
NITRODAY・小室ぺいの半生を辿る。孤独の殻を破って見えた景色
NITRODAY- インタビュー・テキスト・編集:
- 矢島大地(CINRA.NET編集部)
- 撮影:Kay N(IIZUMI OFFICE)
NITRODAYの小室ぺいは、その音楽を聴けば聴くほど、話せば話すほど、よくわからないアーティストだと思う。だけど、そのよくわからなさと静かな混沌が面白くて、引き込まれていく。そんな彼が映画『君が世界のはじまり』で俳優デビューすると聞いた時には、心底ワクワクした。よくわからない自分を誰よりも自覚して閉じ込めていた感情の数々を発見するように音楽と歌を放ってきた小室ぺいの過程を思えば、新たな自分に出会うという本質的な部分は変わらないまま素晴らしい表現を見せてくれると予感できたからだ。
彼曰く「自分が不器用な人間だと知った」高校時代、人付き合いを諦めて自ら孤独の殻に閉じこもった。「みんな」の中に入らず、せっかくの夏休みも退屈の象徴になった。孤独のシェルターを作って自分を守り、だけど抑えきれないほどに膨らんでいく孤独を自分自身で爆破するようにして、90’sオルタナやグランジにのめり込んでいった。言葉にできないし上手く伝えられないから叫ぶしかない、という根本的なロックの回路をぶん回し、オルタナ、グランジをそのままバックトゥザフューチャーさせてNITRODAYは登場した。素面と思ったらコンマ数秒でスイッチが入る激情のスピード感も、刃物をぶん回すような歌唱なのに飛翔感いっぱいに伸びていく歌も、初めて外の世界を見た人のように無垢な情景描写も、どれをとっても凪と嵐の振れ幅が広すぎて、未知のものに対する畏怖と似た感覚を覚える。その混沌とした感情の根底にあるものとはなんなのか。バンド、歌、言葉、俳優……表現の拡張が急激に進んでいる今だからこそ、小室ぺいという人間自体を探るインタビューを行ったのが下記のテキストだ。
なお、YouTubeでは本インタビューの動画版も公開。ぜひ、そちらも併せて楽しんでいただきたい。
初めて作品を出した頃は、人付き合いなんてどうでもいいと思っていた。でも今は、寂しいな、ひとりはキツいなっていう感情が生まれてきたんです。
―映画『君が世界のはじまり』への出演、つまり俳優デビューが決定したというニュースをお聞きしまして。びっくりしつつも、今こそ改めて、ニトロデイと小室ぺいさんの面白さを知るためのインタビューをしたいと思って参りました。
小室:はい。よろしくお願いします。
―こちらこそよろしくお願いします。まず、ぺいさんは自分で自分をどういう人間だと思われていますか。
小室:なんだろう……器用じゃない人間だと思います。人と話したり人と仲よくなったりするのが上手じゃなくて。その要因として考えられるのは……うちはいろんなところを転々としている家で、僕は何回も転校してたんです。大阪、京都、茅ヶ崎、横浜……文化と環境の違う場所にちょっとずついた感じ。その場所に馴染めたと思った頃には、その場所を離れなきゃいけなかったんですね。それを繰り返しているうちに、人と上手く話せないなあって自覚するようになって。

