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若林恵に聞く 新しい民主主義とパラレルなFabの現在地。DIYの行方

若林恵に聞く 新しい民主主義とパラレルなFabの現在地。DIYの行方

『YouFab』
インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:江森康之 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

人は今、ものを作ることで、世界に何をつけ加えられるだろうか? 手を動かすことで、どのように自他の認識を変容させることができるだろう? その変化の波紋は、たとえ微かなものであっても、現代社会のコアに到達するだろうか?

株式会社ロフトワークとFabCafe Globalが主催・運営するグローバルアワード『YouFab Global Creative Awards 2020(『YouFab 2020』)』の結果が、先日発表された。今回のテーマは、「Contactless(by default)」。すなわち、「(前提としての)非接触」だ。

2018年から務めてきた審査委員長の任を今回で終えた、編集者にしてコンテンツレーベル黒鳥社主宰、若林恵。同年から『YouFab』のディレクターを務めるアーティストの石塚千晃。2人の対話から、「Fab(ものづくり)」の現在地点を考える。

左から<br>石塚千晃(いしづか ちあき)<br>2015年にIAMAS卒業後、産学連携のプロジェクトマネジメントを経て2016年12月より、ロフトワークに参加。テクノロジーにおけるオープンな議論と実験の場を育てている。<br><br>若林恵(わかばやし けい)<br>1971年生まれ。編集者。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。
左から
石塚千晃(いしづか ちあき)
2015年にIAMAS卒業後、産学連携のプロジェクトマネジメントを経て2016年12月より、ロフトワークに参加。テクノロジーにおけるオープンな議論と実験の場を育てている。

若林恵(わかばやし けい)
1971年生まれ。編集者。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。

私企業が開催するアワードの意義はどこにあるか?

―『YouFab 2020』の結果が発表され、グランプリには、ロンドン在住のデザイナー、スカーレット・ヤンによる『Decomposition of Materiality』が選出されました。「マテリアリティの分解」を意味するプロジェクトとのことですが、どんな内容なのでしょう。

石塚:グランプリ受賞作品は、3Dテクノロジーを用いて形成したテキスタイルの鋳型に、藻の抽出物とカイコの繭からとれるタンパク質を使った寒天のようなものを流し込んで固めた衣服です。

念頭に置かれているのは、ファッション界におけるサステナビリティの議論です。型を作ったり、布を裁断したりすればゴミが出るわけですが、そうした廃棄物を最小限に抑えることができる。また、このプロジェクトで作られたドレスはアルカリ性の水に24時間以内で完全分解されるということですから、海水でも分解されるんです。

『YouFab 2020』グランプリ:『Decomposition of Materiality』Scarlett Yang / ある条件にさらされると、成長、分解、形態の変化を起こす生体材料によるエコシステムのシュミレーションを思索(スペキュレーション)するプロジェクト。自然と技術両方の力を利用して、自然界の生命体の美しさを表現しており、物質がたどる生涯というコンセプトを通じて見る者に持続性のあるファッションの新たな方向性を問題提起している
『YouFab 2020』グランプリ:『Decomposition of Materiality』Scarlett Yang / ある条件にさらされると、成長、分解、形態の変化を起こす生体材料によるエコシステムのシュミレーションを思索(スペキュレーション)するプロジェクト。自然と技術両方の力を利用して、自然界の生命体の美しさを表現しており、物質がたどる生涯というコンセプトを通じて見る者に持続性のあるファッションの新たな方向性を問題提起している(受賞作品の詳細情報を見る

若林:今回の審査は、オンラインで行ったんですけど、早い段階で、「これは技術的には可能であるらしく、すごいね」と審査員の皆さんたちと話題になったんです。そこで、「(前提としての)非接触」というテーマとどう紐づけられるか、という話になる。

審査における純粋な美的水準なんて存在しないけれど、でもプライオリティをつけるためには、審査の場で1つのロジックが通らなきゃいけない。今回は審査員の1人であるスティーブがその説明を見事にしてくれて、みんなが感心して意気投合したんですよ。

