レビュー

あらゆる音楽をポップに仕上げる名料理人・風味堂の腕前を堪能する

宮本英夫
2015/04/28
あらゆる音楽をポップに仕上げる名料理人・風味堂の腕前を堪能する

「世間のイメージから脱却して、ロックな一面を打ち出す……」なんて理屈を今日は捨ててしまおう

風味堂の中にある「ロックな部分」を前面に打ち出した最新アルバム『風味堂6』は、遊び心と驚きをいっぱいに盛り込んだ楽しい作品だ。彼らの音楽をソフトなピアノポップとしてとらえてきたリスナーは、よく弾む16ビートの上で重低音ベースがうねる“TIME”や、2000年代初頭の「青春パンク」を彷彿とさせる“大空へ”、プログレばりのトリッキーな場面転換でぐいぐい引き込む“SPACE TRAVELERS”などを聴いて、「あれ、風味堂ってこんなに強い音を出すバンドだっけ?」と思うだろう。もともとドラムの中富雄也はハードロックやメタルが大好きで、ボーカル渡和久のルーツにはDEEP PURPLEのキーボーディストであるジョン・ロード、1950年代のロックンロール草創期に活躍したジェリー・リー・ルイスやリトル・リチャードなどがいると、最近のインタビューで話してくれた。独自の進化を遂げてきた3人組が考える、風味堂のロックとは一体何か? アルバムリリース後に始まった全国ツアーできっと、1つの答えが出るはずだ。

とかなんとか、理屈っぽいことを考えてこのライブに来た人は、満員のフロアの中にたぶん1人もいない。ステージの灯りはついたまま、ふらりと現れたメンバーに注がれる拍手の陽気な響きは、憧れのロックスターを迎えるそれではない。「よっ、待ってました!」と掛け声が飛びそうな、フレンドリーであたたかい空気。中富とベースの鳥口JOHNマサヤは最初からずっと笑顔。渡は歌と煩雑なキーボード演奏に忙しくて笑う暇がなく、曲中で「ウーワオ!」「オーイエー!」と叫ぶことしかできない。1曲目“TIME”から、体いっぱいで熱演しているのにどこかほっこりとゆるいような、風味堂ならではのハートウォーミングな空気で会場が満たされていく。


好きなアイドルの名を叫ぶ。ライブバンドとして育ってきた風味堂ならではの遊び心

中盤のハイライトは、何といってもアルバム中最大の問題作“アイドルとつきあい隊”。オールディーズタイプのシンプルなロックンロールだが、間奏で観客とメンバーを1人づつ指名して好きなアイドルの名前を叫ばせる渡が、アツくなりすぎいつまでたっても曲を終わらせない。ミュージシャンのMCの域を超えた芸人ばりの盛り上げは、風味堂のライブのお楽しみの1つだが、この日は特に勢いが加速していた。近年「元気出せ!遣唐使」の名でバンドに参加している、レキシからの影響もあるとみた。

続いて演奏された、ミラーボールが回るディスコ空間と化した“男子んぐ喰ぃ~ん♡”のユーモアたっぷりな表現もしかり。特別な舞台セットも映像も何もないが、音と演奏と動きとしゃべりを使って観客全員を巻き込んでいく、ライブで育ってきたバンドならではのエンターテイメント魂。その真っ当なライブスタイルは、近年の若いバンドには見られないもので、なんだか懐かしいようで少し照れくさいが、とても味わい深いものだった。

『風味堂 tour 2015 ~大空へ~』より 撮影:TSUNEO KOGA

『風味堂 tour 2015 ~大空へ~』より 撮影:TSUNEO KOGA
『風味堂 tour 2015 ~大空へ~』より 撮影:TSUNEO KOGA

濃厚なルーツミュージックも、現代のお客さんの舌にあわせて調理するさすがの腕前

後半では、“真夏のエクスタシー”“ナキムシのうた”と、風味堂が10年以上歌い続けてきた2曲の完成度が素晴らしかった。その一方で、最新アルバムにおいてプログレッシブで複雑な構成に聴こえた“SPACE TRAVELERS”が、この日のライブではより滑らかに、4つ打ちが高速で突っ走る爽快なサウンドになっていることに驚く。三人のスキルは本当に高い。本編最後に演奏された“心”は、ゴスペルやソウルの粘っこいフィーリングを取り入れながら、明るく爽やかなポップスへと着地させる。濃厚なルーツの本質を薄めず、食べやすくおいしく料理する風味堂の味付けは確かだ。

