舛添都知事が、野田秀樹、日比野克彦、名和晃平とカルチャー座談会。その内容とは?

文化芸術的にもターニングポイントとなる『東京オリンピック』

2013年、東京が開催地として選ばれる前後から、開催をめぐっての是非、メイン会場となる新国立競技場の設計について激しい議論が交わされるなど、高い注目を集めてきた2020年の『東京オリンピック・パラリンピック』。日本では1964年以来、2度目の開催となる本大会は、賛否両論の渦中にありながらも、刻一刻と開催の日へと歩みを進めている。

そんな『東京オリンピック』が、じつは文化芸術的にも数十年に一度の大きなターニングポイントになっていることを知る人は、そう多くないのではないだろうか? オリンピック開催を「東京を文化都市として推し進めるための絶好のチャンス」とし、その実現のための長期戦略『東京文化ビジョン』を3月に策定した舛添都知事の意向のもと、6月3日、演出家の野田秀樹、現代美術家の日比野克彦、名和晃平の三名が東京都庁に招かれ、『東京オリンピック』に関連して行われる文化プログラムについての意見交換の場が設けられた。

モデルとなるのは、『ロンドンオリンピック』に関連して行なわれた、13000件のイベント、2020万人が参加した文化プログラム

この日明らかになったのは、『東京文化ビジョン』の1つとして2015年10月より先行展開される『リーディングプロジェクト』で、野田が考案する「東京キャラバン」と、日比野の提唱する「TURN」の2大プロジェクト。「東京キャラバン」は、パフォーマンスや映像、美術など、多彩な表現が折り重なるショーを日本各地で開催するという、巡業形式のイベントだ。野田が「楽しいものにしたい」と話すこのショーでは、その土地土地の歴史と、「東京キャラバン」が示す異なる文化が交わることによって、新しい文化が生まれていく。一方、「TURN」では、障がいを抱える人を含めてあらゆる状況にある人々が、垣根なく協働的に様々な活動を行っていくという主旨のイベント。そして、双方をつなぐ共通テーマが「メタモルフォーゼ(変容)」。そのビジュアルコンセプトを担う名和が、既存の概念や価値観に「変容」をもたらすべく、国内外のアーティストとのコラボレーションを通して、創造のプラットフォームを作りだす。いずれのプログラムも、これから段階的に全容が明らかになっていくという。

左から:名和晃平、日比野克彦、野田秀樹、舛添要一(東京都知事)
左から:名和晃平、日比野克彦、野田秀樹、舛添要一(東京都知事)

「東京キャラバン」を皮切りに、『東京オリンピック』までの5年間だけでなく、開催後の2025年までを視野に入れていくという『東京文化ビジョン』。じつは、この一連の計画にはモデルケースというべき前例がある。それは、2012年、イギリスで開催された『ロンドンオリンピック・パラリンピック』と、その4年前から繰り広げられ、1億2660万ポンド(約160億円)もの予算で実施された「カルチュラル・オリンピアード」と称された文化プログラム。そして、それらの集大成となった芸術祭『ロンドン2012フェスティバル』だ。同フェスティバルは、イギリス全土1200か所以上を舞台に、約1万3千件ものイベントが開催されたという大規模なもので、イギリス国民のおよそ3分の1にあたる約2020万人(!)が参加したという記録からも、その盛り上がりの大きさは想像に難くない。

内容もじつに多種多様だ。たとえば、16~17世紀を代表する戯曲家・シェイクスピアによる全27演目の上演や、何千人ものダンサーが日常の一場面で一斉にパフォーマンスを披露する「フラッシュモブ」。あるいは平和を願い、イギリス全土の海岸線に明かりの灯るテントを設置するアートプロジェクトや、世界遺産「ストーンヘンジ」を多数のたいまつで彩る展示など、パフォーマンスから作品発表まで、多角的なアプローチで人々を楽しませた。このように、イギリスで実施された文化プログラムを1つの手本とし、東京でも充実したイベントを行っていく予定だという。

『東京文化ビジョン』戦略は、次世代への文化インフラとなるか?

意見交換の中で、野田、日比野、名和の三名が強調したことがある。それは、2020年のオリンピック閉幕以降も続いていく、文化の充実だ。1964年の『東京オリンピック』では、開催を機に東海道新幹線が開通し、高速道路が整備されるなどの交通網が形成され、それらは現在の私たちの生活に欠かせないインフラになっている。ならば、2020年をきっかけとして展開する『東京文化ビジョン』戦略は、次世代へと引き継がれる文化のインフラへとなり、底上げされた文化水準が物質的な豊かさとは異なる、人々の精神的な豊かさへの足がかりになるのではないか? ということ。

写真2人目左から:野田秀樹、日比野克彦、名和晃平

『東京オリンピック』は終結点ではなく、あくまで序章。それらに先立って開催される『リーディングプロジェクト』の開幕は今年10月に迫っている。今現在、私たちの目の前には、オリンピック開催にあたって解決すべき課題が広がっている状況であるといえるだろう。しかし、ここであえて視点を変え、2020年後より先の未来に思いを馳せ、芸術文化がもたらす明るい展望を思い描いてみたい。それは一見遠回りに見えながらも、課題解決のための最初のステップになるかもしれない。

イベント情報
『東京オリンピック リーディングプロジェクトについての意見交換会』

2015年6月3日(水)14:30~15:00
会場:東京都 新宿 都庁第一本庁舎7階 特別応接室
出席者:
舛添要一(東京都知事)
野田秀樹
日比野克彦
名和晃平



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