブロックの歴史を見ても、何かをぶっ壊すためじゃなく、メインストリーム以外の選択肢を自分自身で作るために鳴らされてきたものですよね。

小室:本当に信じられるものを見つけるのは難しいことだし、それがないと不安になってしまうのは仕方がないことだと思うんです。だけどそういう時にどうするかって言ったら、自分は自分でしかないということを見つめ直すしかないんですよね。

そうやってしんどい夜を超えて、気づいたら朝になってるっていうのを繰り返して……なんとか生きてるじゃんって思えるように。今、僕はそういう気持ちでやっているので。共鳴してくれる人がいると信じて曲を作り続けるしかないですね。僕は未だに、自分の曲を作る時が一番興奮できているから。

作品情報
『君が世界のはじまり』

2020年7月31日(土)
テアトル新宿ほか全国で公開

原作・監督:ふくだももこ
脚本:向井康介
音楽:池永正二
出演:
松本穂香
中田青渚
片山友希
金子大地
甲斐翔真
小室ぺい
板橋駿谷
山中崇
正木佐和
森下能幸
江口のりこ
古舘寛治
配給:バンダイナムコアーツ

リリース情報
NITRODAY
『少年たちの予感』(CD)

2019年10月23日(水)発売
価格:1,500円(税抜)
PECF-3244

1. ヘッドセット・キッズ
2. ダイヤモンド・キッス
3. ブラックホール feat.ninoheron
4. アンカー
5. ジェット(Live)
6. ボクサー(Live)
7. レモンド(Live)
8. ユース(Live)

プロフィール
NITRODAY (にとろでい)

小室ぺい(Vo,Gt)、岩方ロクロー(Dr)、やぎひろみ(Gt)、松島早紀(Ba)によるロックバンド。2016年3月に結成し、 2017年 7月に『青年ナイフEP』 でデビュー。2018年に『レモンドEP』、1stフルアルバム『マシン・ザ・ヤング』をリリースし、2019年10月に『少年たちの予感』を発売。さらに、2020年7月公開の映画『君が世界のはじまり』にて、小室ぺいが俳優デビューすることが発表された。



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