レビュー

メディアアートと石ころが出会う、新たな知覚採集の夏

内田伸一
2013/08/01
メディアアートと石ころが出会う、新たな知覚採集の夏

「石ころ」を主役にしたこの夏の注目イベント。それは老若男女が川面に全力投球の『全日本石投げ選手権大会』(ちなみに実在しますが開催は秋)でもなく、はたまた、つげ義春的な「石を売る」ショップでエクストリームなコレクターデビューというわけでもない。今回訪ねるのは、意外なアーティストによる意外な場での展覧会だ。

触れたり嗅いだりという身近な体験に、テクノロジーで新たな驚きをもたらす親しみやすい作品で知られるメディアアートユニット・plaplax(プラプラックス)の個展。しかも会場は映像の歴史と最新表現を紹介する「SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム」だという。この組み合わせでなぜ「石ころ」なのか。展覧会場で確かめることにした。

『イマジネイチャー 〜石ころの記憶〜』会場風景 写真提供:SKIPシティ 映像ミュージアム
『イマジネイチャー 〜石ころの記憶〜』会場風景 写真提供:SKIPシティ 映像ミュージアム

映像の技術・表現における変遷を楽しく体験できる常設展を通り抜けた先に、今回の企画展フロアはある。吹き抜けの渡り廊下を進むと、エントランスの下で動く小さな物体が。SF風飼育ドームのような小さなケースの中、のそのそ動くコミカルなそれは……まさに「石ころ」でした。plaplaxにかかれば、もの言わぬ石も秘めたる生命を呼び覚まされるということか。

『イマジネイチャー 〜石ころの記憶〜』会場入り口 写真提供:SKIPシティ 映像ミュージアム
『イマジネイチャー 〜石ころの記憶〜』会場入り口
写真提供:SKIPシティ 映像ミュージアム

古今東西、マディ・ウォーターズの“Rollin' Stone”からAKB48の“転がる石になれ”まで「転がる石」を歌う者は数知れず。ただ、そこでしばしば擬人化&自己投影(「転石苔むさず」的なものから、「ちっぽけな存在だけど……」的なものまで)されるのと違い、plaplaxの四人はあくまで自分たちと接する「外界=自然の象徴」として石ころをとらえたようでもある。個展名に冠した造語「イマジネイチャー」も、imagination + natureからきているのだろう。

『イシムシの標本〈リク / ウミ / ソラ〉』は、その視点へさらに創造性を加えたようなインスタレーションだ。足もとに積まれたさまざまな石からお気に入りを選び、引き出しの中にコトリと入れる。すると「ゴロンゴロン」と音がした後、すぐ上にあるモニターに摩訶不思議な生き物が出現。選んだ石と同じ色・かたち・模様の体を持ち、ユーモラスな学名(?)も授けられる。やがてイシムシたちの映像は、モニターから抜け出し壁面を自由に動き始める。なお3つある引き出しは、それぞれ陸、海、空を住処にする虫が生まれるようになっている。虫取り網なしで参加できる、夏のデジタル生き物観察?

『イシムシの標本〈リク / ウミ / ソラ〉』
『イシムシの標本〈リク / ウミ / ソラ〉』

『隠れたファンタズム』では、床に散らばる平たい石をひっくり返すと、隠れていた住人=虫やカニ、トカゲなどの「影」があわてて逃げていく。いつだったか川遊びなどで体験した、あの驚きがよみがえるひととき。居合わせたちびっ子来場者たちがそこかしこで上げる歓声の中、ミュージアムに夏休みの気配が……。

『隠れたファンタズム』
『隠れたファンタズム』

オカルティックな自然信仰ともまた違う、身近かつ豊かなイマジネーションへの誘い。もともとテクノロジーを随所に活用しつつ、科学がカバーしない世界にも思いを馳せる表現がplaplaxの真骨頂だ。それは石ころが象徴する自然界に対しても一貫していることに、ここで気づかされる。神話や童話にも着想した作品群は全9点(新作8点)。シンプルに徹した会場構成も、一人ひとりの発見 / 再発見を引き出してくれる。

