レビュー

ゆるめるモ!の攻め方は全くゆるくない。ホラー監督と挑む初映画

テキスト
土佐有明
ゆるめるモ!の攻め方は全くゆるくない。ホラー監督と挑む初映画

意外にも秀作が多い、アイドル主演の低予算映画

昨今はアイドル文化の隆盛に伴って、女性アイドルをフィーチャーした映画が数多く作られている。特に話題となった作品を例に挙げると、ももいろクローバーZが主演した『幕が上がる』(2015年)、山戸結希監督が東京女子流を撮った『5つ数えれば君の夢』(2014年)などが記憶に新しい。こうした流れの中で特筆すべきは、実は低予算で作られたものにも意外に秀作が多いこと。具体的にはBiSが主演を務めた『アイドル・イズ・デッド』(2012年)、いずこねこの茉莉と蒼波純が出演した『世界の終わりのいずこねこ』(2015年)、根本宗子とせのしすたぁが組んだ『ねもしすたぁ』(2015年)などが挙げられるが、ニューウェーヴアイドルグループ、ゆるめるモ!の映画初主演作品『女の子よ死体と踊れ』もこの系譜に連なる作品と言える。

撮影時間や予算が限られていることを逆手に取ったのだろう。5日間の合宿で撮影されたという本作は、カルト映画風の奇妙な味わいを醸し出す怪作にして快作に仕上がっている。ホラー映画『クソすばらしいこの世界』(2013年)で注目を浴びた朝倉加葉子監督が描く、血しぶきが飛び散ったり死体がバラバラになったりするグロテスクなシーンは、ゆるめるモ!のファンはもちろん、B級ホラーを愛するシネフィルや映画ファンも楽しめるつくりだ。

『女の子よ死体と踊れ』 ©2015 YOU'LL MELT MORE! Film Partners
『女の子よ死体と踊れ』 ©2015 YOU'LL MELT MORE! Film Partners


日常で「死にたい」とこぼす言葉の裏には、「生きたい」という意志がある

物語は、清掃会社に務める、もね、けちょん、しふぉん、ようなぴ、ちーぼうが、森の中で「あの」の死体を見つけ、ノルウェーのブラックメタルバンドが伝える儀式によって彼女を蘇らせるというもの。しふぉんたちは怯えながらも死体に言いようのない魅力を覚え、警察に連絡することなく死体を持ち運ぶのだが、このあたりは岡崎京子の漫画『リバーズ・エッジ』を連想させる。朝倉監督は「『リバーズ・エッジ』は読んでました。あの中で真っ正面から描かれている「朽ちていくグロいものが美しい」という感覚は、10代や20代のころに芽生えるものだと思うんですよ。確かに『リバース・エッジ』と今作には共通するものがありますね」と話す。『リバーズ・エッジ』には「死体を見ると勇気が出るんだ」というせりふがあるのだが、こうしたメンタリティーの隠れた普遍性を本作は見事に炙り出している。

左から:朝倉加葉子、あの、もね、けちょん、ちーぼう、ようなぴ(しふぉんは都合により欠席) 撮影:田中一人
左から:朝倉加葉子、あの、もね、けちょん、ちーぼう、ようなぴ(しふぉんは都合により欠席) 撮影:田中一人

映画のテーマとなっているのは、生と死の実感を巡る葛藤だ。「ちゃんと自分で死にたい」というコピーが本作のチラシに躍っているように、あのは不本意な形で死を遂げてしまい、自分の意志で命を絶ちたいと考えている。そして、不思議な能力によって何度も生き返るうちに、「私が死にたかったのは、本当はすごく生きたかったからなんだ」と口にする。単に死にたいのではなく、「生きるのが怖かったから。何十年もこのままでいたくなかったから」という理由で自死を望むのである。SNSで「死にたい」というつぶやきを目にすることが当たり前になった昨今だが、あれはある種のメッセージだと思うし、あのにとっての自殺もまた、ひとつの意思表示だったと思える。「窮屈な世の中をゆるめるもん!」をコンセプトに結成され、「辛いときは逃げてもいいんだよ」というメッセージを発信し続けるゆるめるモ!が、「死にたい」という思いの裏側まで演じたことには、強い必然性を感じる。

あの 撮影:田中一人
あの 撮影:田中一人

「演技」と「素」の境目で登場する六人。肝は朝倉監督の見事な脚本にあり

肝心のゆるめるモ!の演技だが、グループ名の通り、ある種のゆるさが魅力に転化されている印象だ。そもそも清掃会社で働く五人が、グダグダでのんべんだらりとしたキャラクターとして描かれており、それが彼女たちの素と絶妙にシンクロしている。朝倉監督は撮影前にメンバー全員とプライベートな話をし、それぞれの奥行きある個性を感じ取った上で脚本を詰めたそう。

「ちーぼうは、『私、歌とかダンス苦手で~』って渋い顔をして言っていたんです。「あれ? それ、アイドルとしていちばん重要な任務だよね?」ってツッコミたくなってしまったんですけど、その言葉に彼女の素直さが出ているなって。ようなぴちゃんは明るいことと暗いことを並列で話していて、その淡々とした様が印象的でした。私が質問したことに対してポジティブな返事とネガティブな返事の両方を、まったく同じ体温で話すんですよ。けちょんは手のひらに目玉が描いてあって、自分の本体はそこにあるっていう変わったバックグラウンドの話を聞いたので、映画にもその要素を入れました。もねちゃんは、普段から可愛い格好が好きなので、ガーリーな役をお願いしたんです。そうしたら、撮影のときにぬいぐるみが付いたピアスとかを持ってきてくれたんですよね。あのちゃんとも色々話したけど、何に対してもすごく丁寧に答えてくれる人だなって」

