インタビュー

Dos Monosからの挑戦状に、自由な発想で表現。リミックス座談会

Dos Monosからの挑戦状に、自由な発想で表現。リミックス座談会

インタビュー・テキスト
大石始
撮影:垂水佳菜 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

この7月、東京・渋谷の宇田川町に突如、Ableton Liveでの音源制作画面を全面に映し出した屋外広告が出現した。これはDos Monosの新作『Dos Siki』に収録された“The Rite of Spring Monkey”の制作画面で、2019年3月の1stアルバム『Dos CIty』以来の新作のリリースを伝えるものであると共に、前代未聞のとある企画を告知するものでもあった。その企画とは、Ableton Liveの制作画面を唯一のヒントとして、他の音楽家に謎解きのように新たな楽曲を創作してもらうという「前代未聞のリミックス企画」だった。

荘子it(トラックメーカー / MC)、TaiTan(MC)、没(MC / DJ)という3人で構成されるラップグループ、Dos Monos。今年の5月には台湾のIT担当大臣であるオードリー・タンとの公式コラボレーション楽曲を発表するなどインターナショナルな活動を展開してきた彼らは、3月にはアメリカの大型フェス『SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)』への出演を含む初のアメリカツアーも予定されていたものの、新型コロナウイルスの感染拡大により中止になってしまった。あらゆる境界線を飛び越えるDos Monosのスタンスは、そうした活動や今回の「リミックス企画」にもはっきりと現れている。

無意識のうちに自分たちを縛りつけている制約や価値観を揺さぶる新たなクリエイティブの方法論とは。Dos Monosの荘子itからのオファーに応じて今回の企画に参加したLicaxxx、服部峻、MON/KUという若手トラックメイカー4人による座談会をお届けしよう。

左から:Licaxxx、荘子it(Dos Monos)、MON/KU、服部峻
左から:Licaxxx、荘子it(Dos Monos)、MON/KU、服部峻

図面だけでトラック作り。荘子itからの挑戦状

―まず荘子さんにお聞きしたいんですが、今回の企画はどのような経緯で始まったんでしょうか。

荘子it:僕ら(Dos Monos)はメジャーレーベルに属しているわけでもないし、基本的にはあらゆることを自分たちでやっているので、普通にリリースしただけだと大して話題にならないんですよ。なんらかの形でプロモーションをやろうと思ったとき、TaiTanが思いついたのが「制作中の(Ableton Liveの)画面を街中に出したらおもしろいんじゃないか」というアイデアだった。そこから「これを楽譜に見立てて曲を作ることもできるじゃないか」という発想が出てきて、今回の企画に結びついていったんです。

―このAbleton Liveの画面からは、どの程度の情報まで読み取れるんでしょうか。どういうフレーズが入っているかはわからないけど、ひとつのフレーズがどれぐらいの長さかはわかる?

荘子it:そうですね。「ギター」と書いてあるフレーズが何小節入っているか、三連刻みのフレーズがどこに入っているか、そういうことがこの図面から読み取れるんです。ただ、ギターのどういうメロディーが入っているかはわからない。曲の展開が書かれていて、映画で言えば、撮影用の脚本まではいかない、プロットや構成台本ぐらいの感じです。

荘子it(そうしっと)<br>トラックメイカー、ラッパー。TaiTan(Rapper)、没(Rapper,Sampler)からなる、3人組ヒップホップユニットDos Monosのメンバー。荘子itの手がける、フリージャズやプログレのエッセンスを現代の感覚で盛り込んだビートの数々と、3MCのズレを強調したグルーヴで、東京の音楽シーンのオルタナティブを担う。2020年8月に2ndアルバム『Dos Siki』をリリースした。
荘子it(そうしっと)
トラックメイカー、ラッパー。TaiTan(Rapper)、没(Rapper,Sampler)からなる、3人組ヒップホップユニットDos Monosのメンバー。荘子itの手がける、フリージャズやプログレのエッセンスを現代の感覚で盛り込んだビートの数々と、3MCのズレを強調したグルーヴで、東京の音楽シーンのオルタナティブを担う。2020年8月に2ndアルバム『Dos Siki』をリリースした。
荘子itが制作したAbleton Liveの画面。この画面を参考に、トラックメイカーがリミックスを作成した。
荘子itが制作したAbleton Liveの画面。この画面を参考に、トラックメイカーがリミックスを作成した。

