電波少女、メンバー加入後のライブはいかに? 驚きの変化があった

いきなり8人が登場した、新体制初ライブ

去る7月1日、渋谷のライブハウス・TSUTAYA O-EASTにて、電波少女が『OWARI NO HAJIMARI』と題するワンマンライブを開催した。3月31日に新宿LOFTで行われたフリーライブで、これまで数々の楽曲で共演してきた盟友ラッパー・NIHA-Cが新メンバーとして加入することが発表されて以降、フェスなどへの出演はあったものの、ワンマンライブは初。つまりこの日は、ハシシ、nicecream、そしてNIHA-Cから成る「3人の電波少女」の正式な初披露、記念すべき門出の日とも言えたわけだが……そのライブのタイトルが「終わりのはじまり」というのは、なんともハシシらしいサーカスティックなセンスだ。彼は「泣け」と言われれば笑うし、「笑え」と言われれば泣くタイプの男だ。

左から:ハシシ、NIHA-C、nicecream。インタビュー記事「なぜ電波少女にNIHA-Cが加入した?9年目に増員の決意をした背景」より(撮影:西槇太一)
左から:ハシシ、NIHA-C、nicecream。インタビュー記事「なぜ電波少女にNIHA-Cが加入した?9年目に増員の決意をした背景」より(撮影:西槇太一)

タイトルの『OWARI NO HAJIMARI』が大文字アルファベットで綴られているのは、恐らく「SEKAI NO OWARI」を意識してのことだろう。これはあくまでネタ的なもので、それほどの深い意味は込められていなかったとしても、ライブに「エンターテイメント」としての強度を求めている点は、電波少女もセカオワも共通している(もちろん、現状のライブの規模感に差はあるが)。

会場が暗転し、約10年間の電波少女のキャリアを振り返るような映像がフロアの両サイドに備え付けられたモニターに映し出されてライブの幕が上がると、ステージには電波少女の3人、さらに5人のダンサーを含めた計8人がステージに上がった。

撮影:伊藤麻矢
撮影:伊藤麻矢

まず、この5人のダンサーたちを交えた、1曲1曲の世界観に合わせて魅せ方を綿密に練り込まれた演出が素晴らしかった。そもそも、電波少女にはnicecreamというブレイクダンスを得意とするパフォーマーがいるが、彼に加えて5人のダンサーがいることで、ステージから放たれる躍動感は圧倒的に大きなものになるし、それがメジャーデビュー以降の電波少女の楽曲が持つポップさと見事にマッチしている。さらに、いまはNIHA-Cというビジュアルにも歌声にも華のあるMCが、ハシシと双璧をなして立っているのだ。冒頭から、ステージ全体から放たれる華やかで力強いエネルギーが、フロアの空気を一気に掌握していくのが手に取るようにわかる。

撮影:伊藤麻矢

nicecream。撮影:伊藤麻矢
nicecream。撮影:伊藤麻矢

なぜ若者たちは、電波少女の「歌」に釘付けになるのか?

会場を見渡してみると、客層は10代~20代前半あたりの若者たちが多いようだったが、スマホを掲げて写真や動画を撮りながら観るよりも、熱心にステージを見つめながら一緒に歌っているオーディエンスが多いことも印象的だった。それだけ、電波少女の楽曲は彼らの心と深くリンクしているのだ。そんな電波少女とリスナーたちの精神的なリンクを象徴するのが、NIHA-C加入後の最初の楽曲“GXXD MEDICINE”だろう。

この曲のリリース時に行ったインタビューで、ハシシはこの曲を「医療用の薬を過剰摂取してしまうような、精神的な弱さを抱えた若者たちに向けて作った」というふうに語った。心に弱さを持ってしまった若者たちに、「甘えんなよ」と言いたのだ、と。これを本人は「嫌がらせ」なんていうふうに語っていたが、私にはどうしても、これはハシシの大人としての「優しさ」だと思えてしまう。「伝える」ことや「教える」ことを放棄し、若者たちから「奪う」ことしか考えられない大人も多いなかで、ハシシは「伝える」ことを諦めていない。

彼は“A BONE feat. Jinmenusagi & NIHA-C”で歌った<ガンバレ>という言葉が、冷笑的な態度で簡単に扱われていい言葉ではないことを知っている。その言葉が音楽に乗ることで、誰かを生かす可能性があることを知っている。この日、序盤でプレイされた“GXXD MEDICINE”。イントロが鳴った瞬間、フロアからは大きな歓声が上がっていた。

撮影:伊藤麻矢
撮影:伊藤麻矢

MCが「1人」から「2人」になったことで生まれた、電波少女の変化

去年リリースされたNIHA-Cのソロアルバム『アリバイ』にハシシをフィーチャリングする形で収録された“モナリザ”を披露し、続く“Good Night”“ME”“夜光虫”の流れでは、NIHA-C→ハシシ→NIHA-Cと、それぞれがソロで歌う。こうして両者のステージングを順番に見て感じたことは、やはりハシシとNIHA-Cという2人のMCは全くカラーが違っていて、だからこそ、NIHA-C加入によって電波少女はかつてないバランス感覚を得たのだ、ということ。

“Good Night”と“夜光虫”という、この日プレイされたNIHA-Cのソロ楽曲では、「喜び」や「悲しみ」といった感情がとても純度の高い状態で表現されている。こうした臆面のないピュアネスは、ハシシの楽曲からなかなか出てこないものだ。NIHA-Cというラッパーは、世界の中心に立って大声で笑ったり泣いたりするように、自分が感じたことを真っ直ぐ世の中に表明できるような天然由来の大胆さを持っている。

撮影:伊藤麻矢

NIHA-C。撮影:伊藤麻矢
NIHA-C。撮影:伊藤麻矢

それに対してハシシは、最初にも書いたようにサーカスティックなラッパーだ。彼は世の中が冷たくなれば熱くなるし、世の中が熱くなれば冷たくなる。居心地の悪い場所にこそ、居心地のよさを感じるような男なのだ。そこには、NIHA-Cの持つ向こう見ずなピュアネスとは違った、「時代」や「他者」と交わってこそ生まれる強靭な精神性がある。この2人の天性が、どのように1曲のなかで絡み合っていくのか?――そこが、この先の電波少女の見所と言えるだろう。

撮影:伊藤麻矢

ハシシ。撮影:伊藤麻矢
ハシシ。撮影:伊藤麻矢

ファンのあいだではお馴染みの「呪いの歌」。ハシシは「呪い」から解けた?

