レビュー

電球が1個しかない場所でもライブをやる覚悟。X JAPAN、20年ぶりの日本ツアー

武田砂鉄
2015/08/25
電球が1個しかない場所でもライブをやる覚悟。X JAPAN、20年ぶりの日本ツアー

「『電球1個でもライブをやろう』という気持ち」(YOSHIKI)

X JAPANの20年ぶりとなる日本ツアーが発表された記者会見場には、約1万名を超える応募者の中から100名ほどのファンが招待されていた。2016年3月11日に20年振りのアルバムを発売、翌12日にイギリス、ウェンブリー・アリーナでのライブを控えている彼らから、今年12月の日本ツアーが発表されると、記者会見場がライブ会場に切り替わったかのような大歓声に包まれる。5都市7公演という短期集中型のツアーだが、前回の1995年から96年にかけての『DAHLIA TOUR』から20年振り、しかもそのツアーはYOSHIKI(Dr,Pf)頸椎椎間板ヘルニア発症により後半の5公演がキャンセルされており、ファンにとっては悲願のツアーとなる。

X JAPAN
X JAPAN

YOSHIKIは、会見でしきりに「20年ぶりのアルバム」「20年ぶりの全国ツアー」と口にした。20年前の1995年は、CD売上高が6千億円に迫ろうかとする、音楽ソフト産業がもっとも好調だった頃。その売上累計が2千億円を下回った現在と比較され、今の音楽不況っぷりを示す数値として頻繁に使われている。業界の折れ線グラフがひたすら下降していった20年間を、メンバーの死など、いくつもの喪失と再生の中で保ち、繋いできたX JAPAN。YOSHIKIは会見で、今は「電球1個でもライブをやろう」という気持ちに立ち返っている、と漏らす。チリ、ブラジル、アルゼンチン、ペルー、メキシコと廻った2011年の南米ツアーをはじめとした海外でのタフな経験が、今あらためてデビューするかのような純真な気持ちに舞い戻らせているのだろう。

YOSHIKIのクリエイティブに寄り添う覚悟ができるようになったToshlの変化

目下ニューアルバムのレコーディング中、世界を視野に入れた初めてのアルバムをリリースする高揚感に漲っているYOSHIKI。「甲子園でもX JAPANの曲が使われていますが、その世代へのメッセージを……」という、やや時流にあわせすぎた報道陣からの質問にも、「僕は甲子園が好きなんです。勝たなければ次がないという甲子園の舞台で、“紅”のような、哀しみの中に前向きな思いを込めた曲が使われるのはとても嬉しい」と丁寧に答え、「だからこそ今あらためて……」と続けていくYOSHIKI。来年3月12日のウェンブリー・アリーナ公演では、ライブの直前に現在ハリウッドで制作されているドキュメンタリー映画が公開されるという。この日、短い尺のトレーラーが公開されたが、hideの墓石の映像が静かに差し込まれており、アルバムについて会見で「(hideとTAIJIも含めた)7人で作っているという意識」とYOSHIKIが語ったように、初心に立ち返る意識と新たに切り開いていく意識が入り交じったプロジェクトとなるのだろう。


ヘヴィメタル雑誌『ヘドバン Vol.5』でToshl(Vo)が、吉田豪のインタビューに答えている。「ある種、僕はYOSHIKI の作品を作る一つの絵の具みたいなものですから。筆を執るのがYOSHIKIだとしたら、そこに色を付けていく。それになりきっていくっていうことが、今はわりと出来るんですけど、当時はなかなか、それに反発したり、やっぱりできないってなったり、いろいろストラグルしてましたね、そのときは」。自著『洗脳 地獄の12年からの生還』でも激白したように、あらゆるプレッシャーに押しつぶされてしまった弱さを自覚しながら、見事に克服してみせたToshl。YOSHIKI同様に、口々に「今から新たにスタート」としている。

「ヴィジュアル系」は有機的に他のロックシーンと繋がっている

いわゆる「ヴィジュアル系」と呼ばれるカテゴリは、ジャパニーズメタル界を牽引していたX JAPANを始点に派生していったが、彼らが前作『DAHLIA』を出した1990年代半ばにも隆盛していた。それから20年経過しても、残存しているどころか、むしろその他の多くのカテゴリよりも建設的に守備範囲を拡張している。X JAPANも参加した今年6月のLUNA SEA主催のフェス『LUNATIC FEST.』では、DEAD END、AION、TOKYO YANKEESといったコアなベテランバンドを引っ張り出しながら、[Alexandros]やcoldrainといった若いバンドも登場。今年2月に行なわれたL'Arc-en-CielのHYDE(Vo)の別プロジェクトVAMPSが主催したフェス『VAMPARK FEST』では、MY CHMEMICAL ROMANCEのジェラルド・ウェイ(Vo)、Mötley CrüeのNIKKI SIXX(Ba)率いるSIXX:A.M.など海外から錚々たるミュージシャンを呼び寄せてみせた。そもそも「ヴィジュアル系」という形容自体を当人が歓迎しないことも多いが、少なくとも外からはそう形容されてきたバンド群が、有機的に他のロックシーンと繋がってきている印象を持つ。その頂点でX JAPANが稼働している事実は言わずもがな大きい。

