インタビュー

THA BLUE HERBが表す2020年 大きな未来よりも、確かな実感を

THA BLUE HERBが表す2020年 大きな未来よりも、確かな実感を

インタビュー・テキスト
石井恵梨子
撮影:新保勇樹 編集:矢島大地、久野剛士(CINRA.NET編集部)

2枚組30曲というボリュームを誇ったセルフタイトルの5thアルバムからきっかり1年。驚くべき早さでTHA BLUE HERBの新作が到着した。『2020』と名付けられたミニアルバムは、長い時間をかけて己の見聞を注ぎ込んでいく通常のアルバムとは異なり、反射神経と経験値をフル回転させながら一筆書きにしたドキュメントのような内容だ。歌われるのは今現在の日本、いまだ解決策も見えないコロナ禍の世界、それをどう生きていくかの自問自答。怒りと混乱が悲しい分断を生む時代にあって、ILL-BOSSTINOの言葉はかつてなく優しく、誰を攻撃することもなく確かなエールを送り続けている。この作品から見えてくる彼の思想、愛国心、そして意外とも思える共感や共生の精神について。THA BLUE HERBの本質は、23年目の今、ますます確かなものになっている。

ヒップホップって世の中が狂えば狂うほどその声が大きくなるジャンルだと思う。ぶっ壊れてけばぶっ壊れていくほど、言うべきこと、言うべき対象はハッキリしてくる。

―この時期、CDという形で新作が出るとは思わなかったです。

ILL-BOSSTINO(以下BOSS):もともとコロナがなくても夏くらいに作品を出そうと思っていたので。ずっとツアーをやっていく予定だったし、ちょうど夏には『フジロック』もあったし、そこで鳴らせる新曲を創ろうっていうビジョンで。それで去年の11月から動き始めて。

―意外ですね。2枚組30曲の『THA BLUE HERB』を出して、もう性も根も尽き果てているのかと。

BOSS:いやいや全然。あれだけ作ったことでサイクルができちゃって。どんなトラックをもらってもすぐリリックを書けるところまで高めたものを、ゼロに戻すのも嫌だなと思ったし、このサイクルは維持したかった。ただ、やっていくうちに俺とO.N.Oが回転し始めちゃってアルバムくらいの楽曲を創れるんじゃないかってモードに入りかけたんだけど、今回はここらへんで止めておこうって。それで5曲にしました。

ILL-BOSSTINO<br>THA BLUE HERB(ざ ぶるーはーぶ)<br>1997年に北海道・札幌で結成。ラッパー・ILL-BOSSTINO、トラックメイカー・O.N.O、ライブDJ・DJ DYEからなる一個小隊。ヒップホップの矜持を保ちながら、あらゆるジャンルとクロスする音楽性・活動を展開。これまでに『STILLING, STILL DREAMING』『SELL OUR SOUL』『LIFE STORY』『TOTAL』『THA BLUE HERB』などをリリースし、2017年には結成20周年を記念して日比谷野外大音楽堂にて単独公演を開催。2枚組30曲となった『THA BLUE HERB』以来1年ぶりとなる作品『2020』を、7月2日にリリースした。
ILL-BOSSTINO
THA BLUE HERB(ざ ぶるーはーぶ)
1997年に北海道・札幌で結成。ラッパー・ILL-BOSSTINO、トラックメイカー・O.N.O、ライブDJ・DJ DYEからなる一個小隊。ヒップホップの矜持を保ちながら、あらゆるジャンルとクロスする音楽性・活動を展開。これまでに『STILLING, STILL DREAMING』『SELL OUR SOUL』『LIFE STORY』『TOTAL』『THA BLUE HERB』などをリリースし、2017年には結成20周年を記念して日比谷野外大音楽堂にて単独公演を開催。2枚組30曲となった『THA BLUE HERB』以来1年ぶりとなる作品『2020』を、7月2日にリリースした。

―じゃあコロナは最初関係なかったんですね。2月後半からはライブの中止が相次ぎましたけど、そこで落ち込んだりすることは?

