レビュー

格差社会のリアルを歌う「完全無所属バンド」、Yellow Studsの挑戦

金子厚武
2015/03/17
格差社会のリアルを歌う「完全無所属バンド」、Yellow Studsの挑戦

階級間の流動性がなくなった英国と、格差社会の日本

2月26日に「ヤフーニュース」で公開されたブレイディみかこさんの記事『労働者階級の子供は芸能人にもサッカー選手にもなれない時代』が非常に興味深い内容だった。かつて「労働者階級の子供が成功しようと思ったら、芸能界に入るかサッカー選手になるしかない」と言われた時代もあった英国だが、現在は階級間の流動性がなくなり、裕福な家庭の子供に業界が独占されているのだという。音楽の世界に限定してみても、現在のUKヒットチャートは高額な学費のミュージシャン養成校を卒業したミドルクラス以上の若者たちに独占されているそうで、「社会の一部の階級の人々が芸術やカルチャーを支配するようになると、文化が全ての人間をレペゼンしなくなる」と、危惧する声も上がっているというのだ。

言うまでもなく、階級社会ではない日本にこの状況をそのまま当てはめることはできない。しかし、つい数年前まではさんざん耳にした「勝ち組、負け組」という言葉があまり聞かれなくなり、格差が当たり前のものとなりつつある今の日本では、英国と同じような状況になることも十分考えられる。例えば、「マイルドヤンキー」と呼ばれる低学歴・低収入の層が、みんなEXILEを聴いているとする説は、真偽のほどは別として、日本における格差とエンターテイメントの関係を示す一例ではあると言えよう。

自身のリアルな境遇を綴った、Yellow Studsの歌詞

記事を読んで思い出したのが、Yellow Studsというバンドのことだ。結成は2003年なので、すでに活動歴は10年以上、中心メンバーは30代半ばだが、「完全無所属バンド」を掲げ、レーベルやマネージメント会社に属さず、DIYでの活動を続けている。メンバー同士が出会ったのは、某有名居酒屋チェーン店のアルバイトとして。友人に誘われバンドをやるために三重県から上京したベースの植田大輔は、親に仕送りをしながらバンドとバイトを並行し、気づけばバイトリーダーに。美容師を目指して群馬県から上京したボーカルの野村太一も、いつの間にか当てのない生活を送るようになり、たまたま出会った植田の誘いでバンドを始めている。2007年に発表した『伝言』に収録されている彼らの代表曲“バード”で、太一はこう歌う。

408号の軋む扉を開けて 底のあいたボロ靴を脱ぎ捨てる
机の上には皿とジャムと請求書 そろそろ水道も止まるんじゃねぇかな?

これはまさに当時の彼のリアルであり、その後コンスタントにアルバムをリリースし、着実にファンを増やしてきた今も、現状をリアルに歌う表現方法自体に変わりはない。2014年発表の最新作『ALARM』には、こんな言葉が並ぶ。

新卒を逃しちゃった? レールから外れちゃったって? アホ言えそしたら俺はどうなる。
(『ALARM』収録曲“脱線”より)
30過ぎても諦めない。全然偉くもなんともない。
住民税の催告書。赤に変わった。赤に変わった。
(『ALARM』収録曲“生きてるフリ”より)
答えてよ。ロスチャイルド。ロックフェラーでもいいや。
底辺で生きている俺にも 何かヒントを一つくれないか
(『ALARM』収録曲“飴と鞭”より)

Yellow Studsはジャズやロカビリーをベースとした男臭いロックンロールバンドであり、その意味では、矢沢永吉的な「成り上がり」のストーリーに見えなくもない。ただ、メンバーの中には大卒もいるし、バンドのスタートにしても、最初から明確な目的意識があったわけではないという。やはり、彼らはあくまで2000年代以降の日本社会が投影されたバンドだと思うのだ。

ライブから見るYellow Studsの特異性

ブレイディさんの記事が公開されたのと同じ2月26日、CINRA主催の無料イベント『exPoP!!!!!』にて、Yellow Studsのライブを初めて見た。下手からVo / Key、Gt、Dr、Ba、Gtが放射状に並び、太一やギターの奥平隆之が真ん中の空いたスペースに出てきて派手なパフォーマンスをするという、そのステージの使い方がまず独特。ビシッとスーツに身を包み、リーゼントで決め、しゃがれた声でシャウトする太一のカリスマチックなたたずまいに、チバユウスケを重ねた人も多かったのではないかと思う。

しかし、太一とチバでは当然タイプが異なる。「完全無所属バンド」であり、営業も宣伝も自らこなす太一は、MCで「Twitterをフォローしてください」と、SNSの宣伝も忘れない。このセリフ、チバだったら絶対に言わないだろう。そもそも太一は音楽的にもロックンロールの殉教者ではなく、OASISでもBACKSTREET BOYSでも「いいものはいい」という思考の持ち主。前述の“バード”にしても、「売れてるバンドを参考にしようと思って、BUMP OF CHICKENを聴いた」のが出発点の曲だという。言ってしまえば、市井の人と何ら変わりのないこの感性こそが、逆にバンドの個性なのだ。

格差社会に生きる自らのリアリズムを歌いながら、自主自立の精神で上を目指しているYellow Studs。彼らが成功を掴めるのかどうかはまだわからない。しかし、その活動はこの国の音楽シーンの行く末を考える上で、一つの貴重な手がかりだと言えるかもしれない。

リリース情報

Yellow Studs
『Alarm』

2014年6月18日(水)発売
価格:2,160円(税込)

1. コメディ
2. 脱線
3. 秋晴れの空
4. 僭越ながら
5. トビラ
6. ヘイママ
7. 鶴の恩返し
8. 百人町
9. SNS
10. 生きてるフリ
11. また会おう
12. 飴と鞭

Yellow Studs presents『方位磁針』

2015年3月28日(土)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:東京都 代官山 UNIT
出演:
Yellow Studs
チリヌルヲワカ
UHNELLYS
DJ:
ジャックサトシ
渋川清彦(KEE)
料金:前売3,000円 当日3,500円

プロフィール

Yellow Studs(いえろーすたっず)
Yellow Studs(いえろーすたっず)

ジャズ、昭和歌謡、ガレージ等の要素を取り入れたオリジナルなスタイル、繊細かつダイナミックなスケールで展開される絶妙なアンサンブル。等身大の感情が剥き出しの詩とヴォーカルの独特なしゃがれ声が織りなすピアノロックは聴く者の心を射抜く。 2003年結成、2014年6月にリリースした最新作「ALARM」を含め、これまでに7枚のアルバムをリリース。2013年と2014年のツアーでは、2年連続で9割の会場がSOLD OUTし、近年では、全国のライブハウスやイベントから出演オファーをもらうことが増え、年間70本以上のライブを行っている。各メディアでMVの放送、映画の挿入曲制作や松田翔太出演KIRIN氷結ストロングのテレビCMに楽曲提供するなど、活動の場は広がっている。

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