クワタユウキ×THE KOOKS対談 国境を越えて「中2病」で共振?

音楽は「国境」を越えた後に「世代」で結びつくのだろうか。来日公演を行ったイギリスのロックバンドTHE KOOKSのルーク、ピーターとREAD ALOUDのクワタユウキはまったくの同世代。聴いてきた音楽も近しくすぐに意気投合した三人は、聴いていた音楽「以外」でも共通項を探し出す。音楽学校で結成されたTHE KOOKSが過ごしたイギリスの学生生活と、クワタが過ごした日本の学生生活、教室の隅っこでくすぶっていた日々が生み出した共通項とは?

クワタとTHE KOOKSは、同じ作品からバンド名のインスピレーションを受けていた

この日の収録前、クワタはスタッフから出来立てほやほやの3rdミニアルバム『アカンサス』を感慨深げに受け取っていた。そこへ、示し合わせたかのようにやって来たTHE KOOKSの二人。会うなりCDを手にとり、「アルバムから1曲かけてくれよ」とクワタに要求。“月と太陽”を聴きながらノリノリでInterFMに貼ってあったREAD ALOUDのポスターを写メしまくり、「このポスターくれよ! いいだろ!」とはしゃぐ二人を静めるスタッフ。THE KOOKSのマネージャーがあきれ顔でスタジオに押し込み、ラジオ番組の収録が始まった。

クワタ:僕とTHE KOOKSのメンバーは年が近いはず。二人は今、いくつですか?

ルーク・プリチャード(Vo,Gt):えっと……確か29歳くらい、かな? いいや、確かに29歳だ。

クワタ:くらい、って(笑)。僕も29歳なので、今まで聴いてきた音楽の変遷も似通っているかもしれないですね。

ルーク:おお、ユウキと同じ年なのか。BLUR、SUPERGRASS、THE STROKES、この辺はやっぱり俺たちの世代は必ず通るアーティストだよね。でも俺なんかはそれらのバンドよりも、両親が聴いていた1950年代、1960年代の音楽を聴く機会が多かったんだ。エディ・コクラン、THE EVERLY BROTHERS、ボブ・ディラン……。


クワタ:僕も家族からの影響が大きくて、同時代的な音楽よりも真っ先にTHE BEATLESやFLEETWOOD MACなどを聴いてきたんです。


ルーク:ピーターはQUEENだろ?

ピーター・デントン(Ba):それだけじゃないよ。母親がDIRE STRAITSやモータウンの作品を聴いていたし、父親はPINK FLOYDを聴いていたから、それらのミュージシャンからは大きな影響を受けたね。


クワタ:THE KOOKSというバンド名は、デヴィッド・ボウイのアルバム『Hunky Dory』(1971年)に入っている曲“Kooks“からとったそうですね。

ルーク:そう。やっぱりボウイの存在は大きいよ。ボウイ好きは、バンドメンバー全員の共通点だったからね。それにほら、ボウイって、アルバムごとにどんどん音楽性を変えてくるだろう。彼が持ち続けている変化を恐れない精神を、俺たちも忘れないようにしているんだ。


クワタ:ボウイが愛され続ける理由ってそこですよね。「グラムロックと言えばボウイ」だけど「ボウイと言えばグラムロック」ではない、というか。ポストパンクがあり、フォークがあり、ブラックミュージックもある。僕は、ボウイの中では『Hunky Dory』に入っている“Quicksand”って曲が特に好きで、この曲の邦題は“流砂”って言うんですが、その響きが気に入って、「流砂」という名前のバンドを作ったことすらあって。

ルーク:リューサ? ……よく分からないけどクールな響きだね(笑)。

ディランを聴いていたら、ボコボコにぶん殴られた

原題にこだわらないオリジナルの邦題をつける文化は日本独特だが、時として、ただただ訳すよりも日本独自の「超訳」がサウンドの本質を浮き立たせることがある。URIAH HEEPの“Look at Yourself”を「対自核」に、PINK FLOYDの“Atom Heart Mother“を「原子心母」とした例などは象徴的だろう。バンド名やアルバムタイトルには必ず強い思いが込められている、と思いきや、THE KOOKSの場合はそうでもなかったようで……。

ルーク:ところでユウキのバンド「READ ALOUD」にはどんな意味が込められているの?

クワタ:「朗読」、つまり、自分の心の中に浮かんだメッセージをそのまま読み上げようという意味を持たせているんですよ。

ルーク:おお、それは素晴らしいね。「リューサ」よりそっちのほうがいいよ(笑)。

ルーク・プリチャード
ルーク・プリチャード

クワタ:ボウイ好きとはいえ、THE KOOKSというバンド名の決め手はなんだったんですか?

