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地域密着どころじゃない。港まちに入り込むMAT, Nagoyaのアート

『アッセンブリッジ・ナゴヤ2016』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:飯嶋藍子 メイン写真:Takayuki Imai
地域密着どころじゃない。港まちに入り込むMAT, Nagoyaのアート

まち作りを期待されるアートプログラムが掲げる「アートそのものは、まちを変えるためには存在していません」

「アートそのものは、まちを変えるためには存在していません」。これは、名古屋港周辺の港まちをフィールドにしたアートプログラム「Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya]」のステートメント冒頭の一文だ。

表現欲求の発露、歴史の証言、社会への風刺など、アートの役割は多様であり、ことによると「役割」を持たないナンセンス、アナーキーすらその一側面であるのだから、このステートメントは驚くべきものではない。だが、それが「アートによるまち作り」を期待される団体・活動から発せられたならば話は変わる。

「MAT, Nagoya」の拠点であるMinatomachi POTLUCK BUILDING外観(撮影:Yasuko Okamura)
「MAT, Nagoya」の拠点であるMinatomachi POTLUCK BUILDING外観(撮影:Yasuko Okamura)

1980年代に産業港としての機能が移動し、住民の高齢化、商店街のシャッター通り化が問題になっている港まちを活動拠点とする「港まちづくり協議会」を母体としたアートプログラムである「MAT, Nagoya」は、なぜこんな攻めた言葉を用いたのだろうか。ここでは、9月22日から同地で始まった現代アートとクラシック音楽によるフェスティバル『アッセンブリッジ・ナゴヤ2016』を糸口にして、その理由と意味を考えたい。

作家が名古屋港エリアに滞在して新作を発表するアートと街の結びつき

『アッセンブリッジ・ナゴヤ2016』は、音楽とアートと港まちを結ぶフェスティバルである。約1か月の期間中、クラシック音楽家の野外コンサートや、美術作品の展示などが行われる。『あいちトリエンナーレ2016』のキュレーターを務める服部浩之とともに、「MAT, Nagoya」のプログラムディレクターである吉田有里、青田真也、野田智子が、『アッセンブリッジ・ナゴヤ2016』内の現代美術展『パノラマ庭園―動的生態系にしるす―』の企画にたずさわっている。

城戸保『6000台の車を載せた船』(2016年) / 『アッセンブリッジ・ナゴヤ2016』
城戸保『6000台の車を載せた船』(2016年) / 『アッセンブリッジ・ナゴヤ2016』

空き家になった接骨院や税関職員の寮、「MAT, Nagoya」の活動拠点であるMinatomachi POTLUCK BUILDINGを会場にして、18組のアーティストが展示を行なう。木造住宅をノコギリでまっぷたつに切断したことで有名なゴードン・マッタ=クラーク(1943-1978)という物故作家もそのなかに含まれるが、大半の作家が名古屋港エリアに滞在し、多様な角度のリサーチから生じた新作を発表している。

『アッセンブリッジ・ナゴヤ2016』のメインビジュアルである城戸保の写真作品『6000台の車を載せた船』は、名古屋港を行き来する船舶の側面部分を撮影したもので、車などの大型の輸出量を誇る産業港の景観を生かした作品である。あるいは、20年もの間空き家であった旧寿司屋を改装し、期間限定のカフェスペースにしてコーヒーや軽食をふるまうコミュニケーションの場を作り出すアーティストユニット「L PACK.」の活動は、その場がかつて持っていた機能を再生・快復する試みと言えるだろう(ちなみに生前のマッタ=クラークも、アーティストによる食堂「FOOD」を運営しており、この会場で「FOOD」のビデオも上映されている)。

L PACK.が手掛ける、旧・潮寿司を改装したカフェスペース『UCO』(2016年) / 『アッセンブリッジ・ナゴヤ2016』
L PACK.が手掛ける、旧・潮寿司を改装したカフェスペース『UCO』(2016年) / 『アッセンブリッジ・ナゴヤ2016』

