インタビュー

GEZANマヒト×Essential Store田上 人を繋ぐ「モノ」の力

GEZANマヒト×Essential Store田上 人を繋ぐ「モノ」の力

テキスト・編集
矢島大地
撮影:水谷太郎

「特別」にしろ「オリジナリティ」にしろ、すべては概念の刷り込み。そこを全部フラットにすることが自分を自由にしてくれるし、それこそが自分やから。(田上)

田上:大変な時代になったと思うし、いろんなものが変わってた感覚は現実あるんやけど……でも僕は自分の直感しか信じてこなかったから、ブレなかったんですよ。もちろん喰らってる人もたくさんいるから、自分のことを大きな声で言うつもりはないんやけど。でも、今の社会の混乱にしても、自然のひとつの流れとしか受け止めてなくてね。コロナにかからないようには意識してるけど……個々の役割をみんなが実感した上で一致団結する、そのスタートラインにようやく立っただけっていう感覚がある。

自分にできることに没頭して、結局それが人に活力を与えることになって、個々の活力が束ねられた瞬間に次の時代への一致団結になるんだよ。大変だね、社会がおかしいよねっていう感覚だけで団結するんじゃなくて、今こそ一人ひとりが自分の感覚と役割を見つけ出せるチャンスやと思う。一人ひとりが強く立って団結すれば、それほど強いものはないからね。

マヒト:前回の新井英樹さんとの対談(関連記事:GEZANマヒト×新井英樹対談。絶望が前提になった時代の生き抜き方)でも話したけど、絶望とどう付き合って生きるかが前提になってくるじゃないですか。コントロールできないことがたくさんあるっていうことを、これほど世界中の人々が同時に感じる機会もなかったわけですし。……もちろんコロナなんてないほうがよかったし、音楽なんてやってる場合かよってさらに言われるのかもしれないし、もっとヤバいウイルスが蔓延するかもしれない。だけど、どんなに絶望的な状況でも、その時代と付き合いながらも幸せになっていいんだよ、好きなものを好きと言って自分だけの価値を見出していいんだよって言えることが、その人をその人自身として生かす鍵になっていくと思ってて。

社会が権利を保証して守ってくれるのは当たり前だっていうリベラルの人達も真っ当だけど、それ以前に、自分の幸せくらいは自分で引き寄せるセンスを持つべきで。Essential Storeは、そのセンスを一人ひとりに試してるんだと思う。

田上:笑いながら時代と付き合っていくには、コツってあると思うねん。僕の場合は、モノを買い付けることでコツを得てきたと思っていて。そのコツをみんなにお裾分けできたら面白いなっていうのはシンプルにモチベーションになってるよね。

マヒト:たとえば……Essential Storeにはスクラップブックがたくさんあるじゃないですか。あれがすごく面白いというか、人の息遣いを感じられて感動するんですよ。

田上:各年代の活動家とかが、当時街で撒いてたチラシとかが全部綺麗に残ってるからね。いわばスクラップブックって自分だけのもので、人に見せたいものではないでしょ。だからこそ、その人の息遣いとか存在がくっきりと残るのよね。

マヒト:もちろん自分の作品が芸術として評価されるのは嬉しいことだけど……でも誰に見せるでもない日記とか、誰に見せるでもないブログとかの価値も絶対にあって。ちゃんとその場所に存在したんだっていうこと、その息遣いと記憶が感じられるのはやっぱり美しいことだし、俺はその美しさともっと出会いたい。これをどんな気持ちで作ったんだろうって想像すること……その行為こそが、人の存在を認めるっていうことだと思うから。

―それは、アイデンティティに迷う人が多い今に対しても思うことですか。

マヒト:俺個人は、自分とは何者かって考えたことがないんですよ。だから、アイデンティティクライシスみたいなものが叫ばれる今の状況は正直よくわからないんだけどね。たとえば人を人として判別する情報として顔とか声があるわけだけど、そんなのクソ小さい情報だって思うの。だって俺らを動かしているのは内臓であり脳みそなわけで、内臓の形自体がマジで意味わからないデザインになってるじゃん(笑)。