ルーク:ユウキもバンドマンだから分かると思うけど、このバンドを組んだ17歳の頃に「コレしかない」って思っただけで、特に理由なんてないんだよね(笑)。俺はその前に「ベースメント・バンド」って名前のバンドにいたし、ピートは確か「キッド・シンフォニー」だったかな。まぁとにかく深く考えずに決めちゃうものなんだよ。

クワタ:THE KOOKSはブライトンの音楽学校で結成されたバンドだそうですが、二人はそれぞれどんな学生生活を送ってたんですか?

ルーク:最悪、この一言だよ(笑)。こないだ気づいたんだけど、卒業間近の期末テストに合格していない気がするんだよね。卒業前にレコード会社との契約が決まったから、名誉卒業生の証書をもらったんだけどさ。学校の目の前のアパートに住んでいたから、仲間たちとパーティーしている思い出しかないんだ。音楽学校というより出会いの場だった。授業なんて、あまり勉強にはならなかったね。Led Zeppelinの映像を見させられて「いいか、こういうふうにやれ!」とか、そんな感じだもの。

ピート:俺はルークと違って優等生だったよ。バレエをやってたんだ。つま先で立ちながら歩くことすらできないのに、6年もやったんだから!

クワタ:6年も歩けないまま(笑)。今のステージングに活かされていますか?

ピート:ノー!! まったく。

ピーター・デントン
ピーター・デントン

クワタ:僕は普通の高校だったこともあって、とにかく同じ音楽の趣味を持つ仲間がいなかったんですよ。いわゆるヒットチャートものの音楽についての情報交換をしているみんなにはついていけず、教室の隅っこで独り、ビートルズを聴いたりしていて。なんだか寂しかったですね。

ルーク:何言ってんの、ビートルズがいたら寂しくないだろう? でもその話にはめちゃめちゃ共感できるよ。13歳の頃、教室の隅っこでポツンとボブ・ディランを聴いていたら、学校の奴らにボコボコにぶん殴られたんだよ。他の連中は、CYPRESS HILLとかWU-TANG CLANとか、ヒップホップを聴いている奴らばかりだったから。今ではプロのソングライター仲間だけど、ジョニー・フリンが同級生で、彼とひっそりと聴き合っていたんだ。

純粋なプロセスで作品作りを続けていると、音楽性が変わっていくのはごく自然なこと

ルークが呟いた「ビートルズがいたら寂しくないだろう?」は、イヤホンを耳に突っ込んで、イケてる奴らが騒ぎ立てている教室からなんとか逃げ出していた学生時代を持つ人たちには、体に染み込む言葉だろう。ディランを聴いていてぶん殴られたルークがこうしてロックシーンを牽引する存在になったのならば、CYPRESS HILLを聴いていた奴らは今ごろ会社の上司に媚びでも売っているはず。「中2病」はちょっと安易に使われすぎている言葉だけれど、教室の隅っこで音楽に励まされながらウジウジしてきた人たちには大切な言葉なのだ。

クワタ:僕たちのバンドはアルバムごとに音楽性が変わっています。さっきボウイの話も出ましたが、THE KOOKSも自分たちの前のアルバムの作風にこだわらずにどんどん変えていきますよね。ポリシーにはこだわるけど、アイデアやスタイルはどんどん変える、というか。

クワタユウキ
クワタユウキ

ルーク:嬉しいね、ユウキの言う通りだ。色々なものから影響を受けながらも、あくまでも自分たちの内部を探って出てきたものに従ってきたから。今作に関してはプロデューサーのnfroからの影響も大きい。これまでアルバムを作る時には、スタジオの中で「誰それのあの曲のこうゆうところが良かったよね」っていう話になりがちだったんだけど、今回は一切そういう話にならなかったからね。

クワタ:つまり、何にも影響されることなく、メンバー間のインスピレーションだけで作ったと。

ルーク:そう。それぞれの曲が持つ理念みたいなものが先にあって、それをバンドで揉んで、徐々にサウンドが生まれていく。純粋なプロセスで高揚感があったよ。技術的なことを考えずに、全てが自然に生まれてきたんだよね。

クワタ:では最後に、難しい質問をさせてください。THE KOOKSのお二人にとって、「いい音楽」とは何ですか? 

