くるりの名盤再現ライブから考える「音楽トレンド15年周期説」

かつてリリースしたアルバムを完全再現した夜

4月27日、くるりがバンド結成20周年に向けたコンセプトライブ『NOW AND THEN』を渋谷公会堂で開催した。このライブは、くるりの1stアルバム『さよならストレンジャー』(1999年)と2ndアルバム『図鑑』(2000年)を再現するというもので、ギタリストに昨年のツアーから参加の松本大樹、ドラマーには今回が初参加となるmabanuaを迎え、さらに『図鑑』を演奏する後半パートではゴンドウトモヒコ(Euphonium,Flugelhorn,etc)が加わるという編成。僕自身、1999年に大学に入学し、当時サークル仲間とここ渋谷公会堂でくるりのライブを観たことなどを思い出してノスタルジーに浸る一方で、過去の名曲たちがあくまで今のくるりの形で演奏されることに、新鮮な興奮を感じる一夜となった。

『くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN」』より 撮影:五十嵐一晴

『くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN」』より 撮影:五十嵐一晴
『くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN」』より 撮影:五十嵐一晴

15年前にもっともクールだった「ポストロック」と、くるりの関係性

さて、くるりがデビューした1990年代後半、当時もっともクールな音楽は何だったのかと考えてみると、それは間違いなく「ポストロック」であった。1998年にはTortoise(シカゴ出身のポストロックバンド)が、現代では当たり前のように使われている音源制作ソフト・Pro Toolsをいち早く導入した『TNT』で未来を提示し、1999年にはそれまで前衛的なインプロバイザーと思われていたジム・オルークがポップな『Eureka』を発表して、音楽ファンをあっと驚かせた。当時「シカゴ音響派」と呼ばれたこの界隈のアーティストを猛烈にプッシュし、両方の作品に解説を寄せている批評家の佐々木敦は、『TNT』について「もはやスタイル上の越境や横断や拡張といった段階はとうに越えてしまって、なんていうか、ひとつの世界を誕生させてしまったとさえいってもいいほどに、すこぶる豊かな音楽と音響が鳴っている」と語り、『Eureka』については「個人的なことになるが、表題曲の“ユリイカ”を最初に耳にした時、僕は、解放された、というか、救われた、そんな気がした」とその感動を述べている。

くるりがもっとも「ポストロック」という文脈で語られたのは、おそらく『図鑑』のときだろう。なぜなら、この作品の15曲中5曲でジム・オルークがプロデュースとエンジニアリングを手掛けているからであり、何と言ってもトランシーなインスト曲“惑星づくり”のインパクトが大きかった。しかし、この日のライブを観て改めて思ったのは、『さよならストレンジャー』の頃にすでにその萌芽があったということだ。基本的にはフォークやブルースの色合いが強い作品だが、ベースの佐藤征史はいくつかの曲でウッドベースを用いていて、これは一義的にはシカゴ音響派と切っても切り離せないジャズへの傾倒を表していたと言えよう。アコギとウッドベースのみで披露された“りんご飴”なんかは、The Sea and Cake(Tortoiseのジョン・マッケンタイアが参加するロックバンド)のようにも聴こえたし、ビブラフォンを用いたインスト“ハワイ・サーティーン”は、直接的にTortoiseを連想させるもの。そう考えれば、プロデューサーとしての活躍も目覚ましいmabanuaは、ジョン・マッケンタイアの姿とも重なってくる。

『くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN」』より 撮影:五十嵐一晴

『くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN」』より 撮影:五十嵐一晴
撮影:五十嵐一晴

また、ポストロックを「ジャズ」や「インプロビゼーション」の延長線として、「アンサンブルの音楽」と定義するならば、それは現在のくるりともリンクするものであるように思う。4月1日に入籍と妊娠を発表したファンファンがこの日は不参加だったが、トランペットをメイン楽器とするファンファン加入以降のくるりは、トランペットを生かすため、これまで以上に楽器のアンサンブルの強化に尽力してきた。また、ツアーごとにメンバーが入れ替わる近年のくるりのライブはある意味セッション性が強く、参加メンバーはそれぞれが優れたプレイヤーであると同時に、それぞれが優れた作曲家でもあるような、有機的なアンサンブルを聴かせてくれている。この日に関しては、松本やmabanuaはもちろん、フリューゲルホルン、トランペット、さらにはディジュリドゥも用いて『図鑑』の楽曲を鮮やかに彩ったゴンドウトモヒコの存在感が非常に印象的だった。

『くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN」』より 撮影:五十嵐一晴
撮影:五十嵐一晴

音楽トレンドの周期は、20年から15年へ?

