ノイズの中でどつき合い。京都発・混沌の音楽フェスをレポート

寺院やクラブなど複数会場で開催された、カッティングエッジなフェスティバル

京都市左京区。観光スポットとして有名な「哲学の道」からほど近い山裾に建つ法然院。その一角にある庫裏(寺のお台所)の土間には一台のグランドピアノが置かれ、100人以上の観客がそれを取り囲んでいる。和の空間に西洋の楽器というアンバランスさがむしろ心地よくもあるそのコントラストは、これから始まろうとしている『MAZEUM』の、混沌的な全体像を象徴しているようにも思える。

2018年11月30日から2日にかけて京都市左京区で行われたカッティングエッジな音楽とパフォーマンスのフェスティバル『MAZEUM』は、法然院のほかに誓願寺と極楽寺の計3つの寺院、そしてMETRO、UrBANGUILD、OCTAVEの3つのライブハウスやクラブを会場に、アンダーグラウンドシーンで活躍する多彩なアーティスト約30組がライブを行うイベントだ。アーティストたちがジャンルの壁を越境し、衝突し、ときに混ざり合う2日間のイベントをレポートする。

『MAZEUM』メインビジュアル

まず口火を切ったのは、ピアニストのスガダイロー。庫裏の勝手口をくぐって現れたスガは、無言でピアノの前に座り、鍵盤にそっと指を置き、弾く。たったの一音。木造の空間の広さと質感を確かめるように、音は広がり、反響し、収束して、再び無音の時間を再び迎え入れる。そしてまた一音。

スガダイロー(法然院でのパフォーマンスの様子) / photo by Yoshikazu Inoue

その繰り返しから筆者が思い浮かべたのは、光の射さない暗い海底で周囲の地形を把握するためにソナー音を打つ潜水艦だ。どれくらいの広さなのか、この空間に音はどんな風に溶け込むのか、どのように変化していくのか。そういった場の特性を慎重に確かめるように、スガは一音を積み重ねていく。やがて、そこに少しだけ高い別の音が加わり、次第に複雑なコンポジションが組み立てられていく……。

こんな風に始まったスガの即興的な(同時に、なんらかの厳格なルールも垣間見える)演奏は、約1時間をかけて音のコンポジションを築き上げ、そしてそれを解体するようにして最初の一音へと帰還して終わった。ふたたび無言で勝手口から退場するスガの背中に、観客は万雷の拍手を贈った。

スガダイロー(法然院でのパフォーマンスの様子) / photo by Yoshikazu Inoue

ノイズのなかでどつき合い。仰天の「まぜるな危険」なプログラム

スガの演奏が終わり、観客は次なる音楽を求めて法然院の大広間へと移動する。3月から4月にかけて盛りを迎える椿の庭や、極楽浄土の世界を表現した方丈庭園を夜に見られるのは、この夜のちょっとした贅沢だ。

大広間に登場したのは、電子音楽家のサラ・ダバーチ。美しいドローンサウンドに、あえてノイジーな粒子感を加える彼女の骨太なサウンドに華を添えるのは、Rokapenis(斉藤洋平)によるプロジェクションマッピングだ。ダバーチの背後に広がる庭園の鬱蒼とした木々に向けて無数の緑の光点を投影することで、機械っぽさと生物っぽさが混交するダバーチの音楽世界を可視化するような試みは、『MAZEUM』が目指すジャンルの交叉を体現しているかのようだ。

サラ・ダバーチ(法然院でのパフォーマンスの様子) / photo by Yoshikazu Inoue
サラ・ダバーチ(法然院でのパフォーマンスの様子) / photo by Yoshikazu Inoue

約1時間の演奏を経て、法然院のプログラムはすべて終了。このあとは老舗のクラブMETROに会場を移し、halptribe、Nazira、DJ NOBUによるパフォーマンスが翌朝の5時まで行われた。

DJ NOBU(METROでのパフォーマンスの様子) / photo by Eizaburo Sogo
METRO会場内の様子 / photo by Eizaburo Sogo

2日目の『MAZEUM』は午後2時からスタートしている会場もあったが、筆者は夕方のUrBANGUILDから遅めの参加。注目はテンテンコと伊東篤宏によるユニットZVIZMOとcontact Gonzoのパフォーマンスだ。