ルーク:そんな難しい質問はユウキから答えてくれよ(笑)。

クワタ:僕はこの質問には常に「薬」って答えているんです。落ち込んだ気持ちや揺さぶられた心情を引き上げてくれるもの。これがいい音楽の定義じゃないかって。

ルーク:「薬」っていうのはステキだね。この間知ったんだけど、メキシコでは薬と音楽って同じ意味なんだそうだ。どんなジャンルであろうと大事なのは、裏に込められたメッセージを受け取ることだと思う。悲しい音楽であったとしても癒されたりするわけだから。

「ハードロックにハマった最初のバンドはGUNS N’ ROSESなんですけど、きっかけは「空耳アワー」でした(笑)」(クワタ)

―3rdミニアルバム『アカンサス』、先ほど出来たてホヤホヤのものをスタッフから受け取っていましたね。

クワタ:はい。で、完成品を初めて渡したのがTHE KOOKSっていう(笑)。なかなか貴重な経験になりました。

―渡した瞬間に来てくれて、事前に打ち合わせしていたかのようなタイミングでしたね(笑)。「1曲聴かせてくれよ」と言った彼らに、4曲目の“月と太陽”をかけてくれと即答していたのはどうしてなんですか?

クワタ: まぁ悩む時間もなかったですけど(笑)。UKロックの影響が最も出ているかなと思ったからですね。もともとこの曲が、U2やTHE MUSIC辺りのエスニックなテイストを持つバンドを意識して作った曲なので、彼らの耳にも入りやすいかと思って。

クワタユウキ

―同世代ということもあってか、通ってきた音楽は割と近しいものがありましたね。

クワタ:実は、僕はTHE STROKESをそこまで聴いていないんですけどね(笑)。学生の頃、とにかく周りにたくさんTHE STROKES好きがいたから、「これだけ聴いている人がいるなから、俺は聴かなくていいや」と思っちゃって。

―確かにその頃って、「俺は洋楽派だぜ」みたいな人がこぞって同じバンドを聴き始めるんですよね。で、そのチョイスがことごとくつまらない。

クワタ:そうそう、「お前のチョイス、ロック雑誌で紹介されていたまんまの並びだぞ」って(笑)。

―アルバムを批判する時の見解も雑誌と同じだったり……。クワタさんは家族の影響でビートルズやFLEETWOOD MACを聴いていたと言っていましたが、他にはどこから音楽情報を入手していたんですか?

クワタ:インタビュー記事を読んだり、別のメディアで仕入れることが多かったですね。

―別のメディア?

クワタ:ハードロックにハマった最初のバンドはGUNS N’ ROSESなんですけど、きっかけは『タモリ倶楽部』の「空耳アワー」でした(笑)。“Mr.Brownstone”で「兄貴の位牌~~ヤクザ!!」、“Welcome to the Jungle”で「悦子の母乳だ、うっ」っていう……。それを見て、なんて面白いバンドなんだろうって、レンタルショップに駆け込んでガンズを借りたんですよ(笑)。

4:20~ アクセル・ローズがシャウトしている部分

―えっ、教室の隅っこでビートルズを聴いてたのに、「空耳アワー」でハードロックに開眼!

クワタ:小6でビートルズの“Hello Goodbye”を聴いて「うんうん、なかなか洋楽もいいじゃない」って思ってましたから(笑)、次の音楽を探していたんでしょうね。

―ピーターが、たとえ教室の隅っこに独りでもビートルズがいれば寂しくないよ、と言っていたのは染みましたね。

クワタ:いまさら励まされましたね。あの頃の自分に言ってあげたい(笑)。中学3年生の時、ビートルズの『イエロー・サブマリン』の復刻版VHSが出て、何度も繰り返し見てたんです。当時、絵を描くのも好きで漫画家にもなりたかったから、その絵を模写していたりしてました。

―彼らは学生時代を「思い出したくもない」と言ってましたが、クワタさんはどうです?

クワタ:あまり勉強熱心じゃなかったんで、先生に呼び出されて「キミ、マズいよ。後ろから6番目くらいだよ」って言われてましたね。6番目ぐらいって、その具体的な言い方、「ぐらい」じゃないだろと(笑)。

「『大事なのは裏に込められているメッセージだ』と(THE KOOKSは)言っていましたよね。そのためには、自分の思ったことを正直に音楽に投じる、これに尽きるんだと思います」(クワタ)

―ところで、THE KOOKSは今回の新しいアルバムでnfroというヒップホップ系のプロデューサーと組むことで音楽性を少し変えてきました。彼らとの話にも出てましたが、前のアルバムの続きを聴きたがるファンに違った方向性を投じるのは少なからず恐怖があるでしょう。クワタさんはこの辺りにはどういう意識で臨まれていますか?