僕はここ最近「音楽トレンド15年周期説」というのを唱えている。一昔前まで、音楽のトレンドは20年で一周すると言われていたが、インターネットの浸透などによって消費のスピードが加速した結果、近年はトレンドの周期が15年くらいになったように感じるのだ。例えば、2013年にメジャーデビューを果たしたtofubeatsは、当時宇多田ヒカルの『First Love』(1999年)を「今聴くべきアルバム」と絶賛していたし、もうすぐ待望の新作がリリースされるceroは近年D'Angeloからの影響を公言していたが、するとD'Angeloから昨年末に『Voodoo』(2000年)以来となる新作『Black Messiah』が急遽届いたりもした。また、下北沢のギターロックシーンに目を移しても、BUMP OF CHICKENがデビュー15周年を迎えた昨年、同時代のバンドであるSyrup16gやBURGER NUDSが次々と再結成を果たした。偶然と言えば偶然かもしれないが、それにしては出来すぎているようにも思う。

ポストロックという言葉も、一時期は使い古された言葉のように思われていたが、当時のバンドや作品がその後の音楽シーンに大きな影響をもたらしたことは間違いなく、そろそろその意義を再検証するべき時期に入ったのではないだろうか。もちろん、くるりがそれを意図して今回のライブを開催したとまでは思わない。ただ、当時ジム・オルークをいち早く起用した彼らの感性の鋭さが未だ鈍ることなく、15年という周期を肌で感じ取ったのでは……なんてことは、つい考えてしまう。

イベント情報
『くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN」』

2015年4月27日(月)
会場:東京都 渋谷公会堂

番組情報
『くるり NOW AND THEN さよならストレンジャー / 図鑑』

2015年6月28日(日)17:00からWOWOWライブにて放送予定

リリース情報
岸田繁
『岸田 繁のまほろ劇伴音楽全集』(CD)

2015年4月15日(水)発売
価格:2,376円(税込)
VICL-63728

1. まほろのテーマ
2. 悪夢
3. 1月
4. マリちゃんを探せ
5. マリとハナ
6. 多田便利軒
7. ルルご来店
8. シンちゃん登場
9. 夜を越えて
10. 指の傷
11. 由良公のマンション
12. 小さな運び屋
13. 絶対零度
14. 多田と行天
15. のり弁しゃけ弁
16. 由良公のテーマ
17. 8月
18. 凪子と多田
19. 行天の過去
20. 凪子のテーマ
21. 追跡
22. 狂気
23. ゲームオーバー
24. ゴミ捨て場
25. 行天と多田
26. 12月
27. まほろ駅前狂騒曲
28. 行天MRI
29. 凪子からの依頼
30. 焦る多田
31. はるちゃんが来るまであと六日
32. コーヒーの神殿・アポロ
33. 俺の知らない行天
34. HHFAの畑I
35. はるちゃんが来る二日前の夕方
36. 小林のテーマI
37. 便利軒の夜I
38. 嘘
39. 逃げるなよ
40. 小林のテーマII
41. 便利軒の夜II
42. 便利軒の夜III
43. 亜沙子の寝室
44. 多田と行天とはるちゃん
45. 餃子
46. 親子
47. HHFAの畑II
48. 横中バス
49. 爺さんたちのバスジャック
50. シンちゃん下車
51. 小林のテーマIII
52. 神様の子ども
53. 急げ多田
54. 狂騒曲
55. 凪子の恋人
56. 行天と由良公
57. もうすぐ春

くるり
『THE PIER』通常盤(CD)

2014年9月17日(水)発売
価格:3,132円(税込)
VICL-64167

1. 2034
2. 日本海
3. 浜辺にて
4. ロックンロール・ハネムーン
5. Liberty&Gravity
6. しゃぼんがぼんぼん
7. loveless<album edit>
8. Remember me
9. 遥かなるリスボン
10. Brose&Butter
11.Amamoyo
12. 最後のメリークリスマス<album edit>
13. メェメェ
14. There is(always light)

プロフィール
くるり
くるり

1996年9月頃、立命館大学(京都市北区)の音楽サークル「ロック・コミューン」にて結成。古今東西さまざまな音楽に影響されながら、旅を続けるロックバンド。岸田繁(Vo, Gt)、佐藤征史(Ba, Vo)、ファンファン(Tp, Vo)の3名で活動中。



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