左から:けちょん、ようなぴ、朝倉加葉子 撮影:田中一人
左から:けちょん、ようなぴ、朝倉加葉子 撮影:田中一人

個々の性格や特徴が脚本に反映されているために、本人と役の間に乖離や齟齬がない。無理に背伸びをして違う人格を演じるのではなく、あくまで普段着の延長線上でナチュラルに演技している風なのだ。実際に演じたけちょんは、「ストーリー自体は非日常的だけど、まるで日常のように画面に映っているのが面白い」と話す。

けちょん 撮影:田中一人
けちょん 撮影:田中一人

また、彼女たちは女優ではないが、表舞台でライブを日々披露しているわけで、パフォーマーとしてはプロだとも言える。劇中でメンバーたちが楽しそうに縄跳びをするシーンがあるのだが、縄跳びで遊ぶことは脚本に書かれていたシナリオではなく、完全なアドリブだったそうで、朝倉監督もそれを見て「私から何も言うことないわ、ゆるめるモ!すごい!」と思ったそう。確かにここが最もゆるめるモ!の素が出たシーンで、これが映像になったのはちょっと奇跡的かもしれない、とすら思う。

音楽も、映画も、その攻め方はまったくゆるくない「ゆるめるモ!」

ホラー映画監督によるグロテスクな表現、普遍的で奥行きのあるテーマ、本人たちの素のキャラクターを活かした演技など、見どころ多数の本作。もねは、いちばんの見どころを次のように語っている。

「白い衣装を着て六人で輪になって踊る最後のシーンが、幻想的ですごく好きなんです。メンバーだけで踊ってることが運命的な感じがするし、役を演じているんだけど、やっぱり六人揃ってゆるめるモ!なんだなって、あのシーンを見て感じました。地球に人がたくさんいる中でこの六人がひとつの画に収まったというのは、すごいことなんじゃないかなって」

もね 撮影:田中一人
もね 撮影:田中一人

これまでもNEU!やESGなどの洋楽バンドへオマージュを捧げたり、POLYSICSや非常階段とコラボレーションしたり、さらに11月発売の2ndアルバムではナカコーや後藤まりこなどとタッグを組むことが発表されていたりと、音楽面で様々な冒険をしている彼女たちだが、映画もやはり相当攻めてきた。冒頭で挙げたような作品と比肩するアイドル映画のマスターピースがまたひとつ、ここに誕生した。そう言って差し支えないだろう。

作品情報

『女の子よ死体と踊れ』
『女の子よ死体と踊れ』

2015年10月31日(土)からシネマート新宿、11月14日(土)からシネマート心斎橋ほか全国で順次公開
監督・脚本:朝倉加葉子
音楽:ゲイリー芦屋
出演:
ゆるめるモ!
松田優
原扶貴子
尾本卓也
国分崇
川連廣明
信國輝彦
古内啓子
配給:日本出版販売

リリース情報

ゆるめるモ!『映画スペシャルCD『女の子よ死体と踊れ』』
ゆるめるモ!
『映画スペシャルCD『女の子よ死体と踊れ』』(CD)

2015年10月21日(水)発売
価格:2,160円(税込)
KICS-3296

1.あさだ(MovieVersion)
2.アーメン(MovieVersion)
3.その他のみなさん
4.OO(ラフ(Movie Version)
5.人間は少し不真面目

プロフィール

ゆるめるモ!
ゆるめるモ!

話題沸騰の女性6人組ニューウェーブアイドルグループ。2012年10月に結成され、メンバーは<もね、けちょん、しふぉん、ようなぴ、あの、ちーぼう>の6人。NEU!、ESG、Suicideなどのオマージュや非常階段やハヤシヒロユキ(POLYSICS)、ミドリカワ書房などとのコラボレーションで他のアイドルグループとは一線を画した独特の楽曲世界を体現し、幅広く音楽ファンからも支持を集めている。2015年4月からの東名阪ツアーではファイナル・赤坂BLITZワンマンを成功させ、夏は初の海外遠征に加え念願のTIFやサマーソニックにも出演を果たし、年末にはZepp DiverCityでのワンマンライブを控えるなど、着実にステップアップを続けるいま最も勢いのあるガールズグループだ。

朝倉加葉子(あさくら かよこ)

東京造形大学卒業後、TV制作会社勤務を経て映画美学校を修了。2010年、TVドラマ『怪談新耳袋 百物語』の一篇『空き家』で商業デビュー。2013年に初長編となる全編アメリカ撮影のスラッシャーホラー『クソすばらしいこの世界』が全国各地で公開された。また同年の短編『HIDE and SEEK』が現在も各国の映画祭で上映中。2014年にドラマ『スマホラー劇場 悪魔召喚』、また2015年にドラマ『リアル鬼ごっこライジング 佐藤さんの正体』などを監督。

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