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坂口恭平の権力への抵抗。音楽は記憶を思い出させ人を治療する

坂口恭平の権力への抵抗。音楽は記憶を思い出させ人を治療する

坂口恭平『永遠に頭上に』
インタビュー
九龍ジョー
撮影:廣田達也 編集・テキスト:山元翔一(CINRA.NET編集部) 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

世の会社員は、みんな毎日12時間練習みたいな超厳しい野球部の特待生になってる

九龍:図画工作の授業で絵を描いたり、音楽の授業で楽器を触ったり、子供のときのそういう活動って、多くの人は大人になると遠ざかるじゃないですか。歌だって、カラオケのときくらいしか歌わなくなったり。

でも同時に、多くの人が子供のときはもっとラクだったとか、あまり悩みはなかったって言いますよね。それって子供のときのほうが実は小刻みにいろいろな日課があって、案外それがよかったんじゃないかという説を坂口恭平は提唱していますね。

坂口:大人になるとずっと同じことをするでしょ? みんな毎日12時間練習みたいな超厳しい野球部の特待生になっちゃってんの。もう会社って半端ねぇ部活みたいなもんで。

坂口恭平

九龍:子供の頃、ずっと野球してても怒られないのは野球エリートだもんね(笑)。

坂口:そうそう。だから全然日課がこなせない。しかも会社員でいえば、好きでもない部活をやり続けてるわけじゃん。

特待生の中にもコースがいっぱいあるのに、自分が野球部なのか、ボクシング部なのかもわかってない状態で、「特待コース」っていうのだけで一応入ってきました、みたいな人がかなりいる。俺、下手な少年野球の、しかもリトルリーグ系じゃなくて学校の教員がコーチやってる部活だから。

九龍:あまり期待されてないんだ(笑)。でもその「期待されてなさ」はすごく坂口恭平にとって重要というか。

坂口:そうそう、俺にはそこが大事だから。

九龍:そもそも、誰かから頼まれた仕事じゃないのも大きい。勝手に原稿や絵を描いてるだけ。

今回の音楽アルバムだって、別に「アルバム出しましょうよ」って言われたから曲を作ったり、録音したわけじゃないんでしょ?

坂口:「俺がやりたいからやらせてください」ってだけだからさ。そもそも録ったのも2年前だしね。俺の場合、常に原稿5000枚くらい用意しとけばどんな依頼でも返せるっていう、サバイバルテクニックがベースになってる。

九龍:結果として、そのほうが坂口経済圏も回るという。

坂口:やばいのが歌も原稿と同じなんよね。詩と旋律を先に決めておくっていうのはそういうことで。

たとえば<♪夕焼け小焼け~>って歌ったときに思い浮かべる山は全員違ったとしても、薄紫と桃色が混ざった空とか、ちょっと深緑と黒が混ざり合った山の絵はだいたい一緒だって俺は確信してて。最近はパステル画を描いてるから色の感覚がすごくて、その思い浮かべる絵の精度も半端ないものになってる。

何かやり始めるとき、道具は絶対に先人から借りなきゃいけない

九龍:やってることはずっと一貫してるんだけど、ここ最近、理解者の幅がぐっと広がってきたでしょ? 以前はさ、坂口のビジョンを共有してもらうのが、もっと難しかったと思うんだよ。

坂口:難しかった。でもそれが可能になったのは歌のおかげで。

俺、「いのっちの電話」で、その人の悩みを聞く前にその人たちが住んでるところを歌にしちゃうんだけど、「なんで私の住んでるところの葉桜が咲く川沿いを知ってるんですか!?」「この空をなんで知ってるんですか!?」みたいになっちゃって。で、俺は「いや、それ2020年のうちの家の近くの空なんですけど」って言うんだけど。

九龍:それが実際の記憶であれ、身体の記憶であれ、集団の記憶であれ、「みんな忘れてるだけだ、思い出せ」っていうことを坂口恭平はずっとやってきた。土地や住まいや、それこそ国家への問題意識もそのことと関係していたと思うんだけど、最近のパステル画によって、ようやく「あ、わかる」って体験として伝わるようになったというか。

