
BBHF尾崎雄貴の幸せだけど幸せじゃない今。それでも人生は続く
BBHF『BBHF1 –南下する青年- 』- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:木村篤史 編集:矢澤拓
BBHFのセカンドフルアルバムにして、CD2枚組の大作『BBHF1 –南下する青年- 』が完成。そのアートワークとして、現代美術家の因藤壽の作品『麦ふみ』が使われている。メンバーと同じ北海道稚内市出身の因藤は、絵の具を塗り重ねる独特な作風によるモノクローム絵画で知られているが、『麦ふみ』はまだ因藤がギター、ボーカルの尾崎雄貴と同じ20代の頃の作品。アルバムの根幹をなす「継続」というテーマに、より重層的な意味を与えている。
因藤の名は海外でも知られ、The 1975のマシュー・ヒーリーが彼の作品を所有し、マシューにフックアップされたフィリピン人のアーティストNo Romeは、バンドと同じレーベルであるDirty Hitから、過去に『RIP Indo Hisashi』というEPをリリースしている。BBHFは先日The 1975の“If You’re Too Shy(Let Me Know)”を日本語でカバーし、それに対してSNSでマシュー本人が反応するという出来事もあったが、こうした国を超えた繋がりも非常に面白い。尾崎が因藤の作品から受け取った感覚について、じっくりと話を聞いた。
(メイン画像:Iwai Fumito)

BBHF(びーびーえいちえふ)
左から:DAIKI、佐孝仁司、尾崎雄貴、尾崎和樹
Galileo Galileiとして活動していた尾崎雄貴(Vo,Gt)、佐孝仁司(Ba)、尾崎和樹(Dr)の3人に、彼らのサポートギタリストを務めていたDAIKI(Gt)を加えて、2018年に「Bird Bear Hare and Fish」名義で活動をスタート。2019年7月1日にBBHFに改名し、配信限定EP『Mirror Mirror』をリリース。9月2日に2枚組全17曲のセカンドフルアルバム『BBHF1 -南下する青年- 』をリリースする。
どこか日本人の……エグみと、捨て去ることのできない妙な生真面目さみたいなものを感じたんですよね。
―因藤壽さんのことをどのように知って、なぜアルバムのアートワークに使おうと思ったのでしょうか?
尾崎:今回アルバムの表立ったテーマとはまた別で、メンバー内で話していたテーマがあって、それはアジアで生まれたこと、アジアで暮らしていること、アジアで音楽をやっていることを、自分たちなりに今後もっと強く表現していきたいということだったんです。今まではどちらかというと、日本のものというか、「和」なものはあえて避けてきたというか、避けることによって、自分たちのルーツにより近づくようなイメージがあって。
―日本の音楽ではなく、海外の音楽に影響されている自分たちを表現しようという意識?
尾崎:はい、邦楽を全然聴かなくなったのと一緒で、日本の芸術家のこともあまり意識してなかったんですけど、改めて日本の芸術家の作品を見直す機会があって。で、画像をいろいろ検索してたら、真っ黒に塗られた因藤さんの作品が出てきて、他と異質過ぎて目を引いたんです。僕が最初に見たのは、真ん中のところが円状にポコッてなってるやつで、「何だこれは?」と思って。でも、どこか日本人の……エグみと、捨て去ることのできない妙な生真面目さみたいなものを感じたんですよね。
―生真面目さ、ですか。
尾崎:ぶっ飛んでるとか、いかれてるとか、そういう感じよりは……お侍さんみたいな感じっていうか(笑)。小学校の習字の授業で硯を見たときに感じる重厚感にも近くて、手に取りたい、触ってみたいと思ったんです。
―因藤さんのモノクロの絵画は紫の絵の具を何年にも渡って塗り重ねることでできているそうで、ギャラリーの方は「自分というものの痕跡を残すための作業なんじゃないか」とおっしゃっていました。
尾崎:最初は「どうやってるんだろう?」としか思ってなくて、絵の具を塗り重ねてるっていう情報は最近知ったんですけど……「暗黒」みたいな暗いイメージじゃなくて、「黒そのもの」みたいなイメージで、それをエモーショナルな感じでもなく、静かに描いてる感じがして、その感覚も僕の中ではお侍さんっぽいイメージだったんですよね。
音楽でも何でもそうなんですけど、まずはサシで向き合いたいっていうか(笑)。それが楽しいし、僕にとっては喜びなんです。
―No Romeの『RIP Indo Hisashi』のことは知っていたのでしょうか?
尾崎:知ってはいたんですけど、作品を見つけたそのときは忘れていました。画像に「Indo Hisashi」って書いてあって、「あれ? 何か見たことある」って思ったんですよね。で、考えてみると、もともとすごく好きで、warbear(尾崎雄貴のソロプロジェクト)の制作のときによく聴いていたNo RomeのEPのタイトルだって気づいて。そのときは「何でこのタイトルにしたんだろう?」っていうのは一回置いておいて、因藤さんのことを少し調べたら、自分たちと同じ稚内の生まれだってわかって。
No Rome『RIP Indo Hisashi』を聴く (Apple Musicはこちら)
―そこは偶然だったんですね。
尾崎:そうなんです。No Romeのおかげで名前に聞き覚えはあったんですけど、最初の入りは作品そのものでした。結局No Romeが何であのタイトルにしたのかも知らないんですけど。
―彼のインタビューによると、EPにも参加しているThe 1975のマシューが因藤さんの作品を買ったときに、No Romeが「RIP Indo Hisashi」ってメッセージを送って、その言葉が気に入って、後々タイトルになったらしいです。
尾崎:へー、そうなんですね。作品を持ってるんだ、すごいな。
―さっきギャラリーでお話を聞いたら、確かに数年前にイギリスで絵を売ったとおっしゃっていたので、それが今マシューの手元にあるんだと思う。
尾崎:めちゃめちゃ面白いですね。自分が因藤さんの作品に惹かれたのは、僕にとって大事なオリジナリティだと思ったので、No RomeのEPのタイトルになってたことに気付いても、あえて調べなかったんです。僕があの絵を良いと思ったことと、僕がリスペクトしているアーティストのことを変にくっつけたくはなくて。だから、実際アートワークに使った『麦ふみ』にしても、あの絵がどうやって生まれたかっていうのは、アルバムのレコーディングが全部終わって、アートワークまで完成した後に、改めて調べて知ったんです。
―アートワークに使うことは、バックグラウンドまで調べて決めたわけじゃなくて、あくまでインスピレーションで決めたと。
尾崎:映画とかにしても、まずその作品を自分が体いっぱいに受けて、自分の中でどうなのかっていう、勝手な解釈を楽しみたくて。なので、今回アートワークに選ばせてもらったのも、ホントに感覚の部分っていうか。でもそうしたら、同じ稚内出身だったり、No Romeがタイトルにしてたり、ギターのDAIKIくんがもともと作品集を持っていたり、いろんな偶然が因藤さんを中心に起こったんです。だからこそ、神秘的なままにしておきたかったというか、あんまり深くは掘らないようにして。
―もちろん、作品の楽しみ方は人それぞれで、今は作品のバックグラウンドとか、作品に対する評価が簡単に知れちゃう良さもあるけど、何の情報もないままに受け取る感覚っていうのは、むしろそこにこそ膨大な情報量があるようにも思います。
尾崎:音楽でも何でもそうなんですけど、まずはサシで向き合いたいっていうか(笑)。それが楽しいし、僕にとっては喜びなんです。今回制作の半分くらいの段階で因藤さんの作品をアートワークにすることに決めたんですけど、いろんな意味で未知数で、神秘的な感じもあって、そのムードは今回かなり印象に残ってますね。
リリース情報

