インタビュー

『VIDEOPHOBIA』宮崎大祐が語る、社会に雁字搦めにされる恐怖

『VIDEOPHOBIA』宮崎大祐が語る、社会に雁字搦めにされる恐怖

インタビュー・テキスト
村尾泰郎
撮影:八田政玄 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

『大和(カリフォルニア)』『TOURISM』と作品を出す度に強烈な映像世界を作り上げて、国内外で注目を集めてきた宮崎大祐監督。最新作『VIDEOPOBIA』は大阪を舞台にした異色のスリラーだ。女優志望の愛は、一夜を共にした謎の男に情事の映像をネットにあげられてしまう。モノクロの映像で捉えた大阪のコリアンタウン、鶴橋の不思議な風景。そして、DJ BAKUが初めて挑んだサントラが、観る者を迷宮のような物語に引き込んでいく。そして、そこから浮かび上がる日本社会のリアル。この物語に描かれた恐怖とは一体なんなのか。映画でしか撮れないものを追い求め、リスペクトするミュージシャンの背中を追いかけて映画を撮り続けてきたという宮崎監督に話を訊いた。

僕は「いつか世界に境目がなくなればいいのに」ってまじめに思っています。

―今回の映画は、大阪というロケーションが重要な役割を果たしています。主に鶴橋~桃谷周辺で撮影されたそうですが、その土地のどんなところに惹かれたのでしょうか。

宮崎:もともと大阪にはよく行っていて、鶴橋や桃谷には、東京には絶対ない景色があるのを知っていたんです。今回、やりたかったことのひとつに「表層はどれだけ本質と関係があるのかを考える」ということがあって、鶴橋周辺を舞台にすれば、そのテーマにリンクするんじゃないかと思ったんですよね。あの辺りは古い日本と新しい日本が混在していて、ギャップがすごいというか時代感が全くない。そこが面白いと思ったんです。

宮崎大祐(みやざき だいすけ)<br>1980年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、映画美学校を経て、黒沢清監督作品など商業映画の現場にフリーの助監督として参加しはじめる。長編第二作『大和(カリフォルニア)』はいくつもの国際映画祭で上映された。2019年にシンガポール国際映画祭とシンガポール・アートサイエンスミュージアムの共同製作である『TOURISM』を全国公開。最新作は大阪を舞台にしたデジタルスリラー『VIDEOPHOBIA』。
宮崎大祐(みやざき だいすけ)
1980年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、映画美学校を経て、黒沢清監督作品など商業映画の現場にフリーの助監督として参加しはじめる。長編第二作『大和(カリフォルニア)』はいくつもの国際映画祭で上映された。2019年にシンガポール国際映画祭とシンガポール・アートサイエンスミュージアムの共同製作である『TOURISM』を全国公開。最新作は大阪を舞台にしたデジタルスリラー『VIDEOPHOBIA』。

―確かに独特の表層=風景を持った土地ですよね。ヒロインの愛の実家も独特な感じで。

宮崎:今回、プロデューサーの友人の方に桃谷の古い家をいろいろ紹介してもらったんです。その方は桃谷の古い家を一括管理されているんですけど、なかなかよい家が見つからなくて。それで最後に「私が住んでいる家も見ます?」って案内してくれたのが、あの家だったんです。すごく不思議な家なんですよ。お風呂場で座ってしかシャワーを浴びられないとか、トイレが透けて見えるからカーテンを閉めないといけないとか、いろんなルールがあって(笑)。

―家の周囲に神社とかでよく見る紙垂(しで)が飾ってあるじゃないですか。あれは演出ですか?

宮崎:もともと飾ってあったんです。家の周りが倉だったり、真裏が神社だったりしたんで宗教的な場所なのかもしれないですね。助監督から(紙垂を)「邪魔だから外しますか?」って訊かれたんですけど、「えっ、なんで?」って。せっかくいい感じのものがぶら下がってるのに。それに外しちゃったら祟りとかあるかもしれないじゃないですか(笑)。