BiS解散を経て、現代演劇から即興演奏まで幅広いフィールドで活躍するテンテンコと、蛍光灯の放電ノイズを「音」化する自作楽器OPTRONで知られる伊東、そして総合格闘技のような肉体の衝突(どつき合い)を「パフォーマンス / ダンス」と定義付けるcontact Gonzoの組み合わせの、混ぜたら危険感に期待が高まる。雑居ビルの3階にあるUrBANGUILDの扉を開けると、信じられないくらいの人、人、人。カフェレストランも兼ねたレトロモダンな店内は、これまで見たことがないくらいの観客で溢れかえっていた。ステージが見える場所をなんとか確保して、開演を待つ。

ZVIZMO(UrBANGUILDでのパフォーマンスの様子) / photo by Eizaburo Sogo

耳をつんざくような轟音でZVIZMOの演奏が始まると、contact Gonzoの3人はおもむろに客席へ突入。人の波をかきわけ、ときに観客の助けを得ながら助走をつけてのドロップキック、張り手などをメンバーに向けて放ちまくる。

ZVIZMO×contact Gonzo(UrBANGUILDでのパフォーマンスの様子) / photo by Yoshikazu Inoue
ZVIZMO×contact Gonzo(UrBANGUILDでのパフォーマンスの様子) / photo by Yoshikazu Inoue

1960年代から1970年代の政治とアングラが熱かった時代を思い起こさせる濃いパフォーマンスは、観客の本能を否応なく高揚させるが、「自分の身は自分で守るべし」という自衛の理性も同時に呼び覚ます。熱情と冷静さに引き裂かれるような不思議な感覚!

予定のパフォーマンス時間を大幅に超過したために、突然演奏がストップするというあっけない幕切れも、「祭り」の後の喪失感を思わせて印象的だった。自分のなかにある凶暴性を自覚しながら、そこに引き込まれないように理性で抵抗するバランス感覚は、渋谷のハロウィン暴徒化が大きくメディアに取り上げられた近頃、折に触れて思い出すべきもののように思えた。

ZVIZMO×contact Gonzo(UrBANGUILDでのパフォーマンスの様子) / photo by Eizaburo Sogo

別の『MAZEUM』会場へ。京都の繁華街を移動する高揚感

全身汗まみれでUrBANGUILDを出ると、京都の街はもうすっかり夜。4つの会場が集中する河原町周辺は、京都の若者や家族づれで賑わう繁華街だ。週末ということもあって食事やデートに向かう人々でごった返しているが、彼ら彼女らの多くは、まさか雑居ビルやお寺さんで、先ほどのような破天荒なパフォーマンスが行われているとは知るよしもないだろう。胸のうちに「俺は知ってるんだぜ……!」という不思議な優越感と高揚を隠しながら、次の会場に足早に向かうこのわずかな時間も、『MAZEUM』ならではの楽しみだ。

すれ違う若者たちが「私は空間現代を聴きにOCTAVEに行ってくる」「俺は極楽寺でマヒトゥ・ザ・ピーポー観てきたところ」なんて会話を街なかで交わしているところに出くわすのが嬉しい。同志よ!

Antibodies Collective(OCTAVEでのパフォーマンスの様子) / photo by Eizaburo Sogo
空間現代 feat. THE LEFTY(OCTAVEでのパフォーマンスの様子) / photo by Eizaburo Sogo
マヒトゥ・ザ・ピーポー(極楽寺でのパフォーマンスの様子) / photo by Eizaburo Sogo

怖がる子供をさらに怖がらせる、チャーミングな瞬間も

次に向かったのは新京極通りにある誓願寺。芸道上達のご利益があることで知られる同寺院に登場するのは、山川冬樹。そしてラッパーの志人とスガダイローのタッグだ。

ロシア連邦トゥバ共和国に伝わる歌唱法ホーメイの使い手であり、自身の心臓の鼓動や骨をパーカッションのように扱う山川は、鳥や狼の鳴き声を模しながら登場し、ゆるやかにパフォーマンスを開始させた。細い体躯に長い黒髪という彼の姿は、もとよりどこか神秘的で秘術的な印象を抱かせるが、誓願寺の御本尊である阿弥陀如来像の前に立つとその異形の美しさはさらに複雑な陰影をまとって見えてくる。

