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夏目知幸と考える名曲の歌詞。他者の言葉を独自に読み解く

『シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』
インタビュー・テキスト
渡辺裕也
撮影:小河原万里花 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)
夏目知幸と考える名曲の歌詞。他者の言葉を独自に読み解く

全4回にわたってシャムキャッツの歩みをその歌詞から振り返るトークイベント『シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』。昨年12月28日(土)に開催された第4回は、いよいよフィナーレ。『Virgin Graffiti』から最新作『はなたば』までの時期を取り上げ、シャムキャッツの現在地をその歌詞から探りました。

とはいえ、この時期はまだ振り返るには時期尚早というのもあり、このへんはざっくり。イベント後半は番外編ということで、ちょっとイレギュラーな企画を用意しました。題して、『夏目くんと名曲の歌詞を読み解こう』。来場したみなさんから事前に好きな曲を募り、その歌詞を夏目くんと一緒に読み解いてみよう、という試みです。さあ、夏目知幸は他のソングライターが書いた歌詞をどう分析するのか。今回のレポートではその一部をお届けします。

柴田聡子“結婚しました”「やっぱりこの人は天才なんだなと思った」

―今日はみなさんからそれぞれ選曲の理由も添えてもらっているので、そちらも紹介しながら、1曲ずつ見ていきたいなと思ってます。

夏目:いいですね! 楽しみでーす。

夏目知幸(なつめ ともゆき)<br>東京を中心に活動するオルタナティブギターポップバンドシャムキャッツのボーカル、ギター、作詞作曲。2016年、自主レーベル〈TETRA RECORDS〉を設立し、リリースやマネジメントも自身で行なっている。近年はタイ、中国、台湾などアジア圏でのライブも積極的。個人では弾き語り、楽曲提供、DJ、執筆など。
夏目知幸(なつめ ともゆき)
東京を中心に活動するオルタナティブギターポップバンドシャムキャッツのボーカル、ギター、作詞作曲。2016年、自主レーベル〈TETRA RECORDS〉を設立し、リリースやマネジメントも自身で行なっている。近年はタイ、中国、台湾などアジア圏でのライブも積極的。個人では弾き語り、楽曲提供、DJ、執筆など。

―早速始めましょう。1曲目は柴田聡子さんの“結婚しました”。選んだ理由は「日常を描いた歌詞がすごくかわいくておもしろくてしあわせそうなかんじが出ているところが好きです」とのことです。

柴田聡子“結婚しました”MV

夏目:この曲はライブで初めて聴いた時に、やっぱりこの人は天才なんだなと思ったし、あとでタイトルを知ったときも驚きました。「結婚しました」ということを誰かに伝えている、というのが前提で始まる曲なんですよね。“結婚しようよ”という吉田拓郎の曲がありますけど、あれは「君」に「結婚しよう」って伝える曲。でも“結婚しました”は、主人公とその結婚相手とは別の「もう一人の誰か」、第三者が介在している曲です。そして、なぜ言ったんだ? って疑問が最初から聴き手に投げられてる。

歌い出しの時点で、もう勝ち。<やっぱハワイより船に乗ろうよ>から始まって、次にくる<麦わらの影の網目>でいきなり視点、カメラの位置が変わるんだけど、イメージはしっかりつながってる。そのスピード感がすごい。

僕、柴田聡子という作家の特徴は「いじわる」なところだと思うんです。決定的な言い回しは避けて、すべてをはぐらかしていくんですよね。逃げ足の切れ味がとにかく鋭くて、その鋭さで聴き手の集中力を保たせるタイプというか。

―柴田さんは『いじわる全集』(2014年)という作品も出していますよね。本人もそこは意識的なのかもしれない。

夏目:あくまでもこれは俺の想像なんですけど、“結婚しました”はどうしても許せない人、頭のなかにいてしまう男性への当てつけの曲なんじゃないですかね。自分の近況を語りつつ、過去に起きたことがどちらの男性との間で起こったことなのか、わからないまま話が進んでいくんです。