これらのバンドを積極的に取り上げる『ヘドバン』や『MASSIVE』といった、比較的歴史が浅い音楽雑誌に共通するのは、この時代には珍しいほど、文体が濃く、暑苦しいこと。両誌とも欠かさずに目を通しているが、活字、そして雑誌で音楽を語る意義が、この手のジャンルだからこそどこまでも突き詰められ、濃密に記されている感触を持つ。今の日本のヘヴィメタル業界にはBABYMETALという大きな存在がいる。『ヘドバン』は毎号のようにBABYMETALを取り上げているが、誰しもが飛び道具的に扱われるであろうと予測した前評判を豪快に覆した理由がその濃い文章から読み解ける。日本産メタルの存在がこれほどまでに世界で注目を浴びるのはLOUDNESSがアメリカ進出を果たした1980年代半ば以来、初めてのこと。ToshlのインタビューによればYOSHIKIもBABYMETALの存在を賞賛しているという。

「全部切れてしまうと手首がブラブラになってしまう状況」(YOSHIKI)

記者会見で自身の健康面について問われたYOSHIKIは、「首と手首に問題があり、医者には月に何回も通っています。手首の靭帯には再生能力がなく、半分切れているようです。全部切れてしまうと手首がブラブラになってしまう状況なんですが、(手術すると6か月はプレイできないので)ツアーを乗り切った後で手術をしたい」とした。20年振りのツアー、この点は不安がつきまとう。

YOSHIKIも登場しているサム・ダン監督のドキュメンタリー映画『GLOBAL METAL』を観れば一目瞭然だが、ヘヴィメタルのムーブメントは、世界の隅々まで広がっている。そのムーブメントの中で、今ほど主体的に日本の(ヴィジュアル系という形容ではなく)メタルバンドが稼働している時代もない。無論、そのキーとなるのがX JAPANだ。ニューアルバム、そしてツアーは、その強靭な磁場を明らかにするものとなるに違いない。

イベント情報

X JAPAN日本ツアースケジュール

2015年12月2日(水)~12月4日(金)
会場:神奈川県 新横浜 横浜アリーナ

2015年12月7日(月)
会場:大阪府 大阪城ホール

2015年12月9日(水)
会場:福岡県 マリンメッセ福岡

2015年12月11日(金)
会場:広島県 広島グリーンアリーナ

2015年12月14日(月)
会場:愛知県 日本ガイシホール

プロフィール

X JAPAN(えっくす じゃぱん)

1982年、千葉県館山市で当時高校生だったYOSHIKI(Dr,Pn)とToshl(Vo)を中心に結成。当時アメリカを中心に一大ムーブメントだったLAメタルに影響を受けた派手なルックスで、後続のヴィジュアル系と言われるバンドに大きな影響を与えた。1989年にX(エックス)としてメジャーデビュー。その後、世界進出を機に1992年、現在のX JAPANに改名。1997年12月31日に解散したが、2007年10月22日に再結成した。通称はX。

武田砂鉄(たけだ さてつ)

1982年生まれ。ライター / 編集。2014年秋、出版社勤務を経てフリーへ。「CINRA.NET」「cakes」「Yahoo!ニュース個人」「マイナビ」「LITERA」「beatleg」「TRASH-UP!!」で連載を持ち、「週刊金曜日」「AERA」「SPA!」「beatleg」「STRANGE DAYS」などの雑誌でも執筆中。著書に『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)がある。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

Wanna-Gonna“それから”

濱口竜介監督作や『21世紀の女の子』に参加する女優・小川あんが主演を務めたWanna-Gonna“それから”MV。脆く小さな記憶が、花やセーターの何気ないシルエットに沿って瞬くような印象を受ける。撮影が行われたのは、2020年に向けて取り壊しが決まっているという浅倉奏監督の部屋。(井戸沼)

  1. FINAL SPANK HAPPYが示す「新男女関係」 結成半年を振り返る 1

    FINAL SPANK HAPPYが示す「新男女関係」 結成半年を振り返る

  2. 桂正和原作『I”s』磯崎泉役は萩原みのり、主人公にアプローチする後輩役 2

    桂正和原作『I”s』磯崎泉役は萩原みのり、主人公にアプローチする後輩役

  3. ジャニー喜多川製作総指揮、東西ジャニーズJr.が集結 『映画 少年たち』 3

    ジャニー喜多川製作総指揮、東西ジャニーズJr.が集結 『映画 少年たち』

  4. 小出祐介が問題提起、日本語ポップスにおける「歌詞の曖昧さ」 4

    小出祐介が問題提起、日本語ポップスにおける「歌詞の曖昧さ」

  5. 遠藤ミチロウが膵臓がんを公表、現在は自宅療養中 5

    遠藤ミチロウが膵臓がんを公表、現在は自宅療養中

  6. 映画『空母いぶき』追加キャストに佐藤浩市、村上淳、玉木宏、戸次重幸ら 6

    映画『空母いぶき』追加キャストに佐藤浩市、村上淳、玉木宏、戸次重幸ら

  7. 『紅白歌合戦』会見にあいみょん、DAOKO、YOSHIKI、キンプリ、刀剣男子ら 7

    『紅白歌合戦』会見にあいみょん、DAOKO、YOSHIKI、キンプリ、刀剣男子ら

  8. 太賀に森崎ウィンらが寄り添う『母さんがどんなに僕を嫌いでも』本編映像 8

    太賀に森崎ウィンらが寄り添う『母さんがどんなに僕を嫌いでも』本編映像

  9. 新宿爆音映画祭に『ボヘミアン・ラプソディ』『バッド・ジーニアス』など 9

    新宿爆音映画祭に『ボヘミアン・ラプソディ』『バッド・ジーニアス』など

  10. Hi-STANDARD元スタッフによる『SOUNDS LIKE SHIT』レビュー 10

    Hi-STANDARD元スタッフによる『SOUNDS LIKE SHIT』レビュー