レビュー

どの世代にとってもまぶしい、青春の表現者

野中モモ
2012/11/19
どの世代にとってもまぶしい、青春の表現者

2012年夏、デビュー単行本『森山中教習所』からおよそ2年ぶりとなる真造圭伍の新刊が書店に並んだ。しかも、2冊同時に。2本目の連載作品となる『ぼくらのフンカ祭』には西村ツチカと浅野いにお、デビューからの短編をまとめた『台風の日』には、小田扉と松本大洋が帯に推薦コメントを寄せている。ここまででもう、ある種のマンガ愛好家たちからこの若き才能に向けられている熱い視線を察していただけるだろう。

プロフィールによれば、1987年石川県生まれ埼玉在住。東京造形大学在学中に漫画家デビュー。「アートスクール出の漫画家」の系譜に連なる25歳だ。実際、彼がこれまでに描いてきた作品たちは、一見懐かしく中年にも優しい顔をしているにも関わらず、はっきりと現在を感じさせる。真造よりだいぶ年上の筆者としては、「これが新世代か!」と感嘆の声(と、ため息)が出てしまうのを抑えられない。

まず、なにしろ絵が目に気持ちいい。いまどきのキラキラしたデジタル絵ではなく、かといって細かな描き込みで迫るスタイルでもない。柔らかくすっきりとした線で多くを伝える、いかにもマンガらしい絵だ。登場人物たちが生きている空間の広がりがきちんと感じられる、洗練とあたたかみを併せ持った絵。古き良き日本のマンガ絵を踏まえているのと同時に、海外の書店の棚にポンと置いても馴染みそう。今は昔と違って、ダニエル・クロウズやエイドリアン・トミーネなど、アメリカのオルタナティブコミックがそれほど苦労しなくても手に入る時代。学ぼうと思えばいくらでも学べる時代における表現力の底上げ、というものを目の当たりにした感がある。

優秀なのは絵だけではない。物語だってちょっと気の利いた青春映画のようだ。『森山中教習所』は、山の中の非公認自動車教習所(元中学校)を舞台にしたひと夏のお話。行き当たりばったりで自由人と呼ばれる大学生の清高くんと、その高校の同級生で、今はヤクザに目をかけられている轟木くん。別々の世界に生きることになるふたりの人生が思いがけず交差する。夏、車、淡い恋、そして友情……。絶対に情緒に訴える要素をさりげなくまとめるその手腕に、「いまどきの若い人はスマートだなあ」と感心すること請け合いだ。それはちょっと憎らしいほどに。

『ぼくらのフンカ祭』では、さらにもうひとまわり大きく華やいだマンガ的な楽しさを味わうことができる。火山の噴火をきっかけに、過疎から活気あふれる温泉街に生まれ変わった町で右往左往する、高校生の富山くんと桜島くん。観光客で賑わう町、大きなお風呂、オールドファッションな大学寮、学園祭からの町をあげての祭り、クライマックスの大事件……。目に楽しいシーンの連続だ。

そして、この作品によって、『森山中教習所』で感じる「スマートでこなれている」という印象は、少し改められることになった。この人はとても巧いけれど、もしかしたら器用というわけではないのかもしれない。なぜかというと、これも『森山中教習所』と同じ、対照的な男の子ふたりの友情の物語だったから。冷めてる富山とお調子者の桜島、それぞれに進路に悩んで、恋して、喧嘩して、仲直りして。いつか別々の道を行くことは決まっているけれど、一緒に過ごした時間は永遠……。またそれか!それなのか! とはいえ、だからこそ信用できるというか、そういう「描かずにはいられないなにか」を自分の内に持っていることが、創作の原動力になっているんだろうな、と思う。そういえば短編作品でも、なんともいい感じのふたりが何組も登場していた。

現在、『週刊ビッグコミックスピリッツ』での新連載を準備中だという真造。勝負の3作目、さらなる飛躍に期待は高まる。同時に、自主制作漫画誌『ジオラマ』への参加、群馬県太田市の「じたくいまぎゃらりー」での個展など、商業出版の世界の外側でもユニークな活動を続けており、そちらも見逃せない。世の中が急激に変化し、10年前の「売れっ子漫画家コース」がおそらくもう通用しない時代に、どんなマンガを、漫画家のありかたを見せてくれるのか。基本的にカッコいい「できる子」にも関わらず、本人としてはいろいろ納得いってない富山くんの姿がぼんやりと重なったりして。現在20代半ばの真造は、10代の登場人物たちの若さを意識的に描いているが、年上の読者にとっては、彼自身も若い時間を生きていてまぶしい。同世代の人なら嫉妬と羨望をもって意識してしまうだろうし、年下の人にとっては、きっと愛すべきすごい先輩。今なら既刊はまだ3冊。この人の目に世界はどんな風に映るのか、それはどう変わっていくのか、共に見守っていこうではありませんか。

書籍情報

『ぼくらのフンカ祭』

2012年7月30日発売
著者:真造圭伍
価格:780円(税込)
ページ数:318ページ
発行:小学館

『台風の日 真造圭伍短編集』

2012年7月30日発売
著者:真造圭伍
価格:650円(税込)
ページ数:197ページ
発行:小学館

プロフィール

真造圭伍

1987年1月23日、石川県生まれ。『週刊ビッグコミックスピリッツ』の『スピリッツ賞』に投稿ののち、大学3年時に『なんきん』でデビューした。その後『月刊!スピリッツ』(ともに小学館)に『森山中教習所』を、『週刊ビッグコミックスピリッツ』に「僕らのフンカ祭」を連載。短編をまとめた単行本『台風の日』も2012年に刊行。新進のマンガ家やアーティストが自主制作するマンガ雑誌『DIORAMA』にも寄稿。現在、『週刊ビックコミックスピリッツ』で新連載を準備中。

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