
Momよ、過激でタフであれ 涎を垂らして呆けた世界に「毒」を盛る
Mom『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』- インタビュー・テキスト
- 天野史彬
- 撮影:諏訪稔 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
人類の手ではもはやどうすることもできない、圧倒的な現実としてやってくる「世界の終末」。そんな未来を知ってか知らずか、それぞれの場所で、それぞれの命を躍動させる魅惑的な登場人物たち、「カルトボーイ」――これが、Momの3rdアルバム『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』を構築する物語。これは、Momがその生真面目でシニカルな眼差しと、繊細な手のひら、そして、時代に真っ向から立ち向かう反骨精神によって作り上げた、すさまじく濃密で素晴らしくポップなコンセプトアルバムだ。
デビュー当初の中村一義のように、「ひとり」と「世界」をポップに、創造的に繋いでみせた前作『Detox』。そこに収録されていた“Boys and Girls”で、Momはこう歌っていた――<僕の溜息が世界を変える それが一番ユニークな策なのさ>。そこにある理想と大志は変わらないはず。しかし、新作『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』の根底に流れているのは、一種の悲劇だ。このアルバムに描かれているのは、世界の終末へと向かっていく物語。現代的なアンビエンスとコラージュ感に満ちたトラックは、コロコロと表情を変えていく。この音楽は、とても断片的で、幻想的で、身体的で、そしてリアルだ。ここには「2020年」という時代の空気が克明に刻み込まれている。見えすぎなくらいに見えてしまう社会の膿、人間という生き物の脆さ、「すべての人の味方になることはできない」という現実。Momは、この2020年のリアルを、怒りと、ユーモアと、アイデアと、物語の力で暴き出し、突破しようとする。
途方に暮れてしまいそうな、悲しく残酷な現実を前に、「それでも」思考を巡らし、この時代を生きることを選ぶすべてのカルトボーイたちへ。このアルバムが、彼らを傷だらけでも未来へと運ぶスケートボードになることを祈って、Mom単独インタビューをここに送る。

Mom(まむ)
シンガーソングライター / トラックメイカー。現行の海外ヒップホップシーンとの同時代性を強く感じさせるサウンドコラージュ、リズムアプローチを取り入れつつも、日本人の琴線に触れるメロディラインを重ねたトラック、遊び心のあるワードセンスが散りばめられた内省的で時にオフェンシブなリリックに、オリジナリティが光る。音源制作のみならず、アートワークやミュージックビデオの監修もこなし、隅々にまで感度の高さを覗かせる。2020年7月、3rdアルバム『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』をリリースした。
どこまで考えても、答えを出しようのないことばかり……そんな時代に有効な「リアリティ」を体現するために
―新作『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』、非常に濃密で誠実な作品だと思いました。今の時代を捉えるドキュメント性と、Momさん自身の内省を捉える詩情が複雑に絡まり合いながら、見事に作品に昇華されているなと。本作を作り出すにあたり、まずどのようなことを考えていましたか?
Mom:前作の『Detox』では自分のエモーションを剥き出して歌いあげる「フォーク感」を追求していたけど、それは引き続きやりつつも、もう1ステージ上がったものを作りたいと思っていたんですよね。そこで考えたのが、「物語を構築する」ということで。
ちょうどその頃、藤子・F・不二雄さんの『異色短編集』(1989年)とか、筒井康隆さんの『笑うな』(1980年)を読んでいたんです。ああいう、ちょっとシニカルで、コメディタッチで、でも、どこか身につまされるようなSF感に惹かれるものがあって。音楽でも、ああいうふうに受け取り手が没入できるものを作りたいなと思ったんですよね。
―『笑うな』は、たしか、ショートショート集ですよね。
Mom:そうです、めちゃくちゃ短い話が並んでいる。
―今回、Momさんが求めた物語は、起承転結が明確なものというより、ショートショートのように断片的で、どこか不条理なものだった、ということでしょうか?
Mom:あんまりパキッとした構成にしようとは、考えなかったです。結局、答えが出ないことってたくさんあると思うんですね。どれだけ考えてみても解像度が低かったり、抽象的すぎたりして、答えが出ないもの。でも、そういう答えが出ないものを、背中丸めて歌っている感じ……そうやって生まれる歌が、時代を切り取っていたりするものなんじゃないか? と思うんです。
Mom:時代の空気って、少なからず作品に含まれると思うんですけど、それは決して、直接的なリリカルさやメッセージ性という形だけで入ってくるわけではないと思うんですよ。それとは別軸で、作品に内包される時代感もあると思っていて。
―藤子・F・不二雄のSF短編作品や『笑うな』に惹かれたのも、そうした「答えがない」という状態が捉える時代感とか、現実感みたいなものだった?
Mom:そうですね、「リアリティ」という部分だと思います。「作品のなかのリアリティってなんだろう?」っていつも考えるんですけど、それは「素朴な画が続いている」みたいなことではなくて。それこそSF作品が持つようなリアリティってあると思うんです。
近未来を舞台にした物語であっても、それに触れることによって、自分の生活の領域とか、身の周りの構造に落とし込むことができる。そういうリアリティを欲していたんだと思います。で、僕の場合は、歌としてのSF、歌としてのストーリーテリングみたいなことを探り探り考えていった結果、このアルバムの形になったっていう。
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リリース情報

- Mom
『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』(CD) -
2020年7月8日(水)発売
価格:2,970円(税込)
VICL-653811. 胎内回帰
2. あかるいみらい
3. 食卓
4. アンチタイムトラベル
5. マスク
6. レクイエムの鳴らない町
7. スプートニクの犬
8. ゴーストワーク
9. カルトボーイ
10. ハッピーニュースペーパー
11. Old Friend (waste of time)
12. 2040
13. (open_mic)
プロフィール

- Mom(まむ)
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シンガーソングライター / トラックメイカー。現行の海外ヒップホップシーンとの同時代性を強く感じさせるサウンドコラージュ、リズムアプローチを取り入れつつも、日本人の琴線に触れるメロディラインを重ねたトラック、遊び心のあるワードセンスが散りばめられた内省的で時にオフェンシブなリリックに、オリジナリティが光る。音源制作のみならず、アートワークやミュージックビデオの監修もこなし、隅々にまで感度の高さを覗かせる。2020年7月、3rdアルバム『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』をリリースした。