―企画の参加者はその構成台本だけを手掛かりに、原曲を聴かないまま「リミックス」を作るわけで、その点ひとつとってもいわゆる「リミックス」とは大きく違いますよね。

荘子it:そうですね。原曲のリリースよりも先に作って出してもらうという意味では、二次創作ならぬ「零次創作」。あとは、そもそもこの画面に即していなくてもいいわけですよ。「BPM94」と書いてあっても、その通りに作らないといけないというわけでもない。BPM300で作ったっていいし、究極を言うと、この画面をもとにカレーを作ったっていいわけです(笑)。でも、あえて言わなくても、画面の制約に各々が解釈を加えて新しいアイディアを得られる、というのが企画の本懐でした。ただ、面白い企画だという確信はありつつも、主旨を飲み込みづらいので、誰も参加してこない可能性があった(笑)。だから、今回集まった元々友達だったみんなには、とりあえず是非やってみて欲しいとこちらから連絡しました。

―みなさんは荘子さんからオファーがあったということですが、今回の企画を聞いてどう思いました?

MON/KU:頭おかしいんじゃないかと思いました(笑)。今回はDos Monosの元の曲を聴かないまま想像で作ったので、最終的に答え合わせがあるんですよね。その点も通常のリミックスにはないことで。

服部峻:僕も投げやりな企画だなとは思ったけど(笑)、よくよく考えたらできなくもない。それで自分なりに作ってみたら意外と反響もあっておもしろかったですね。あと、他の人と比べることができたのがおもしろかった。

MON/KU(もんく)<br>2018年12月より作曲活動を開始。翌年1月に初制作の楽曲“S I N K”をSoundCloudにて公開。音楽経歴なし・楽器は全く弾けず、イメージのみで作曲し、DAWにて楽曲を制作する。
MON/KU(もんく)
2018年12月より作曲活動を開始。翌年1月に初制作の楽曲“S I N K”をSoundCloudにて公開。音楽経歴なし・楽器は全く弾けず、イメージのみで作曲し、DAWにて楽曲を制作する。
服部峻(はっとり たかし)<br>大阪在住の音楽家。映像作品も手がける。映画美学校音楽美学講座の第一期生。当時まだ15歳だったにもかかわらず特別に入学を許可される。2013年12月、6曲入りの初作品集『UNBORN』を円盤レコードより発表。2015年11月、フルアルバム『MOON』をnobleよりリリース。
服部峻(はっとり たかし)
大阪在住の音楽家。映像作品も手がける。映画美学校音楽美学講座の第一期生。当時まだ15歳だったにもかかわらず特別に入学を許可される。2013年12月、6曲入りの初作品集『UNBORN』を円盤レコードより発表。2015年11月、フルアルバム『MOON』をnobleよりリリース。

荘子it:Dos Monosの音楽ってブーンバップのサンプリングヒップホップと言えばそうなんだけど、やっぱり似たものがない音楽だと思っていて。よくも悪くも比較対象がなかったんですよ。「ヘンなことをやってる人だよね」で終わっちゃう。でも、今回はそれぞれのトラックのあいだで比較が生まれる。それは自分たちにとって今まであまりなかったことだったんです。この、比較対象があるということは、反復を基調とする音楽の面白さにとっては根本的にすごく重要な要素なんですよね。Dos Monosの音楽が、ブッ飛んだ鬼才の例外的な作品という風に括られてしまうと、それはある意味ゲームから除外されてしまうということで、文化にとって本質的に貧しいことだった。

―Licaxxxさんは企画を聞いてどう思いました?

Licaxxx:今回の企画については広告の時点で知っていて、おもしろそうだなと思っていました。

荘子it:Licaxxxには広告掲載の段階からAbletonの方への許可どり交渉などの連絡を繋いでもらったり、いろいろ協力してもらってたんです。ついでにこんな企画もあるんだけど、どう? と声をかけたんですよ。

Licaxxx:単純にめちゃおもしろいなと思いましたね。「Dos Monosだったらやりかねないな」って。リミックスって音楽的なおもしろさもあるけど、企画自体に宣伝効果もあるじゃないですか。こういうアイデアはなかなかなかったし、声をかけてもらったときもぜひ参加したいと思いました。あと、私の場合、何らかの制限がないと曲を作れないんですよ。

―制限?

