
リ・ファンデが叫ぶ、心の凹み はぐれ者が自分の色を愛せるように
リ・ファンデ『HIRAMEKI』- インタビュー・テキスト
- ドリーミー刑事
- 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
筆者が初めてリ・ファンデの歌声を聴いたのは、下北沢の小さなライブバー。しかし、その日の会場は、彼がLee&Small Mountains名義で発表したアルバム『カーテン・ナイツ』の充実ぶりとは対照的に、観客よりも演者のほうが多いのではというくらいに寂しいものだった。
おそらくこうした光景は、日本中のライブハウスで毎晩のように目撃される、ごくありふれたものなのだろう。しかしこの日聴いたリ・ファンデの歌声は、そんなありふれた話をありふれたままにしておくわけにはいかないと思わせてしまうほど、ソウルフルで、人懐っこくて、瑞々しいポップネスにあふれる特別なものだった。気がつくと私はほとんど衝動的に、「僕の住んでいる街でライブやりませんか? 企画しますから」とライブを終えたばかりの彼に話しかけてしまっていた。ライブイベントの企画なんてやったこともないのに!
あの日から約2年が経つが、リ・ファンデはレーベルにも事務所にも所属せず、一見すると相変わらずひとりぼっちのようである。でも彼の手の中には、ソロ名義としては初のアルバム『HIRAMEKI』がある。これがごくありふれた作品じゃないということは、奇妙礼太郎、SaToAのSachikoとTomoko、そして真舘晴子(The Wisely Brothers)をはじめとした参加ミュージシャン、スタッフの名前を見れば察しがつくし、その予感は完全に的中している。
ここに収められたソウルミュージックをベースにした8曲は、かくもややこしくなってしまった2020年という時代の中で霞んでしまいそうな人間の本来の優しさを照らし出し、音楽が持つ楽しさを私たちの手に取り戻してくれるような、普遍的な力に溢れている。リ・ファンデというひとりのミュージシャンと、彼の楽曲を通じて集まったたくさんの仲間による最高の歌と演奏、そして音と音の間を漂うあたたかい空気までもが、色濃く記録されたこの作品はどのようにして生まれたのか。ゲスト3組のコメントも織り交ぜつつ、リ・ファンデに語ってもらった。
(メイン画像撮影:金本凜太朗)
リ・ファンデという音楽家が、まっすぐで誠実な歌声の奥に秘めた思い
―素晴らしい1stソロアルバムができましたね。『HIRAMEKI』は、「歌のアルバムである」という印象を強く受けたのですが、それはリさん自身の歌声はもちろん、ゲスト(奇妙礼太郎、真舘晴子、SaToA)も含めて、みんなの歌声がすごくまっすぐ心の深いところまで伝わってきます。こういう作品に出会えることはなかなかあることじゃないと思うんです。
リ:ありがとうございます。「ROSE RECORDS」(曽我部恵一の主宰レーベル)から出した前作『カーテン・ナイツ』(2017年)は大学生の頃からやっていたバンド名(Lee&Small Mountains)でリリースしたんですが、今回はリ・ファンデというソロ名義になったので、それはより歌が前にくるようになった要因かもしれないですね。
あと、僕はデモテープをまったく作らないんですよ。弾き語りをバンドメンバーに聴かせて、そこを起点にセッションで音楽を作っていくというやり方なんです。だから軸になるのが僕の歌ということになるし、一緒にやってるメンバーとも演奏する期間が長くなってきたので、より僕の歌に寄り添って演奏してくれるようになったということだと思います。

リ・ファンデ / 撮影:金本凜太朗
2015年11月3日にROSE RECORDSからLee&Small Mountainsとして『Teleport City』を7inch+CDフォーマットにてリリース。2017年1月20日、デビューフルアルバム『カーテン・ナイツ』を発売。2019年夏からはリ・ファンデ名義で活動をスタート。2020年10月ソロとしてファーストアルバム『HIRAMEKI』をリリース。
―収録された全8曲それぞれに短編小説のような個性と、多くの人に届くポップソングとしての風通しのよさを感じます。その一方で、この作品が「ただのよい曲」ということに留まらずに、聴き手の心の中で特別な光を放つ理由は、リさん自身が内側に秘めている情熱や誠実さが歌声の向こう側に感じられるからだと思うんですよね。
リ:この作品を通じて、自分という存在がいるということに気づいてほしいというか、日本にもいろんな人がいるんだよってことが伝わるといいなと僕は思っているんです。
たとえば、僕のような在日(韓国・朝鮮人)もいるし、いろいろな境遇で育っている人がいる。アーティストとしての名義をバンドから「リ・ファンデ」というソロ名義にしたのも、僕がいい音楽を作ることによって、ちょっとでも今の社会の嫌な感じがなくなるといいなと思ったからでもあって。だから、「いい作品を作ってそれで終わり」じゃなくて、できるだけたくさんの人にちゃんと届けたいんです。
リ・ファンデ“おかしなふたり feat.Haruko Madachi”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)
リ:とはいえ、別に政治の話がしたいわけじゃないんですよ。ただ、こういう境遇で育った人間がいることを音楽を通じて知ってもらいたい。それによって、「自分はマイノリティーだから」という理由で表に立つことをためらっている人が一歩踏み出すきっかけになればいいなとは思っていますね。
―その意味ではこれはまさに、リ・ファンデというひとりの人間が、たくさんのミュージシャン、シンガーとともに、それぞれの多様性を活かして作り上げた作品ですよね。
リ:誰かひとりの強烈な個性でディレクションする作品の作り方もあると思うんです。でも僕は、いろいろなバックグラウンドといろいろな得意技を持つ人たちが、それぞれの個性を出し合ってひとつのものを生み出すことの素晴らしさを打ち出していきたいんですよね。
リリース情報

- リ・ファンデ
『HIRAMEKI』(CD) -
2020年10月14日(水)発売
価格:2,200円(税込)
LEEH-0021. シャイニング
2. Whisper(feat.奇妙礼太郎)
3. おかしなふたり(feat.Haruko Madachi)
4. すべ
5. chap! chap!
6. Believer
7. ずっと君のもの
8. Black
イベント情報
- 『Tears Rock Show Ueno編』
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2020年10月18日(日)
会場:東京都 YUKUIDO工房
出演:リ・ファンデ / 曽我部恵一
- 『Tears Rock Show』
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2020年11月21日(土)
会場:兵庫県 神戸 旧グッゲンハイム邸
出演:リ・ファンデ / 奇妙礼太郎2020年11月22日(日)
会場:愛知県 名古屋 金山ブラジルコーヒー
出演:リ・ファンデ / 奇妙礼太郎2020年11月28日(土)
会場:東京都 青山月見ル君想フ
出演:リ・ファンデ(band set)
プロフィール

- リ・ファンデ
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2015年11月3日にROSE RECORDSからLee&Small Mountainsとして『Teleport City』を7inch+CDフォーマットにてリリース。2017年1月20日、デビューフルアルバム『カーテン・ナイツ』を発売。同年2月26日、下北沢THREEにて、曽我部恵一を招いて開催されたレコ発はソールドアウト。10月にはTSUTAYA O-nestで初のワンマンライブを行った。2018年は自主企画イベント『Love can move mountain!』を精力的に展開。SaToA、いーはとーゔ、The Wisely Brothers、SCOOBIE DO、奇妙礼太郎、シアターブルックなどを招き、下北沢を中心に活動。2019年夏からはリ・ファンデ名義で活動をスタート。2020年10月ソロとしてファーストアルバム『HIRAMEKI』をリリース。