インタビュー

小森はるか監督は、映像で忘れられがちな人の営みを語り継ぐ

小森はるか監督は、映像で忘れられがちな人の営みを語り継ぐ

インタビュー・テキスト
木村奈緒
撮影:大畑陽子 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)
『空に聞く』場面写真 / ©KOMORI HARUKA
『空に聞く』場面写真 / ©KOMORI HARUKA

記録映像が目指すのは、表立って見えているだけでは成り立っていない世界の声を、語り継いでいくこと

『息の跡』『空に聞く』だけでなく、瀬尾夏美との作品や、地域と協働して記録を受け渡すための表現をつくる組織「一般社団法人 NOOK(のおく)」の設立など、一貫して記録し、表現することを続けてきた小森。震災に限らず、人が体験を語り、聞き、伝えることは人間の営みにおいてどのような意味を持つのだろうか。

小森:いま見えているものだけで世界が成り立ってないというか、失われた人たちの思いとか、その人たちのことを考え続けている人の思いとか、そこに見えているものだけじゃない人たちの意思を、知らない者なりに受け取って伝えていきたいんです。私は当事者の立場ではなくて、そこにいない人たちの声を実際には聞けないけれども、そういう営みがあることを伝えていきたいと思っています。それがなぜ人にとって大事なのかは言い切れないんですけど……でも、たぶんそうやって忘れないように人間は生きてきたんだろうなって思うんです。今はいろんな形で記録したり忘れないようにすることができるけど、それでも忘れてしまう。自分は映像を使って、自分だけじゃなく、何十年後かの人が「これを知れてよかった」って気づけるようなものを残しておきたくて、自分の映像が「人が聞いて語り継いでいく」行為の一端になったらいいなと思ってやっています。

小森はるか

震災前は、劇映画を志していたという小森。映画を作ろうとすればするほど、本来描きたかったものや撮りたかったものが削がれてしまい「全然うまくいかなかった」と振り返る。震災は、小森に映像の持つ「記録」という側面に目を向けさせるとともに、佐藤さんや阿部さんを始めとする人びととの出会いを通じて、小森の表現者としての姿勢に大きな影響を与えた。

小森:陸前高田で生まれ育って、そこで津波を経験され、この先も暮らし続けていく人の中で、自分で伝え方を発明しちゃうというか、「語り」を生み出す人の共通点はすごくある気がします。佐藤さんはそれが英語の語りだったけど、阿部さんは自分の声でした。伝えることの切実さから生まれてきた発明みたいなものに、表現や芸術を勉強してきた身として敵わないと思いますし、むしろその発明のほうが根源的なもので、そういうものの先に、自分がやっている映像表現とかがあるのかなと感じます。

小森はるか
『空に聞く』予告編

震災から10年という歳月の中で、陸前高田では嵩上げ工事が進み、かつての町のうえにできた新たな町での暮らしが日々息づいている。その月日は、小森が自身の映像表現という発明を、試行錯誤しながら自らの技術として磨いてきた日々でもある。

小森:陸前高田を見続けるのは一生の仕事だと思っているので、スパンは開くかもしれないけど、ずっと関わろうと思っています。一方で、陸前高田で培った目を、他の地域や他の人を記録することに生かしたいという思いもあるので、今後は別の土地でも制作していこうと思っています。

あと、撮影を自分ではなく別の人にお願いするとか、自分以外の人の身体を介して記録していく方法を考えたいなって。自分で撮れるようになっちゃうと、やっぱりダメだなって思うんですよ。自分で撮ることで定点的なよさはあるかもしれないけど、そうじゃない視点で映るものも見てみたいんです。これまで、そこにいる自分でなければ撮れないものを撮ることにこだわってきたからこそ、余計にそう思うんでしょうけど、色々手放していく方法を模索してみたいなと。震災から10年という時間の経過もあるのかもしれませんが、もう少し自分を透明にしていこうという気持ちがあります。

語り、聞き、伝え、それらを映像に残す──見えないものと、ともに在るために。どんなに大きな喪失があっても絶えることなく続いてきた人間の根源的な営みを、『空に聞く』は鮮やかに映し出している。

『空に聞く』場面写真 / ©KOMORI HARUKA
『空に聞く』場面写真 / ©KOMORI HARUKA
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作品情報

『空に聞く』
『空に聞く』

2020年11月21日(土)より、東京 ポレポレ東中野にて公開、ほか全国順次公開

監督・撮影・編集:小森はるか
撮影・編集・録音・整音:福原悠介
特別協力:瀬尾夏美
企画:愛知芸術文化センター 制作:愛知県美術館
エグゼクティブ・プロデューサー:越後谷卓司
配給:東風

プロフィール

小森はるか(こもり はるか)

1989年静岡県生まれ。映像作家。映画美学校12期フィクション初等科修了。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業、同大学院修士課程修了。2011年に、ボランティアとして東北沿岸地域を訪れたことをきっかけに、画家で作家の瀬尾夏美と共にアートユニット「小森はるか+瀬尾夏美」での活動を開始。翌2012年、岩手県陸前高田市に拠点を移し、人々の語り、暮らし、風景の記録をテーマに制作を続ける。2015年、仙台に拠点を移し、東北で活動する仲間とともに記録を受け渡すための表現をつくる組織「一般社団法人NOOK」を設立。2015年、長編映画第一作となる『息の跡』が山形国際ドキュメンタリー映画祭2015で上映され、2017年に劇場公開される。最新作は、2020年11月公開の『空に聞く』。

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