インタビュー

今泉力哉と根本宗子が決めたこと ちゃんと「面倒くさい人」になる

今泉力哉と根本宗子が決めたこと ちゃんと「面倒くさい人」になる

インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:タケシタトモヒロ 編集:井戸沼紀美、久野剛士(CINRA.NET編集部)

きっかけは編集部に届いた、映画監督・今泉力哉からの1通のメールだった。劇作家・演出家の根本宗子と2人で、お互いが悩み、考えていることを話せる場を探しているという。集まったのは、今泉の新作映画『街の上で』の舞台であり、根本が主宰する劇団・月刊「根本宗子」との縁も深い土地、下北沢。

2人が口にしたのは、「ちゃんと面倒くさい人になる」ということだった。カルチャーが外側に広がるには、その内側で、おかしいことはおかしいと言えるようになる——。出口は簡単に見つからないからこそ、語らいながら現状の輪郭をなぞってみることには、きっと意味があるはずだ。

左から:今泉力哉、根本宗子
左から:今泉力哉、根本宗子

10年来の親交を持つ2人が、いま話したいこと。きっかけは『岸田賞』直後のメールだった

―端緒となったおふたりの間のメールのやりとりは、どんなものだったのですか?

今泉:そもそも根本さんが劇団を立ち上げる前、2008年にENBUゼミナール(映画や演劇、俳優養成の専門学校)に通っていた頃、俺はENBUの事務局にいて。その頃からの知り合いなんです。

今回は、俺がまず根本さんにメールしたんですよね。今年の3月中旬に根本さんの作品も最終候補に入っていた『岸田國士戯曲賞』で「受賞作品なし」って発表があって、根本がSNSでかなり憤ってて。

根本:いや、憤ってはいないですよ。

―Instagramで出されたコメントから抜粋すると、「このような大変な時代に、(中略)自分がとるとらないは別として『受賞作なし』だけは演劇界のためにならなすぎるからやめてくれ、と思っていました」「賞とは(中略)その業界が盛り上がるために存在している部分もあるとわたしは思っているので、なかなかショックな結果でした」と書かれていました。

3月12日の『岸田賞』受賞作なしの発表を受けて、根本がその日のうちに投稿したInstagram。この時点では選評は公開されていなかった。

今泉:憤ってはなくても、意図は明確で。演劇の世界が閉ざされていくことに対する怖さとか、「なぜそれに対してみんな危機感を持っていないんだろう」という想いを文面から感じて。映画の世界に置き換えてもよくわかる話だなと思ったので、「大丈夫?」とか何とか、メールをしたんです。

左:今泉力哉(いまいずみ りきや)<br>1981年生まれ、福島県出身。2010年『たまの映画』で長編映画監督デビュー。2013年『こっぴどい猫』がトランシルヴァニア国際映画祭で最優秀監督賞受賞。その他の長編映画に『サッドティー』(2014年)、『退屈な日々にさようならを』(2017年)、『愛がなんだ』(2019年)、『あの頃。』(2021年)など。2021年4月9日に、全編下北沢で撮影した映画『街の上で』が公開。
左:今泉力哉(いまいずみ りきや)
1981年生まれ、福島県出身。2010年『たまの映画』で長編映画監督デビュー。2013年『こっぴどい猫』がトランシルヴァニア国際映画祭で最優秀監督賞受賞。その他の長編映画に『サッドティー』(2014年)、『退屈な日々にさようならを』(2017年)、『愛がなんだ』(2019年)、『あの頃。』(2021年)など。2021年4月9日に、全編下北沢で撮影した映画『街の上で』が公開。

根本:あれ、そうでしたっけ?

今泉:え、そうじゃなかったでしたっけ? 最初は何て送ったんだ……(と、2人ともスマートフォンでメールを遡るが、なかなか発端が見つからない)。

根本:今泉さんはいつも夜中にメールをくださるんですけど、大抵酔っぱらってるんだろうな、と思ってて……(笑)。いまおっしゃった「大丈夫?」って優しいメールに対しても、私は「全然元気ー!」って返事してますね。どうせ酔ってると思ってたんでしょうね、ははは!

根本宗子(ねもと しゅうこ)<br>1989年生まれ。東京都出身。19歳で劇団・月刊「根本宗子」を旗揚げ。以降、劇団公演すべての企画、作品の脚本演出を手がけ、近年では外部のプロデュース公演の脚本、演出も手がけている。2015年に初めて岸田國士戯曲賞最終候補作品に選出。
根本宗子(ねもと しゅうこ)
1989年生まれ。東京都出身。19歳で劇団・月刊「根本宗子」を旗揚げ。以降、劇団公演すべての企画、作品の脚本演出を手がけ、近年では外部のプロデュース公演の脚本、演出も手がけている。2015年に初めて岸田國士戯曲賞最終候補作品に選出。

今泉:ひどい(笑)。確かに飲んでるときに連絡することも多いけど、そのときは飲んでなかったよ! 「作り続けましょう、俺も作る」とも送ってますね。

根本:そうですね、「危機感しかないよね、おやすみ」って送っていただいてますね。

今泉:で、そんなやりとりをするなかで「対談したいね」と話が出て……今日に至るという流れですね。

映画と演劇、それぞれの課題。共通するのは「広げたい」想いと「面倒くさくある」こと

―根本さんへのメールで今泉さんが書かれた「危機感」とは、具体的にどういったものだったのでしょうか?