この2つの作品は、Assemble(集める、組み立てる)とBridge(橋)を掛け合わせた造語をタイトルに冠した『アッセンブリッジ・ナゴヤ2016』における、アートと街の結びつきを象徴するものだ。

地域の人が日々訪れる、まちとアートの新たな拠点Minatomachi POTLUCK BUILDING

『アッセンブリッジ・ナゴヤ2016』のアート部門を担うのが「MAT, Nagoya」だというのはすでに述べたが、この2つの関係をもう少し掘り下げておきたい。

2015年秋にスタートした「MAT, Nagoya」は、名古屋港北部の港まちポットラックビルを拠点に、展覧会、ワークショップ、スクール、アーティストのためのスタジオプロジェクトなどを行なっている。そう書くと、芸術に特化した専門組織に思うかもしれないが、実際は、この名古屋港エリアのまち作りを推進する港まちづくり協議会が母体となり、活動しているアートプログラムであるため、日々の活動の実体はもっと地域に開かれている。

鈴木悠哉が港まちに滞在し、まちから借景し描いたドローイング『archegraph(Minato)』(2016年) / 『アッセンブリッジ・ナゴヤ2016』
鈴木悠哉が港まちに滞在し、まちから借景し描いたドローイング『archegraph(Minato)』(2016年) / 『アッセンブリッジ・ナゴヤ2016』

碓井ゆい『shadow of a coin』(2013-16年) / 『アッセンブリッジ・ナゴヤ 2016』
碓井ゆい『shadow of a coin』(2013-16年) / 『アッセンブリッジ・ナゴヤ 2016』

例えば、ネットの使い方がよくわからないおばあちゃんの代わりに日本舞踊の公演のチケット予約を手助けしたり、商店街の力仕事や、中学生からの進路相談など、近所の住人からさまざまな相談も受ける。筆者が取材で訪れた際には、小学生の女の子がペットのハムスターを連れて遊びに来ていて、スタッフから「作品に乗せちゃだめだよ~」と注意されて「気をつける~」と言いながらハムスターに展示を見せて回る、という微笑ましいやりとりをしていた。

もちろんこれらの「よろず相談所」のような機能は本来の業務から外れたものではあるものの、「MAT, Nagoya」がいつか実現したいと願う、ある未来図を示唆していると思う。アートコーディネーターの吉田有里と青田真也(彼は、熊の置き物や洗剤の容器など、既製品の表面を研磨した立体作品を作るアーティストでもある)、アートマネージャーの野田智子はこんな風に言う。

吉田:地域振興において、アートプロジェクトという名称が一般化していますが「プロジェクト」には目標と終着点があり、それが達成するとチームは解散し、一時的なイベントとして終わってしまいます。私たちがやりたいのは一過性の「達成」ではなく、継続的に「続けていくこと」なんです。ですから私たちは「プログラム」という言葉を使っています。

青田:アーティストには、この港まちをリサーチして作品制作を依頼したりするわけですが、完成した作品がすべてではありません。じつは、作品の構想過程で発見した多彩な視点が面白いんです。アーティストは「作品を作る」というレイヤーで物事を観察しますから、普通では気づかないような地域の性質や魅力、アイデアを見つけます。

そのなかから作品に反映されるのはごく一部で、大半がお蔵入りになってしまうのはもったいない。そういったアイデアをアーカイブしていって、例えば5年後に地域の問題が持ち上がったときに「こんなアイデアがあるんだけど」と引っぱり出すことができたなら、アートと地域の関わりはもっと近くなりますよね。

野田:そのアイデアを、まちの人、まち作りの担い手、建築家やデザイナーなどが受け取って、まちの課題を解決したり、新たな関係性を作っていけたらいいと思っています。

ヒスロム『美整物-1本の梁を巡る』(2016年) / 『アッセンブリッジ・ナゴヤ 2016』
ヒスロム『美整物-1本の梁を巡る』(2016年) / 『アッセンブリッジ・ナゴヤ 2016』