BOSS:ダメならダメでしょうがない。あと、ライブをやりたい気持ちと曲を作りたい気持ちが自分の中でほんと半々で、ただその二つは同時進行できない。やっぱり、週末にライブやるたびに膨大なアウトプットをしちゃうんで。それでまた日曜に札幌に戻って月火水と曲を書いても、結局木曜日にまたリハーサル、金土にライブっていうのを延々繰り返してると自分の中に想いが溜まらないままどんどん出ていくだけになっちゃう。ライブがなくなってむしろ「これでまたゆっくり曲作れる日々がきたな」って思えたくらいで。

もちろん「コロナのおかげ」とは思ってないけど、何かが起きたから思うこと、それによってできる曲ってあるから。そこは逆に無駄にしたくない、全部作品に注ぎ込むって感じで生きてました。

―焦りとか虚無感みたいなものは……。

BOSS:まったくないですね。ただ、3.11のときはダメだったんですよね。やっぱりあれだけの死を見てしまうと、かける言葉が見当たらなかったから。乗り越えるのに時間がかかったんだけど。でも今回に関しては、自分なりに冷静に、乗り越えるべき思想っていうのを表現できた気がします。

『PRAYERS』(2013年)収録

―この作品を聴けばわかる話ですけど、今言った「乗り越えるべき思想」って、ここで言葉になりますか。

BOSS:コロナウイルスはただのきっかけであって、もう日本自体がいよいよ狂い始めてるんで。人口は減るし、俺らも含めて年寄りばっかりになって、社会保障を支える若者もどんどん少なくなってる。インフラだってこれから古くなっていって、それを補うお金ももうないし。かたや隣の国とかはどんどん人口が増えて経済も膨張してる。そのコントラストがまたいろんな軋轢を生んでいく。

そういうことはコロナウイルスが来る前からもうわかってた。で、さらにコロナウイルスでわかったのは、日本の政治や社会システムがほんとに硬直化してるってこと。それは俺にとって逆に上等っていうか、ヒップホップって世の中が狂えば狂うほどその声が大きくなるジャンルだと思う。パンクの人たちもきっとそうだと思うけど、ぶっ壊れてけばぶっ壊れていくほど、言うべきこと、言うべき対象はハッキリしてくるから。「それ余裕でぶっ壊していこうぜ、行くところまで行っちまおうぜ」っていうような思想は、俺にとっては簡単に辿り着くことができた感じですね。

『THA BLUE HERB』(2019年)収録

ILL-BOSSTINO

―ただ、この『2020』は破滅や破壊を煽るものではなくて。

BOSS:それはまったくないです。きっとこの国は実際に被害が出ないとわからないんだとは思う。原発のこともそうだし、戦争だってそうだったと思うんだけど、なんていうか、そこまで行かないと撤退することができない国に生きてるんだよ、俺たちは。なぜか撤退することがダサい、弱いっていうムードがあって、結局誰も止めることができないままで。ほんとはさ、ゴルゴ13に皆でカンパして秘密裏に――。

―はははははは!

BOSS:でも……「誰かをぶっ殺せ!」とか言うのは俺の価値観ではファンタジーだし、そもそも論外。じゃあ、って考えると、今の俺の心情が出たのがこういう曲ですね。<出来るだけゆっくり降りて行く><楽しんで降りて行こう>って言わざるを得なかった。真剣に考えれば考えるほどそうなっていった感じですね。

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リリース情報

THA BLUE HERB『2020』
THA BLUE HERB
『2020』(CD)

2020年7月2日(木)発売
価格:1,760円(税込)
TBHR-CD-034

1. IF
2. STRONGER THAN PRIDE
3. PRISONER
4. 2020
5. バラッドを俺等に

プロフィール

THA BLUE HERB(ざ ぶるーはーぶ)

1997年に北海道・札幌で結成。ラッパー・ILL-BOSSTINO、トラックメイカー・O.N.O、ライブDJ・DJ DYEからなる一個小隊。ヒップホップの矜持を保ちながら、あらゆるジャンルとクロスする音楽性・活動を展開。これまでに『STILLING, STILL DREAMING』『SELL OUR SOUL』『LIFE STORY』『TOTAL』『THA BLUE HERB』 などをリリースし、2017年には結成20周年を記念して日比谷野外大音楽堂にて単独公演を開催。2枚組30曲となった『THA BLUE HERB』以来1年ぶりとなる作品『2020』を、7月2日にリリースした。

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