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坂口恭平が探究する「好きとは何か?」本当の声を引き出すには

坂口恭平が探究する「好きとは何か?」本当の声を引き出すには

坂口恭平『永遠に頭上に』
インタビュー
九龍ジョー
撮影:廣田達也 編集・テキスト:山元翔一(CINRA.NET編集部) 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

「全ての人の悩みは国家が作った悩みなんよね」

前編でこんなパンチラインが飛び出した坂口恭平インタビューの後編をお届けする(前編はこちら)。この記事のメインの話題は、「好き」について。文筆に音楽、パステル画やガラス細工に編み物、料理、そして畑作業に至るまで、その創作活動において、質と量どちらをとっても常軌を逸した成果を挙げている秘密がそこにある。

坂口は「自然に忠実になると、好きになるんだよ」と語る。草花や木々、あるいは土に対する敬意だけではなく、心がこうありたいと望む声に誠意を持って耳を傾けることもまた「自然に忠実になる」ということなのだろう。

盟友・九龍ジョーを聞き手に迎え、CINRA.NET編集部からの質問も交えて、坂口恭平が送る日常について、より実践的な話を聞いた。

天との約束があると、会社で働く時間を作るのは無理

九龍:原稿の調子はどうなんですか? 例えば僕がいま編集をやってる『躁鬱大学』(note連載)の原稿を書いてたときは、1日1万字って決めたら毎朝必ず送ってくれたけど。

坂口:みんなその1万字をむっちゃ読んでたわけじゃん。そういうことを続けていると、普通は「面白いものにしなきゃいけない」っていうプレッシャーを感じるらしくて。

坂口恭平(さかぐち きょうへい)<br>1978年、熊本県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。2004年に路上生活者の住居を撮影した写真集『0円ハウス』(リトルモア)を刊行。以降、ルポルタージュ、小説、思想書、画集、料理書など多岐にわたるジャンルの書籍、そして音楽などを発表している。現在は熊本を拠点に活動。2023年に熊本市現代美術館にて個展を開催予定。近刊に『苦しい時は電話して』(講談社現代新書)、『自分の薬をつくる』『cook』(晶文社)、『まとまらない人』(リトルモア)など。
坂口恭平(さかぐち きょうへい)
1978年、熊本県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。2004年に路上生活者の住居を撮影した写真集『0円ハウス』(リトルモア)を刊行。以降、ルポルタージュ、小説、思想書、画集、料理書など多岐にわたるジャンルの書籍、そして音楽などを発表している。現在は熊本を拠点に活動。2023年に熊本市現代美術館にて個展を開催予定。近刊に『苦しい時は電話して』(講談社現代新書)、『自分の薬をつくる』『cook』(晶文社)、『まとまらない人』(リトルモア)など。
坂口恭平『永遠に頭上に』を聴く(Apple Musicはこちら

九龍:いわゆる「ハードル」と捉えるよね。

坂口:そう。でも俺の場合、ハードルが上がるってことはないからさ。

前の作品より、さらに自然に忠実になろうって決めてるからプレッシャーを感じない。すでに自然にあるものをミメーシス(西洋哲学の概念で「模倣」「再現」の意味)してるだけだから、俺に責任はないんだよ。

「自然」というものに責任転嫁をすることによって、プレッシャーやストレスをほぼゼロにしてる。パステルもさ、毎回3000いいねとかつくんだけど、1枚でも下手なの描いたら残念な感じになって、普通は手が止まるわけじゃん。

メインカット撮影のため、自ら木に登ろうとする坂口恭平
メインカット撮影のため、自ら木に登ろうとする坂口恭平

九龍:それで気を病む人いるからね、SNSのインフルエンサーでもYouTuberでも。

坂口:でも俺は人の評価じゃないから。自然により忠実になるっていう半端ない厳しさを自分に課してる。

俺の描く海の青がいかに海に近いか、どれだけ写真でも表現できない青かって……プレッシャーを感じる対象がもう自然なわけよ。目で捉えた色を合わせればいいって話じゃなくて、その時の空気とか空間全部を忠実にミメーシスしなきゃいけないから。

模倣するというより、忠実であるってこと。しかもその忠実の誓いのが、「天命」というか天との約束に近いんだよね。

だから、もう人間様との約束なんかどうでもいいわけ。天の約束をちゃんと従うってことがプレッシャー克服の手段……これで一冊書けるよね(笑)。

どんどん登る
どんどん登る

九龍:じゃあ、そのテーマでまた本作るか(笑)。より大きな使命を設定しておくことで、俗世から受けるプレッシャーを無効にしているわけだ。

坂口:天命に従うだけになるとプレッシャーを跳ね飛ばすことができる。その一方で、あらゆる無駄な作業をゼロにしなきゃいけないから、今の世の中で暮らしていると大変なんだけどね。

だから特待生の野球部みたいな会社エリートをやってらんないわけ。天との約束があると、会社で働く時間を日々作るって無理だからさ。

最近の趣味は「成長」

九龍:例えば会社エリートみたいな人からすると、音楽を演奏したり、絵を描いたりっていうのは、多くは趣味とか息抜きなんですよ。坂口恭平の場合、そうじゃないでしょ?

