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浅野いにおが描く「普通の人」。ネガティブな感情への優しい視点

浅野いにおが描く「普通の人」。ネガティブな感情への優しい視点

LIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」
インタビュー・テキスト
榎並紀行(やじろべえ)
撮影:寺内暁 編集:矢澤拓(CINRA.NET編集部)

漫画家・浅野いにお。初の連載漫画『素晴らしい世界』から最新作『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』まで、一貫して日常をベースにした漫画を描いてきた。浅野が紡ぐのは、半径数メートルの世界で繰り広げられる物語。そこに、いかにも主人公然としたヒーローは登場しない。出てくるのは、言い知れぬ不安や怒り、あるいは卑屈さやドス黒い陰を抱えた「普通の人々」だ。

そうした人間の複雑な内面を描くにあたり、大きな役割を果たしているのが緻密で美しい背景。見落とされがちな細部までの表現が、言葉よりも雄弁にキャラクターの心情と、その場所の質感を映し出している。

空間を豊かにするLIXILの壁材商品「エコカラット」のプロジェクト、LIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」とCINRA.NETのコラボレーションにより、空間と人との関係にフォーカスし、インタビューを行っていくこの連載。第三回目となる今回は、漫画の背景描写に対するこだわり、さらには漫画家としてのバックボーンに至るまで、広い意味での「背景」をテーマにお話を伺った。

浅野いにお(あさの いにお)<br>1980年生まれ、茨城県出身。2001年『宇宙からコンニチワ』で第1回GX新人賞に入賞。主な作品に『素晴らしい世界』『ソラニン』『おやすみプンプン』など。現在「週刊ビッグコミックスピリッツ」で『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』を連載中。
浅野いにお(あさの いにお)
1980年生まれ、茨城県出身。2001年『宇宙からコンニチワ』で第1回GX新人賞に入賞。主な作品に『素晴らしい世界』『ソラニン』『おやすみプンプン』など。現在「週刊ビッグコミックスピリッツ」で『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』を連載中。

浅野いにおの「背景」。緻密な描写によって変化する、キャラクターの人物像

―浅野さんの作品には、それぞれに印象的な背景が登場しますが、背景というのは浅野さんの漫画にとってどういうものなのでしょうか?

浅野:漫画というのはとにかく「省略」と「記号化」を巧みに使い分けて作るものなんですね。登場人物の人となりを全部説明するわけにはいかないので、なるべく言葉じゃないところで説明しなきゃいけないんです。この人は何歳くらいなのか想像できるようなセリフを入れておくのと同じように、景色や背景で、この人はどういう文化圏で生活している人なのかわかるようにしていますね。

例えば東京の街に対するイメージって、ある程度共有されているので、実在する街並みをリアルに描くことで、どんな文化圏で生活しているキャラクターなのか想像しやすい。同じ東京でも、どの区に住んでいるかによって、キャラクターの性格まで変わってきます。街だけじゃなく、電車の沿線ごとでもカラーが異なりますよね。小田急線には小田急線の、中央線には中央線のカラーがあるから、描く物語によって舞台を使い分けています。リアリティが生まれるだけでなく、僕自身もそのほうが描いていて楽しいので。

『素晴らしい世界 新装完全版』より
『素晴らしい世界 新装完全版』より

―1つの風景を出発点にして、物語を想起することもあるのでしょうか?

浅野:そのパターンもありますね。例えば、住宅地ばかり描いていると、たまに工場地帯の風景を描きたくなる。じゃあ、工場地帯ならどういうストーリーが向いているかな? と、そういうアプローチをすることもあります。

「この人、おしゃれに気を使ってるけど、最近ゴキブリ出たんだな」

―街の情景だけでなく、キャラクターが暮らしている部屋の、「描く必要があるのか?」と思えるような電化製品の配線なども仔細に描き込まれていますよね。

浅野:風景と同じように、部屋が整頓されているか、散らかっているかで性格ってなんとなく分かりますよね。そこに置いてあるもので大体の年齢や趣味嗜好も想像できると思います。それをわざわざモノローグで、「この人は何歳で~」とか「ズボラな性格で~」なんて書くのは野暮なんですよね。

漫画はページ数が限られているので、全部を説明するわけにはいきません。特に読み切りの短編はとにかく無駄なものを削ぎ落としていかないといけない。主人公の出自とか年齢とか、極端にいえば名前すらも邪魔なんですよね。

浅野いにお

―それを言葉で説明するのではなく、背景に情報やメッセージを盛り込み、読者の想像に委ねると。

浅野:はい。例えばおしゃれな部屋の片隅にバルサンが置いてあったりしたら、「この人、おしゃれに気を使ってるけど、最近ゴキブリ出たんだな」とか、エピソードとして描かれていない部分まで想像できると思うんです。「え? この人の部屋にこんなの置いてあるんだ」といった細部や見落としそうなものにこそその部屋の質感が現れますし、それがリアリティにつながると思っているので。

『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』で素材として使用されている木魚
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』で素材として使用されている木魚

―そうした「見落としそうなもの」へのこだわりが、人物や作品全体のリアルな質感を生み出しているんですね。

浅野:いくらリアルな漫画でも、基本的にはフィクションなんですよね。つまりウソなんです。そこでディテールを疎かにすると、ウソが増えてしまう。そうすると、作品そのものがぶれてしまう気がするんですよ。ウソの物語だからこそ、背景は正確に描きたい。生活感や空気の質感といったリアリティは、そこからしか生まれないと思っています。

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プロジェクト情報

LIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」

壁は間取りを作るためのものだけではなく、空間を作り、空気感を彩る大切な存在。その中でインテリアや照明が溶け込み、人へのインスピレーションを与えてくれる。
LIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」は、LIXILとCINRA.NETがコラボし、7名のアーティストにインタビューを行う連載企画。その人の価値観を反映する空間とクリエイティビティについてお話を伺います。

プロフィール

浅野いにお(あさの いにお)

1980年生まれ、茨城県出身。2001年『宇宙からコンニチワ』で第1回GX新人賞に入賞。主な作品に『素晴らしい世界』『ソラニン』『おやすみプンプン』など。現在「週刊ビッグコミックスピリッツ」で『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』を連載中。

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