レビュー

アイドルの緩慢な死 〜 猛スピードで駆け抜けた一年の先にBiSが見たもの

濱田智
2011/12/27
アイドルの緩慢な死 ~ 猛スピードで駆け抜けた一年の先にBiSが見たもの

「12月31日をもって、BiSを卒業します」。キラーチューン“Nerve”が披露された直後に、BiSのパブリックイメージ(「思想」と言い換えてもよい)の重要な部分を担っていたユケことナカヤマユキコが、こう宣言した。衝撃が瞬時に場内を駆け抜け、ある者は泣き崩れ、ある者は「さもありなん…」を飲み込み(事情を知るファンにとっては、ある意味予測された結末でもあったのだ)、また今話題のアイドルを興味本位で観に来たある者は、不意にぶつけられた告白の重さに唖然とするのだが、そうした諸々を一旦飲み込んで祝祭は再開した。“マグノリア”でのユフちゃんの見事な背中の角度…。“animal”のサビは半径1mの些事を表現しているようで好ましいし、プー・ルイの肩が入っていていつ見ても面白いなあ…、そしてのんちゃんの抜群の安定感…。呪われた何かを振り払うように狂乱したこの夜。しかし、リキッドルームを埋めたおよそ900人の群衆が、祝いと災いの言葉、そして飛沫する汗に支配されたその瞬間の雰囲気を、私は忘れないと思う。

『IDOL is DEAD』(2011年12月20日@LIQUIDROOM恵比寿)ライブ写真
『IDOL is DEAD』(2011年12月20日@LIQUIDROOM)ライブ写真

こと門外漢であった私にとっても、この一年はアイドル業界にとって「アイドル戦国時代」と改めて語り直されるに相応しい充実した一年であった事は容易に想像出来る。そしてその中でBiSが果たした役割は、本当に本当に大きい。そもそも、既存のアイドル業界に対するカウンターとして頭角を現してきたももいろクローバーに対して、あまりに早すぎるカウンターをぶつけたのがBiSである(ももクロ“怪盗少女”のエビぞりが「引用」された挙句、全く踊れていないという“Nerve”の衝撃を、いつでもYoutubeで確認出来る便利な時代が今だ)。ももクロですら、これからの結果が期待される、そんな未知数の存在だったのにも関わらず、である。「自給自足」、「アイドルとしては全くもって不適切な発言」といったそもそもの立ち居振る舞いの怪異から、「全裸PV」、「終わらないヘッドバンキング」や「無防備な口パク」といったパフォーマンスの怪異、ここには書ききれない様々なエキセントリックを常にクオリティの高い楽曲で下支えするという「奇形アイドル」。この特異点が、かの業界のパースペクティヴを拡張した功績は、ひいき目に見ても少なくなかったと思う。

しかしそうした極端な在り方が体現したのは、悦楽という名の巨大な空虚であった。結成一年にしてもたらされた二度にわたる脱退劇が、決して企画書やツイートや妄想では担保しきれない、ナイーヴで生々しいヒトの営みとしての「生」を浮かび上がらせる。猛スピードで駆け抜けた一年の総決算として、「リキッドルームでのワンマン」という結成当初では考えられないような大目標を達成した輝かしいこの夜は、そんな浮かれた気分を突き放すように『IDOL is DEAD』と名付けられている。今までなら「残酷な『引用』ですね」とか「捨て鉢なマーケティングですね」などと笑って楽しんでいられたこのタイトルからも、そして先行発表されていた“primal.”の意味深であるのと同時に不快なビデオからも、今ならば私たちが無自覚で蹂躙し、消費し続けてきた四人(五人?)のボロボロの「生」を感じ取ることが出来るだろう。同時に、「アイドルという祭」を楽しむのであれば、多かれ少なかれその生と向き合う覚悟が求められているのではないか。アイドルは往々にして、人よりも少しだけ性急な死を迎える。人生が先延ばしにされた死であるのとは対照的に、である。

“primal.”ではユフが力強く「靴擦れした両足でここに立っていたいんだ」と歌った。名言である。「来年のことより今を信じたいんだ」。そう、今のこのBiSはもう二度と存在し得ないBiSであり、そうした一回性にことさらフォーカスし続けてきたのも、他ならぬBiS自身なのだ。一年前、明日をも知れぬアイドル業界に舟を漕ぎ出す希望と不安が詰め込まれた、覗いてはいけない光源のように美しい、グループ名と同じ名を持つ楽曲「BiS」と、これからの彼女達の新しい一歩を不安げに、しかし力一杯描き出した“primal.”がセットリストの最後に並べられていたのは、この「アイドルの死」を象徴する重要なタイムラインだった。

