平賀さち枝らが証明「人間の生活が続く限り、歌は生まれ続ける」

観た者を勇気づけられるライブとは何か?

音楽が人を勇気づけるとき、そこにあるのは単に力強いメロディーやビート、あるいは「頑張れ」や「夢を持て」のような語気の強い言葉ばかりではない。むしろ、その音楽から伝わってくる演奏者の曝け出された「弱さ」にこそ、人は背中を押されたりするものだ。自分のなかに抱える不安や孤独を見つめ、あるがままの自分を認めなければ踏み出せない一歩だってある。渋谷O-nestにて開催された、音楽アプリ「Eggs」とCINRAの共同主催の無料音楽イベント『exPoP!!!!! volume85』に出演したのは、あるがままの自分を音楽に託すことで、観る者に勇気を与えるアーティストたちだった。

女子高生シンガーソングライター、お茶目なMCとは裏腹のシビアな歌

トップバッターは、1998年生まれの現役高校生シンガーソングライター・みきなつみ。「今日、体育祭の練習をしてきました! 明日、体育祭です!」という腰砕けなMCで会場を和ませる彼女がアコギと共に紡ぐのは、どうしたって報われない想い、叶わない希望、触れられない他者についての歌ばかりだった。

みきなつみ
みきなつみ

きっと彼女にとって音楽とは、「声にならない声」を表現し、「現実では縮まらない距離」を飛び越えるための手段なのだろう。まるでクリープハイプの尾崎世界観にも通じるような、「やりきれなさ」がメロディーの隙間から泣き笑いと共に零れ落ちる――そんな歌声を会場中に響かせた。

決して希薄な表現にはならない、Junk Robotなりの「希望」の伝え方

続いては、紅一点ボーカル・Airiを擁する4ピース、Junk Robot。バンドコンセプトである「暗闇のなかに希望を…」というひと言をAiriが囁くと共に始まった1曲目“幻想”。屈強なアンサンブルとAiriの歌声が、彼らが提示する「希望」を真っすぐに伝えてくる。

しかし、続く2曲目“ペーパームーン”で、一枚岩なアンサンブルは、音と音の「隙間」を聴かせるファンキーなものへと変化し、Airiの言葉も、力強い歌から、深い心情を吐露するポエトリーリーディング調へと変わった。それ以降も、まるで希望とは簡単に手に入るものではないことを聴き手に指し示すように、彼らは自ら鎧をはぎ取り、裸の自分たちを見せようとする。闇を知らなければ光の眩しさはわからない。そのことを知っているからこそ、Junk Robotの提示する「暗闇のなかの希望」には説得力があるのだろう。1本のライブを通して、深いドラマを見せるバンドである。

バンドの「必須条件」を濃縮したかのような5人組、vivid undress

3番手はvivid undress。手数や音数の多さ、スピード感、4つ打ちのダンスフィール、叙情的に魅せることも忘れないメロディー、パンチの効いたメンバーのキャラクター性……ここ数年のJ-ROCKの潮流における「必須条件」を濃縮してみせたかのようなバンドである。一瞬にしてフロア全体を熱狂させ、空間を掌握してみせる世界観の産み出し方は見事だった。

vivid undress
vivid undress

その根底には、この時代のなかで音楽と共に生き、そして音楽と共に愛し愛されることを何よりも望むが故のただならぬ「覚悟」を感じた。kiila(Vo)が「私たちは誰よりも必要とされたい、愛されたいという思いでバンドをやってきた」と語ったあとに演奏された最後の曲の、その壮大なエモーションにその覚悟は何よりも表れていた。時代のど真ん中に飛び込むその姿勢には、音楽と共にしか生きていられない、そんな切実さがきっとあるのだ。

男女が夜通し語り合うかのように演奏を繰り広げるMoccobond

続いては、新作ミニアルバム『告白前夜』をリリースしたばかりの男女混成4ピース、Moccobond。1曲目では実直なロックチューンを演奏し、かと思えば繊細なエレクトロチューンまで披露するその楽曲のふり幅の広さは、自分たちの音楽的探究心を丁寧に掘り下げ、形にしていったが故のものだろう。vivid undressのような現代的な即効性や派手さはないが、曲のバリエーションの豊富さと、どの曲にも通底するいぶし銀なメロウネスには、ジワジワと、でも確実に聴き手を引き込む魅力がある。

Moccobond"
Moccobond

サイトウケイスケとニシケケ夏ノコの男女ツインボーカルには、「人生」とか「音楽」とか、そんな命題について夜通し語り合う男女のような、真っすぐに見つめ合う眼差しがあった。新曲に“告白”と名付けたバンドらしい、音楽のなかでこそ正直であろうとする彼らの姿勢が伝わってくる、誠実なパフォーマンスを披露した。