『YouFab 2020』審査員(若林恵を除く) / 左からカンピレ・バハナ(DJ / Nyege Nyege collective)、スティーブ・ティドボール(vollebak CEO / 共同創業者)、文化人類学者の小川さやか(立命館大学先端総合学術研究科教授)
『YouFab 2020』審査員(若林恵を除く) / 左からカンピレ・バハナ(DJ / Nyege Nyege collective)、スティーブ・ティドボール(vollebak CEO / 共同創業者)、文化人類学者の小川さやか(立命館大学先端総合学術研究科教授)

『YouFab 2020』Webサイトには審査員たちの総評も掲載されている
『YouFab 2020』Webサイトには審査員たちの総評も掲載されている(サイトで見る

―どんなロジックだったんですか?

若林:ウイルスがどう伝播するかというと、もちろん人も媒介するわけだけれど、「もの」も媒体にするだろう、と。パンデミックがもたらした大きな影響の1つは、グローバルに張り巡らされたサプライチェーン自体が、ウイルスも運んでしまうことになった、ということですよね。

サプライチェーンが延伸していくことによって、どんどん脆弱性が増し、リスクが高まってしまう。しかもパンデミックは全世界的に安全な場所なんてないから、工場をあちこちに移して回るなんていうこともできず、サプライチェーンの大きな転換が迫られている。

若林恵
若林恵

若林:一方で、テクノロジーと共に語られてきたFabの理念って、情報だけやりとりして、「もの」はローカルで作ることができる、という話だったわけですよね。

―2012年、アワード初開催時のウェブサイトでは、アメリカ生まれのFabの概念がこう説明されています。「そもそもFabの魅力は、アトム(形あるもの)をビット(デジタルデータ)に変換し、どこへでも届けられること」。

若林:パンデミックの中で、「ローカルで製造される」というFabの原理から見ると、今回グランプリに選ばれたプロジェクトは「Contactless(by default)」というテーマに合致しているんじゃないか、という話になったんです。

石塚:今回の募集に当たって、若林さんが決めたテーマをベースにはしつつ、かといって無理にそのテーマに引っ張られることもなく。審査員の方々が住んでいる場所やバッググラウンドも異なる中で意見を出し合っていく、というプロセスだったと思います。

石塚千晃
石塚千晃

若林:どんなロジックでもいいというわけではなくて、「このロジックの立ち方なら、今年の状況に適したものだ」という観点があるんですよね。作品の純粋な完成度を重視するというよりは……。

―アワードのロジックに、時代に対するアカウンタビリティ(説明責任)が伴うということですよね。

若林:そうそう、そこにアワードの存在意義があると思う。そのうえで、こういう作品やプロジェクトをエンドース(支援)するんですよ、というメッセージになることが希望だな、と感じるわけです。

若林恵
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アワード情報

『YouFab Global Creative Awards』

『YouFab』では環境、社会、経済、政治など、現在私たちの世界で実際に起きている要素とクリエイティビティが交差する作品に注目しています。今ある常識に挑戦する世界中のクリエーターを対象とし、好奇心や想像力を刺激するような、「ハックされた」新しいアイデアに期待しています。

2020年 スペシャルパートナー:JR東日本(特別賞 / NewHere賞主催)
スポンサー:公益財団法人江副記念リクルート財団
企画運営:株式会社ロフトワーク 
主催:FabCafe Global 
パートナー:AWRD

プロフィール

若林恵(わかばやし けい)

1971年生まれ。編集者。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社入社、『月刊太陽』編集部所属。2000年にフリー編集者として独立。以後、雑誌、書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。

石塚千晃(いしづか ちあき)

2015年にIAMAS卒業後、産学連携のプロジェクトマネジメントを経て2016年12月より、ロフトワークに参加。クリエイティブディレクターとして空間系、アワード系の案件を担当しながら、メディアアートやバイオアート、ハッカースペース、サイエンスアカデミック、テック系企業やベンチャーなど様々なコミュニティとの接点を構築。テクノロジーにおけるオープンな議論と実験の場を育てている。美大在籍中から、生物と人間との関係性や歴史をテーマに作品制作も続けている。

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