Licaxxx:普段の曲作りも基本的に自分のDJツールを作っている感覚なので、DJツールでもないものをゼロから作るとなるとちょっと困っちゃうんですよ。なので、いつもは自分で制限を設けるんですね。たとえば「今日は(ローランドのドラムマシンである)909を使って曲作りをしよう」とか。今回はMIDIの長さや曲の展開が指定されていたので、その中でどれだけできるかという挑戦でもあったんです。

Licaxxx(りかっくす)<br>東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー。2016年に出演したBOILER ROOM TOKYOのYoutube再生回数が約50万回再生を記録。DJとして国内外のビッグフェスやクラブに出演する他、世界各国のラジオにDJMIXを提供しメゾンブランドのコレクションやCM等、幅広い分野への楽曲提供を行う。世界中のDJとの交流の場を目指しているビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」の主宰。
Licaxxx(りかっくす)
東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー。2016年に出演したBOILER ROOM TOKYOのYoutube再生回数が約50万回再生を記録。DJとして国内外のビッグフェスやクラブに出演する他、世界各国のラジオにDJMIXを提供しメゾンブランドのコレクションやCM等、幅広い分野への楽曲提供を行う。世界中のDJとの交流の場を目指しているビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」の主宰。
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リリース情報

Dos Monos
『Dos Siki』

2020年7月24日(金)配信

1. The Rite of Spring Monkey
2. Aquarius (feat. Injury Reserve)
3. Estrus
4. Mammoth vs. Dos Monos

Dos Monos『Remixed Remixies of Rite of Spring Monkey』
Dos Monos
『Remixed Remixies of Rite of Spring Monkey』

2020年9月23日(水)配信

今回の企画で集まった8つのリミックストラック(Licaxxx、MON/KU、Takashi Hattori、uami、Microwave Spaghetti Human Being、deetheNK、Apori/a、NOTEN)の全てを荘子it自らコラージュ / カットアップした、「リミックスのリミックス」。

プロフィール

Dos Monos(どす ものす)

荘子it(Trackmaker,Rapper)、TaiTan(Rapper)、没(Rapper,Sampler)からなる、3人組ヒップホップユニット。荘子itの手がける、フリージャズやプログレのエッセンスを現代の感覚で盛り込んだビートの数々と、3MCのズレを強調したグルーヴで、東京の音楽シーンのオルタナティブを担う。結成後の2017年には初の海外ライブをソウルのHenz Clubで成功させ、その後は、『SUMMER SONIC』などに出演。2018年には、アメリカのレーベル「Deathbomb Arc」との契約・フランスのフェス『La Magnifique Society』、上海のフェス『SH△MP』への出演を果たすなど、シームレスに活動を展開している。2019年に満を持して初の音源となる1stアルバム『Dos City』をリリースした。

Licaxxx(りかっくす)

東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー、編集者、ラジオパーソナリティ。2010年にDJをスタート。マシーンテクノ・ハウスを基調にしながら、ユースカルチャーの影響を感じさせるテンションを操り、大胆にフロアをまとめ上げる。2016年にBoiler Room Tokyoに出演した際の動画は50万回以上再生されており、Fuji Rockなど多数の日本国内の大型音楽フェスや、CIRCOLOCO@DC10 などヨーロッパを代表するクラブイベントに出演。日本国内ではPeggy Gou、Randomer、Mall Grab、DJ HAUS、Anthony Naples、Max Greaf、Lapaluxらの来日をサポートし、共演している。さらに、NTS RadioやRince Franceなどのローカルなラジオにミックスを提供するなど幅広い活動を行っている。さらにジャイルス・ピーターソンにインスパイアされたビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」の主宰。若い才能に焦点を当て、日本のローカルDJのレギュラー放送に加え、東京を訪れた世界中のローカルDJとの交流の場を目指している。また、アンビエントを基本としたファッションショーの音楽などを多数制作しており、近年ではChika Kisadaのミラノコレクションに使用されている。

服部峻(はっとり たかし)

東京在住の音楽家。映像作品も手がける。映画美学校音楽美学講座の第一期生。当時まだ15歳だったにもかかわらず特別に入学を許可される。2013年11月、6曲入りの初作品集『UNBORN』を〈円盤レコード〉より発表。2015年11月、自身初のフル・アルバム『MOON』を〈noble〉よりリリース。遠藤麻衣子監督作『KUICHISAN』(2011)『TECHNOLOGY』(2016) 『TOKYO TELEPATH 2020』(2020)の映画音楽を手がける。2019年にPARCOクリスマスキャンペーンのCM音楽を担当。

MON/KU(もんく)

2018年12月より作曲活動を開始。翌年1月に初制作の楽曲“S I N K”をSoundCloudにて公開。音楽経歴なし・楽器は全く弾けず、イメージのみで作曲し、DAWにて楽曲を制作する。

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