- BBHF
『BBHF1 –南下する青年- 』初回限定盤(2CD+DVD) -
2020年9月2日(水)発売
価格:4,400円(税込)
BNCD-0006[CD]
<上>
1. 流氷
2. 月の靴
3. Siva
4. N30E17
5. クレヨンミサイル
6. リテイク
7. とけない魔法
8. 1988
9. 南下する青年
<下>
10. 鳥と熊と野兎と魚
11. 夕日
12. 僕らの生活
13. 疲れてく
14. 君はさせてくれる
15. フリントストーン
16. YoHoHiHo
17. 太陽[DVD]
“FAM!FAM!FAM!” 恵比寿LIQUIDROOMライブ映像
1. Mirror Mirror(Instrumental)
2. リビドー
3. だいすき
4. 友達へ
5. バック
6. Torch
7. Mirror Mirror
8. なにもしらない
9. あこがれ
10. シンプル
11. 涙の階段
- BBHF
『BBHF1 –南下する青年- 』通常盤(2CD) -
2020年9月2日(水)発売
価格:3,520円(税込)
BNCD-0007<上>
1. 流氷
2. 月の靴
3. Siva
4. N30E17
5. クレヨンミサイル
6. リテイク
7. とけない魔法
8. 1988
9. 南下する青年
<下>
10. 鳥と熊と野兎と魚
11. 夕日
12. 僕らの生活
13. 疲れてく
14. 君はさせてくれる
15. フリントストーン
16. YoHoHiHo
17. 太陽
ギャラリー情報

- gallery a-cube
-
住所:東京都渋谷区松濤1-28-6 麻生ビル1F
- gallery a-cube (appointment gallery)
-
住所:東京都渋谷区松濤2-7-4 B1
プロフィール

- BBHF(びーびーえいちえふ)
-
Galileo Galileiとして活動していた尾崎雄貴(Vo,Gt)、佐孝仁司(Ba)、尾崎和樹(Dr)の3人に、彼らのサポートギタリストを務めていたDAIKI(Gt)を加えて、2018年に「Bird Bear Hare and Fish」名義で活動をスタート。2019年7月1日にBBHFに改名し、配信限定EP『Mirror Mirror』をリリース。9月2日に2枚組全17曲のセカンドフルアルバム『BBHF1 -南下する青年- 』をリリースする。