鴻上尚史、行定勲らを揺るがした、新しいジャンル「演劇動画」とは一体何なのか?

カメラ1台のみ、動画編集不可。誰でも自由に参加OKで注目を集める「演劇動画」

ウェブ上に投稿された15分ノーカットの演劇動画を競う『クォータースターコンテスト』(以下『QSC』)の結果発表と授賞式が、最終ノミネートに選ばれた13作品の応募者を招き、小劇場のメッカ下北沢で11月8日(土)の夜に行われた。

『QSC』授賞式の様子 ©ヴィレッヂ
『QSC』授賞式の様子 ©ヴィレッヂ

『QSC』とは、「映像とウェブを通じた新たな演劇の楽しみ方の提案」と「これまで地域性で断絶しがちであった全国の演劇人同士の繋がり」を目指して 演劇・舞台系動画のニュースサイト「エントレ」(運営:株式会社ヴィレッヂ)が、2012年にスタートした、今年で3回目をむかえるコンテスト。基本的なルールは3つ、「12分0秒以上、15分0秒以下の演劇動画にすること」「カメラは1台のみを使用し、動画編集をしないこと」「活動地域、演劇歴は不問。誰でも自由に参加OK」というシンプルなもの。過去2回の大会では、高校生からプロ劇団まで、全国で活動する演劇人が数多く参加し、累計188本の演劇動画作品が投稿され、これまでにない形の演劇コンテストとして注目を集めている。

それは果たして演劇なのか? 映画や映像作品とは何が違うのか? が必然的に問われるコンテンスト

目の前の繰り広げられる舞台を、生で体験することの一回性こそが演劇の最大の特徴であるといわれるが、近年では劇団☆新感線の『ゲキ×シネ』や松竹の『シネマ歌舞伎』、イギリスの『ナショナル・シアター・ライブ』やニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の『METライブビューイング』など、映画館のスクリーンで舞台を観ることができるプログラムが多くの観客を集めたり、様々な劇団の舞台公演がDVD化される機会も増えている。

『QSC』授賞式の様子 ©ヴィレッヂ
『QSC』授賞式の様子 ©ヴィレッヂ

しかし、それらが基本的にマルチカメラで撮影・編集された映像作品であるのに対して、『QSC』が扱う「演劇動画」は、その独自ルール故に、単なる演劇を撮影した動画という以上の可能性を孕んでいることがわかる。まず、「映像編集なしの1カット15分」という基本ルールが、その演劇を「どのように撮るか」ということを考えざるをえないフォーマットになっていること。しかも、いわゆる「舞台=劇場空間」で演じる必要はないので、屋外でもOK。1台のカメラで撮影されたものであれば、どんな内容でも可能。ということは、そこで撮影されるものは果たして演劇なのか? 映画や映像作品とは何が違うのか? ということが必然的に問われてくることになるからだ。

LINEのグループチャット画面だけを撮影した「演劇」作品がグランプリを受賞

その予想通り、今回の『QSC』の最終的な受賞結果は、「演劇動画」の表現が次のレベルに入ったことを印象づける結果となった。固定カメラでLINEのグループチャットをしているスマホ画面を上から撮影し、スマホを操作する指以外、登場人物の顔も声も登場しない、週刊パラドックスの『会話劇2014』がグランプリを受賞したのが何よりの証拠だろう。グランプリは4人の審査員が選んだ1~3位をそれぞれ加点する方式だが、同作品を2位に選んだ劇作家・演出家の鴻上尚史は、「これを『演劇動画』と呼んでいいのか、ものすごい議論になると思うけど、最後まで観てしまう迫力とアイデアは無視できない。今回の全エントリーの中で一番インパクトがあり、1つの表現パターンを作った革命的な作品」と評した。また、1位に選んだ行定勲は「映像作品として単純に面白く観ました。これが演劇なのかと問われるが、画面に見えてないだけで、その中に演じている人がいる。シナリオとしても面白かった。映像作品のコンテストに出しても評価され得る作品」と、映画監督ならではの評価で推した。


得票数で同点ながら、動画の再生回数でわずかに及ばず優秀作品賞となったのが、あやめ十八番の『江戸系 紅千鳥』。江戸を舞台に、人間の魂を持とうとする人形に翻弄される見世物師の悲哀を、浄瑠璃などの古典芸能も参照しながら描いた作品だ。鴻上尚史は「ストーリーとしても面白く、情念が深くなればなるほど人形に生気が吹き込まれて人間になっていく、人間の絶望と哀しみが出ている。演劇を映像で撮ることの楽しみに満ちた作品」と1位に選出。2位に選んだ『演劇ぶっく』の坂口真人編集長も、「15分ノーカットの設定を活かして、ライティングや画面の構図を計算し、360度回るカメラで回り灯籠のように次々に場面が展開していく仕掛けが見事」と高く評価した。ちなみに同作品の作・演出を手がける堀越涼は、劇団・花組芝居に所属する女形の役者でもある。もう1つの優秀作品賞は、とあるアパレルショップを舞台に、若いカップルの恋の過程の時間を逆行させて回想風的に描いたMoratorium Pantsの『ヒットナンバー』。ミュージシャンや観客を参加させたり、映像トリックも駆使するなど、ドキュメンタリータッチのライブ感に満ちた楽しい作品だ。2位に選んだ行定勲は「アナログ的なトリック撮影をしているところに非常に好感が持てる。作り手としての喜びが伝わってきた」と評した。



従来の演劇ジャンル外からの参加者が多数入賞し、「演劇動画」の可能性を広げた記念すべき回に

ノミネート作の中から演劇関係者が選ぶ各賞を受賞した作品にも注目すべき作品があった。『彩高堂賞』を受賞した、花掘レ『ダミークリスマス』は、劇団ではなく小劇場劇団の劇伴なども手がける3兄弟からなるピアノトリオバンドの作品。オープニングはバンドの練習シーンから始まり、実兄弟ならではのリアリティー抜群の会話と最後のどんでん返しなど演劇的な仕掛けも光った。同じく、演劇のプロではなく、「普段は小説を書いている、ただの演劇好きの素人」と称する大田日曜が演出・出演し、『BITE賞』を受賞した公社流体力学の『頭の中の蜂』は、頭の中で鳴り止まない蜂の羽音と、それによって見えるようになった幽霊の顛末を自室の固定カメラの前で証言する作品。フラストレーションにも似たクリエイションへの初期衝動が爆発した作品だ。



年々レベルの高いコンテストへと成長する『QSC』だが、演劇動画として正統的なアプローチの『江戸系 紅千鳥』と、カウンター的な『会話劇2014』がグランプリを争い、演劇的構造と映画的手法がミックスされた『ヒットナンバー』が優秀作品に選ばれたこと、従来の演劇ジャンルの外からの参入者が多数入賞したことなど、3回目となる今回は「演劇動画」の表現ジャンルとしての可能性を広げた記念すべき回となり、早くも来年の開催が楽しみとなった。今年の受賞作を見て、我こそはと思ったクリエイターはぜひとも挑戦してほしい。

イベント情報
『第3回クォータースターコンテスト』

応募期間:2014年8月1日(金)~9月30日(火)
審査員:
鴻上尚史
坂口真人
鈴木裕美
行定勲



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