平賀さち枝、一夜に吐き出された全ての人の弱さを丸ごと包み込んだ

ここまでの4組に共通していたもの。それは彼らの音楽と人生を結びつける「真摯さ」だった。理想も現実も見つめ、あるがままの自分で在ろうとするJunk RobotとMoccobondの実直さも、「音楽でご飯を食べるのって簡単じゃないなぁ」と語ったみきなつみや、「これが最後のチャンスだと思ってバンドをやっている」と語ったvivid undressの「今」に突き刺さる生き様も、全ては音楽と共に生き抜こうとする者たちの真摯な姿だった。彼らは音楽のなかでは丸裸で、弱くて、その弱さを認めているが故に強かった。そして、そんな彼らの弱さと強さを飲み込むような歌を響かせたのが、最後に登場した平賀さち枝だった。

平賀さち枝
平賀さち枝

「聴いてくれる人は、みんな優しい人だと思っているの」――そんなことを呟きながら爪弾かれるアコギと、淡々と歌われる歌。その全てが私たちの生活にぴったりと寄り添ってくるような親密さや柔らかさをまといながら響く。「みなさんは帰ってから何をするんですか?」「みなさんの家の近くにあるスーパーは何ですか? オオゼキ? 西友?」そんなことをフロアに向かって語りかけながら、でも本当に胸の奥に語りかけてくるのは歌のほうなのだ。“恋は朝に”“白い光の朝に”“江の島”、それに初めて聴く曲も多々……日々のなかにある細やかな心の機微にそっと触れながら、彼女の歌は、「音楽はずっとあなたの傍にあるよ」と伝えているようだった。優しさからも厳しさからも、喜びからも悲しみからも、人間の生活が続いていく限り、歌は生まれ、そこに在り続ける。ただひとつ、その真実を示した平賀さち枝の歌は、この夜の全てを包み込んでいた。

イベント情報
『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume85』

2016年5月26日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
平賀さち枝
vivid undress
Junk Robot
Moccobond
みきなつみ
料金:無料(2ドリンク別)
※会場入口で音楽アプリ「Eggs」の起動画面を提示すると入場時の1ドリンク分無料

『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume86』

2016年6月30日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
HINTO
Tempalay
戸渡陽太
チーナフィルハーモニックオーケストラ mini
料金:無料(2ドリンク別)
※会場入口で音楽アプリ「Eggs」の起動画面を提示すると入場時の1ドリンク分無料

プロフィール
みきなつみ
みきなつみ

1998年4月14日生まれ 高校3年生 18歳。埼玉県出身。シンガーソングライター。2015年、作詞作曲を始める。ソニー、docomo、レコチョク、タワーレコード、TOKYO FM主催の10代限定オーディション『未確認フェスティバル2015』でファイナリストに選出され注目を集める。

Junk Robot (じゃんく ろぼっと)

「暗闇の中に希望を…」というテーマのもと、東京を拠点に活動中。2015年1月、Airi(Vo,Gt)、Takamac(Ba)によって結成される。その後、新たに Natsuki(ex チリヌルヲワカ(Gt),Yuki(Dr)をメンバーに迎え、結成からわずか数か月で様々なオーディションを通過する。同年12月、THE ORAL CIGARETTES, フレデリックなどを輩出したMASH A&R 4社合同オーディションのファイナリスト6 組に選ばれ、渋谷 WWW にてライブを行う。 2016年1月20日 1st ミニアルバム『青い星』をライブ会場、通販限定にてリリース。

vivid undress (びびっど あんどれす)

2014年3月12日結成。別々に音楽活動をしていたメンバーが出会い、結成された下北沢を拠点とする5人組「J-POP突然変異型ROCKクインテット」。同年7月、デモ音源がバイヤーの目に止まったことをきっかけに、1st Demo『ゼロ』がタワーレコード渋谷店限定でリリース。「2014年"タワレコ渋谷最優秀新人"最有力」と評され、店頭にて異例の大展開。渋谷店のウイークリー総合チャートで6位を記録、1000枚が完売となった。2015年以降、対バン自主企画を『PROGRESS PROGRAM』と題し、これまでにjamming O.P.、テスラは泣かない。、カラスは真っ白、deronderonderon等を迎えて開催。2016年5月25日、ミニアルバム『Prevail』をリリース。6月29日に渋谷WWWにて自主企画の開催が決定している。

Moccobond (もっこーぼんど)

Ba.vo(サトウケイスケ)&Gt.vo(ニシケケ夏ノコ)の男女ツインボー カルの個性的な声にKey(amanamazoo)&Dr(松川もも子)の女子の四人編成。歌詞の世界は文学的で、個性的なメンバーが生み出す音は中毒性とあたたかみとカラフルで包み込まれて唯一無二の新世代ヒーローである。まさに「クセがクセになる」。2016年5月25日に3rd mini album『告白前夜』をリリース。

平賀さち枝 (ひらが さちえ)

岩手県出身。最初はギターが弾けずアカペラでライブ活動を開始。数か月後にギターを弾きながら歌うようになる。2011年kitiからファーストフルアルバム『さっちゃん』発表。2012年ファーストミニアルバム『23歳』発表。2013年ファースト両A面シングル『ギフト/いつもふたりで』発表。2014年にHomecomingsとのコラボシングル『白い光の朝に』を発表。楽曲提供、こども向け楽曲製作、文章、声優、いろいろ挑戦しながら全国的に弾き語り活動中。



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