レビュー

現在の日本ともリンクする、「移住」をテーマにした2つの展覧会

坂口千秋
2013/09/18
現在の日本ともリンクする、「移住」をテーマにした2つの展覧会

展示室に足を踏み入れると、「わあ……」と思わず声がでる巨大で密集したダンボールの要塞。ファベーラや九龍城のスラム街のようであり、海賊船や秘密基地のようにも見える。1個ずつはダンボールでできたチープな家で子どもの工作と変わりないが、これだけ集まるともはや圧巻としか言いようがない。金沢21世紀美術館で開催中の『住む:プロジェクト もうひとつの国』は、フィリピン出身でオーストラリア在住の夫婦ユニット、イザベル&アルフレド・アキリザンによるパワフルなインスタレーションだ。

イザベル&アルフレド・アキリザン『住む:プロジェクト もうひとつの国』展示風景
イザベル&アルフレド・アキリザン『住む:プロジェクト もうひとつの国』展示風景

作品は、ボルネオ島サバ州海岸部一帯を拠点にして暮らすバジャウ族の人々と水上集落を参考にしている。一生を海で暮らすバジャウだが、グローバル化の影響で生活にも変化が生じ、貧困のため陸に上がる者が増えている。居場所を失い浮浪者となるバジャウも少なくない中で、なんとラップを覚えて生活の糧としているたくましい子どもたちもいる。(子どもラッパーの映像がかわいい!)変わりゆく暮らしと異文化への適応といったバジャウの抱える課題に、フィリピンからオーストラリアへの移民である自分たちの姿を重ね合わせて、移動やアイデンティティーの問題を探ろうとしている。

イザベル&アルフレド・アキリザン『住む:プロジェクト もうひとつの国』展示風景
イザベル&アルフレド・アキリザン『住む:プロジェクト もうひとつの国』展示風景

2,000個あまりの大小さまざまなダンボールハウスは、金沢市民がワークショップで制作したもの。作家の二人は1個ずつかたちを吟味しながら、辛抱強く全体を構成していった。彼らはいつも日常にあるものをたくさん集めて展示する。その理由は、ものに宿る不特定多数の人の記憶を見せたいから。ダンボールハウスの塊は、そこに関わった人々との共同作業の記憶と時間が集積した、クリエイティブで新しい「もう1つの国」なのだ。

イザベル&アルフレド・アキリザン『住む:プロジェクト もうひとつの国』展示風景
イザベル&アルフレド・アキリザン『住む:プロジェクト もうひとつの国』展示風景

キッチュでジャンクなアキリザンの展示と対照的なのが、同時開催中の『フィオナ・タン|エリプシス』展だ。インドネシア生まれ現在アムステルダム在住、記憶や歴史、個人の心象風景などをテーマにするタンの日本の美術館初の個展で、詩的で静謐な作品世界を、高い技術と完成度で表現している。透明感ある空間は、空の移り変わりをガラス越しに映し出す金沢21世紀美術館の建物とも相性がいい。

『フィオナ・タン|エリプシス』展示風景
『フィオナ・タン|エリプシス』展示風景

水は会場全体に通じるイメージだ。2人の美しい女性の追想とナイアガラの滝の圧倒的な水の質量が重なる『ライズ・アンド・フォール』、プールに飛び込むシーンが繰り返される『リンネの花時計』、ガラス張りの小部屋で聴くサウンドピース『ブレンダンの島』も、ヘッドフォンをつけると砕ける荒波の音が押し寄せる。時の経過、あるいは記憶のうつろいのメタファーのような、流れる水の映像は瞑想的で、静かに見ている人の記憶に滲みこんでいく。ガラスの向こうに降る激しい雨ですら、まるで水の底にいるような不思議なシンクロ作用を引き起こす。

フィオナ・タン『Rise and Fall(ライズ・アンド・フォール)』2009年 ©Fiona Tan Courtesy of the Artist and Wako Works of Art, Tokyo
フィオナ・タン
『Rise and Fall(ライズ・アンド・フォール)』
2009年 ©Fiona TanCourtesy of the
Artist and Wako Works of Art, Tokyo

一作品の長さは20分強、近作の『セブン』は7時間(!)にもおよぶが、「全部見る必要はないし、好きなだけ過ごしてくれればいい」とタン自身も言うように、思い思いの時間とストーリーを重ねて見る展覧会だ。9月14日からは、無数の人の家族アルバムから構成される写真インスタレーション作品『Vox Populi(人々の声)』も展示される。不特定多数の人々の思い出の情景は愛おしく、どこか懐かしく感じるだろう。

フィオナ・タン『Seven(セブン)』2011年 ©Fiona Tan Courtesy of the Artist and Wako Works of Art, Tokyo
フィオナ・タン『Seven(セブン)』2011年
©Fiona Tan Courtesy of
the Artist and Wako Works of Art, Tokyo

どちらも母国を離れたアーティストによる移動や居場所についての作品。「どこに住むか」「どのように住むか」といった問いは移民だけのものではない。彼らの視線を借りて、私たち自身の居場所についてちょっと考えてみるのもいいかもしれない。


イベント情報

イザベル&アルフレド・アキリザン
『住む:プロジェクト―もうひとつの国』

2013年8月3日(土)〜11月10日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館
時間:10:00〜18:00(金、土曜は20:00まで)
休館日:月曜(月曜が祝日の場合は翌平日休)
料金:
当日 一般1,000円 大学生800円 小中高生400円 65歳以上800円
※『フィオナ・タン』展との共通券

『バジャウの人々の暮らしを想像して、アキリザンたちが建てた村に家をプレゼントしよう!』

2013年8月4日(日)〜11月10日(日)の日曜13:00〜16:00
会場:石川県 金沢21世紀美術館 展示室6内
料金:無料(同展観覧券が必要)
※小学4年生までは保護者同伴
※混雑した場合は参加人数を制限する場合があります
※作られた家は作品の一部となるため、持ち帰ることはできません

『フィオナ・タン|エリプシス』

2013年8月3日(土)〜11月10日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館 展覧会ゾーン
時間:10:00〜18:00(金・土曜は20:00まで)
休館日:毎週月曜(月曜が祝日の場合は翌平日休)
料金:
本展観覧券 一般1,000円 大学生800円 小中高生400円 65歳以上の方800円(『イザベル&アルフレド・アキリザン』展と共通)

(メイン画像:イザベル&アルフレド・アキリザン『住む:プロジェクト もうひとつの国』展示風景)

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