坂口:歌も天との約束なんよ。だって「歌詞で嘘ついてはいけません」って俺、決めちゃってんだから。

この後、本稿のメインカットになったポーズでパチリ
この後、本稿のメインカットになったポーズでパチリ

九龍:いろんなミュージシャンが坂口恭平から刺激を受けたり、羨ましいと思ったりするのはそういうところなのかもね。

坂口:そうねえ。歌詞に嘘ひとつも書いてないんだから。寺尾(紗穂)さんもそうなんよ。寺尾さんに音源を送っても、1個でも嘘が入ってるとメールの返信がないの。

九龍:さすが。気づくんだ(笑)。

坂口:もう本当に気づく。俺の場合、周りの人の批評眼が鋭すぎて、Twitterのリアクションはどれひとつ的を射てないっていう結論になっちゃう。

俺もどっちかというと批評家なのよ。歌も、パステル画とかで表現してきたことも、自分が今までやってきたことに関しての言語化の精度が果てしないから。今「最近趣味は何ですか?」って聞かれたら「成長です」って言いたい。

九龍:はははは! 趣味ができたかと思えば(笑)。

坂口:俺、成長が趣味だった。

坂口恭平

九龍:上手くなり、やり方が洗練され、成長することが、息抜きにもなっていると。

坂口:そう。それで、一番は「自然に忠実であること」で、もうセザンヌだよ(近代絵画の父とも言われるポール・セザンヌのこと)。

九龍:今は毎日絵も描くし、土もいじるし、比率は日によって変わるんですか?

坂口:これがね、昔は原稿10枚とか日課を決めてたわけじゃん。今、数字を超えたの。オーバー・ザ・ナンバー。

九龍:オーバー・ザ・ナンバー(笑)。本当キャッチフレーズ好きだよね(笑)。

坂口:いやそれがさ、1日10枚書かなくていいよって言ってくれる人がいて、さらに自然に忠実な方向に向かっているみたい。数字って国家の起源で、それが自分の中にもあったわけ。でも1があって2があるっていう感覚は、もう国家なんよ。

九龍:なるほど。国家からの解放は、数字からの解放だ。

坂口:今、数字はないから。「書きたいですか?」「絵を描きたいですか?」「歌いたいですか?」ってだけよ。

九龍:自分に問いかけるんだ。ある意味、勤勉だよね。

坂口:俺にとっての一番の休みは絵を描いてる時なの。それは原稿を書いてる時もそうだし、これ以上ない休息だよ。

電話ボックスの上で一服
電話ボックスの上で一服
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リリース情報

坂口恭平『永遠に頭上に』
坂口恭平
『永遠に頭上に』(CD)

2020年9月9日(水)発売
料金:2,200円(税込)
PECF-1181

1. 飛行場
2. 松ばやし
3. 霧
4. 露草
5. TRAIN-TRAIN
6. 海底の修羅

イベント情報

『坂口恭平、ニューアルバム "永遠に頭上に" リリース記念ライブ』

2020年10月22日(木)20:00~
料金:1,500円(税込)
メンバー:坂口恭平(Vo,Gt)、寺尾紗穂(Pf)、厚海義朗(Ba)、菅沼雄太(Dr)
※配信終了後から10月29日 (木) 23:59まで視聴可能

プロフィール

坂口恭平
坂口恭平(さかぐち きょうへい)

1978年、熊本県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。2004年に路上生活者の住居を撮影した写真集『0円ハウス』(リトルモア)を刊行。以降、ルポルタージュ、小説、思想書、画集、料理書など多岐にわたるジャンルの書籍、そして音楽などを発表している。2011年5月10日には、福島第一原子力発電所事故後の政府の対応に疑問を抱き、自ら新政府初代内閣総理大臣を名乗り、新政府を樹立した。躁鬱病であることを公言し、希死念慮に苦しむ人々との対話「いのっちの電話」を自らの携帯電話(090-8106-4666)で続けている。2012年、路上生活者の考察に関して第2回吉阪隆正賞受賞。2014年、『幻年時代』で第35回熊日出版文化賞受賞、『徘徊タクシー』が第27回三島由紀夫賞候補となる。2016年に、『家族の哲学』が第57回熊日文学賞を受賞した。現在は熊本を拠点に活動。2023年に熊本市現代美術館にて個展を開催予定。近刊に『苦しい時は電話して』(講談社現代新書)、『自分の薬をつくる』『cook』(晶文社)、『まとまらない人』(リトルモア)など。

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