盟友・Jinmenusagiを招いて“Earphone”“MONEY CLIP”“A BONE”“COMPLEX”を披露したのち、ハシシのソロMCで歌われた“SKIT2”。ファンにとっては周知の事実だろうが、去年リリースされたアルバム『HEALTH』に収録されたこの曲は、兼ねてより根強い人気を誇る楽曲がリアレンジされたものだ。去年、メジャー移籍後の連続配信リリースの1発目として改めて世に出る予定だったところを、リリース直前にハシシの意向で配信中止に。その後、結果としてアルバム『HEALTH』のなかに“SKIT2”として収録されたという経緯がある(アルバムには“SKIT1”もある)。それだけハシシにとって特別な思い入れのある曲なのだろうが、彼はこの曲を往々にして「呪い」という言葉を使って表現している。確かに、この曲には呪いのような力がある。

撮影:伊藤麻矢
撮影:伊藤麻矢

電波少女『HEALTH』(Apple Musicはこちらから

<誰に認められたくてやってるの ねぇ?>――繰り返される、自分自身に向けられた問い。認められない、報われない……そんな飢餓感が切々と刻まれ続けるこの曲が辿り着くのは、<本当の気持ち吐いても楽になれない って俺は思うよ>――そんな、とても孤独な場所だ。

自分の本音を誰かにわかってもらう必要はない。他の誰かが与えてくれる幸せや解決に身を預けることもない。ただ、自分で自分を納得させることのできる場所を追い求めて歩いていく……この曲からは、そんな強固な意志が感じられる。しかし、強すぎる意志は、ときに「呪い」にもなる。誰かに身を預ければ楽になれるのかもしれないのに。大事なものをひとつでも捨てれば報われるかもしれないのに。それなのに、この曲の主人公は自分が自分であるために、自分を呪い続ける。

メジャーデビューを果たし、いまはnicecreamとNIHA-Cという2人の仲間と共にありながら尚、この「呪い」のような曲を歌い続けるハシシの心情とは、一体どのようなものなのだろうか? この“SKIT2”においては、他の曲では見せないハシシの感情的で振り切れた歌い方が印象的だった。

撮影:伊藤麻矢
撮影:伊藤麻矢

8月より、毎月リメイク音源をリリースすることを発表

この日のラストを飾った“Munchii Bear Cookiis 2018”は、8月1日より今年いっぱい毎月1日にリリースされる、過去曲のリメイクシリーズの第1弾となる曲だ。“Munchii Bear Cookiis”は、初期から人気の楽曲。この先どの楽曲がリメイクされていくのかはわからないが、このリメイクシリーズは、NIHA-C加入後の新体制・電波少女として新たに世界観を構築したいという思いがあるのと同時に、来年結成10年目を迎える電波少女の、唯一のオリジナルメンバー・ハシシのなかにある「変わらないもの」を刻み続けていくための作業にもなるのではないだろうか。きっとこの先、私たちはもっともっと深く、電波少女を知ることができる。

撮影:伊藤麻矢

撮影:伊藤麻矢
撮影:伊藤麻矢

イベント情報
『OWARI NO HAJIMARI』

2018年7月1日(日)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-EAST

リリース情報
電波少女
『GXXD MEDICINE』

2018年6月20日(水)配信リリース

電波少女
『Munchii Bear Cookiis 2018』

2018年8月1日(水)配信リリース

イベント情報
『シークレットツアー』

2018年11月18日(日)
会場:東京都 Shibuya WWW X
シークレットゲスト:
Jinmenusagi
Raq
トップハムハット狂 a.k.a AO

2018年11月25日(日)
会場:大阪府 北堀江club vijon
シークレットゲスト:
Jinmenusagi

2018年12月2日(日)
会場:愛知県 名古屋RADHALL
シークレットゲスト:
RAq

2018年12月9日(日)
会場:福岡県 graf
シークレットゲスト:
トップハムハット狂 a.k.a AO

※先行受付期間:2018年7月1日(日)21:00~7月16日(月・祝)24:00

プロフィール
電波少女
電波少女 (でんぱがーる)

2009年、インターネット動画投稿サイトに突如姿を現した数名の個性派MC・TMで電波少女結成。幾度のメンバー加入、脱退を経る。MC担当ハシシとパフォーマンス&ボタンを押す係担当nicecreamに、NIHA-Cが加わり、現在は3名で活動。等身大でリアルなリリックと、キャッチーなメロディーは一度聞いたら耳から離れない中毒性を持ち、ライブにおけるnicecreamのダンスパフォーマンスは、ほかでは味わえない華やかさがありライブならではの一体感を生み出している。各動画サイトにアップロードされたMVなどの映像は累計で300万再生を突破しており、今、最も注目と期待を集めているHIPHOPCREWである。2017年9月27日メジャーデビューアルバム『HEALTH』を発売。NIHA-C加入後初となる作品『GXXD MEDICINE』を6月20日に配信リリース。



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