二度目のアンコールにて、ユケにも知らされない形で、三人となった「新生BiS」による新曲が披露された。それはパフォーマンスとしてはあまりにこなれていなかったし、いかにも突貫作業といった感じのクオリティであったが、そこに重きを置いても仕方ないだろう。ともあれ地獄の釜は再び開いたのである。「今、ノリに乗ってるBiSだから、大丈夫でしょう!」なんていう無責任な甘言はかえって失礼。リビングデッドの駄走となるのか、はたまた新たな「アイドルの生」を顕示するのか。来年のBiSは、今年のBiSとは全く違うものであって、だからこそまたしても目が離せなくなっている。

イベント情報

BiS
『primal.』初回限定盤(CD+DVD)

2011年12月21日発売
価格:1,800円(税込)
XQJZ-91001

1. primal.
2. eat it
3. ウサギプラネット
4. YAH YAH YAH
5. primal.(Alien Rabbitz Remix)
[DVD収録内容]
・最新PV及びメイキング

BiS

BiS - 新生アイドル研究会

「アイドル戦国時代の最終兵器」ことBiS -
新生アイドル研究会は、「アイドルを研究して、アイドルになろうとする、アイドルになりたい4人組」を標榜し、その表面的な慎ましさと楽曲のクオリティの高さを逆手にとって暴虐無人の限りを尽くした暴れ牛ユニット。活動期間わずか一年の間に、メンバー脱退、全裸PV、ももクロ宣伝カーの進路妨害、謎のDiSソング発表…と暴力的な無節操さを発揮した無敵の四本マイクであり、その一本が欠けてしまうという現実を未だに受け入れられていない重篤者多し(筆者は意味もなく原宿の街を徘徊しました)。しかし新曲"primal."を引っさげてのテレビ地上波初出演も果たし、更に2012年には、主演映画の制作や、既にいくつかのライブ出演が決定する等、最早止まることが許されない暴走機関車としての活躍が期待されている。

2012年1月26日には、CINRA主催の入場無料イベント『exPoP!!!!! vol.58』への出演も決定している。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

『悲しみに、こんにちは』予告編

映画『悲しみに、こんにちは』予告編。両親の死によって、都会から田舎の伯父伯母のもとに引き取られることになった少女・フリダ。スペイン・カタルーニャで過ごす彼女の、きらめくようなひと夏の様子が、新鋭監督による瑞々しい感性によって描かれています。映画批評サイト「ロッテン・トマト」100%Fresh獲得も納得の一作です。(久野)

  1. 『デザインあ展』が科学未来館で開催。体験型作品も多数の会場内をレポート 1

    『デザインあ展』が科学未来館で開催。体験型作品も多数の会場内をレポート

  2. 吉岡里帆主演『健康で文化的な最低限度の生活』 生活保護描く新ドラマ 2

    吉岡里帆主演『健康で文化的な最低限度の生活』 生活保護描く新ドラマ

  3. ドラマ『恋のツキ』に安藤政信&欅坂46・今泉佑唯が出演 恋物語をかき乱す 3

    ドラマ『恋のツキ』に安藤政信&欅坂46・今泉佑唯が出演 恋物語をかき乱す

  4. ケンドリック・ラマーの黒塗り広告が突如、霞ヶ関駅&国会議事堂前駅に出現 4

    ケンドリック・ラマーの黒塗り広告が突如、霞ヶ関駅&国会議事堂前駅に出現

  5. 夏帆「ドッキドキ」 TOWA TEI「SRATM」新曲“ダキタイム”PVに出演 5

    夏帆「ドッキドキ」 TOWA TEI「SRATM」新曲“ダキタイム”PVに出演

  6. SNSでイラストの支持を集めた雪下まゆが語る、作風への葛藤 6

    SNSでイラストの支持を集めた雪下まゆが語る、作風への葛藤

  7. アニメキャラ100の名言が新宿地下を占拠 『Netflix “アニ名言”ジャック』 7

    アニメキャラ100の名言が新宿地下を占拠 『Netflix “アニ名言”ジャック』

  8. 『華氏451度』『一九八四年』などSF作がTシャツに 早川書房×トーハン企画 8

    『華氏451度』『一九八四年』などSF作がTシャツに 早川書房×トーハン企画

  9. 細田守が語る、映画『未来のミライ』で描きたかった現代の家族像 9

    細田守が語る、映画『未来のミライ』で描きたかった現代の家族像