―主人公の発する言葉から、相手の存在が浮かび上がってくる。ただ、それは結婚相手のことなのかもしれないし、それ以外の人なのかもしれないと。

夏目:まさにその「かもしれない」っていう雰囲気をずっと残していくんです。<だますよりはだまされる方が まだいい まだいい まだいいよ>の、3回繰り返しているところも、この歌詞のキモだなと。これが1回だと、主人公が騙された側のように感じるけど、3回繰り返されると、主人公が騙した側のようにも思えてくる。「私のほうがつらいのよ」みたいな雰囲気というか。<明日の朝の雨降りは ふたりでは持てぬ傘が要る>というところも、3人目の誰かがいることの暗示とも取れるし、ちょっとのことで一人ぼっちになってしまうという意味にも取れる。よくできてる。

ゆず“からっぽ”「あやふやさって、聴き手が入り込みやすい隙にもなるんですよね」

―2曲目はゆず“からっぽ”。「私は、若い男女の別れというより、好きになってはいけない相手がいる大人の報われない恋を描いたように思うのですが、夏目くんならばどう解釈しますか? いわゆるJ-POPに飲み込まれる前の、この時代のゆずがとても好きです」。

ゆず“からっぽ”を聴く(Apple Musicはこちら

夏目:飲み込まれるって表現が正しいのかわからないけど、J-POPというステージ、そういう場所で活躍しようって気はこの時もうすでにあったんじゃないかな。日本国内で一番わかりやすい「売れる」ってどういうやり方かっていうと、J-POPっていうゲームに参加して、勝つこと。マーケットがでかい。無意識に参加してしまっているなら「飲み込まれる」っていう表現でいいけど、この時代のゆずがどうだったかはわからない。どちらにしろ、もうゲームには参加してますよね。歌詞を見てもなんとなくそう感じます。

―というのは?

夏目:あえてその視点から見ると、という実験になりますけど、たとえば<青く澄んだ君の目が何か語りかけた>って、J-POPではよく使われるような言い回しですよね。ちょっとあやふやな言い方です。ここで「何を語りかけたのか」を明記したほうが、より具体的なストーリーが描けるからもっとグッとくる歌詞になるんじゃないかなと思うんですけど、あまりそういう手法をみんな取らない。一方でこういうあやふやさって、聴き手が入り込みやすい隙にもなる。「俺はこうだ!」じゃなくて「みんなこうだよね?」っていうのがJ-POPゲームの基本ルールだと僕は思う。いいとか悪いとか、優れているとか劣っているとかの話ではなくて、J-POPにはそういう癖があるなと。

この曲の場合は、主人公がぼんやりしていることを最初のヴァースで歌っているから「何か語りかけた」という言葉で「上の空であること」を表現してる。そういう意味ではバッチリだけど、何を言ったのか書いてあったら曲の聞こえ方はかなり変わるはずですね。

―なるほど。夏目くんの歌詞に対する考え方からすると、他にもなにか気になるところはありますか?

夏目:“からっぽ”というタイトル超いいですよね。このタイトルで売れたのすごくないですか? これも“結婚しました”と一緒で、結論を最初に言ってる。からっぽなんですよ、彼は。

いちばん俺がぐっとくるのは、2番のAメロかな。<ひとを好きになること 当たり前の事なんだけど 僕がもう少しその事を知っていれば こんな事にはならなかったのかもね>。過不足ないですよね。これが2番にあるっていうのもいい。めちゃくちゃ「からっぽ」な感じが伝わってくる。

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イベント情報

『シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』
『第4回 シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』

2019年12月28日(土)
会場:東京都 渋谷ヒカリエ 8 / MADO
登壇:
夏目知幸
渡辺裕也

リリース情報

『はなたば』
シャムキャッツ
『はなたば』(CD+DVD)

2019年11月6日(水)発売
価格:2,420円(税込)
TETRA-1018

[CD]
1. おくまんこうねん
2. Catcher
3. かわいいコックさん
4. はなたば ~セールスマンの失恋~
5. 我来了

[DVD]
『バンドの毎日4』

プロフィール

夏目知幸
夏目知幸(なつめ ともゆき)

東京を中心に活動するオルタナティブギターポップバンドシャムキャッツのボーカル、ギター、作詞作曲。2016年、自主レーベル〈TETRA RECORDS〉を設立し、リリースやマネジメントも自身で行なっている。近年はタイ、中国、台湾などアジア圏でのライブも積極的。個人では弾き語り、楽曲提供、DJ、執筆など。

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