
SIRUPと龍崎翔子が語る、コロナ禍で見えた違和感と未来への予見
SIRUP『HOPELESS ROMANTIC』- インタビュー・テキスト・編集
- 矢島由佳子(CINRA.NET編集部)
新型コロナウイルスによって生活や経済に大きな転換期が訪れている今、様々な感情や考えを抱えながらも上手く言葉にできず、未来を見る眼にもモヤがかかっている、という人も多いのではないだろうか。ミュージシャン・SIRUPと経営者&ホテルプロデューサー・龍崎翔子の言葉からは、そんなモヤを晴らすような、思考のカケラを掴んでもらうことができると思う。
この取材の発端は、SIRUPが、ファッションブランド「SYU.HOMME/FEMM」とのコラボデニムシャツの売上の一部を、インディペンデント音楽コミュニティー支援団体「SustAim」を通じて、龍崎率いるCHILLNNの新事業「HOTEL SHE/LTER」へ寄付したこと。「HOTEL SHE/LTER」とは、自宅で過ごすことが安全ではない人と、稼働率が低くなっているホテルをマッチングさせるプロジェクト。SIRUPによる寄付金は、医療機関との提携などの運営資金や、ホテルを必要とする人のための宿泊料金として使われる。
コロナ禍で感じたことも描いたSIRUPの新曲“HOPELESS ROMANTIC”がリリースされる前夜。ふたりの会話は、2時間以上止まることがなかった。コロナ禍で噴出した社会や音楽ビジネスに対する違和感と、この先の未来をどう作っていくかということに対して、ふたりは真剣に語り続けた。
SIRUPは、その歌唱力やフロウの新しさ、音とメロディの気持ちよさで支持を集めている部分も大きく、日本におけるR&Bやヒップホップ、J-POPを前進させている存在として評価されるべきことは間違いないが、その上で、SIRUPは時代に対するメッセンジャーでもあることを、ここにて断言する。
コロナ禍でSIRUPが意識したこと−−ミュージシャンはマイノリティであり、音楽は平穏の中でしか聴かれない
―龍崎さんが「HOTEL SHE/LTER」を立ち上げたことや、SIRUPさんが寄付を決めたことの奥にある、おふたりの問題意識について話していただけますか。
SIRUP:僕自身、このコロナ禍で、いかにミュージシャンが社会的に補償されずに生きてきたかということと、社会的ポジションがあるように見えて実はまったくなかったということが、露見したなと感じていて。第一線で活躍している人でさえ補償はなくて、結局自分らの財源を削って、筋力がある人だけがなんとか生き残るみたいな、そういう状態になってますよね。
それで言うと、一番文化を育むのはインディーでストリートでやってる子らだったりするのに、そこが潰れちゃう危険性がすごくあるなと思って。starRoさんと竹田ダニエルさんが立ち上げた「SustAim」は、金銭的にサポートするというより駆け込み寺みたいな形で、インディペンデントでやってきた人が持ってる知識とかをシェアしあったりする、ミュージシャンたちを支える団体なんですね。そういうのって、アメリカとかにはあるらしくて。今回は「SustAim」を通して、龍崎さんの「HOTEL SHE/LTER」を教えてもらったんです。
龍崎:「HOTEL SHE/LTER」は、私たちがコロナの環境下でホテルにできることがなくなってしまっている中で、外出自粛ができない方にとっての逃げ場というか、第二、第三の選択肢になったらいいなという想いで立ち上げたんですね。たとえば家庭内の環境が悪いとか、DVを受けているとか、家の居心地が悪いとか、なんらかのトラブルを抱えている方にホテルという空間を仮住まいとして使っていただけたらなと。
SIRUP:社会全体において支援活動が徐々に広がりだしたとは思うんですけど、最初はやっぱり、マジョリティと、医療関係にフォーカスされていた気がして。でも、自粛で家にいるせいで二次災害が起きているケースもあるわけじゃないですか。そういう人たちは、もうすでに「今」困っている人たちなのに、結局マイノリティであるというか。さっきも言ったみたいに、結局ミュージシャンってどこまでいってもマイノリティやし、僕らもマイノリティであることをもっと意識せなあかんなっていうのを、今回思ったんですよね。そういう意味でも僕の中でリンクしたんです。
しかも、学生時代の頃からDVや家庭内の問題で家にいられないという話を身近で聞いてたし、コロナ期間中に隣人が頭おかしくなって「毎晩ドアを叩いてキレられる」って悩んでる友達とか、3歳くらいの子供と嫁がいるのに出動しなきゃいけないファイヤーマンの友達の話とかを聞いていたので、直接的に共感がすごくあって。さらに言うと、これって、コロナが終わってもずっと社会にある問題じゃないですか。そういう意味でもいろんな人が気づくべきテーマやなとも思ったんです。
龍崎:そう、本当に、SIRUPさんが言うように一時的な話では全然ないなというふうに私たちも思っていて。このコロナショックがあって表面化しただけの出来事だと思うんですよね。
「HOTEL SHE/LTER」の部屋で流すプレイリストをSIRUPが選曲している。龍崎いわく「プレイリストを作っていただくことは念願で、実現して本当に嬉しいです。人に大事に扱われているという感覚こそがその人を豊かにすると思うし、やっぱりホテルの本質ってケアをしてあげるというところにあると思っているので、お客さんが気持ちよく過ごしていただけるようなコンテンツをなるべく作りたいんですよね」
SIRUP:やっぱり、社会が平常・平穏というか、安定した状態じゃないと、本当の意味で音楽は聴かれないなということを、コロナのあいだに本当に思ったんですよね。
龍崎:平和産業ですよね。エンタメも、観光も。
SIRUP:そうですね。でも、確実に必要じゃないですか。「大変なときはいらない」というのが、「本質的にいらない」というわけではなくて。人間という生き物に生まれて、社会というものを形成してる中で、芸術だとか、観光だとかっていうものが発展してきたと思うので。
リリース情報