今泉:自分が考えているのは、どうすればもっと映画が広まっていくのかということで。日本の監督たちもどんどん世界に知られていけばいいなと思うんですが、現状では国内でいくら評判になっても、そのまま世界で活躍出来るケースはほとんどない。

逆に、海外の映画祭で賞をとらないと世界的に評価されづらい状況もある。国内の評論家は視野の凝り固まったおじいちゃんばっかりだとも言われていたり。俺も、これからの人を評価する評論家や批評家が足りてないとは感じていて。

4月9日から公開されている今泉力哉監督の新作『街の上で』のポスタービジュアル ©「街の上で」フィルムパートナーズ
4月9日から公開されている今泉力哉監督の新作『街の上で』のポスタービジュアル ©「街の上で」フィルムパートナーズ

今泉:だからこそ、演劇を広めようと思って、いろんな媒体で発言もしている根本さんは自分や演劇にまつわる現状をどう思っているのか、聞いてみたかったんです。

根本:なるほど。まず『岸田賞』に関しては、いまは選評もまだ出そろっていないですし(対談は4月上旬に行われた)、改めて話すべき時期ではないと思っていて……。

ただ、芸術的な純度をストイックに上げていこうとしているというより、ジャンルの間口を広げようと思っているタイプのクリエイターのやりづらさは、長年感じているんです。演劇だけでなく、映画でも音楽でも、同じことが起きているのかなって。

根本宗子

根本:面白い人が出てきてほしい気持ちは私も強く持っているんですけど、いまの状況だと出づらいんじゃないかな、とも思います。純粋に面白い人を「面白い!」と発見・発掘出来る環境が作れたらいいんですが、いまはまだ、発見したことを手柄にしたい人もいるくらいなので(苦笑)。

今泉:(笑)

根本:私は演劇をはじめた年齢が若かったから、「俺が根本を発見したぞ!」と言いたがる人たちがいて……(笑)。ありがたい反面「うーーん」と思うこともやっぱりあって。でも本当にお世話になった人とそうじゃない人の差くらいは、自分でわかりますし。

―若い才能がのびのびと育っていく環境になればいいですよね。今泉さんは映画のお仕事をされていて、何か気になる部分はありますか?

今泉:邦画だと「監督がおろそかにされすぎている」問題があるなと思います。海外作品のように監督の名前で仕事や人が集まってくる状況を作らないといけないと思って頑張ってはいるんだけど、現状は有名な先輩監督でさえ、ポスターでは監督の名前が読めないほど小さく載っているというような状況なんです。

左から:今泉力哉、根本宗子

今泉:撮影、録音、照明といったスタッフのクレジットもそう。基本的に舐められてると感じてしまうんです。その名で客を呼べないなら宣伝的には何の価値もないのかもしれないですけど、それってどうなのって。

宣伝会社によっては現場スタッフはクレジットしないのに、プロデューサーやお偉いさんは必ずクレジットすると決めている会社もあって。正直げんなりですよね。どこ向いて宣伝物作ってんだよって。

もちろん限られたスペースなので、全員の名前を載せられないのはわかりますけど……俺は「映画が完成したら監督の仕事は終わり」ではなくて、宣伝の方法とか、映画が完成してからお客さんに届くまでの道のりでも、きちんと発言をしていこうと思っています。

根本:細かい部分まで口を出していくのって大事ですよね。私もどんなに大きい仕事であっても、約束事や要望は、はじめにちゃんと言うようにしています。

こういうポリシーがあって、作品のためにそうしたほうがいいからこそのポリシーなので、それに反するならお受けできないです、って。

―きちんと自分の意見を伝えることを、難しいと感じるときはないんですか?

根本:最近は昔よりうまく伝えられるようになったかもしれません。「面倒くさい人だ」というのが定着してよかった(笑)。

今泉:それ、大事ですよね。俺もなるべく、面倒くさがられていようと思ってるんです。

左から:今泉力哉、根本宗子

―ほかに、おふたりがこだわっている「細かい」ポイントは何かありますか?

根本:はじめての俳優さんと仕事をするときは、本を書く前に、30分でもいいからお茶かご飯の時間をください、と頼みますね。

今泉:わかる! 俺も絶対そういう時間がほしい。

根本:そのほうが絶対面白くなりますよね。

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作品情報

『街の上で』
『街の上で』

2021年4月9日(金)から新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で順次公開

監督:今泉力哉
脚本:今泉力哉、大橋裕之
音楽:入江陽
主題歌:ラッキーオールドサン“街の人”
出演:
若葉竜也
穂志もえか
古川琴音
萩原みのり
中田青渚
村上由規乃
遠藤雄斗
上のしおり
カレン
柴崎佳佑
マヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)
左近洋一郎(ルノアール兄弟)
小竹原晋
廣瀬祐樹
芹澤興人
春原愛良
未羽
前原瑞樹
タカハシシンノスケ
倉悠貴
岡田和也
中尾有伽
五頭岳夫
渡辺紘文
成田凌
上映時間:130分
配給:『街の上で』フィルムパートナーズ

プロフィール

今泉力哉(いまいずみ りきや)

1981年生まれ、福島県出身。2010年『たまの映画』で長編映画監督デビュー。2013年『こっぴどい猫』がトランシルヴァニア国際映画祭で最優秀監督賞受賞。その他の長編映画に『サッドティー』(2014年)、『退屈な日々にさようならを』(2017年)、『愛がなんだ』(2019年)、『あの頃。』(2021年)など。2021年4月9日に、全編下北沢で撮影した映画『街の上で』が公開。

根本宗子(ねもと しゅうこ)

1989年生まれ。東京都出身。19歳で劇団・月刊「根本宗子」を旗揚げ。以降、劇団公演すべての企画、作品の脚本演出を手がけ、近年では外部のプロデュース公演の脚本、演出も手がけている。2015年に初めて岸田國士戯曲賞最終候補作品に選出。

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