顔とかをわかりやすいパーソナリティとして置いたとしても、その人をその人たらしめる内臓自体がカオスであり肉の塊なわけだよ。だとしたら、俺とか俺じゃないとか、もう関係ない領域になってくる。ただ血と肉だけがそこにあって、想いや記憶が肉の向こう側で渦巻いてるだけなのが人間であって。

田上:うん。

マヒト:今は特に、自分をオリジナルな存在にするにはどうしたらいいかっていうことに躍起になる人が多いけど、それすら一種の戦争だと思うんですよ。自分の体が持っているカオスをないものとして扱って、軽薄な部分でアイデンティティを競わせて金に変えていく社会が今の情報の回転数を生んでるし、「オリジナルじゃなきゃいけない」っていう縛りが無駄な争いを生んで、欲のループを生んで、悲しみを増やしている。自分は人と違うっていうことを自分だけでは証明できないから、外の世界に投げかけて、外からの評価で自分を測ってて。

だけどそんなことしなくても、ここには自分の肉があって、自分だけのカオスを抱えてるんだから。人に値札を貼ってもらうことでオリジナルになろうとする気持ちがわからないんだよ。

田上:「特別」にしろ「オリジナリティ」にしろ、すべては概念の刷り込みやからね。そこを全部フラットにすることが自分を自由にしてくれるし、それこそが自分やから。これは思い込みと直感の話ですけど、僕はこの10年間、買い付けは8月にアメリカに行くと決めてて。8月は引きが強いって自分で思ってるんですよ。……でも2020年は自粛期間でアメリカに行けなくて、8月も日本にいて。そしたら8月に、10日間で4回も自動販売機のアタリが出たんですよ。

マヒト:ははははははは!

田上:しかもその期間、アメリカに行けないなら本職のアパレルで使う生地の仕入れに行ってみようと思って生地屋に買い付けに行ったんです。で、何故か普段は裏口から入るところを表口から入っちゃったんですけど、入ったすぐのところに、日本に入ってくるはずのないスーパーレアな椅子があって。なんでこんな山奥の生地屋に、なんで東京以外にって思いながら「売ってくれないか」と交渉したら、定価150万円くらいで売れるものを「3万円でええよ」って言ってくれて(笑)。自己暗示かもしれないけど、経験値によるチューニングとかアンテナの立て方によって、引き寄せられる出会いと幸せが絶対にあるんですよね。

マヒト:チューニング整いました。普段は裏口なのに表口から入ったように、今回の突発的な対談自体が自分の表口ですね。四本弦を持った宝人に出会える気がします。出会う必然しかないんで。

左から:田上拓哉、マヒトゥ・ザ・ピーポー
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プロフィール

マヒトゥ・ザ・ピーポー

2009年、GEZANを大阪にて結成。バンドのボーカル・作詞作曲を担う。自主レーベル「十三月」を主宰し、野外フェス『全感覚祭』も開催。2018年に『Silence Will Speak』をリリースし、2019年6月には、同作のレコーディングのために訪れたアメリカでのツアーを追ったドキュメンタリー映画『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』が公開された。2019年10月に開催予定だった主宰フェス『全感覚祭』東京編は台風直撃の影響で中止となったが、中止発表から3日というスピードで渋谷での開催に振り替えられた。1月29日に『狂(KLUE)』をリリース。マヒト個人もソロワークを展開し、青葉市子とのユニット・NUUAMM、文筆業など、多方面で活動中。

田上拓哉(たのうえ たくや)

大阪市福島区の「Essential Store」オーナー。本職ではアパレルメーカーを運営しながら、夏と冬の年2回、期間限定で「Essential Store」を開催する。古道具、アンティークを主として、アパレルなども取り扱う。併設ギャラリーで不定期で主催する「Silent Auction」は、入札用紙だけで価格をつけられる仕組みによって、モノの価値を再考する場所として話題を呼んでいる。

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