レポート

アウトサイダーの大富豪が作った、世界屈指の秘境フェスに潜入

テキスト・撮影
柴那典
アウトサイダーの大富豪が作った、世界屈指の秘境フェスに潜入

巨大な私設美術館は異界の入口。オーストラリアで行われた音楽とアートの祭典

オーストラリアの1月は夏の真っ盛りだ。青く晴れ渡った空のもと、街の中心部から、専用のフェリーで数十分。川沿いにあるワイナリーの豊かな緑の風景の中に、モダンなデザインの建物が見える。よく手入れされた芝生の庭が広がり、その一角に小さなステージが設けられている。

橋を渡った先に見えているのが会場となる美術館「MONA」
橋を渡った先に見えているのが会場となる美術館「MONA」

会場付近には葡萄畑が広がる
会場付近には葡萄畑が広がる

Tシャツにサングラス姿の若者や家族連れの姿も多い。バーベキューを焼いている屋台もある。ピースフルで開放感たっぷりな、海外のフェスの風景。

『Mofa2016』ステージ風景
『Mofa2016』ステージ風景

かと思いきや、そこは、異世界への入り口だった。平和なピクニックの光景の隣に現実の裂け目のようなものがパックリと口を開けている場所、というか。言葉では何とも言い表しがたい、不思議な体験をした。

オーストラリア大陸の南東部にある小さな島、タスマニア。その中心部ホバート近郊で行われた音楽とアートの祭典『Mofo 2016』を訪れた。

3日間にわたって100組以上のアーティストが登場し、ヘッドライナーにはThe Flaming LipsとDJ KRUSHが出演したこのフェスティバル。最もユニークなポイントは、それが巨大な私設美術館を舞台に行われる、ということだ。

『Mofo』の舞台となるのは2011年オープンの美術館「MONA(Museum of Old and New Art)」。現地在住の大富豪デヴィッド・ウォルシュが私財をなげうち、自分のアートコレクションを展示するために作ったのだという。メインステージは屋外だが、それ以外のステージは美術館の中、展示スペースをそのまま舞台にしてパフォーマンスが行われる。もちろんフェスの開催期間も美術館はオープンしていて、チケットを持っていれば自由に出入りできる。

特異な記憶力で巨万の富を築いた人物が作った「死とセックス」の美術館の強烈さ

この美術館が、とにかく強烈だった。外から見ると鏡張りの小さな建物のようにしか見えないのだが、中に入り、エレベーターを降りると、地下に洞窟のような巨大な空間が広がっている。地下3階、飛行機が数台くらい格納できそうなスペースだ。そこに迷宮のように通路が張り巡らされている。

「MONA」の入口
「MONA」の入口

 

受付ではスタッフからiPod touchとヘッドホンが渡される。館内には表示や説明が一切なく、そのかわり、自分が歩いている周辺の作品情報や解説、アーティストへのインタビューをこれで見たり聴いたりすることができるのだという。

個人の美術館なのだから規模もたかがしれているかと思ったが、全く予想は裏切られた。とにかく広い。そして各所に現代アート作品が展示されている。美術館のルーフトップを飾るのは、ジェームス・タレルの新作『アルマナ』である。絵画や写真や彫刻だけでなく、映像や音を使ったメディアアートや、テクノロジーを駆使したインスタレーションも目に留まる。感圧式の床と数十個のスピーカーが配置された暗闇のトンネルなど、かなり大掛かりなものもある。

展示されている作品も、挑発的な内容のものが多い。蝋で作られた溶けた身体が天井から吊るされていたり、主のいない少女の部屋が再現されていたり。グレッグ・テイラーによる『CUNTS』は、その名の通り石膏で型どられた沢山の女性器が黒い壁に並べられている作品。ウィム・ベルボアによる『CLOACA PROFESSIONAL』は人が食べ物を消化する過程を最新テクノロジーで再現した作品だ。美術館のテーマは「死とセックス」。グロテスクなものや、鳥肌が立つような凶々しさを放つアート作品が存在感を放っている。ギルバート&ジョージの企画展も大々的に行われていた。

そんな中で、ライブが行われるのだ。

出演者のジャンルは多岐にわたる。メインステージはロックやポップスが中心だが、美術館エリアでは、フリージャズや民族音楽、舞踏や朗読などのパフォーマンスも行われる。

 

特に印象的だったのは、10メートルくらいの高さから水滴が文字の形になって落ちてくるインスタレーション作品と、そこで行われていたパフォーマンス。水が床に落ちて飛沫を上げる音が一定間隔で響き、それにあわせてチェロやパーカッションが演奏される。まさに音楽とアートが一体になった空間だ。

 

この美術館「MONA」のオーナー、デヴィッド・ウォルシュはギャンブルを通じて一代で巨万の富を築き上げた人物なのだという。一説によると、自閉症であった彼は特異な記憶力の持ち主で、まるで映画『レインマン』の登場人物のようにポーカーで負け知らずだったとか。なので、ビジネスや政治の世界の権威とのしがらみも全くない。2011年に美術家がオープンした際の式典でも、政治家や業界の著名人が壇上に立ってコメントすることは一切なく、パーティーで彼が着ていたTシャツにはデカデカと「F**k the art, let's rock'n'roll」と書かれていたとか。そんなアウトサイダーな蒐集家である彼のアートへの心酔、「セックスと死」への憧憬が突き詰められた、まるで秘密基地のような空間。それがMONAという美術館だった。

The Flaming LipsにDJ KRUSH。デヴィッド・ボウイへの追悼も

そして、The Flaming Lipsも「セックスと死」を表現の核心の部分に持ったサイケデリックロックバンドだ。だからこそ『Mofo』への出演はとても納得のいくマッチングだった。

The Flaming Lipsライブ風景
The Flaming Lipsライブ風景

夕暮れ、LEDを配した白い紐を大量に吊るしたド派手なステージセットに、大きな歓声に迎えられバンドが登場する。カラフルな衣装をまとったウェイン・コインを中心に、バンドメンバーに加えて着ぐるみのキャラクターも踊る彼らのライブは、バンドというより手作りのアミューズメントパークのよう。サイケデリックな演奏が鳴り響き、何度も紙吹雪が舞う。多幸感に包まれる。

 

ウェインはMCで「世界中のいろんな場所を訪れるけれど、このMONAという美術館ほど素晴らしく魅惑的なところはない」と語っていた。お客さんへのサービスではなく、本心からの言葉だと思う。

The Flaming Lipsの翌日のトリとして出演したDJ KRUSHもかなりの盛り上がりだった。新作『Butterfly Effect』の曲も含め、身体がビリビリと震えるような硬く太いビートを紡ぎだす。迫力の低音が響きわたる。「東京から来ましたDJ KRUSHです。ありがとう」。日本語のMCに大きな歓声が応えていた。

DJ KRUSHライブ風景
DJ KRUSHライブ風景

様々なアーティストが、1月に亡くなったばかりのデヴィッド・ボウイへの追悼を捧げていたのも印象的だった。The Flaming Lipsは「この曲を彼に捧げます」と“Life On Mars?”をカバー。DJ KRUSHは最後に“Let's Dance”をスピンしていた。

開催地も、内容も、様々な側面から間違いなく「世界で最も秘境のフェス」と言える『Mofo』。集まったのは3日間で1万人ほどだという。そこにあったのは、アウトサイダーの大富豪が作り上げた「異世界の楽園」だった。

イベント情報

『Mofo 2016』

2016年1月13日(水)~1月18日(月)
会場:オーストラリア MONA(Museum of Old and New Art)
出演:
The Flaming Lips
DJ KRUSH
ほか

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