- SIRUP
『HOPELESS ROMANTIC』 -
2020年5月27日(水)配信

- SIRUP
『CIY』 -
2020年3月25日(水)発売
価格:1,980円(税込)
RZCB-870181. Need You Bad
2. MAIGO feat. Joe Hertz
3. Why Can’t
4. Light
5. Your Love
6. Ready For You
7. Pool(Tepppei Edit)
配信ライブ情報
- 『Suppage Records Presents OVERTAPES』
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2020年6月13日(土)START 21:00
出演者:
SIRUP(LIVE)
CIRRRCLE(LIVE)
Chocoholic(DJ)料金:1,000円(購入手数料209円別途)
ウェブサイト情報

- HOTEL SHE/LTER
プロフィール

- SIRUP(しらっぷ)
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ラップと歌を自由に行き来するボーカルスタイルと、そして自身のルーツであるネオソウルやR&Bにゴスペルとヒップホップを融合した、ジャンルにとらわれず洗練されたサウンドで誰もがFEEL GOODとなれる音楽を発信している。2017年9月に小袋成彬率いるTokyo Recordingsがサウンドプロデュースを手掛けた“Synapse”でデビュー。『SIRUP EP2』と1stフルアルバム『FEEL GOOD』に収録されている“Do Well”がHonda VEZEL TOURINGのテレビCMに起用され、一気にその知名度を上げた。最も活躍した新人アーティストに授与される『SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2020』で『BREAKTHROUGH ARTIST』を受賞。2020年に入ってからは、UKのFuture R&BプロデューサーJoe Hertzと来日公演で出会ったのをきっかけに意気投合し、彼とコラボしたメロディアスなハウスナンバー“MAIGO”などを収録した、EP『CIY』を3月25日にリリース。5月27日には、『グラミー賞』最優秀リミックス部門にノミネートされ、国内外のアップカミングな音楽シーンを牽引してきたプロデューサーstarRoとShin Sakiuraのコラボレーションによる最新シングル『HOPELESS ROMANTIC』をリリース。

- 龍崎翔子(りゅうざき しょうこ)
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1996年生まれ。L&G GLOBAL BUSINESS Inc.代表 / CHILLNN代表 / ホテルプロデューサー。2015年にL&G GLOBAL BUSINESS Inc.を設立し、「ソーシャルホテル」をコンセプトにしたホテル「petit-hotel #MELON」を始めた。2016年には「HOTEL SHE, KYOTO」、2017年に「HOTEL SHE, OSAKA」を開業したほか、「THE RYOKAN TOKYO」「HOTEL KUMOI」の運営も手がける。今年はホテル予約システムのための新会社CHILLNNを本格始動。4月5日から全ホテルを休業していたが、5月30日より全施設を順次再開。