レビュー

ボクたちのエロ本を、ずっと作り続けてきたレジェンドたち

武田砂鉄
2014/03/25
ボクたちのエロ本を、ずっと作り続けてきたレジェンドたち

男子トイレに雑誌のグラビアを持ってきて「なぁ、こうやって写真を斜め上から見てみろよ。もっと奥まで見えんだろ、おっぱい」と鼻息を荒くしたY君は今、ヘッドフォンの営業マンをやっている。青臭いエロの想い出を肯定的に振り返ると、あれは想像力の筋トレだったのだ。キーワード検索で趣味嗜好にピタリと合致する画像や動画に瞬時にたどり着ける現在と違って、目の前に差し出された限られたグラビアやエロ本から個々人の想像力のみでエロをどこまでも飛躍させていく時代があった。

いや、今、ちょっと嘘をついた。「個々人の想像力のみでどこまでもエロを」の部分。エロを飛躍させたのは、個々人の想像力だけではなかった。長年、エロ本のデザインを手がけてきた9名を訪ね歩く「エロ本民俗誌」とでも言うべきこの本を読んで、中学2年生の自分は、遅ればせながら、エロ本デザイナーの皆々様に頭を垂れなければならない。英知出版『デラべっぴん』では、裸体写真をパーツごとに掲載、切り取り、組み合わせることで、「全裸の女の子の首、両肩、両肘、腰、両足、両膝など、関節10か所が動き、前も後ろも完全な写真であるという人形」を作ってみせた。このように、デザイナー諸氏は僕らの想像力の飛躍の共犯者だった。

いかがわしき雑誌は、常に法の目をかいくぐることになる。かいくぐるためのさじ加減を調整するのもデザイナーの役割だった。これまた『デラべっぴん』の「フォト劇画」という男女の絡みを見せる企画ページでは、「男の指が女性の股間に伸びていても、それは絶妙に空中に浮いており、局部に直接触れているように見えるけど、もし、お上からクレームが来たら『いや、触っていない。隠しているだけだ』と反論できるように注意深く撮影されていた」という。編集部の工夫と自らのデザインで、いかにして人様の性欲のバロメーターを振り切らせるか。「食う(クウ)」「寝る(ネル)」の欲を心地良く撒くだけでは雰囲気雑誌しかできないが、もう1つの欲「性欲」をデザインに撒き散らすと、どこまでも貪欲な、欲に愚直すぎる雑誌ができあがる。

インタビューによって明かされるのは、デザイナー諸氏が意外にもそれほどエロ本文化にプライドを持ちすぎていない点だ。なんとなくエロ本デザインの世界に踏み込み、その自由度に惚れ込んでしまった人たち。『SMスピリッツ』のデザインを手がけた野田大和に「SMに興味があったのか?」を問うと、「ほとんど興味ないですね(笑)。ただ、普通のヌードよりは面白いかな。同じエロでも可能性とか間口の広さはSMのほうが全然ありますよね」とサラリと答える。可能性がある、バラエティがある、だからそのデザインをした、だってそのほうが面白いじゃん。「エロ本文化って崇高なものっすよね?」と力んで問いかけていくと、当の本人たちは、面白いじゃんと楽しげに逃げていく。

ヘア解禁となったのは1990年代初めのこと。それまでは、「ヘアや局部が映ったフィルムを現像所で現像してもらうのも、なんの保険もない綱渡りだった」。「パクられたら、印刷所も現像所も連帯責任を負わされる」ような規制下にあった。だからこそ読み手の欲と作り手の興味が必死にかけ合わさって、いろんなスレスレをかわしながら、1つの雑誌が躍動感を持って仕上がった。女優の顔に水をぶちまける表紙をシリーズ化した『ザ・ベストマガジン』では、撮影開始時までそのことを女優に伝えなかったという。交渉段階では「ちょっと水をかけたいんです。ちょっとです」と言うに留める。本番では、金魚鉢いっぱいの水をぶちまけてしまう。女優は当然、「話が違う!」とかんかんになって怒る。怒るのはわかっているから、シャッターチャンスは限られる。その瞬間を表紙に使う、これぞプロの仕事だ。先日、知人のデザイナーが嘆いていたが、女優のくるぶしや若手俳優のすね毛までをPhotoshopでいじらされて事務所のOKを待つような「管理されたデザイン」とは、とんでもない距離がある。解放感がある。

エロ本にまつわるあれこれを「そういう時代だった」で片付けることは容易だが、本書にみなぎるエロ本の馬力は単なる懐古では終わらない。「はじめに」で著者は、これから始まる本をさっそく裏切るかのように、「そもそも彼らはエロと一般の仕事を区別していない」と書く。「エロ本のデザインってどうなってるのよ!?」という、下世話に起動した興味にはあまり答えない。著者自身がエロ本デザイナーということもあるのだろうが、動機にしろ手法にしろ、あるいはエロ本の未来にしろ、デザイナー自身が熱っぽく語ることは少ない。煙に巻かれたままだ。でも、それでいいのだ。「雑誌を斜め上から見れば、もっと奥までおっぱいが見えんだろ」と鼻息を荒くさせる人たちに、過程を見せすぎてはいけない。エロ本のデザインは、過程を隠しながら、超・明確な目的に向かって突っ走る。その目的を淡々と作り続けてきたレジェンドたちに向かって、繰り返し頭を垂れる。

書籍情報

『エロの「デザインの現場」』

2014年2月25日(火)発売
著者:有野陽一
価格:2,310円(税込)
発行:アスペクト

プロフィール

有野陽一(ありの よういち)

1960年東京生まれ。東海大学文学部広報学科卒。編集デザインプロダクション・スタジオIWAO在籍後、『平凡パンチ』スタッフを経て、フリーデザイナー。屋号はビショップ。マンガ編集を皮切りに、男性グラビア誌、学年誌、アニメ雑誌など、編集とデザインを兼務。

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