あらすじ:東京で女優になるという夢に破れ、故郷である大阪のコリアンタウンに帰った29歳の愛。夢を諦めきれずに演技のワークショップに通っている愛が、クラブで出会った男と一晩限りの関係を持ち、その数日後に夜の情事を撮影したと思われる動画がネット上に流出していることに気づく。<br>『VIDEOPHOBIA』ビジュアル ©「VIDEOPHOBIA」製作委員会
あらすじ:東京で女優になるという夢に破れ、故郷である大阪のコリアンタウンに帰った29歳の愛。夢を諦めきれずに演技のワークショップに通っている愛が、クラブで出会った男と一晩限りの関係を持ち、その数日後に夜の情事を撮影したと思われる動画がネット上に流出していることに気づく。
『VIDEOPHOBIA』ビジュアル ©「VIDEOPHOBIA」製作委員会(公式サイトで見る

―そう思っちゃいますよね(笑)。監督の作品はマージナル(境界 / 辺境)な場所が舞台になることが多いように思いますが、今回は特にそうですね。古い日本と新しい日本、日本と韓国が入り混じった街で、さらに愛の家は異界と接しているような雰囲気が漂よっている。

宮崎:辺境というか、境目がゴニョゴニョしながら拡張していく感じが好きなんです。境目にいる人たちは境目に近づき過ぎているがゆえに「境目ってないよね」って思っている気がするんです。小学生みたいなセリフですけど、僕は「いつか世界に境目がなくなればいいのに」とかってまじめに思っていたりするので、今回の舞台も境目にしたのかもしれないですね。

―境界というのは中心から見てそう思うわけで、境界に住む人にとってはそこが中心ですもんね。この映画では土地の魅力を引き出しながらモノクロの映像にしたことで、また別の空間に作り変えているような印象を受けました。なぜ、モノクロを選んだのでしょうか。

宮崎:大阪といえば「水の都」じゃないですか。水を撮るのはカラーより白黒のほうが絶対映えるんです。あと、「デジタルで白黒を撮るというのはどういうことなのか?」っていう問題をずっと考えていて。カメラが発達していく初期段階の白黒と、最新のデジタルであえて白黒にするのとでは、白黒を使う意味が違うと思うんです。デジタルの白黒は作られたものであり、ある意味、ニセモノじゃないですか。でも、そこに本物が写ってしまうこともあるのかも知れない。その実験をしたかったんです。

『VIDEOPHOBIA』場面写真 / ©「VIDEOPHOBIA」製作委員会
『VIDEOPHOBIA』場面写真 / ©「VIDEOPHOBIA」製作委員会

―では、色目は細かく調整して?

宮崎:かなりやりました。ペドロ・コスタの映画で色調整をしているゴンサロ・フェレイラっていうカラーリストに依頼したんですけど、まず、ロケ地で撮った白黒写真をポルトガルのゴンサロのスタジオに送ったんです。こんな感じになるって。ゴンサロは原一男(日本の映画監督、作品に『ゆきゆきて、神軍』など)と森山大道(日本の写真家)が好きで、「そういう色でいい?」って言われたので、それでお願いしました。だから、これはゴンサロが思い描く日本の白黒なんですよね。でも、ポルトガル産なので微妙にヨーロッパっぽい質感もあって。

―そのせいか、いろんなモノクロ映画の記憶が浮かんできますね。

宮崎:そうですね。たぶん、自分の映画史的な記憶の層を行き来していて。日本の白黒映画とかヨーロッパの白黒映画とか、「白黒映画と言えば」という映像をパロディ的に取り入れつつ、そこに大阪という街が持つ歴史を掛け合わせることで独特の世界観が生まれたんじゃないかと思います。

宮崎大祐
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作品情報

『VIDEOPHOBIA』
『VIDEOPHOBIA』

2020年10月24日(土)からK's cinema、11月7日(土)から池袋シネマ・ロサ、第七藝術劇場で公開

監督・脚本:宮崎大祐
音楽:BAKU(KAIKOO)
製作:DEEP END PICTURES、十三・シアター・セブン
出演:
廣田朋菜
忍成修吾
芦那すみれ
梅田誠弘
サヘル・ローズ
辰寿広美
森田亜紀
上映時間:88分
配給・宣伝:boid、VOICE OF GHOST

プロフィール

宮崎大祐(みやざき だいすけ)

1980年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、映画美学校を経て、黒沢清監督作品など商業映画の現場にフリーの助監督として参加しはじめる。長編第二作『大和(カリフォルニア)』はいくつもの国際映画祭で上映された。2019年にシンガポール国際映画祭とシンガポール・アートサイエンスミュージアムの共同製作である『TOURISM』を全国公開。最新作は大阪を舞台にしたデジタル・スリラー『VIDEOPHOBIA』。

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