『月面のケアン』
『月面のケアン』

plaplaxの四人がこうした表現に挑んだ詳細はCINRAの近森基インタビューに譲るが、彼らは「イマジネイチャー」の考え方を掘り下げる際、宮沢賢治の「心象スケッチ」の考え方を参考にした。この言葉が添えられた『春と修羅』は口語詩集として知られるが、賢治の考えは少し違ったようで、岩波茂雄(岩波書店の創業者)にあてた書簡にはこう記している。いわく「わたくしはあとで勉強するときの仕度にとそれぞれの心もちをそのとほり科学的に記載して置きました」。

『クラムボンはわらった』
『クラムボンはわらった』

広い意味での「知覚」を重視する点で、plaplaxが今回この「心象スケッチ」にインスピレーションを得たのは興味深い。もともと彼らの作品には、各種センサーを応用して鑑賞者との間に相互作用を引き起こすものが多い。ときにインタラクティブアートは、しょせん「入力Aには出力B」的演算の延長線上だとも揶揄されるが、たとえプログラム上はそうでも、それを越えた体験を生み得るとの想いがあればこそ、彼らも創作するのだろう。

『石ころのカチナ』
『石ころのカチナ』

だから今回、一見メディアアートには不似合いとも思える石ころたちは、子どものころの記憶を含めて広く共有し得る「心象」と、個々人に特有の感覚の両者を引き出す役割を担うのかもしれない。前述のちびっこたちの姿にはいわゆる「夏休み企画」としての成功も感じるが、そこに留まらない新展開の予感も。展覧会に寄せられたアフォーダンス研究者の佐々木正人によるコラム『石ころ魂』もそのことを示唆する。

その中の一文、「石ころは、きっとヒトに何かをさせてあげたいのです」は、一見これまた擬人化のようだけれど、その実、「石ころ」がただそこにじっとしているだけでも外界と関係し合う可能性に言及している。いわば、石ころを石ころのまま、この世界の手がかりとしてとらえる視点がそこにある。ここで改めて「石ころ」を「自然」に言い換えてもよいかもしれない。

ところで、当初「石ころをモチーフにしたメディアアート」と聞いて、『ドラえもん』の「石ころぼうし」を想像したのだった。これを被ると路傍の石のように周囲から一切認識されなくなる。のび太が口うるさい家族から自由になりたくて利用し、あげく気づかれないせいで逆に災難だらけというオチである。今回の個展をもし藤子・F・不二雄先生が見ていたら、また別の「すこし・ふしぎ」なエピソードも生まれたかもな……と夢想しながら、まだコロコロしている入口の石ころに別れを告げた。

イベント情報

『イマジネイチャー 〜石ころの記憶〜』

2013年6月1日(土)〜9月1日(日)
会場:埼玉県 川口 SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム
時間:9:30〜17:00(入場は16:30まで)
出展作家:plaplax(近森基、久納鏡子、筧康明、小原藍)
休館日:月曜(祝日の場合は翌平日)
料金:大人500円 小中学生250円

夏休み特別ミニギャラリートーク+ワークショップ
『石ころを動かそう!!』

2013年8月17日(土)14:00〜16:00
会場:埼玉県 川口 SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム
講師:plaplax
対象年齢:小学生以上
定員:30名(要事前申し込み、先着順)
料金:無料(映像ミュージアム入館料が必要)
※申し込み方法詳細はこちら

(メイン画像:『石ころのカチナ』)

プロフィール

plaplax(ぷらぷらっくす)

近森基、久納鏡子、筧康明、小原藍のメンバーで活動。主にインタラクティブアート分野における作品制作を手がける一方、公共空間、商業スペースやイベント等での空間演出や展示造形、企業や大学との共同技術開発など幅広く行う。Ars Electronica(オーストリア)、SIGGRAPH(アメリカ)、ポンピドゥセンター(フランス)、文化庁メディア芸術祭(日本)など、国内外で数多く作品を発表。

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