PELICAN FANCLUB、evening cinemaらが鳴らす、現代のポップ

威風堂々たる姿で「特別な何か」を見せようとしたindischord

毎月恒例の音楽アプリ「Eggs」とCINRAの共同主催による無料音楽イベント『exPoP!!!!!』の97回目が、渋谷O-nestにて開催された。ロックからエレクトロまで、この日も雑多なジャンルの出演者たちによって彩られた夜となったが、この日ステージに立ったのは、それぞれが強く根深い詩情を、その音に刻み込むアーティストばかりだった。

トップバッターは、2016年6月に結成されたばかりの、福島県福島市出身の4ピースギターバンド、indischord。このバンド名は「be in discord(不一致である)」という英熟語から来ているようで、全く異なる複数の人間が、共同体として音楽を生み出す「バンド」という生き物の持つ不可思議さを見事に言い当てている。

indischord
indischord

結成から1年足らずではあるが、終盤に演奏された、軽快なファンクネスを持った“first”などは、このバンドの音楽的な懐の深さを感じさせた。そして何より、オーディエンスに、「日本語のギターロック」という既存のフォーマットからはみ出すような「特別な何か」を見せようとする、スター然とした威風堂々たるステージ上の四人の立ち姿には、バンドの器の大きさを感じさせるものがあった。

ササノマリイの歌声と音に宿る、あまりにもリアルな想い

続いて登場したのは、ササノマリイ。「ねこぼーろ」名義でボカロシーンから現れ、現在は自らステージに立ち歌う彼は、今回、バンド編成でライブを披露。シンセから放たれる端正な旋律とササノマリイの歌声には、まるでステージ上に作り上げた自室からオーディエンスに向かって手紙をしたためているかのような、不思議な密室感と開放感が同居していた。

ササノマリイ
ササノマリイ

“M(OTHER)”に始まり、トラックを提供したぼくのりりっくのぼうよみ“CITI”を再構築した“Re:verb”や、ぼくりりやDAOKOにもカバーされた名曲“戯言スピーカー”など、代表曲が並んだセットリスト。「ネットからリアルへ」などという単純な構図でササノのような現代の表現者を語ることはもちろんできないが、その歌声や1音1音に宿る温度からは、どうしようもなく「リアル」な、人に何かを伝えることにかける、ヒリヒリするほどの想いを感じることができた。

2017年の今、求められるべき「ポップ」を鳴らすORESAMA

続いては、今年メジャーへの再デビューを果たしたORESAMA。冒頭はDJが単独でステージ上に登場し、バキバキのビートで会場を一気に熱狂的なダンスフロアへと変貌させ、そこからボーカルのぽんと小島英也、そしてサポートベーシストがステージに現れた。

PON(ORESAMA)
PON(ORESAMA)

小島英也(ORESAMA)
小島英也(ORESAMA)

1曲目“銀河”が始まるや否や、すでに熱気に包まれた会場に、甘くポップな歌とメロディーが降り注ぐ。特に、ハイクオリティーな曲に対して全く負けていないぽんの堂々たる歌声が素晴らしい。ORESAMAが1度目のメジャーデビューを果たしたのが2014年だが、この3年で、音楽の在り方は大きく変わった。2014~5年頃と言えば、「みんなの歌」となりえるヒット曲や話題作が生まれづらい、インターネットから生まれる音楽の細分化の影響が最も顕著に表れた時代だったといえる。だが、フランク・オーシャンやビヨンセ、あるいはRADWIMPSや星野源など、多くの人々を巻き込む最大公約数的な存在が目立った「2016年」というエポックメイクな1年を経て、時代は今、離れ離れになった人々を繋ぐ「ポップ」を再び求めている。この日のORESAMAのパフォーマンスは、そんな今、求められる「ポップ」を提示する、光と喜びに満ちた素晴らしいものだった。

「ロマンス」がほとばしるevening cinemaのポップス

続いて登場したのは、evening cinema。冒頭は、リリースしたばかりの2nd EP『A TRUE ROMANCE』のタイトルトラック“true romance”から、リードトラック“わがまま”の流れでスタート。メロウでファンキーなアンサンブルの上を、甘さと粘り気が絶妙に配合された原田夏樹のボーカルが響き渡る。

原田夏樹(evening cinema)
原田夏樹(evening cinema)

evening cinemaは、大瀧詠一や岡村靖幸、小沢健二などをルーツに持ち、あくまでも「日本人としてのポップス」を奏でようとするバンドだ。かつて、大瀧詠一が1950年代以降のアメリカンポップスへの憧憬を形にし、その音を通して幻視される心象風景を曲に描いたのと同じように、evening cinemaの奏でるポップスもまた、どうしようもなく触れられない何か、あり得ない理想、失われた景色……そういったものを、音楽のなかに投影しようとする。

躍動するサウンドのなか、ステージ上で歌う原田の、洗練されていながら、しかし、どうしても内側からはみ出るエモーションを堪えることができない――そんな姿を見るにつけて、このはみ出る感情こそが「ロマンス」なのだろうと思った。

ギターロックの希望のような存在感を見せたPELICAN FANCLUB

そして、この日のトリを飾ったのは、1stフルアルバム『Home Electronics』をリリースしたばかりの4ピースバンド、PELICAN FANCLUB。独自のリズム感と言語感覚を操るロジカルで革新的な側面と、蒼い衝動をノイズ混じりに力強く解き放つ直情的でオーセンティックな側面。PELICAN FANCLUBは、その両面を併せ持つ稀有なバンドであり、この国のギターロックにおけるひとつの希望のような存在と言っていいだろう。