クワタ:彼らは「大事なのは裏に込められているメッセージだ」と言っていましたよね。「これだけは絶対に折ってはいけない」というポリシーがあるかどうか。そのためには、自分の思ったことを正直に音楽に投じる、これに尽きるんだと思います。

―朗読を意味する「READ ALOUD」、一方THE KOOKSは、心の声を伝えるかのように『LISTEN』というアルバムタイトルをつけました。心の中のものを直接伝える、という意味において共振があったのは興味深いですね。

クワタ:安っぽい言葉で言うと「中2病」なんですが、あの時感じた「俺はお前らとは違うんだよ」という気持ちを忘れたくないんです。最近思うのは、心の中のものに素直に従うと、例えば社会を批判するにしても、漠然とした社会ではなく、あくまでも自分を含めた社会になる。今回のアルバムの1曲目“タイムトラベラー”では、誰かが飛び降り自殺して電車が止まってしまったことに、面倒くさそうに舌打ちする人たちに対する皮肉を書いています。でも、自分自身もその社会の1人である。こういった社会と対峙したテーマを入れこんだのも、『アカンサス』の特徴かもしれません。

―THE KOOKSがREAD ALOUDの曲を聴いた時、真っ先に「メロディーがいいね」と言っていましたね。一方でクワタさんはTHE KOOKSに対して「コードワークがいい」と言っていた。クワタさんは新しい音楽を聴くとき、真っ先に何を気にしますか?

クワタ:ずっとギターを弾いてるので、やっぱりギターに耳がいってしまうのですが、最終的にはメロディーに行き着きます。こないだ番組で2014年のベスト楽曲を選んだとき、エド・シーランやClean Banditといったメロディアスなものが多いことに改めて気づきました。少なくとも、流行りではないし、自分たちの音楽との距離、でもない。とことん自分の感覚に向き合うことの大切さを、今日のTHE KOOKSの二人との対話で強く感じましたね。

リリース情報
READ ALOUD
『アカンサス』(CD)

2014年11月5日(水)発売
価格:1,650円(税込)
CCCL-3

1. タイムトラベラー
2. 君の声を思い出す
3. 風が吹くから
4. 月と太陽
5. BGK
6. 朝

番組情報
『Good To Go!』

毎週土曜24:00からInterFMにて放送

リリース情報
THE KOOKS
『LISTEN』日本盤(CD)

2014年9月3日(水)発売
価格:2,646円(税込)
UICW-10002

1. Around Town
2. Forgive & Forget
3. Westside
4. See Me Now
5. It Was London
6. Bad Habit
7. Down
8. Dreams
9. Are We Electric
10. Sunrise
11. Sweet Emotion
12.Murderer
13.Icons
14.Keep Your Head Up
15.Backstabber
16.Hooray For Henry(ボーナストラック)
17.Hold On(ボーナストラック)
18.Melody Maker(ボーナストラック)

2014年9月9日(火)発売
Astralwerks

1. Around Town
2. Forgive & Forget
3. Westside
4. See Me Now
5. It Was London
6. Bad Habit
7. Down
8. Dreams
9. Are We Electric
10. Sunrise
11. Sweet Emotion

プロフィール
READ ALOUD (りーど あらうど)

自分の心に浮かんだ感情や言葉を素直に音読する(READ ALOUD=読み上げる。朗読する。)というコンセプトのもとクワタユウキ(Vo,Gt)を中心に結成。2012年夏より、現メンバーでの本格的なライブ活動をスタートさせる。逞しいボーカルと、アイリッシュやサンバ等様々なリズム要素を取り入れたビートで確実にその注目度を上げている実力派バンド。2014年11月5日は、3rdミニアルバム『アカンサス』をリリース。12 月7日には、渋谷クアトロにてワンマンライブを開催した。InterFM『Good To Go!』(毎週土曜24:00~)でDJを務める。

THE KOOKS(ざ くーくす)

2003年にブライトンの音楽学校にて結成。結成後3か月で「ヴァージン・レコーズ」と契約。2006年、デビューアルバム『INSIDE IN / INSIDE OUT』をリリース。約190万枚の売り上げを記録。イギリスでは、Arctic Monkeysの大成功を収めた1stアルバムと同日リリースだったため、セールスを含め比較の対象にされる傾向にあった。THE KINKS、THE ROLLING STONES、BLURなど英国的なソングライティングの伝統を受け継ぎつつ、ボブ・ディランなどに影響されたフォーキーなロックアンサンブルが特徴。とりわけ、キャッチーなメロディーで歌われるラブソングを得意とする。ポップなセンスとしっかりしたバンドアンサンブルの両面で男女ともに人気を博している。



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