レビュー

日本屈指の映像ディレクター・関和亮が教える、厳しくも愛のあるMV制作術

タナカヒロシ
2014/06/24
日本屈指の映像ディレクター・関和亮が教える、厳しくも愛のあるMV制作術

あの映像監督と一緒に作る、自分だけのミュージックビデオ

Perfumeやサカナクションなどのミュージックビデオ、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』のオープニングムービーやアートディレクションをはじめ、話題作を次々と手掛ける関和亮が、自身の経験や制作術を惜しみなく伝えてくれた濃密な1日。もし、また機会あるならば、映像の世界を志す人には、ぜひ体験してほしいと思わずにいられない貴重な時間だった。

5月10日、東京・御茶ノ水にある映像専門の学校「UTB映像アカデミー」で、関和亮をゲスト講師に迎えた『UTB映像アカデミーpresents 関和亮が教える映像制作ワークショップ』が行われた。30名の定員に対して応募が殺到し、見学だけでもいいからと会場を訪れた人は約60名。札幌や広島など遠方からも受講者が訪れ、ワークショップへの憧れや関心の高さは予想を大きく超えるものだった。

ワークショップ会場風景
ワークショップ会場風景

当日の進行は、映像制作についての講義、バンド演奏の撮影、撮影した映像の編集、関による作品の講評と1日の総評を行うという流れ。限られた時間の中ではあるが、実際に1本のミュージックビデオの制作が体験できるプログラムだ。

一枚の絵コンテに込められた綿密な撮影シュミレーション

まずは受講者全員を前に、関による30分ほどの講義が行われた。冒頭の自己紹介では「好きな食べ物は春巻きです」など、フランクなトークでなごやかな空気を作りつつ、最近の映像制作事情やミュージックビデオ制作のワークフローを解説。多くの場合で3~5種類ほどの案を提案しているといった企画段階の話や、環境によって思い通りにいかないことも多い撮影現場では臨機応変の対応が大切で、ときには「諦めて次を撮りましょう!」と提案する勇気も必要という経験談には、多くの人が驚いた様子だった。

また、実は絵が苦手であることを告白しつつ、ホワイトボードで絵コンテ作りを実演。確かに、お世辞にも上手とはいえない絵だったが、その絵を撮るためにはどんな機材やロケーションが必要か、重複している構図はないかといったシミュレーションをすることが大切で、実際に撮らなくても絵コンテを描くだけで勉強になるということを教えてくれた。

関和亮(右)と絵コンテ
関和亮(右)と絵コンテ

「思っていることの半分もできない」カメラワークの奥深さ

続いてはカメラの基本的な使い方を指導して、撮影スタジオに移動。この日、ワークショップに協力してくれたバンド「クンクンニコニコ共和国」のワンコーラスの演奏を各5名の6班に分かれて撮影した。まずは見本となる演奏を行ってもらい、班ごとに撮影プランを打ち合わせ。1班目のみ関がカメラの立ち位置や撮影の注意点を指導したが、1人1台、計5台のカメラをどこに配置するか? 撮りたい構図を絵コンテに描きながらの説明は論理的かつ明快で、実際に関が手がける作品の現場を垣間見たようだった。

クンクンニコニコ共和国
クンクンニコニコ共和国

そして関の「よーい、アクション!」の声を合図に、いよいよ撮影がスタート。班ごとにカメラの位置が異なったり、微動だにせず撮影する人がいるかと思えば、演奏者の動きに合わせて移動する人もいたり、同じシーンの撮影でもプランの違いによって撮影風景は千差万別。撮影後は思い通りに撮れず、一様に悔しそうな表情をする受講者たちの姿が印象的だったが、関いわく「思っていることの半分はできない」とのこと。撮影の合間には受講者たちに積極的に話しかけ、撮影中も消極的なカメラワークに対してアドバイスを送るなど、スタジオ内を歩きまわっての熱意あふれる指導が行われた。なお、すべての撮影終了後には、特別にクンクンニコニコ共和国がミニライブを披露。撮影したバンドのステージを改めて観客の立場で見ることは、普段とは異なるライブ体験だったに違いない。

撮影風景
撮影風景

「地味だけど一番楽しい作業」が映像作りを左右する

昼休憩を挟んでからは、A班とB班、各15名に分かれ、関が「地味だけど、僕は一番楽しい作業だと思います」という編集作業に。まずは映像編集ソフト「Final Cut」の基本的な使用法を紹介し、続いて編集の進め方を解説。関の場合は90秒の映像をつなぐのに3~4時間かかることが多いそうで、最初にある程度の指針を決めたら、まずはどんどん進めることがコツとのこと。なお、この日はPCへの映像の取り込み、音源と映像の同期の作業をUTB映像アカデミースタッフが準備した状態からのスタート。編集作業中も関は受講者たちの質問に答えたり、見学者たちと会話を交わすなど、編集室内を休みなく動きまわっていた。

編集室

編集作業は約90分と短かったものの、カット数も少ないため、ひととおりの「つなぎ」が終わるところまで進められた受講者も見受けられた。そして代表3名の作品をピックアップして全員で鑑賞。1人目には「ボーカルの良さを出そうという意図が伝わった」、2人目には「夜の雰囲気があって、妖艶な感じがした」、3人目には「ライブ感が出てますね」と関が講評したように、同じバンドの同じ曲にもかかわらず、撮影や編集によってここまで違いが出るのかと、驚く受講者も多かった。

 

一線で活躍するクリエイターが送る、厳しくも愛のあるエール

その後、B班も同様に編集作業を終え、再び全員の前で関が総評を話して、丸一日がかりだったワークショップは終了。一方の班が編集作業をしている間は、UTB映像アカデミー講師が学校説明会を行ったのだが、現場主義の学校らしく、在校生が関わった制作実績を見せながらの講義は、これから映像業界に入ろうという人にとっては、働く現場をリアルに想像することのできる内容だったのではないかと思う。最後には前日が誕生日だった関にバースデーケーキがプレゼントされるサプライズもあったが、その後も関のまわりには人だかりができ、予定を1時間以上オーバーして質問攻めに対応。ワークショップ中に「一線で活躍している人は人格者ばかり」と発言していたが、それを裏付けるような光景だった。

しかし、その一方で、「アイデアの出し方についてよく質問をされるけど、それを考えるのが仕事であって、自分で考えられないならこの業界には向いてない。そういったことも伝えていきたい」と、厳しくも愛のあるコメントも。終始、優しく、気さくな姿を見せてくれたが、関とUTB映像アカデミーがタッグを組んで、映像業界の楽しさと厳しさを伝えるワークショップでもあった。

イベント情報

『UTB映像アカデミーpresents 関和亮が教える映像制作ワークショップ』

2014年5月10日(土)10:00~19:00
会場:東京都 御茶ノ水 UTB映像アカデミー
講師:関和亮
司会:マツザワカズユキ(UTB映像アカデミー)

プロフィール

関和亮(せき かずあき)

1976年長野県生まれ。1998年トリプル・オーに参加。音楽CDなどのアートワーク/デザイン、ミュージック・ビデオ、ショート・ムービー等のディレクションを数多く手がける一方、TV CMの演出も行う。

UTB映像アカデミー(ゆーてぃーびーえいぞうあかでみー)

日本で唯一映画・映像業界への就職を目的とし、「学校だけど制作現場!」をモットーに年間600本以上のプロの制作現場に多数参加することによりマスコミ業界に就職するために必ず必要になる「人脈と実績」を手に入れることができる独自のカリキュラムは業界内でも注目されている。

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