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又吉直樹×武田砂鉄 1本のメールから始まった無目的な思索の応答

又吉直樹・武田砂鉄『往復書簡 無目的な思索の応答』
テキスト
タナカヒロシ
撮影:鈴木渉 編集:中田光貴(CINRA.NET編集部)
又吉直樹×武田砂鉄 1本のメールから始まった無目的な思索の応答

いい人ばかりだと、嫌なやつ来るとうれしいじゃないですか。「まだいたー!」っていう感じで、テンションがむしろ上がっちゃったりする。(武田)

武田の話は読書の重要性に落ち着いたが、今度は又吉が声を荒げ始める。

又吉:素直な人とか、性格いい人を、すごいみんな褒めるじゃないですか。それって、ある種の天才じゃないですか。性格がいいなんて、もう、じゃあいいやんというか。

武田:もうゴールですよね。

又吉:「あいつほんまは性格悪い」って言うけど、ほんまは性格悪いのに、性格がいいふりをしようとしてるのって、けっこう努力してる。それを「あいつほんま性格悪い」って、なんなん? やさしさやん。その人なりの、まわりを傷つけないための。なんで悪魔に戻すんだって。一生懸命、いい人になろうとしてるのに。

又吉直樹

性格の悪い人が、性格のいいふりをするのはやさしさ。又吉の発言を受け、武田は「性格が悪いことを普通にすれば、性格のいい人はより褒められるだけで、みんなが幸せになるのではないか」と提案するが、一方で性格が悪い人を受け入れる姿勢も大切だと訴える。

武田:いい人ばかりだと、嫌なやつ来るとうれしいじゃないですか。「まだいたー!」っていう感じで、テンションがむしろ上がっちゃったりする。だからその人数が少なくなっていくと、それはそれでマズいと思うんです。いい人の濃度が高すぎるコミュニティが苦手です。

お客さんのなかにも性格いい人と悪い人といるでしょうけど、性格いいっていう自覚のある人は、もうちょっと性格悪い人をポップに扱うというか、生活のリズムのなかに、性格悪い人をスムーズに入れてくっていうことをしていただかないと。端っこで濃くなっちゃうから、それが。

又吉:もっと悪くなっちゃう。

武田:もっと悪くなると、性格いい人が被害をこうむることになるんだから。やっぱり自然に、循環のなかに入れてもらわないと。

又吉:性格悪いやつは、そういう扱いされると、性格いい人に、ちょっと攻撃するときありますもんね。

武田:そうなんです、申し訳ないんですが。で、そこが嫌がられるんですよ。

又吉:「あなたはとても心がきれいな人で素直やけど、その眩しさが、僕らの世界をもっと暗くしている」ということも覚えておいてくださいね、みたいな。

武田:なぜ僕らに影があるかっていうと、あなたが太陽だからだよって。

左から:武田砂鉄、又吉直樹

ひたすら途切れずつながっていき、まるで雪だるまのように膨らんでいく2人の話だったが、既に2時間近くが経過。ここで編集者から「キリのよいところで」と告げられ、締めに入るのだが、ここでも2人の素直ではない性格が露呈する。

武田:こういう場で話をすると、「自分は今日、これをしゃべったな」っていうことと違うことーーどっちかがポロッと漏らしたその言葉を、「あ、それが聞けてよかった」と思ってくださることって、けっこう多いじゃないですか。それがものをしゃべっていて面白いと思う瞬間で。

又吉:そういう意味でいうと、会話って、そういうものですよね。

又吉直樹

武田:この『往復書簡』も、10出したものをそのまま10引き受けて、また10書くっていうこともできるんです。だけど、2人の場合は10じゃなくて、最後の1とか、あいだの2とか、最初の1みたいなのだけを引っ張って、すごい細い血管でなんとかつないだみたいなところがあって。それもすごく面白かったんですよね。

又吉:一定じゃなかったですもんね、つながり方も。

武田:5をつないでいるときもあれば、「ほとんどゼロじゃねーか、仕切り直してるじゃねーか」ということもあったし。その自由度があったっていうのは、いろんな往復書簡を読んでても、あんまりなかったと思うので、それはすごく楽しかったですけどね。

又吉:いや、僕も楽しかったです。

武田:もう、会うことがないかもしれない……。

又吉:寂しいこと言いますね……。

武田:だって、会うことないですよね、あんまりね。

又吉:いや、でも、あるんじゃないですか。

武田:ありますか。

又吉:はい。どっかで絶対。

なんとやきもきさせられる会話だろうか。このとき会場にいた観客のほとんどは、なぜそこで「今度ご飯でも」の一言が言えないのかと思っていたはずだ。

しかし、縮まりそうで縮まらない距離感を保ったまま時間は経過し、観念したかのように又吉が「こっから、お互いできるだけ会わないように気をつけて、いつ会ったかっていうのも面白いかもしれないですね」と口にする。きっと心の声では、別のことを話していただろう。

果たして2人の再会はいつになるのか。そのとき2人は、どんな距離感で、どんな会話をするのか。この2人にとっての「どっかで絶対」は、どのような意味を持つのかわからないが、その日が訪れるのを楽しみにしたいと思う。

左から:武田砂鉄、又吉直樹
又吉直樹・武田砂鉄『往復書簡 無目的な思索の応答』(朝日出版社)
又吉直樹・武田砂鉄『往復書簡 無目的な思索の応答』(朝日出版社)(Amazonで見る
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イベント情報

『違和感の居場所 ~芸人とライター、書くときに考えていること~』
『違和感の居場所 ~芸人とライター、書くときに考えていること~』

2019年5月17日(金)
会場:紀伊國屋ホール

書籍情報

又吉直樹・武田砂鉄『往復書簡 無目的な思索の応答』
又吉直樹・武田砂鉄
『往復書簡 無目的な思索の応答』

2019年3月20日(水)
価格:1,620円
発行:朝日出版社

プロフィール

又吉直樹(またよし なおき)

1980年大阪府生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑い芸人。2003年にコンビ「ピース」を結成。2015年に『火花』で第153回芥川龍之介賞を受賞。著書に『東京百景』(ヨシモトブックス)、『劇場』(新潮社)などがある。毎日新聞で連載した小説『人間』が今秋に単行本化予定。

武田砂鉄(たけだ さてつ)

1982年東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年よりライターに。著書に『紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)、『芸能人寛容論――テレビの中のわだかまり』(青弓社)、『コンプレックス文化論』(文藝春秋)、『日本の気配』(晶文社)などがある。

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