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リー・ヨーコが語る『鵞鳥湖の夜』。日常の中の非日常に惹かれる

リー・ヨーコが語る『鵞鳥湖の夜』。日常の中の非日常に惹かれる

『鵞鳥湖の夜』
インタビュー・テキスト
羽佐田瑶子
撮影:リー・ヨーコ(Lee Yoko) 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

2014年に『薄氷の殺人』で『ベルリン国際映画祭』金熊賞と銀熊賞をダブル受賞した中国の新鋭、ディアオ・イーナン監督。5年ぶりの新作『鵞鳥湖の夜』は、奇しくも新型コロナウイルスで知られた都市・武漢で撮影されたノワール・サスペンスだ。

本作について語ってくれたのは武漢出身のモデル、リー・ヨーコ(Lee Yoko)。彼女は日本の東京藝術大学大学院で映画を専攻。日本を中心に活動していたが、旧正月で武漢に帰郷したことをきっかけに、中国での生活を余儀なくされる。コロナ渦も武漢で過ごし、街や文化と対峙した2か月半。現代と遅れが混在する生命力、日常の中にある非日常を描く本作に、中国映画らしさを感じたようだった。外出自粛制限がある中、7月には映画館の営業再開、『上海国際映画祭』も開催され映画シーンの盛り上がりが戻りつつある中国。世界的にも注目を集める中国映画の現在を、リー・ヨーコとたどる。

街の見え方が一変した2020年。力を与えてくれたのは、本と映画だった。

―現在の武漢の様子はいかがですか?

リー:今は、日常が戻ってきました。母は病院で働いているので、第2波の準備に備えているんですが、去年とほとんど変わらない生活をしています。ただ私は最近、上海に引っ越したんですね。しばらく日本に戻れないと思ったし、中国でもモデルの仕事をしたいから、ファッションシーンが盛り上がっている上海ならチャンスがあると思って来ました。

―地元の武漢は、リーさんにとってどんな場所なんでしょう。

リー:昔は好きじゃありませんでした。早くこの街から逃げたかった。私は内向的なタイプなのですが、武漢の人たちは人情味があって、人と人とのつながりが濃くて、距離が近いです。感情が激しいので、喧嘩をしているような話し方の人も多いし、その分、オープンな人が多い街だと思います。それを魅力と感じる人もいるかもしれないけど、私の性格には合わなかったんです。

でも、日本から戻ってきたら、以前まで嫌だったところも全部愛おしく感じるようになりました。戻れない過去を美化しているのかもしれないけど、方言も、屋台でご飯を食べている姿も、タクシーの怖い運転手さんも、今では全部可愛らしいんです。

Lee Yoko(リー・ヨーコ)<br>中国・湖北省生まれ。2014年より東京に拠点を移す。東京藝術大学映像研究科を卒業後は、モデルのほか、ライター、映像ディレクターとしても活動する。
Lee Yoko(リー・ヨーコ)
中国・湖北省生まれ。2014年より東京に拠点を移す。東京藝術大学映像研究科を卒業後は、モデルのほか、ライター、映像ディレクターとしても活動する。

―時間が経過したことで、故郷の違う側面に気づけたんですかね。

リー:今までは、戻っても2週間だけで、しかも親戚や家族と家の中で過ごしていたんですよ。でも、今回はずっと武漢にいたから、外出禁止が解除されてからは街を散策して、みんなの生活を長い期間見ていました。街を歩いていて思ったのは、ジャ・ジャンクー(中国の映画監督)の映画の中に生きているみたいだなということ。

なんて言うのかな……リアリティーがない生活でした。駅や空港には誰もいなくて、ニュースでは毎日何人もの人が亡くなって、街中は絶えず救急車が走っていて。武漢は都市部なんですけど、まだまだボロボロなところがあることに気づいて、ときどき泣きたい気持ちになりました。自分自身は変わっていないはずなのに、なにもかもコロナの前とは変わってしまったんです。でも、街中で歩いているおじいちゃんやおばあちゃんは、全然変わらないんですよ。前は声をかけられるのが怖かったけど、今はふとした交流に「感謝」の気持ちを持つようになって。人間それぞれに、いろいろな生き方があって、人間は豊かだと思うようになりました。