「本編は一生懸命やったから、アンコールは適当にやりますよ」。そんな軽口を叩きながら、観客に手を挙げさせてのリクエスト大会へ。一体何曲やったのか……うろ覚えのサビだけを繰り返したり、イントロだけで強引に終わらせたり。インディーズの頃から、彼らはこうした観客との即興的対話をライブの中心に据えてきた。軽妙に転がる音としゃべりに、ステージの上も下も笑いが絶えない。スキップするようなシャッフルビート、フォークロック的なあたたかさ溢れる“帰り道”が終わって、メンバーがステージを降りても、オーディエンスは誰も帰らない。拍手はしばらく鳴り止まなかった。

『風味堂 tour 2015 ~大空へ~』より 撮影:TSUNEO KOGA

『風味堂 tour 2015 ~大空へ~』より 撮影:TSUNEO KOGA
撮影:TSUNEO KOGA

日本のポップシーンに他とない、風味堂の表現の幅

風味堂のルーツの1つであり、音楽的な遊び心の発露でもある「ロック」に取り組んだアルバムとツアーで、彼らの表現の幅はさらに広がった。それは、4つ打ちを始め限定されたリズムやギターサウンドに特化した若年層向けの「ロック」とは異なり、ルーツミュージックを多分に含む、より豊かなものだ。ジャズ、フュージョン、ソウル、ゴスペル、ラテン、カントリー、ディスコから音頭まで。トリオながら、これほど素材と調味料を多く持つバンドは、日本のポップシーンで他にほとんどいないはずだ。

とかなんとか、理屈っぽいことを言ってもメンバーに笑われるだけなので、いい加減にしておこう。シンプルに、バンドが持てる能力のすべてを使って、音楽で観客を楽しませるということ。常に原点を見つめ続けているから、風味堂のライブはただただ「楽しい」。

イベント情報

『風味堂 tour 2015 ~大空へ~』
『風味堂 tour 2015 ~大空へ~』

2015年4月18日(土)
会場:東京都 渋谷 duo MUSIC EXCHANGE

リリース情報

GRAPEVINE『Burning tree』初回限定盤
風味堂
『風味堂6』初回限定盤(CD+DVD)

2015年3月4日(水)発売
価格:4,104円(税込)
VIZL-787

[CD]
1. "TIME"
2. 大空へ
3. 出会えたあなたへ
4. サマータイム
5. 記憶の朝
6. アイドルとつきあい隊
7. 男子んぐ喰ぃ~ん♡
8. 心
9. SPACE TRAVELERS
10. 帰り道
11. 博多地下っぱ音頭
[DVD]
1. 真夏のエクスタシー
2. 眠れぬ夜のひとりごと
3. ナキムシのうた
4. 楽園をめざして
5. ママのピアノ
6. LAST SONG
7. クラクション・ラブ~ONIISAN MOTTO GANBATTE~
8. 愛してる
9. 手をつないだら
10. カラダとカラダ
11. サヨナラの向こう側
12. メリークリスマス、、、。
13. ファイト
14. 大切にするからね
15. 宝物
16. “大空へ”PV
17. “あふれる愛を伝えたい”PV
18. “涙”PV

GRAPEVINE『Burning tree』通常盤
風味堂
『風味堂6』(CD)

2015年3月4日(水)発売
価格:3,132円(税込)
VICL-64298

1. "TIME"
2. 大空へ
3. 出会えたあなたへ
4. サマータイム
5. 記憶の朝
6. アイドルとつきあい隊
7. 男子んぐ喰ぃ~ん♡
8. 心
9. SPACE TRAVELERS
10. 帰り道
11. 博多地下っぱ音頭

プロフィール

風味堂
風味堂(ふうみどう)

スタジオのメンバー募集の貼り紙という運命に導かれて集まり、渡和久(Vo,Pf)、中富雄也(Dr)、鳥口JOHNマサヤ(Ba)からなる鍵盤トリオバンド「風味堂」を2000年10月に結成。2004年11月、スピードスターレコーズよりメジャーデビュー。これまで“愛してる”“ナキムシのうた”など、ヒット曲を数多くリリース。多種多様のCFソングや主題歌を担当するなど活動の幅も広い。デビュー10周年イヤーには5thアルバム『風味堂5~ぼくらのイス~』をリリース&全国ツアーを開催、各地のフェス・イベントへ精力的に出演するなど、ライブ活動も充実させた。2015年3月4日、新章となるデビュー11年目に突入するバンドの更なる可能性を詰め込んだ6thアルバム『風味堂6』をリリース。

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