インタビュー

THA BLUE HERBが表す2020年 大きな未来よりも、確かな実感を

THA BLUE HERBが表す2020年 大きな未来よりも、確かな実感を

インタビュー・テキスト
石井恵梨子
撮影:新保勇樹 編集:矢島大地、久野剛士(CINRA.NET編集部)

見ものだなと思う。とても厳しい状況になるのも覚悟の上だけど、この国の行く末を全部見てみたいね。それが俺の今現在の、屈折した未来への希望なのかなと思う。

ILL-BOSSTINO

―“STRONGER THAN PRIDE”も同じですよね。ライブハウスの話、クラブの現場の話のように見えて、今の日本の話をしてる。

BOSS:そうなんだよね。俺も作ってるときはライブハウスのとある状況を歌ったつもりだったけど、でもまさに、作ってみたらこれ今の世の中だよなって。やっぱり、何か想いがあるのに我慢して黙ってるのは絶対に美徳じゃない、黙ってるとYESになっちゃう、許容したことになっちゃうんだよ、っていうメッセージが自然とそこに浮き上がってきた。ちゃんとYESかNOかはっきりしないと、YESになっちゃうんだよ。それは選挙だけじゃなく、すべてに当てはまるんだけどね。

―はい。

BOSS:で、そう歌っときながら、自分のやってることってすごく遠回りだとも思う。そもそもCDだし、膨大な歌詞だし。今はほんと、音楽は早くて軽くて安ければいいような世界で、自分がやってることがどれくらい非効率なことか、世の中の流れに逆行したことか実感してるんだけど。本気で世の中をよくしたい、本気で影響力を持ちたいなら、やり方はもっとある。それはわかる。もっとMV作って、インスタとか使って世の中挑発して、どんどん人の目を集めていってさ。でもそれは違うと思っちゃう意識もあるんだよね。

いい世の中になればいいと思ってる反面、じゃあ自分の持てるものを本気でそこに注ぎ込んでるか、より大きな力を得たいのかって言うと、自分は自分のやりたいことをチョイスしてるだけだなと思うし。その狭間で苦しむことも当然あるんだけど、でも……そうだね、音楽のほうを取ってるなと思う。

ILL-BOSSTINO

―それは言い換えると、大きな理想より、確かな実感を選んでいる、ということになりますか。

BOSS:だと思うね。確かな実感を選んで、身の回りにいる人たちとの関係性をよくしていけば、その延長上に大きな理想が向こうからやってくる……そこは繋がってると思いたいけど。でも現実では、世の中が狂っていくスピードのほうが圧倒的に速い。自分の周りの人間関係をよくしてる間にも、どんどん世の中が狂っていくっていうか。政治のスキャンダルひとつ取っても、半年に一回出ればいいようなことが今はもう週単位で出てきて、みんな何に対して怒っていいかも麻痺してるくらいで。

―<確かに手の中に分け合った 未来ってやつが今日なんだ>って一節がありますよね。“未来は俺等の手の中“と歌うことは、理想をぶち上げることだったと思うんです。でも今は大きな理想よりも、体の中にある実感、確かに言えることだけで言葉を紡ごうとしている気がします。

BOSS:そうかもしれない。とても遠い場所に未来を設定して、というふうには今は思えない。今ほんと大変だし、来年のオリンピックがどうのって言うくらいがせいぜいの未来で、3年後、5年後、10年後に自分がどうなってるか考えられる人いないんじゃない? それくらいみんな目の前のことに忙殺されてるんで、その気分があるのかもしれないですね。

THA BLUE HERB“未来は俺等の中”(2003年)を聴く(Apple Musicはこちら

―日本の未来もよく見えないですよね。

BOSS:それが見ものだな、とは思う。<ゆっくり降りて行こう>っていうのはそこに繋がっているんだけど、できることならこの国の行く末を全部見てみたい。とても厳しい状況になるのも覚悟の上だけど、見てみたいね。俺らの世代、戦争が終わって高度経済成長が20~30年くらい続いて、めっちゃ調子いいときに生まれてるんで、日本はすごく豊かな国だと思ってたけど。

でも本当はその時期一瞬お金持ちになっただけで、あとは別にそうでもないんだよね。これからもともとのキャパに戻っていくんだとしたら、そういう日本で生きてみたいなとも思う。そりゃお金もなくなるし、社会的にもどんどん縮小していくんだろうけど、それでも見てみたいね。それが俺の今現在の、屈折した未来への希望なのかなと思う。

―それは、希望と名付けていいものなんですか。

BOSS:希望だと思うな。だって未来には希望しかないでしょ。もちろん最後は絶望だよ? 死ぬから。それはもうしょうがない契約。でもそこに行くまでは希望しかない。もちろん街でお年寄りを見ると「あぁ俺もこういうふうになるのかな」とか思うけど、それは絶望ではないんだよな。「俺、このくらいの爺さんになっても爆音で『Abbey Road』(The Beatles)聴いてやるぜ」とか思う。それは希望だし、全然楽しみなことで。死は望みが絶たれるという意味で絶望だけど、そこに行くまでは希望しかないね。楽しみしかない。根は楽観的なんだろうね。

―うーん、でも考えてしまいますね。明らかに貧困層が増えて、政治も機能していない、しかもそれを選挙で変えることもできない現状を。

BOSS:うん、ほとほと興味深いな、この国の仕組みって。戦争に負けて大勢の人が死んで、アメリカの属国になって、そこでマイホームを建てて幸せになるっていう図式をずっと続けてきた日本人、興味深い国民性だなぁと思う。今みたいな状況になっても、たぶん来年の選挙じゃ変わんないんだろうなぁって思うと……すごい話だよね。

ILL-BOSSTINO
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リリース情報

THA BLUE HERB『2020』
THA BLUE HERB
『2020』(CD)

2020年7月2日(木)発売
価格:1,760円(税込)
TBHR-CD-034

1. IF
2. STRONGER THAN PRIDE
3. PRISONER
4. 2020
5. バラッドを俺等に

プロフィール

THA BLUE HERB(ざ ぶるーはーぶ)

1997年に北海道・札幌で結成。ラッパー・ILL-BOSSTINO、トラックメイカー・O.N.O、ライブDJ・DJ DYEからなる一個小隊。ヒップホップの矜持を保ちながら、あらゆるジャンルとクロスする音楽性・活動を展開。これまでに『STILLING, STILL DREAMING』『SELL OUR SOUL』『LIFE STORY』『TOTAL』『THA BLUE HERB』 などをリリースし、2017年には結成20周年を記念して日比谷野外大音楽堂にて単独公演を開催。2枚組30曲となった『THA BLUE HERB』以来1年ぶりとなる作品『2020』を、7月2日にリリースした。

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