山川冬樹(誓願寺でのパフォーマンスの様子) / photo by Yoshikazu Inoue

そのためだろうか、最前列に陣取った小学生くらいの女の子が今にも泣き出しそうな小さな声で「こわい~」と漏らした。すると、山川はすかさず「怖くな~い、おもしろ~い」と低いウィスパーボイスで応える。「それはむしろ怖いのでは(苦笑)」と、筆者だけでなくまわりの観客も思ったはずだが、そんな心温まる(?)やりとりも、『MAZEUM』ならではのひとコマだったかも。

手のひらで自らの頭蓋骨を叩く音を骨伝導マイクで拡張させ、心臓に負荷をかけて鼓動のスピードをコントロールする山川の身体を酷使するパフォーマンスは、いつも「痛み」とそれゆえの愉悦を想起させる。阿弥陀如来が導く極楽浄土の彼岸が交差する、官能的な時間だった。

山川冬樹(誓願寺でのパフォーマンスの様子) / photo by Yoshikazu Inoue

ピアノ、語り、唸り声。三者三様の音色が繰り出した複雑なグルーヴ

続いては、志人×スガダイロー。両人名義でのアルバムをリリースするなど、これまでにも何度もコンビを組んできた2人ゆえ、この夜のパフォーマンスも息の合った仕上がり。

志人×スガダイロー(誓願寺でのパフォーマンスの様子) / photo by Yoshikazu Inoue

農夫を思わせるボロ姿で現れた志人は、赤とんぼや畑仕事など、自然にまつわる親と子の対話を模したモノローグからスタートし、やがて宇宙観や近年の社会や政治といった大きな主題へと縦横無尽に語りを広げていった。彼のパフォーマンスに対し、スガは即興で応戦。昨晩のミニマルなソロとは違い、ピアノを使って言葉を表現するようなリズミカルな演奏を聴かせた。

近年のラップ、ヒップホップブームにおいて、志人の精神性の強いポエトリーリーディングに「アートっぽい」(この表現はアートに関する執筆をする筆者にとっては、引っかかる部分の多い)印象を持つリスナーも多いようなのだが、語りによって情景を立ち上げることは、口承の芸術・芸能でもあるラップの重要な側面であると思う。

志人×スガダイロー(誓願寺でのパフォーマンスの様子) / photo by Eizaburo Sogo

後半、山川冬樹が飛び入りでセッションに加わって、三者三様の景色を立ち上げたのも印象的で、ピアノの演奏(スガ)、物語(志人)、唸り声(山川)の音色が、混ざり合ったり、衝突しあったりすることで生じるグルーヴの複雑さを堪能できたのが大きな収穫だった。もちろんそこには、祈りのための読経(=声)の効果を意識して設計されたお寺の本堂の特性も、大きく影響していただろう。

きわめて限定的たが、以上が筆者の見た『MAZEUM』だ。会場を移動する途中で何人かの友人知人と出くわし「マジでGOATやばかった」などの声を聞くと、もっといろいろ見たかったという後悔の念がわきあがってくる。聞くところでは『MAZEUM』は今回だけでは終わらず、京都以外の場所で行うことも構想されているようだ。次の機会には、もっと気力と体力をつけて参加したい。

会場となった深夜のOCTAVE / photo by Eizaburo Sogo

MAZE(迷宮)とMUSEUM(美術館 / 博物館)を混ぜ合わせた造語である本イベントタイトルは、あらゆる意味で示唆的だった。カテゴライズ不可能な諸ジャンルの混交に迷い込むだけでなく、路地と突抜が複雑に入り組んだ京都の街を上下左右に往来する移動もまた、迷い子の歩みを想像させる。

アートでも音楽でもパフォーマンスでも、京都には古くから受け継がれてきたアンダーグラウンドの精神が脈々と流れている。その見えない歴史、見えないカルチャーのネットワークをたどる、じつに特別な2日間だった。

イベント情報
『MAZEUM-メイジアム-』

2018年11月30日(金)、12月1日(土)
会場:京都府 法然院、METRO、極楽寺、UrBANGUILD、誓願寺、OCTAVE

出演:
DJ NOBU
KILLER-BONG
スガダイロー
Moor Mother
山川冬樹
Goat
空間現代
Sarah Davachi
ZVIZMO (テンテンコ+伊東篤宏) × contact Gonzo
志人(降神)
佐藤薫+EP-4 [fn.ψ]
行松陽介
ENDON
ANTIBODIES Collective
Halptribe
マヒトゥ・ザ・ピーポー
BLACKSMOKERS
ほか



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