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平野啓一郎と観る西洋絵画。「よくわからない」も楽しみ方の一つ

『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)
平野啓一郎と観る西洋絵画。「よくわからない」も楽しみ方の一つ

描かれるファッションから、当時の社会状況を絵解いていく

歴史的な背景や当時の文化風俗を参照しながら絵画をレクチャーしていく平野さんに「なるほど!」と、何度もうなずく一同。なんとも贅沢な鑑賞ツアーだ。そして3つめのセクション、「ヴァン・ダイクとイギリス肖像画」へ。17世紀のイギリスで貴族たちから絶大な支持を集めた肖像画家ヴァン・ダイクの『レディ・エリザベス・シンベビーとアンドーヴァー子爵夫人ドロシー』(1635年頃)など、華やかな王侯貴族たちの肖像が並ぶ。

平野:人の顔については写実的に描く以外にはないと思いますから、ここで注目したいのは彼 / 彼女たちのファッションです。例えばトマス・ゲインズバラの『シドンズ夫人』(1785年)などからは、この時期に服のテクスチュア(質感)が豊富になっていた様子がうかがえます。

この時代から19世紀半ばまでは、衣服の表現方法の発達が肖像画を観る大きな楽しみだと思います。19世後半になって印象派が登場するようになると、絵もソフトフォーカスになって写実性を志向する方向から離れていくのでファッションの描き分けも大きな意味を持たなくなっていく。ピカソやマチスの絵もそうでしょう?

トマス・ゲインズバラの『シドンズ夫人』を鑑賞中
トマス・ゲインズバラの『シドンズ夫人』を鑑賞中
平野啓一郎

―その時代の絵画を思い浮かべながら観ると、トマス・ローレンス『シャーロット王妃』(1789年)のレース地の透け感へのこだわりはすごいですね。

平野:質感だけではなく、服の着心地みたいなものへの意識も社会的に高まっていくんです。都市の隆盛と共に勃興してきたブルジョワジー(中産階級)の台頭が、英国では特にはやくから起こりました。それに対して王侯貴族は経済的に弱体化していくのですが、唯一誇ることのできる文化的優位性を保つために、彼らはファッションなどの美意識を練り上げることに力を注ぎます。そして、ブルジョワジーたちはその美にものすごい憧れを抱くんですね。

トマス・ローレンス『シャーロット王妃』鑑賞中
トマス・ローレンス『シャーロット王妃』鑑賞中

平野:18世紀後半の英国で流行した「ダンディ」は、まさに貴族のライフスタイルを誇った文化で、その創始者とされるジョージ・ブライアン・ブランメルは、それまでのごてっとした贅沢さから一転、シンプルな美意識を提案した人物。彼はミニマルな衣装にさりげなく贅沢な素材を使ったり、シャンパンでブーツを磨く、といったこだわりの「美意識」を提案し、貴族社会のファッションリーダーになりますが、フランスに伝わったそのモードは、皮肉なことに、むしろブルジョワ社会のなかで圧倒的に支持されていくんです。今でいえばアメリカ出身のファッションデザイナーであるトム・フォード的な趣味と言えるかもしれません。

平野啓一郎

ファッションという切り口だけで、驚くほど豊かな見方が発見できることを学んだ一同。平野さんの言った「絵全体だけでなく部分で楽しむのも鑑賞の醍醐味。それは映画や小説も同様なんですよ」との言葉を噛み締めながら、次に向かった。

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イベント情報

『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』

東京会場

会場:東京都 国立西洋美術館
会期:2020年6月18日(木)~10月18日(日)
開館時間:9:30~17:30
毎週金・土曜日:9:30~21:00
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、9月23日
※7月13日、7月27日、8月10日、9月21日は開館

※会場内の混雑緩和のため、これから本展入場券を購入されるお客様には、事前に来場日時を指定した入場券をご購入いただきます。
今後販売する本展の入場券はスマチケ、読売新聞オンラインチケットストア、イープラスとファミリーマート店頭Fami ポートのみの販売となり、国立西洋美術館での販売はありませんので、ご注意ください。
すでに前売券や招待券などをお持ちのお客様、無料入場のお客様につきましては「前売券・招待券用日時指定券」を購入のうえ指定時間内にご入場いただくか、当日先着順でのご案内(会場混雑時は、入場整理券を配布します)となります。ただし、当日の入場人数の上限に達した場合はご入場いただけませんので、予めご了承ください。

大阪会場

会場:大阪府 中之島 国立国際美術館
会期:2020年11月3日(火・祝)~2021年1月31日(日)

プロフィール

平野啓一郎(ひらの けいいちろう)

1975年愛知県蒲郡市生。北九州市出身。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。40万部のベストセラーとなる。以後、一作毎に変化する多彩なスタイルで、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。美術、音楽にも造詣が深く、日本経済新聞の「アートレビュー」欄を担当(2009年~2016年)するなど、幅広いジャンルで批評を執筆。2014年には、国立西洋美術館のゲスト・キュレーターとして「非日常からの呼び声 平野啓一郎が選ぶ西洋美術の名品」展を開催した。著書に、小説『葬送』『滴り落ちる時計たちの波紋』『決壊』『ドーン』『空白を満たしなさい』『透明な迷宮』『マチネの終わりに』『ある男』等、エッセイ・対談集に『私とは何か「個人」から「分人」へ』『「生命力」の行方~変わりゆく世界と分人主義』『考える葦』『「カッコいい」とは何か』等がある。2019年に映画化された『マチネの終わりに』は、現在、累計58万部超のロングセラーとなっている。

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