坂口:逆に考えると、いかに人間の記憶っていうものが変容するかってこと。俺はその記憶の可塑性に興奮してるわけよ。つまり記憶って想像してるわけ。マイルス・デイヴィスだって同じ曲を何回も録音するわけじゃん。だけどそれは一つひとつ違う。

左から:坂口恭平、九龍ジョー。パステル画の展覧会『Pastel』会場のオルタナティブスペースTETOKAにて
左から:坂口恭平、九龍ジョー。パステル画の展覧会『Pastel』会場のオルタナティブスペースTETOKAにて

坂口:ギリシャ神話にムネモシュケっていう記憶の女神がいるんだけど、その記憶の女神は、音楽とか文芸の女神たちの母親なわけよ。だから俺は、音楽って記憶の源泉だと思ってるのね。

記憶は簡単に変容するから、今俺がやってることって「音楽の変容」って感覚で。たとえばカバー曲を聴くときも、原曲の記憶が変容していることに無意識なんだよね。

そういう感覚で全部やってるから。俺が「料理で全部説明できる」って言ったのとほぼ同じ感覚で、「音楽で全て説明がつく」。

九龍:「誰も土地は所有できない」とか言われてもあまりピンとこなくても、パステル画とか歌を通じて、何かを感じ取っている人はいるよね。それに、たしかに料理もブレイクスルーだったなと思う。

坂口:そうね。でも何でそれができるようになったかっていうと、生活の不安がなくなったからなんよ。2017~2018年くらいまでは作品として売れなきゃいけないって不安がまだあったんだけど、それが2019年くらいから俺の徳の積み方によって状況が変化してきたのがすごく大きい。

九龍:料理も土井善晴さんが反応するくらいで、その道一筋の人たちから見てもやっぱり何かあるんだろうね。

坂口恭平『COOK』晶文社
坂口恭平『COOK』晶文社(Amazonで見る

坂口:そこはやっぱ俺、模倣のプロだからね。やっぱ天才的なミメーシス(西洋哲学の概念で模倣や再現の意味)だからわかるわけよね(笑)。俺がクワで土を掘り起こすのを見て、先人の農家の方から「俺、こんなに掘れん」って言われたもん。

模倣といっても、ただ格好だけじゃないからね。例えば俺が大事だと思ってるのは、道具は絶対買わないってこと。都会の人間が畑を始めると、みんな洒落た道具を買うじゃない? そうじゃなくて、道具は絶対に先人から借りなきゃいけない。

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リリース情報

『永遠に頭上に』
坂口恭平
『永遠に頭上に』

2020年9月9日(水)発売
料金:2,200円(税込)
PECF-1181

1. 飛行場
2. 松ばやし
3. 霧
4. 露草
5. TRAIN-TRAIN
6. 海底の修羅

プロフィール

坂口恭平
坂口恭平(さかぐち きょうへい)

1978年、熊本県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
2004年に路上生活者の住居を撮影した写真集『0円ハウス』(リトルモア)を刊行。以降、ルポルタージュ、小説、思想書、画集、料理書など多岐にわたるジャンルの書籍、そして音楽などを発表している。2011年5月10日には、福島第一原子力発電所事故後の政府の対応に疑問を抱き、自ら新政府初代内閣総理大臣を名乗り、新政府を樹立した。
躁鬱病であることを公言し、希死念慮に苦しむ人々との対話「いのっちの電話」を自らの携帯電話(090-8106-4666)で続けている。2012年、路上生活者の考察に関して第2回吉阪隆正賞受賞。2014年、『幻年時代』で第35回熊日出版文化賞受賞、『徘徊タクシー』が第27回三島由紀夫賞候補となる。2016年に、『家族の哲学』が第57回熊日文学賞を受賞した。現在は熊本を拠点に活動。2023年に熊本市現代美術館にて個展を開催予定。近刊に『苦しい時は電話して』(講談社現代新書)、『自分の薬をつくる』『cook』(晶文社)、『まとまらない人』(リトルモア)など。

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