レビュー

ある光の中で輝く麓健一の素敵な王冠

福田教雄
2012/01/04
ある光の中で輝く麓健一の素敵な王冠

ある東京のライブハウスで『コロニー』のサンプルCD-Rを渡された。それは11月頭のこと、麓くんはいつものように自信がなさそうで、まるで聴いてほしくないようだった。それから何度かこの作品を聴いてきた。どちらかというと天気の悪い日に流すことが多かったように思う。先週たまたま遠出をする機会があったので、その道中でも聴いてみた。日本海側を海沿いに走る特急電車に乗って、普段は余りしないイヤホンを耳に突っ込む。晴れたり曇ったり、雪が降ったかと思えばあられがガラスを打ちつけ、そしてまた晴れ間が……。めまぐるしく変わるこちら側特有の冬が窓の外にあった。ぼくの育ったところもそうだったから別に目新しくはないけれど、しかし、晴れてはいてもいつも白い雲のフィルターを何枚か通したような光はあらためて懐かしいものだった。抜けるような東京の冬の青空もいいけれど、明るければすべてがよく見えるというものでもなし、この醒めた光の下でこそ見えてくるものだってきっとあるのだ。では、麓健一の音楽はどちらの光でより聴こえるだろう、そんなことを思いながら数時間を過ごした。

変われない自分を嘆き、ふらふらと変わってしまう自分にいらだつ。『美化』から3年ぶりとなる2枚目のアルバム『コロニー』の音楽は彼の居心地の悪さをそのまま見ているようだった。ぐらぐらと発酵するよこしまな自分にふたをして、その上に乗ってどうか吹きこぼれないでと祈る麓健一。沸騰する内側に押されてカタカタと震えるふた。このバンド・アンサンブル──特にスッパマイクロパンチョップの間欠泉のようなドラムは、そういうものを思わせた。乱調、とでも言うような。

今さら麓健一の歌声が中性的だとは思わないし、この音楽がサイケデリックだとも思わない。むしろ彼が求めたものは、そういうスタイルやテイストを超える具体的な血や肉の部分だったのだろうと思う。そして、ギリギリのバランスで平衡を保つ綱渡りのような面も(そういえば、本作のブックレットには美しい綱渡りの写真が載っている)。そうやって彼は『コロニー』で聴く者ひとりひとり──特に居心地の悪さが身に染みついてしまったぼくたちあなたたち──を讃えていく。ある種の賛歌集、それが『コロニー』なのかもしれない。

さあ、この伏し目の王子を讃えよう。麓健一の頭には素敵な王冠が乗っている。霞むようなあの光の下でなら、きっとあなたにも見えるはずだ。白く輝くそれが。

リリース情報

麓健一
『コロニー』

2011年12月14日発売
価格:2,100円(税込)
kiti-007

1. コロニー #1(End of may)
2. パフ
3. ピーター
4. Party
5. ロンリネス 凧
6. ドントストップ
7. Do you remember?
8. FIGHT SONG(山荘と水着)
9. ガールズ
10. 鏡、鏡
11. たたえよたたえよ

麓健一

都内を中心に活動する、SSW。2006年の完全自主制作CD-Rが、ディスクユニオン、円盤等で販売され口コミで話題を呼ぶ。続く 2007年から「にせんねんもんだい」が運営するレーベル「美人レコード」よりCD-R作品を数作発表。2008年、待望のファーストフルアルバム「美化」をkitiより発表。盟友、oono yuukiや昆虫キッズのアルバムにも参加。2010年からはスッパマイクロパンチョップ、T.T.端子、ホソマリとの4人のバンド編成でライブを重ねる。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

Nulbarich“Sweet and Sour”

テレビ東京のドラマ『デザイナー 渋井直人の休日』のエンディングテーマ“Sweet and Sour”。2月6日リリース予定の3rdフルアルバム『Blank Envelope』のリード楽曲でもある今作は「偶然の景色」がテーマ。日常の中に偶然生まれたハッとする瞬間を鮮やかに切り取っている。グラフィカルな映像に垣間見える、あたたかな日常を楽しもう。(野々村)

  1. OKAMOTO’Sが大人と少年の間で語る、28歳で迎えた10周年の心境 1

    OKAMOTO’Sが大人と少年の間で語る、28歳で迎えた10周年の心境

  2. 竹内結子主演、異色のリーガルドラマ『QUEEN』。監督は関和亮、音楽も注目 2

    竹内結子主演、異色のリーガルドラマ『QUEEN』。監督は関和亮、音楽も注目

  3. 『十二人の死にたい子どもたち』キャラ&場面写真に橋本環奈、新田真剣佑ら 3

    『十二人の死にたい子どもたち』キャラ&場面写真に橋本環奈、新田真剣佑ら

  4. 柴田聡子がジャコメッティら巨匠から活力をもらう展覧会レポ 4

    柴田聡子がジャコメッティら巨匠から活力をもらう展覧会レポ

  5. 『鈴木敏夫とジブリ展』4月から神田明神で開催、鈴木敏夫の「言葉」に注目 5

    『鈴木敏夫とジブリ展』4月から神田明神で開催、鈴木敏夫の「言葉」に注目

  6. 『乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展』開催間近、齋藤飛鳥らが訪問&感想 6

    『乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展』開催間近、齋藤飛鳥らが訪問&感想

  7. 石原さとみが後楽園堪能する東京メトロ新CM 曲はスキマスイッチと矢野まき 7

    石原さとみが後楽園堪能する東京メトロ新CM 曲はスキマスイッチと矢野まき

  8. Spangle call Lilli lineの美学 20年消費されなかった秘密を探る 8

    Spangle call Lilli lineの美学 20年消費されなかった秘密を探る

  9. back numberが深田恭子主演ドラマ『初めて恋をした日に読む話』主題歌 9

    back numberが深田恭子主演ドラマ『初めて恋をした日に読む話』主題歌

  10. 漫画本に囲まれる「眠れないホテル」MANGA ART HOTEL, TOKYOが2月開業 10

    漫画本に囲まれる「眠れないホテル」MANGA ART HOTEL, TOKYOが2月開業