―外出禁止条例が解除されてから、中国の映画シーンはどんな状況ですか。

リー:7月に入ってやっと、映画館の営業が再開しました。でも、30%のお客さんしか入ることができません。『上海国際映画祭』も開催されたんですが、客席が少ないからチケットを手に入れるのがとても難しかったです。チケット発売日にアラームを設定して、PCの前で待って、すぐに買わないといけなかった。諏訪敦彦監督の『風の電話』と、大林宣彦監督の『海辺の映画館ーキネマの玉手箱』を観れたのはすごくうれしかったです。

―それだけ映画を映画館で観たい人が多い、ということですよね?

リー:そうだと思います。半年間、映画館が閉まっていたから、みんな待っていました。映画祭も盛り上がっていて、当日券のチケットに並ぶ列もすごかったし、映画を観終わった後の拍手が鳴り止まなくて、それがすごくて……はい、すごく感動しました。

―リーさん、ウルっときていますね。

リー:中国の映画シーンもこんなに盛り上がっているんだと思って、うれしかったです。

リー・ヨーコ

―日常が当たり前でないことを、私も東日本大震災や今回のことを経験して改めて思いました。そのときに感じたのが、文化は必要なのだろうか、ということ。カルチャーに関わる多くの人が、その問いにぶつかっていると思います。リーさんは、文化とどう対峙されていましたか?

リー:私も、自分の価値を感じられなくなることがありました。だけど、こういう状況だからこそ文化が大事だと思いました。封鎖された2カ月半は、家の中にしかいられなかったから、ほんとうにやることがありません。映画を見るか、本を読んでいました。

映画は1日3~4本、毎日見ていて。世界の映画史を追って、年代別に映画を見たいと昔から思っていたので、この機会に見ることができて楽しかったです。特におもしろかったのは、アニエス・ヴァルダ(ヌーヴェル・ヴァーグを代表するフランスの映画監督、2019年逝去)の作品。後期の作品は見ていたけれど、『5時から7時までのクレオ』や『幸福』など前期の作品も想像力と生命力があって、自分に新しい空気を入れてくれました。ルイス・ブニュエル(スペイン出身の映画監督、1983年逝去)の『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』も、すごくおもしろかった。上流階級に生きていても、欲望はずっと満たされない。煌びやかな生活なんてなくて、人間は思ったよりも弱い生きものだと思いました。あと、エリック・ロメール(ヌーヴェル・ヴァーグを代表するフランスの映画監督、2010年逝去)の「四季の物語」(『春のソナタ』『夏物語』『恋の秋』『冬物語』)も、女性の気持ちに寄り添っている映画で素敵でした。洋服もすごく可愛いんです。戦争映画もたくさん見たんですが、なによりもトルストイの小説『戦争と平和』が自分に力を与えてくれましたね。

「アニエス・ヴァルダ傑作セレクション」予告編

―文化がそのときの自分に力を与えてくれる、という感覚はよくわかります。

リー:私はしばらく住んでいた日本に戻れなくなってしまって、夢も追えなくなって、真っ暗な気持ちだったんですよ。平和は当たり前じゃないし、これから世界はどうなっていくのかもわからない。そうしたモヤモヤした気持ちにヒントをくれたのが、本や映画でした。

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作品情報

『鵞鳥湖の夜』
『鵞鳥湖の夜』

2020年9月25日(金)から新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開

監督・脚本:ディアオ・イーナン
出演:
フー・ゴー
グイ・ルンメイ
リャオ・ファン
レジーナ・ワン
上映時間:111分
配給:ブロードメディア

プロフィール

Lee Yoko(リー・ヨーコ)

中国・湖北省生まれ。2014年より東京に拠点を移す。東京藝術大学映像研究科を卒業後は、モデルのほか、ライター、映像ディレクターとしても活動する。

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