小室ぺい
NITRODAY(にとろでい)
小室ぺい(Vo,Gt)、岩方ロクロー(Dr)、やぎひろみ(Gt)、松島早紀(Ba)によるロックバンド。2016年3月に結成し、 2017年 7月に『青年ナイフEP』 でデビュー。2018年に『レモンドEP』、1stフルアルバム『マシン・ザ・ヤング』をリリースし、2019年10月に『少年たちの予感』を発売。さらに、2020年7月公開の映画『君が世界のはじまり』にて、小室ぺいが俳優デビューすることが発表された。
―それは単純にひとつの場所に住む時間が短かったからなのか、「どうせ引っ越すなら、深入りしないほうが離れる時に悲しくならない」みたいな自己防衛や臆病さだったのか。どう思いますか。
小室:ああ……臆病さはあったと思います。もっと自分の弱みとか内側を見せられればいいのに、むしろ壁を作っていたので。壁を取っ払う勇気もなかったし……これも今振り返ってわかることだし、昔は何も考えられてなかったんですけど。でもバンドをやる中で変わってこられた気がするし、自分も開いていきたいと思うようになってきましたね。
―実際NITRODAYの音楽にも、開いていく気持ちが表れてきましたよね。デビューの頃から今に至るまで、かなりの速度でポップネスを纏うようになってきたと感じます。
小室:初めて作品を出した高校生の時は、人付き合いなんてどうでもいいっていう態度だったんですよ。だけど今は、「自分はひとりなんだな」って実感することが増えて。その分、みんなのところに届いてほしいっていう気持ちが曲に出てるんでしょうね。
―ひとりだけの世界でいいなら、寂しさっていう感情すら生まれないわけですよね。人と出会うことによって寂しさを知って、寂しさに素直になってこられたとも言えますか。
小室:そうなんでしょうね。寂しいな、ひとりはキツいなって思う夜が増えて。それこそ昔の自分にはなかった感情なんですよ。NIRODAYのストリーミングのページに表示されるリスナー数を見て、「これだけの人が聴いてくれてるんだな」って思うことで元気をもらうとか(笑)。これはきっと大きな変化なんだと思います。
―ぺいさんが高校生の頃にリリースされた『青年ナイフEP』では、人を寄せ付けないトゲトゲしさと、自分を見つけてほしいという倒錯した気持ちが引き裂かれたまま、叫びとして表出していたと思うんです。それこそ精神的にも近かったグランジやオルタナの影響が色濃かった当時の自分の音楽を今振り返ると、どんなことを思います?
小室:中学校までは大阪にいて、高校からいきなり横浜の学校に転校したんですよ。それと同時に、なぜか人と自然に話せなくなったんです。それで「もういいや」と思って、自分から壁を作るようになって。さっき臆病さと言いましたけど、周りなんて気にしないっていう態度を決め込むことで、器用じゃない自分を守って、納得させてたんでしょうね。で、その頃がちょうどバンドの音楽に出会った時期だったんです。
たとえばNirvana、bloodthirsty butchers、NUMBER GIRL、eastern youthを聴くことで「自分には音楽があるから大丈夫だ」って思えたし、もっと言えば、「お前らにはわからんだろうけど」みたいな感じで自分を維持してたところもあると思うんですよ。勝手に、人と自分は違うって思い込んだといいますか。
Spotifyでbloodthirsty butchers『荒野ニオケルbloodthirsty butchers』を聴く(Spotifyを開く) 『SONGentoJIYU』(2017)収録『青年ナイフEP』(2016年)収録
―人と自分は違うって言える理由づけを手にいれて、それで安心してたということ?
小室:そうだと思います。自分がバンドを始めたきっかけに繋がる話だと思うんですけど、「自分だけの人生を歩みたい」っていう気持ちが強烈にあったんですよ。人とうまくやれないなら、自分だけが好きなものを見つけてのめり込むしかなかったんです。
―言い換えてみると、人と上手くやれないから自分だけで完結できる存在証明を探してたということですか。
小室:そうなんでしょうね……それこそ僕が好きになった音楽って、自分だけで完結するところがよかったんですよ。「自分だけのもの」を歌ってるっていうか。
―まさに、今挙げていただいたバンドたちは「孤独だから俺は俺であり続けられるんだ」っていう歌を放ち続けてますよね。もともと音楽自体にもそういう気持ちで触れてたんですか。
小室:もともと小さい頃から音楽は好きで、家にもCDがある環境だったんですね。家でギターを弾いて遊ぶこともあったし。だから高校で軽音部に入ってバンドを組むことになったんですけど。その中でNUMBER GIRLやNirvanaを教えてもらって、初めて「バンドがカッコいい!」って思うようになったんですよ。
やっぱりバンドは「せーの」でドカンといけるのが最高だよねっていう話を、それこそeastern youthの吉野さんともしたんですけど(笑)。ドカンと鳴らした瞬間に自分だけの感情を表現できて、自分の中の何かを壊せるのがよかったんですよね。
『レモンドEP』(2018年)収録YouTubeにて、本インタビューの動画版が公開中。
作品情報

- 『君が世界のはじまり』
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2020年7月31日(土)
テアトル新宿ほか全国で公開原作・監督:ふくだももこ
脚本:向井康介
音楽:池永正二
出演:
松本穂香
中田青渚
片山友希
金子大地
甲斐翔真
小室ぺい
板橋駿谷
山中崇
正木佐和
森下能幸
江口のりこ
古舘寛治
配給:バンダイナムコアーツ
リリース情報

- NITRODAY
『少年たちの予感』(CD) -
2019年10月23日(水)発売
価格:1,500円(税抜)
PECF-32441. ヘッドセット・キッズ
2. ダイヤモンド・キッス
3. ブラックホール feat.ninoheron
4. アンカー
5. ジェット(Live)
6. ボクサー(Live)
7. レモンド(Live)
8. ユース(Live)
プロフィール
- NITRODAY(にとろでい)
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小室ぺい(Vo,Gt)、岩方ロクロー(Dr)、やぎひろみ(Gt)、松島早紀(Ba)によるロックバンド。2016年3月に結成し、 2017年 7月に『青年ナイフEP』 でデビュー。2018年に『レモンドEP』、1stフルアルバム『マシン・ザ・ヤング』をリリースし、2019年10月に『少年たちの予感』を発売。さらに、2020年7月公開の映画『君が世界のはじまり』にて、小室ぺいが俳優デビューすることが発表された。