「アートそのものは、まちを変えるためには存在していません」の真意にある光の射す未来図

つまり「アートそのものは、まちを変えるためには存在していません」の一文は、「アートと地域を切断します」という冷徹な宣言ではないのだ。むしろ「アートはまちや人を変えることができるかもしれません。でも、それが本当によいことなのか、意味のあることなのか、時間をかけて一緒に考えていきましょう」という提案の意思が、この一文には込められているように思う。

この問いがすべての人に共有されるまでには長い時間を要するだろう。しかしだからこそ、ハムスターを連れて放課後に遊びに来る女の子がいたりする風景が、今の「MAT, Nagoya」にあることが嬉しい。彼女にとっては、学校から帰ってから過ごす余暇の選択肢として、この場所に遊びに来ることが大きくあるということなのだから。

コラクル+渡辺英司『ブランクーシの裁縫箱とあれこれ』(2016年) / 『アッセンブリッジ・ナゴヤ 2016』
コラクル+渡辺英司『ブランクーシの裁縫箱とあれこれ』(2016年) / 『アッセンブリッジ・ナゴヤ 2016』

徳重道朗『山並み』(2016年) / 『アッセンブリッジ・ナゴヤ 2016』
徳重道朗『山並み』(2016年) / 『アッセンブリッジ・ナゴヤ 2016』

『アッセンブリッジ・ナゴヤ2016』の現代美術展が「パノラマ庭園」というタイトルに決まったのは、アーティストの制作や作品展示を、名古屋港周辺=庭にアートの種を蒔いていくことになぞらえたからだという。種からどんな芽が息吹き、育っていくかはわからない。けれども、ポットラックビルで一瞬感じた心地よい空気は、この港まちの土壌が豊かに耕されつつあることを確信させてくれるものだ。

イベント情報

アッセンブリッジ・ナゴヤ2016
現代美術展『パノラマ庭園 ー動的生態系にしるすー』

2016年9月22日(木・祝)~10月23日(日)
会場:愛知県 名古屋港から築地口エリア一帯
時間:11:00~19:00(名古屋港ポートビル展望室は9:30~17:00)
参加アーティスト:
碓井ゆい
臼井良平
L PACK.
遠藤俊治
オル太
城戸保
クリス・チョン・チャン・フイ
コラクル+渡辺英司
ゴードン・マッタ=クラーク
下道基行
鈴木悠哉
玉山拓郎
徳重道朗
トラベルムジカ
中尾美園
ヒスロム
山本聖子
休館日:10月3日、10月11日、10月17日
料金:700円(『あいちトリエンナーレ2016』のチケット提示で600円)
※パスポートは名古屋港ポートビル展望室入場券を含む
※中学生以下は無料(ただし名古屋港ポートビル展望室は除く)
※パスポートは、ご本人に限り会期中何度でも入場可。(ただし名古屋港ポートビル展望室は1回のみ)
※会期中、港まちポットラックビル[アッセンブリッジ・ナゴヤ総合案内]で購入可能

プロフィール

Minatomachi Art Table, Nagoya(みなとまち あーと てーぶる なごや)

通称MAT, Nagoya。名古屋の港まちをフィールドにしたアートプログラム。名古屋港エリアでまち作りを推進する「港まちづくり協議会」が母体となり『Minatomachi POTLUCK BUILDING』を拠点に、現代美術の展示やスクールプログラム、空き家を資源として活用する「WAKE UP ! PROJECT」など様々なプロジェクトを展開。1980年代以降さまざまな国際的な現代アートの活動が行われてきた名古屋港周辺の歴史の素地を受け継ぎ、創造性をもって活動する人びとを歓迎し、制作・実践の場を創出することによって創造的なアイデアをまちに還元していくことを目指している。

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