エンドウアンリ(PELICAN FANCLUB)
エンドウアンリ(PELICAN FANCLUB)

“深呼吸”に始まり、“Night Diver”、そして“Dali”へと、シューゲイザーやポストロックを昇華した、多重に入り組んだ音楽的な構造を持ちながら、そのど真ん中から溢れ出す歌が、聴いているこちらのど真ん中も打ち抜く、そんなパフォーマンス。この日の30分ほどのステージのなかで、様々な音や感情が乱反射するように飛び散っていくさまがとても綺麗で、そして衝撃的でもあった。特に印象的だったのは、“記憶について”。

人という生き物は、すべからく記憶によって作られている。ならば、とにかく今、この瞬間を生き切ることによってのみ、僕らは未来にいけるのだ――そんな決意のようなものが、歌とサウンドの疾走感となって放出されていくこの曲は、間違いなく、この日全体のハイライトとなっていた。

PELICAN FANCLUB
PELICAN FANCLUB

オーディエンスからの拍手は鳴り止まなかったが、アンコールは演奏されなかった。しかしながら、その潔さがまたよかった。本編最後に演奏された“花束”の余韻が残るなか、この日見た景色が記憶になって、O-nestに足を運んだ人たちの未来が形作られていく――その気配がただ、会場に漂っているようだった。

イベント情報
Eggs×CINRA presents
『exPoP!!!!! volume97』

2017年5月25日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
evening cinema
ORESAMA
PELICAN FANCLUB
ササノマリイ
indischord(オープニングアクト)
料金:無料(2ドリンク別)

『exPoP!!!!! volume98』

2017年6月29日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
MONO NO AWARE
MUSIC FROM THE MARS
WUJA BIN BIN
クウチュウ戦
ゆるふわリムーブ
料金:無料(2ドリンク別)

プロフィール
indischord
indischord (いんでぃすこーど)

福島県福島市にて2016年6月に結成、活動を開始する。9月の初ライブ時に無料1stデモシングル『first』をリリース。2017年1、2月には福島OutLine・いわきSONIC・郡山#9の県内3都市を周るサーキットイベント『福島CALLING vol.6』に出演。3月には早くも1stアルバムのリリースが決定。また『ARABAKI ROCK FEST.17 未来サミット -HASEKURA Revolution-』にてグランプリを獲得、メインステージである陸奥ステージへの出演が決定した。バンド名は「不一致である」という意味の熟語「be in discord」を文字ったものであり、メンバー一人ひとりの音楽の嗜好や思考が不一致であることを逆手に取り、この四人でしか作れない「聴き手の心の琴線に触れる新しい音楽」を生み出す、という意味合いが込められている。

ササノマリイ

エレクトロニカを基調としてロック、ポップス、クラブサウンドなどを独自に昇華したサウンドと、温かいメロディーのなかに辛辣な言葉を載せたリリックで数々の楽曲を発表。「ねこぼーろ」名義でネット上に発表した楽曲"戯言スピーカー"は、DAOKO や ぼくのりりっくのぼうよみなどにカバーされネットを中心に支持を集める。 2016年11月30日には、アニメ『夏目友人帳 伍』のOPテーマにも起用されたメジャー移籍シングル『タカラバコ』をリリースした。

ORESAMA (おれさま)

渋谷から発信する、ボーカル・ぽんとトラックメイカー・小島英也の2人組ユニット。ラブコメやディスコといった「バブル」カルチャーを「憧れ」として取り込み、80sディスコをエレクトロやファンクミュージックでリメイクしたダンスミュージックを体現。その新感覚はイラストレーター「うとまる」氏のアートワークやミュージックビデオと相乗効果を生んで新世代ユーザーの心を捉えている。

evening cinema (いぶにんぐ しねま)

フェイヴァリットアーティストに大瀧詠一、岡村靖幸、小沢健二を挙げるボーカル兼コンポーザー原田夏樹を中心に2015年結成。80年代ニューミュージックに影響を受けたメロディーセンスと現代の20代男子の瑞々しい感性で90年代初頭のPOPSを現代に再構築するAOR系POPSバンド。無名の新人ながらその作家能力に注目が集まり、2016年7月、1st ミニアルバム『Almost Blue』でCDデビュー。以後他アーティストへの楽曲提供やコラムの執筆等、活動の幅を広げている。

PELICAN FANCLUB (ぺりかん ふぁんくらぶ)

エンドウアンリ(Gt,Vo)、カミヤマリョウタツ(Ba)、クルマダヤスフミ(Gt)、シミズヒロフミ(Dr)。甘酸っぱいメロディーと多幸感、そしてどこかシニカルな歌詞が魅力の新世代ドリームウェーブバンド。タワーレコード限定でリリースした『Capsule Hotel』が話題となり、その後『ANALOG』、『PELICAN FANCLUB』、『OK BALLADE』とミニアルバムをリリースし、「スペースシャワー列伝」や「MINAMI WHEEL」など各地イベントに出演し、ワンマンライブでは3Dメガネを使用した演出やブラウン管テレビを使った演出を行うなどワンマンならではの演出で会場を沸かせた。今年5月には待望の1stフルアルバム『Home Electronics』をリリース。東名阪ワンマン公演を含む7箇所でツアー「Electronic Store」を開催。



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