レビュー

筋金入りの狂人たちが罵詈雑言を吐き合う、素晴らしく非道徳的で不謹慎な舞台

土佐有明
2012/05/25
筋金入りの狂人たちが罵詈雑言を吐き合う、素晴らしく非道徳的で不謹慎な舞台

かつて「本書き病」を自認していた毛皮族の江本純子は、現在の演劇界で最も多数の台本をコンスタントに量産してきた劇作家のひとり。この多作ぶりはそれだけでひとつの個性であり才能と呼ぶべきだろう。特に、06年に始まった毛皮族の軽演劇シリーズでは、一度の公演で毎回4本の新作を上演。江本はそれを「財団、江本純子」や毛皮族の本公演、更には俳優としての活動と並行して、1年に1回のペースで続けてきたのだから、アクティブという他ない。

軽演劇シリーズの特徴は、本公演と較べて小さなスペースで行われ、上演時間も1本1時間前後と短いところ。CDにたとえるなら、本公演がコンセプチュアルで長尺のフルアルバムで、軽演劇はキャッチーなシングルを4枚同時にリリースしているようなものだろう。A演目から始まりZ演目で「あがり」になるというふれこみだったこのシリーズ、今年4月に遂に26の演目をすべて上演し終え、ひとまず完結を見た。そして、Z演目『女と報酬』はその大トリを飾るに相応しい、膨大な熱量を発するライブ感溢れる怪作だった。

撮影:青木司
撮影:青木司

まず、舞台上のキャラクター8名が、揃いも揃って筋金入りの狂人。この時点で既に圧倒される。登場するのは、パンティまる見えのセクシーなチンピラ、浣腸好きな半裸のシスター、唐突にトランペットを吹く謎の侍、栄養失調で腹の膨れたセックス占い師など。物語らしい物語はなく、瓦礫の中で異様なテンションの8名が卑猥な罵詈雑言をヒステリックに吐き合い続ける。全員が確たる理由もなく終始激昂しており、そのアッパーで血気盛んな演技は、お笑い芸人の「キレ芸」がぬるく感じられるほど。さしづめ、「静かな演劇」ならぬ「やかましい演劇」とでも言ったところか。過剰なデフォルメを施されたキャラたちのコミカルな挙動は、『がきデカ』や『おそ松くん』の人物造型を連想させたりもする。

ところで、変な奴/狂った奴を客席という絶対安全な場所から眺められる、というのは、演劇を見るひとつの醍醐味だろう。例えば、江本が尊敬する松尾スズキや、その松尾の生徒だった本谷有希子の作品では、実際にそばにいたら迷惑極まりないキャラクターの暴走や奇行を、余裕をもって客席から「観賞」することができる。時には動物園の珍獣を見物するかのように、だ。その意味で、『女と報酬』におけるキャラの立ち具合と突き抜け方、エキセントリックな人物造形は、そうした客席の欲望に充分すぎるほどに応えていたと思う。もしこれがテレビ番組だったら、多くのシーンがカットされていたはず……というかまず地上波での放映は無理だろう。

その名の通り、軽佻であるがゆえの享楽性や野放図さが魅力だった軽演劇シリーズだが、中でも『女と報酬』は群を抜いて自由で放埓で奔放。深遠なストーリーや重厚長大なテーマとは一切無縁で、文学的な余白や含みなど1ミリもない。だが、そこがいい。下手に偏差値の高い思わせぶりな演劇では味わえないカタルシスが、この素晴らしく非道徳的で不謹慎な演目にはあったからだ。

撮影:青木司
撮影:青木司

もうひとつ実感したのは、このカタルシスは脚本を読んだだけでは伝わらないだろう、ということ。先日岸田戯曲賞の3作受賞が話題となったが、生で体験しないと凄みが伝わらない演劇も一定数あり、それらは上演台本が審査の対象となる戯曲賞では評価されづらい。例えば、構造的トリックの特異さが活字では表現しづらいシベリア少女鉄道、珍妙な歌や踊りの迫力で圧倒するFUKAIPRODUCE羽衣などもそうだが、毛皮族の軽演劇シリーズもまた然り。特に『女と報酬』はその極端な例だろう。こういう公演を観ると、やはり演劇は究極のライブだと実感させられる。

今年11月にはパリ公演が行われるという本作『女と報酬』だが、外国でも、個性的過ぎる異形のキャラクターたちの吸引力はまったく変わらず通用するのではないか。役者たちの過剰にデフォルメされた挙動や発話から伝わるライブ感や熱量は、言葉を介さずともダイレクトに届くはずだからだ。

プロフィール

毛皮族

2000年9月、江本純子作・演出作品を上演する演劇団体として結成される。娯楽性の高い狂騒的な舞台を特長とするが、旗揚げ当初の数年は女優たちがニップレス姿で踊るレビューシーンに過度の注目が集まり、一躍話題の劇団となる。結成4年目の2004年に下北沢駅前劇場史上初の1ヶ月ロングラン公演で4000人を動員、翌2005年には本多劇場に進出し『銭は君』を上演。2006年より、原宿・リトルモア地下ギャラリーでの軽演劇公演を開始する。それまでの劇場公演とは特色の改まった新作喜劇の大量上演は好評を得、以降、劇場での本公演と並行して、定期的に軽演劇公演を行うようになる。2009年、毛皮族ではやらない作風や形態を試みる「劇団、江本純子」シリーズを開始する(2011年「財団、江本純子」に改名)。以降、毛皮族本公演、毛皮族軽演劇公演、「財団、江本純子」公演、と3種の公演を行うようになる。

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